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 第四話【風の誘惑】

 
 そして、バカンス当日──
 一足早くプライベートビーチへとやってきたのは元暗殺者チーム。
 白い砂浜──その海岸線の先には、コントラストが美しいコバルトブルーの海が広がっている。今、そのすべてが貸し切り状態なのだから、皆のテンションが上がらないわけがない。
 真っ先に海だ──と、荷物をその辺に置き去りにして、一目散に海へと向かったのは、メローネとギアッチョ、ペッシの三人。その後ろに続くのは、すでに日に焼けた肌がビーチによく似合うホルマジオと、普段の移動が鏡の中だからか、炎天下を闊歩する姿が珍しく映るイルーゾォだ。そして──

「すごくきれいな海だね〜! ねぇ、早く行こうよ!」

 キアラもまた、目の前に広がる風景に目を輝かせながら、リゾットとプロシュートを先へとかす。

「おい! そんなに急ぐと転けるぞ! ──何はしゃいてんだよ、アイツ…… ったく、ガキじゃあねーんだからよォ……」
「本当だな……まぁ、キアラだけじゃあない……皆が浮かれてるな……だが、たまにはいいだろう。プロシュート、お前もそうなんじゃあないのか?」
「あ? どういう意味だ?」
「……まぁ、いい」

 そう言って、リゾットは遠く水平線に目を細めた。
 一方で、ジョルノら元護衛チームはというと──

「なぁなぁ、今日はキアラもくるんだろ? 俺、久しぶりに会えるの、すっげー楽しみにしてんだけど!」

 ナランチャが 意気盛 いきさかんに話し始める。その話に便乗してきたのはミスタだ。

「そうだなァ、俺もキアラに会えるのが楽しみだぜ! どんな水着を着てくるのか……とかよォ」
「えっ……水着!?」
「俺は断然ビキニだと思うぜ! なんせ、あのスタイルだからよォ……なぁフーゴ、お前もそう思うだろ?」
「ちょっ、おい、ミスタ! そんな話題を僕に振るんじゃあない! それに──彼女、そんなに胸ありましたっけ?」
「フーゴくん……これが君、実はあるんだよ……アイツ」

 ミスタが得意そうに口角を片側だけ吊り上げる。そして、フーゴの肩を組みながら、小声で話を続ける。

「前によォ、チラッと胸元が見えたことあったんだけど、結構なボリュームの谷間だったわけよ。あんなのを“着痩せするタイプ”とかって言うんだろうなァ」

 妙に納得した様子で、深々とうなずくミスタ。それを横目に、開いた口が塞がらなくなっていたフーゴが、急に動きを止める。

「ミスタ、お前……誰の胸を見たって?」
「だからよォ、キアラの──」

 背後から急に声をかけられ振り返ったミスタも、思わず動きを止めてしまう。そこに立っていたのは、ブチャラティ。アバッキオと共に、車への荷物の積み込みを一通り終えて、いざ現地に向かおうと、皆を呼びにきたようだ。

「ブ、ブチャラティ!? いや、これはよォ、たまたま見えたっつーか──」

 ブチャラティの表情は穏やかに見えるが、どうにも目は笑って見えなかった。ミスタはとっさに話題を変えようと、不意に問いかける。

「そ、そういやよォ、キアラは一緒に行かねーのか?」

「あぁ──彼女ならすでに現地に着いているはずだ。だから、その必要はない。代わりと言ってはなんだが、ミスタ、お前はトリッシュのことを迎えにいってくれないか?」
「えっ、トリッシュも誘ったのかよ!? でも、何で俺なんだよ?」
「ダメか……?」
「……わかりました。じゃあ、あんたの車を借りていきゃあいいんだな?」
「あぁ、よろしく頼んだぞ」

 ブチャラティにそう言われ、すぐさま駐車場へと向かったミスタは、背を向けたままで手を振る。その後ろ姿は言葉とは裏腹に、足取りは思いの外、すごく軽やかだった。その頃、元暗殺者チームの方は──

「ちょっと、二人とも早く来てよ!」

 再び催促するキアラが指さすその先には、チームメンバーしかいないことをいいことに、全裸になろうとしているメローネの姿があった。

「ちょっとプロシュート、あれ、何とかしてきてよ! 今日ここに来るのはさ、私たちのチームだけじゃあないんだからね……」

 呆れた表情を浮かべる彼女の かたわらで、プロシュートが眉間にシワを寄せる。

「おい、オメー、今なんて──」
「でもまぁ、いっか! 私もちょっと海に入ってこようかな? 実はもう下に着てきたんだよね」

 羽織っているフードの下にチラリと見えるのは、いつもより大胆に開いた胸元。この前買ってきた水着のようだ。

「それ、あの時買ったやつか?」
「そうそう!」
「結局、その色にしたのか……ん、なんだオメー、思ったより胸、あるじゃあねーかよ」

 茶化して言うプロシュートに、鋭い視線を投げつけて、キアラが胸元を隠すように上着のジッパーを閉める。

「ちょっと、どこ見てんのよ!?」
「おいおい、隠してどうすんだよ? 今から海で泳ぐんだろ? つまりは、誰だってオメーをそう言う目で見るってこった。リゾットだってそうだろうよォ」
「俺を引き合いに出すな」
「ねぇ、リゾットも行こうよ?」
「俺は、昼食の準備を先にしておく。だから、お前らは先に行っていろ」
「おいおい、こんなところまできて何言ってんだよ、ったくよォ……んなもん後でやりゃあいいだろ?」
「……てか、プロシュートはその格好でいいの? 水着、持ってきてる?」

 キアラが怪訝そうな表情を浮かべるのも無理はない。プロシュートは、サングラスをかけ、薄めのデニムパンツにシャツを合わせて、足元はレザーシューズを素足で履きこなしている──泳ぐ気なんて全くない装いだ。

「いいんだよ、これで。俺は焼けたら赤くなって、後が大変だから焼きたくねーんだよ」
「あっそ……じゃあ、このパラソル立てて荷物番してて。リゾット行こう!」

 その時だ。後方から声が聞こえてきた。

「誰だ、あの全裸のやつは……? まさかアレが元暗殺者チームかなのか!?」
「えっ!? まさかだろ……? ただの変態じゃあねーの? てか、ビーチはお前らだけのもんじゃあねーのによォ」

 聞き覚えのある声に、キアラが振り返り声をかける。そう──この日、プライベートビーチにやってきたのは他でもない、元護衛チームの面々だ。これでようやく、参加メンバーがほぼ全員出揃った。
 この状況下で、嬉しそうに話しかけているのは、キアラただ一人。

「ナランチャ、久しぶり! フーゴも元気にしてた?」
「おう! 俺は、めちゃくちゃ元気だぜ!」
「あなたも元気そうですね」
「まぁね! ──あ!」

 そして、その後方からブチャラティとアバッキオ、ジョルノもやってきたので、キアラが手を振りながら応える。

「おい、ここに来るのは、俺たちだけじゃあなかったのかよ!? つーか、オメーは端からこの事、知ってたんだな?」
「実は──ごめんね、プロシュート」

 そう言って、キアラは罰が悪そうに苦笑いを浮かべた。

「気を悪くしないでください。これは僕の提案なんです」

 平謝りをするキアラの前へとやってきたジョルノが、話を続ける。

「一度、皆さんとこんなふうに交流できたらいいなと、思っていたんです。そして、これをきっかけに、互いにもっと協力できたらなという思惑もありまして──元々彼女には、その架け橋になってもらいたくて、あなた方チームに受け渡したんですからね。だから、ここは穏便に──」

 ジョルノが笑顔で圧をかけていく。そこにリゾットも割って入ってきた。

「ボス──すまないな、こんなやつらだが、まぁ、多めに見てもらいたい」
「えぇ、僕はかまいませんよ。むしろ面白いことが起こりそうで、ワクワクしていますね」
「おいおい、ワクワクって……ジョルノお前、まだ何か企んでいるわけじゃあないだろうな? すまないな、リゾット……こっちの連絡ミスだ」

 ブチャラティがすかさず、フォローを入れる。さすがはボスの右腕──といったところだ。

「いや、問題ない……それより──初めて顔を合わせるやつらもいるから、後でちゃんと挨拶させよう」
「……っ、チッ」

 なんとなくリゾットが 下手 したてに出ているのも、急に現れた元護衛チームの面々のことも気に食わないと言ったようすで、プロシュートは顔を背け、煙草に火をつけ始める。
 その一方で、ブチャラティもキアラの口から出た名前に、思わず反応してしまう。
 “プロシュート”──どうやら、このブロンド髪の男がそうらしい。初めて直接顔を合わせるからか、思わずジッと伺うように視線をむけてしまう。
 同じように、“ブチャラティ”と呼ばれて慕われている、この男が噂のキアラの元上司だな……と、プロシュートも鋭い視線を差し向けた。
 二人の間ですでに火花が散っているとは露ほども思わないのは、ただ無邪気に振る舞うキアラだけだった。
To Be Continued
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