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第五話【熱い欲望】
しばらく浜辺で遊んでいたペッシが、ふと気づく。
「……あれ? あそこにいるのって、誰だァ?」
ペッシが指さす方向に目を向けたメローネが、目を細める。
「あれって……元護衛チームの連中じゃあないのか? ということは、新しいボスもいるってことか……?」
「あぁ!? どーゆーことだよ!? プライベートビーチに来てんのはよォ、俺たちだけじゃあないってことかよ!?」
「と、とりあえず、リーダーのところに戻ろうぜ……なァ?」
「そうだな!」
「その前にメローネよォ〜、オメー、海パン、ちゃんと履いてからいけよな?」
ギアッチョの冷たい視線がメローネの股間に突き刺さった。
その頃──
時を同じくして、ミスタとトリッシュの二人も、プライベートビーチへと到着したようだ。
「さぁ、着いたぜ!」
助手席のドアを開けるミスタが、ニカっと微笑む。“ありがとう”と、言って、車の外に出たトリッシュは、大きく背伸びをした。
「ねぇ、ブチャラティたちは? もう来てるんでしょう?」
「あぁ。先に行ったから、もうとっくに着いてるはずだぜ」
トリッシュが海岸沿いに目を向けた時、不意にこちらに向かってやってくる人影に気がついた。トリッシュの元に駆け寄ってきたのはキアラだ。それに気づいたトリッシュも、表情がパッと明るくなる。
「トリッシュ、久しぶり〜! ジョルノが、あなたのことも誘ったって言ってたから、楽しみにしてたの!」
「私もよ!」
“元気にしてた?”と、久しぶりに会った二人の話は尽きない。そして、話題は──
「ねぇ、ここにはミスタと二人できたの?」
キアラが、ニヒルな笑みを向けながら問いかける。それに対し、トリッシュが、一瞬目を見開く。
「えぇ……それがどうかした?」
「別に〜。ただ、最近どうなのかなって思って」
「どうって──」
言葉を濁したトリッシュは、チラリとミスタを垣間見る。急に視線を向けられたミスタは、キョトンとした様子だ。
「あ? なんだよ、おまえら、こそこそしてよォ?」
“別に”と、言ってそっぽを向くトリッシュに、ミスタがグイッと近づいて、話をし始める。
「トリッシュ、おまえよォ──」
「な、何?」
「ビーチで水着になるからってよォ、胸盛りすぎんなよ? あるんだろ、水着用の“パット”ってやつがよォ?」
「……え?」
「ほらよォ、服着てねーから、落っことしたらすぐに嘘がバレちまうからよォ。それに──アイツと張りあっても、そりゃオメーの方が胸ない──」
笑顔でそう告げるミスタに悪気がないことは、トリッシュもわかっている……でも、最後の一言だけは、どうしても聞き流すことができなかったようだ。言い終わらずして、トリッシュの張り手が飛んできたのは言うまでもない。
「──痛ってーなァ、いきなり何しやがんだよ!?」
「ミスタって、本当、最低ね!」
トリッシュは、ミスタを睨みつけながら、フンッ、と顔を背けて浜辺へと行ってしまう。
残されたミスタに、キアラもまた、冷たい視線を差し向けた。
「今のはミスタが悪い!」
「ソーダソーダ!」
「ミスタガ悪ィゼ」
「ミスタ……トリッシュニ久々ニ会ウカラ、照テレテタンダロ?」
「何言ッテンダヨ、No.5! 久々ジャアネーダロ?」
「ソウダゼ! コノ前、コソコソト二人デ会ッテタジャアネーカヨ」
「ふ〜ん……二人きりで会ってるのか〜」
ピストルズの会話を聴きながら、キアラが口角の片端を吊り上げて、なにやら意味深に頷いている。
「おい、ピストルズ! 勝手に出てきてんじゃあねーよ! 何余計なこと喋ってんだよ! いや、違うんだって、色々とだなァ──」
慌てて弁解するミスタはさておき──
そうこうしている内に、ペッシらも集まってきて、元暗殺者チームと元護衛チームの両者が揃った。
顔合わせもほどほどに、両チームがそれぞれが“ひと夏のバカンス”を楽しんでいるようで──ブチャラティとペッシは海岸沿いで釣りを、その傍では、トリッシュとアバッキオが談笑しているようで──
「あっ、ブチャラティ〜! 釣れたぜ!」
「おぉ、さすがはペッシだな! なかなかセンスがいいじゃあねーか!」
「おい! ブチャラティは幹部だ。呼び捨てにしてんじゃあねーぞ! この青二才がよォ……?」
「アバッキオ、俺は別に構わんぞ……?」
一方、その隣では──
「何作ってんだ、それはよォ?」
「これか? グラニータだ。俺の故郷、シチリアで夏によく食べていたかき氷風のドルチェだな」
「うまそうだな! なぁ、リゾット〜、食ってもいいか?」
「あぁ、みんなで食べるといい」
“やったー”と、言いながら、リゾットが作ったグラニータを手にとり、大口を開けて口に運ぼうとしているのは、ナランチャだ。しかし、その光景を横目にみていたギアッチョが、ものすごい剣幕で話し始める。
「おい、オメー! リゾットももう幹部になったんだからよォ、“さん”付けすんのが礼儀じゃあねーのかよォ? 何呼び捨てにしてんだよ!? 舐めてんのか、クソがッ!」
「えっ、じゃあ、ブチャラティのことも“さん”付けしなきゃあならねーのかよォ? なんかよそよそしくて嫌だな……」
「落ち着け、ギアッチョ……呼び方なんて、俺はなんでも構わんぞ?」
しかし、ギアッチョの怒りは、おさまらず──その矛先は、さっきのアバッキオにまで飛び火する始末。
「おい! オメー、さっきよォ、ペッシに“青二才”って、言ったよなァ? “青二才”って、何だよ!? 色に齢が付けられるかってんだよ!? つーかよォ、なんで二才なんだよ!? 意味不明じゃあねーかよ、チクショー! 年下だと思ってコケにしやがって、ボケがァ!」
「なんだと、コラァ……もう一回言ってみろや……!」
見上げるギアッチョに対し、涼しげに眼孔を光らせ、見下ろすアバッキオ── 睨み合う二人は、まさに一束触発の状態だ。そこへ──
「おい、ギアッチョ! オメーは、何ギャーギャー騒いでんだよ? ちょっとは静かにしてろ!」
「どうした……? 何をしてるんだ、おまえら?」
騒ぎを聞きつけて、プロシュートとブチャラティの二人がやって来た。
「ちょっと喧嘩はやめてよね〜、せっかくの機会なんだし……みんな、仲良く……ねっ?」
最後にやってきたキアラが、そう言って両者に笑顔を向けると、二人は舌打ちをしつつも、それ以上事を荒立てるようにはしなかった。なんとなくその場もおさまったようで──
不意にプロシュートがキアラに話しかける。
「オメーは、泳がねーのか?」
「私? もちろん泳ぐよ〜! あ、でも、プロシュートは泳がないんだっけ?」
「俺は──」
プロシュートは、意識するようにチラリとブチャラティに目を向けてから、再びキアラに視線を合わせた。
「ハンッ、俺も今から着替えて泳ぐぜ? じゃあ、行くぞ」
「えっ、 ちょっと──」
プロシュートは、キアラの手首を掴むと、ブチャラティから引き離すかのように、ちょっと強引に手を引きながら、その場を離れた。
後に残されたブチャラティは、ちょっと罰が悪そうに、小さくため息をついた。その様子を見ていたのは、ジョルノだ。
「いいんですか、ブチャラティ……?」
「ん? 何のことだ?」
「彼のあの行動……まるで“彼女は自分の物だ”って、見せつけているようでしたね?」
「そう……だったか? 俺は別にそんなふうには──」
「ブチャラティ……まだまだ勝負はこれから……ですね?」
そう言ったジョルノは、ゆっくりと口角を吊り上げ、ニヒルにほほ笑んだ。
その頃──
「ねぇ、ちょっとどこ行くの? 着替えないの?」
皆から少し離れたところで、プロシュートが足を止め、ベンチにどかりと腰掛ける。
「プロシュート……?」
「あ〜、やっぱりやめた。何か面倒くせーし」
「ちょっと、どういうこと? 泳がないなら、私は戻るけど──」
立ち去ろうとするキアラの腕を、プロシュートは思わず掴んでしまう。それはとっさの行動だった。彼女を行かせたくないという思いからだろうか……
「ん……何?」
「行くのか……? アイツのところに──」
「アイツ……?」
「いや……──」
「プロシュート……やっぱり誘ってほしいんでしょう? ほら、行こう!」
今度は、キアラがプロシュートの腕を引っ張るものの、力の差でよろけてしまう。そんな彼女を受け止めるかのようにして、プロシュートが抱き寄せた。見上げると、互いの顔が間近に迫っていたから、彼女は、思わず顔を背けてしまう。
「ご、ごめん……」
すると、逃さんと言わんばかりに、プロシュートがキアラを抱きすくめる。
「このまま黙って聞いてくれ……オメー、今夜、時間あるか?」
「えっ、急に……どうしたの?」
「話したいことがある……」
「話なら今でもできるじゃん? 何? そんなかしこまった話なの?」
「……そうだ、オメーにちゃんと伝えたいことがある」
そう言って、プロシュートはキアラに真剣な眼差しを向ける。彼女は、見たことのないプロシュートの表情に、思わず視線を外してはぐらかそうと、顔を背ける。
「おい、逃げんな……ちゃんと聞いてほしいんだ……俺の気持ちを──」
「プロシュートの気持ち……」
「オメーは、もうとっくに気づいているはずだ……だから応えてほしいんだ、オメーがそのつもりなら……だから、今夜待ってる。時間と場所は──」
キアラが去った後、代わりにプロシュートの元にやってきたのはペッシだ。
「兄貴ィ〜、こんな所にいたんですかィ? これ、リーダーが作ってくれたグラニータですぜィ!」
“ハイ、どうぞ”と、ペッシが差し出すも、プロシュートはうつむいたままだ。
「兄貴ィ……?」
「まったくカッコ悪いよなァ、俺……本気で惚れたやつには、まともに気持ちすら伝えられねーなんてよォ……」
「何言ってるんですかィ? 落ち込むなんてらしくないですぜィ! オイラのプロシュート兄貴は、最高にカッコいいですよ! だから、しゃんとしてくだせィ! 兄貴が落とせない女なんていない──そうでしょう?」
言われたプロシュートは面をあげて、ペッシを見ながらハンッと、鼻で笑った。
「ペッシ、ペッシ、ペッシよォ〜、オメー、随分と言うようになったじゃあねーか! ……ありがとよ」
「えっ、今、何て──」
「何でもねーよ! 行くぞ!」
いつにもなく、プロシュートが晴れやかな笑顔を見せたことは、ペッシだけが知っている秘事となった。
その一方で──
戻ってきたキアラのもとに、やってきたのはブチャラティだ。
「どこに行っていたんだ?」
「え? それは……ちょっと、そこまで?」
「プロシュートは、どうした?」
「えっと……プロシュートは、やっぱり休んでるって言うから、私だけ戻ってきたの」
ほほ笑んだキアラの表情がどことなくぎこちない。彼女自身も、ちゃんと笑顔を作れているだろうかと、少し不安になったのか、すぐに視線を下に移す。そんな様子を知ってかしらでか──ブチャラティが話を持ちかける。
「ちょっと、あっちの海岸線を一緒に歩かないか?」
「えぇ、別に構わないけど……」
そう言って、キアラはブチャラティに付いていっしょにに海岸沿いを歩いた。波が引いては押してを繰り返し、遠くの方でウミネコが鳴いている。
「久しぶりだな……こうしてゆっくりお前と話すのは──」
「そうね! あの時は用事があったから、ちょっとしか話せなかったし──」
その後も他愛もない会話を繰り返しながら、ゆったりと時間は過ぎていった。しばらくして、ブチャラティが話を切り出す。
「なぁ、今夜時間があるなら、少し話したいことがあるんだが──」
「今夜……──」
キアラの脳裏に浮かんだのは、さっきのプロシュートの言葉だった。プロシュートにも誘われていた。よりによって同じ日に──そんなことを考えていたからか、キアラの口から言葉がなかなか出てこない。その様子を横目にしたブチャラティは、優しい口調で言葉を返す。
「他に予定があるのなら、別にいいんだ……ただ俺は、自分の気持ちをおまえに伝えたいと思ってな──」
気持ち? と、キアラは首をかしげる。ブチャラティはすかさず話を続ける。
「もうおまえは、気づいてしまっているかもしれないな……だが、もし俺の気持ちに応えてくれるつもりなら、今夜、来てほしいんだ、俺の所に──」
キアラに時間と場所を告げたところで、皆に呼ばれたブチャラティは、一足先に行ってしまった。
プロシュートとブチャラティ──二人からの申し出を同時に受けてしまったキアラは、少し動揺していた。
はたして、どちらを選べばいいのだろうか──?
***
「──どうかしたの?」
「……えっ? トリッシュ……今、なんか言った?」
「えぇ、さっきからずっとあなたの名前を呼んでいたのに──全然返事をしてくれないから……何かあったの?」
トリッシュが覗き込むようにして、キアラに問いかける。
キアラはしばらくの沈黙の後、さっきあったの出来事をこっそりと話した。
「そう……それで、キアラはどっちを選ぶの?」
「それは……さっきからずっと考えてる……」
キアラは再び、節目がちにため息を一つこぼす。そんな彼女を横目に、トリッシュが諭すように話を続ける。
「私には、どちらか一人に、既に決まっているようなに感じるわ」
「……え?」
「キアラが嬉しい時や悲しい時、楽しい時に、一番最初に頭に浮かんだのは……誰? そんな時、あなたは隣に、誰といるのを想像するの?」
「それは──」
キアラが答えようとしたした時、トリッシュがクスッとほほ笑んだ。
「……ほら、真っ先にどちらかが、頭に思い浮かんだってことね? きっとその人が、キアラの選んだ人なんじゃあないのかしら?」
「……」
「それに、どちらを選んだとしても、あなたは決して後悔しないと思うわ。だから、その気持ちに一歩、踏み出してみて?」
言われたキアラは、真っ直ぐに“あの人”を見つめた。
さてキアラが選んだのは、いったい……?
しばらく浜辺で遊んでいたペッシが、ふと気づく。
「……あれ? あそこにいるのって、誰だァ?」
ペッシが指さす方向に目を向けたメローネが、目を細める。
「あれって……元護衛チームの連中じゃあないのか? ということは、新しいボスもいるってことか……?」
「あぁ!? どーゆーことだよ!? プライベートビーチに来てんのはよォ、俺たちだけじゃあないってことかよ!?」
「と、とりあえず、リーダーのところに戻ろうぜ……なァ?」
「そうだな!」
「その前にメローネよォ〜、オメー、海パン、ちゃんと履いてからいけよな?」
ギアッチョの冷たい視線がメローネの股間に突き刺さった。
その頃──
時を同じくして、ミスタとトリッシュの二人も、プライベートビーチへと到着したようだ。
「さぁ、着いたぜ!」
助手席のドアを開けるミスタが、ニカっと微笑む。“ありがとう”と、言って、車の外に出たトリッシュは、大きく背伸びをした。
「ねぇ、ブチャラティたちは? もう来てるんでしょう?」
「あぁ。先に行ったから、もうとっくに着いてるはずだぜ」
トリッシュが海岸沿いに目を向けた時、不意にこちらに向かってやってくる人影に気がついた。トリッシュの元に駆け寄ってきたのはキアラだ。それに気づいたトリッシュも、表情がパッと明るくなる。
「トリッシュ、久しぶり〜! ジョルノが、あなたのことも誘ったって言ってたから、楽しみにしてたの!」
「私もよ!」
“元気にしてた?”と、久しぶりに会った二人の話は尽きない。そして、話題は──
「ねぇ、ここにはミスタと二人できたの?」
キアラが、ニヒルな笑みを向けながら問いかける。それに対し、トリッシュが、一瞬目を見開く。
「えぇ……それがどうかした?」
「別に〜。ただ、最近どうなのかなって思って」
「どうって──」
言葉を濁したトリッシュは、チラリとミスタを垣間見る。急に視線を向けられたミスタは、キョトンとした様子だ。
「あ? なんだよ、おまえら、こそこそしてよォ?」
“別に”と、言ってそっぽを向くトリッシュに、ミスタがグイッと近づいて、話をし始める。
「トリッシュ、おまえよォ──」
「な、何?」
「ビーチで水着になるからってよォ、胸盛りすぎんなよ? あるんだろ、水着用の“パット”ってやつがよォ?」
「……え?」
「ほらよォ、服着てねーから、落っことしたらすぐに嘘がバレちまうからよォ。それに──アイツと張りあっても、そりゃオメーの方が胸ない──」
笑顔でそう告げるミスタに悪気がないことは、トリッシュもわかっている……でも、最後の一言だけは、どうしても聞き流すことができなかったようだ。言い終わらずして、トリッシュの張り手が飛んできたのは言うまでもない。
「──痛ってーなァ、いきなり何しやがんだよ!?」
「ミスタって、本当、最低ね!」
トリッシュは、ミスタを睨みつけながら、フンッ、と顔を背けて浜辺へと行ってしまう。
残されたミスタに、キアラもまた、冷たい視線を差し向けた。
「今のはミスタが悪い!」
「ソーダソーダ!」
「ミスタガ悪ィゼ」
「ミスタ……トリッシュニ久々ニ会ウカラ、照テレテタンダロ?」
「何言ッテンダヨ、No.5! 久々ジャアネーダロ?」
「ソウダゼ! コノ前、コソコソト二人デ会ッテタジャアネーカヨ」
「ふ〜ん……二人きりで会ってるのか〜」
ピストルズの会話を聴きながら、キアラが口角の片端を吊り上げて、なにやら意味深に頷いている。
「おい、ピストルズ! 勝手に出てきてんじゃあねーよ! 何余計なこと喋ってんだよ! いや、違うんだって、色々とだなァ──」
慌てて弁解するミスタはさておき──
そうこうしている内に、ペッシらも集まってきて、元暗殺者チームと元護衛チームの両者が揃った。
顔合わせもほどほどに、両チームがそれぞれが“ひと夏のバカンス”を楽しんでいるようで──ブチャラティとペッシは海岸沿いで釣りを、その傍では、トリッシュとアバッキオが談笑しているようで──
「あっ、ブチャラティ〜! 釣れたぜ!」
「おぉ、さすがはペッシだな! なかなかセンスがいいじゃあねーか!」
「おい! ブチャラティは幹部だ。呼び捨てにしてんじゃあねーぞ! この青二才がよォ……?」
「アバッキオ、俺は別に構わんぞ……?」
一方、その隣では──
「何作ってんだ、それはよォ?」
「これか? グラニータだ。俺の故郷、シチリアで夏によく食べていたかき氷風のドルチェだな」
「うまそうだな! なぁ、リゾット〜、食ってもいいか?」
「あぁ、みんなで食べるといい」
“やったー”と、言いながら、リゾットが作ったグラニータを手にとり、大口を開けて口に運ぼうとしているのは、ナランチャだ。しかし、その光景を横目にみていたギアッチョが、ものすごい剣幕で話し始める。
「おい、オメー! リゾットももう幹部になったんだからよォ、“さん”付けすんのが礼儀じゃあねーのかよォ? 何呼び捨てにしてんだよ!? 舐めてんのか、クソがッ!」
「えっ、じゃあ、ブチャラティのことも“さん”付けしなきゃあならねーのかよォ? なんかよそよそしくて嫌だな……」
「落ち着け、ギアッチョ……呼び方なんて、俺はなんでも構わんぞ?」
しかし、ギアッチョの怒りは、おさまらず──その矛先は、さっきのアバッキオにまで飛び火する始末。
「おい! オメー、さっきよォ、ペッシに“青二才”って、言ったよなァ? “青二才”って、何だよ!? 色に齢が付けられるかってんだよ!? つーかよォ、なんで二才なんだよ!? 意味不明じゃあねーかよ、チクショー! 年下だと思ってコケにしやがって、ボケがァ!」
「なんだと、コラァ……もう一回言ってみろや……!」
見上げるギアッチョに対し、涼しげに眼孔を光らせ、見下ろすアバッキオ── 睨み合う二人は、まさに一束触発の状態だ。そこへ──
「おい、ギアッチョ! オメーは、何ギャーギャー騒いでんだよ? ちょっとは静かにしてろ!」
「どうした……? 何をしてるんだ、おまえら?」
騒ぎを聞きつけて、プロシュートとブチャラティの二人がやって来た。
「ちょっと喧嘩はやめてよね〜、せっかくの機会なんだし……みんな、仲良く……ねっ?」
最後にやってきたキアラが、そう言って両者に笑顔を向けると、二人は舌打ちをしつつも、それ以上事を荒立てるようにはしなかった。なんとなくその場もおさまったようで──
不意にプロシュートがキアラに話しかける。
「オメーは、泳がねーのか?」
「私? もちろん泳ぐよ〜! あ、でも、プロシュートは泳がないんだっけ?」
「俺は──」
プロシュートは、意識するようにチラリとブチャラティに目を向けてから、再びキアラに視線を合わせた。
「ハンッ、俺も今から着替えて泳ぐぜ? じゃあ、行くぞ」
「えっ、 ちょっと──」
プロシュートは、キアラの手首を掴むと、ブチャラティから引き離すかのように、ちょっと強引に手を引きながら、その場を離れた。
後に残されたブチャラティは、ちょっと罰が悪そうに、小さくため息をついた。その様子を見ていたのは、ジョルノだ。
「いいんですか、ブチャラティ……?」
「ん? 何のことだ?」
「彼のあの行動……まるで“彼女は自分の物だ”って、見せつけているようでしたね?」
「そう……だったか? 俺は別にそんなふうには──」
「ブチャラティ……まだまだ勝負はこれから……ですね?」
そう言ったジョルノは、ゆっくりと口角を吊り上げ、ニヒルにほほ笑んだ。
その頃──
「ねぇ、ちょっとどこ行くの? 着替えないの?」
皆から少し離れたところで、プロシュートが足を止め、ベンチにどかりと腰掛ける。
「プロシュート……?」
「あ〜、やっぱりやめた。何か面倒くせーし」
「ちょっと、どういうこと? 泳がないなら、私は戻るけど──」
立ち去ろうとするキアラの腕を、プロシュートは思わず掴んでしまう。それはとっさの行動だった。彼女を行かせたくないという思いからだろうか……
「ん……何?」
「行くのか……? アイツのところに──」
「アイツ……?」
「いや……──」
「プロシュート……やっぱり誘ってほしいんでしょう? ほら、行こう!」
今度は、キアラがプロシュートの腕を引っ張るものの、力の差でよろけてしまう。そんな彼女を受け止めるかのようにして、プロシュートが抱き寄せた。見上げると、互いの顔が間近に迫っていたから、彼女は、思わず顔を背けてしまう。
「ご、ごめん……」
すると、逃さんと言わんばかりに、プロシュートがキアラを抱きすくめる。
「このまま黙って聞いてくれ……オメー、今夜、時間あるか?」
「えっ、急に……どうしたの?」
「話したいことがある……」
「話なら今でもできるじゃん? 何? そんなかしこまった話なの?」
「……そうだ、オメーにちゃんと伝えたいことがある」
そう言って、プロシュートはキアラに真剣な眼差しを向ける。彼女は、見たことのないプロシュートの表情に、思わず視線を外してはぐらかそうと、顔を背ける。
「おい、逃げんな……ちゃんと聞いてほしいんだ……俺の気持ちを──」
「プロシュートの気持ち……」
「オメーは、もうとっくに気づいているはずだ……だから応えてほしいんだ、オメーがそのつもりなら……だから、今夜待ってる。時間と場所は──」
キアラが去った後、代わりにプロシュートの元にやってきたのはペッシだ。
「兄貴ィ〜、こんな所にいたんですかィ? これ、リーダーが作ってくれたグラニータですぜィ!」
“ハイ、どうぞ”と、ペッシが差し出すも、プロシュートはうつむいたままだ。
「兄貴ィ……?」
「まったくカッコ悪いよなァ、俺……本気で惚れたやつには、まともに気持ちすら伝えられねーなんてよォ……」
「何言ってるんですかィ? 落ち込むなんてらしくないですぜィ! オイラのプロシュート兄貴は、最高にカッコいいですよ! だから、しゃんとしてくだせィ! 兄貴が落とせない女なんていない──そうでしょう?」
言われたプロシュートは面をあげて、ペッシを見ながらハンッと、鼻で笑った。
「ペッシ、ペッシ、ペッシよォ〜、オメー、随分と言うようになったじゃあねーか! ……ありがとよ」
「えっ、今、何て──」
「何でもねーよ! 行くぞ!」
いつにもなく、プロシュートが晴れやかな笑顔を見せたことは、ペッシだけが知っている秘事となった。
その一方で──
戻ってきたキアラのもとに、やってきたのはブチャラティだ。
「どこに行っていたんだ?」
「え? それは……ちょっと、そこまで?」
「プロシュートは、どうした?」
「えっと……プロシュートは、やっぱり休んでるって言うから、私だけ戻ってきたの」
ほほ笑んだキアラの表情がどことなくぎこちない。彼女自身も、ちゃんと笑顔を作れているだろうかと、少し不安になったのか、すぐに視線を下に移す。そんな様子を知ってかしらでか──ブチャラティが話を持ちかける。
「ちょっと、あっちの海岸線を一緒に歩かないか?」
「えぇ、別に構わないけど……」
そう言って、キアラはブチャラティに付いていっしょにに海岸沿いを歩いた。波が引いては押してを繰り返し、遠くの方でウミネコが鳴いている。
「久しぶりだな……こうしてゆっくりお前と話すのは──」
「そうね! あの時は用事があったから、ちょっとしか話せなかったし──」
その後も他愛もない会話を繰り返しながら、ゆったりと時間は過ぎていった。しばらくして、ブチャラティが話を切り出す。
「なぁ、今夜時間があるなら、少し話したいことがあるんだが──」
「今夜……──」
キアラの脳裏に浮かんだのは、さっきのプロシュートの言葉だった。プロシュートにも誘われていた。よりによって同じ日に──そんなことを考えていたからか、キアラの口から言葉がなかなか出てこない。その様子を横目にしたブチャラティは、優しい口調で言葉を返す。
「他に予定があるのなら、別にいいんだ……ただ俺は、自分の気持ちをおまえに伝えたいと思ってな──」
気持ち? と、キアラは首をかしげる。ブチャラティはすかさず話を続ける。
「もうおまえは、気づいてしまっているかもしれないな……だが、もし俺の気持ちに応えてくれるつもりなら、今夜、来てほしいんだ、俺の所に──」
キアラに時間と場所を告げたところで、皆に呼ばれたブチャラティは、一足先に行ってしまった。
プロシュートとブチャラティ──二人からの申し出を同時に受けてしまったキアラは、少し動揺していた。
はたして、どちらを選べばいいのだろうか──?
***
「──どうかしたの?」
「……えっ? トリッシュ……今、なんか言った?」
「えぇ、さっきからずっとあなたの名前を呼んでいたのに──全然返事をしてくれないから……何かあったの?」
トリッシュが覗き込むようにして、キアラに問いかける。
キアラはしばらくの沈黙の後、さっきあったの出来事をこっそりと話した。
「そう……それで、キアラはどっちを選ぶの?」
「それは……さっきからずっと考えてる……」
キアラは再び、節目がちにため息を一つこぼす。そんな彼女を横目に、トリッシュが諭すように話を続ける。
「私には、どちらか一人に、既に決まっているようなに感じるわ」
「……え?」
「キアラが嬉しい時や悲しい時、楽しい時に、一番最初に頭に浮かんだのは……誰? そんな時、あなたは隣に、誰といるのを想像するの?」
「それは──」
キアラが答えようとしたした時、トリッシュがクスッとほほ笑んだ。
「……ほら、真っ先にどちらかが、頭に思い浮かんだってことね? きっとその人が、キアラの選んだ人なんじゃあないのかしら?」
「……」
「それに、どちらを選んだとしても、あなたは決して後悔しないと思うわ。だから、その気持ちに一歩、踏み出してみて?」
言われたキアラは、真っ直ぐに“あの人”を見つめた。
さてキアラが選んだのは、いったい……?
To Be Continued