不意に呼ばれた甲高い声に振り返る──そこにいたのは予想どおりの人物。
「……なんだ、また君か──」
ぼくはため息混じりにそう呟く。
すると、返ってくるのはあっけらかんとした返事。
「ちょっと先生〜、あからさまに嫌な顔をするのはやめてくださいよ!」
「……で、ぼくになんの用だ?」
「えっ、別に用はありませんよ! ただ、先生を見かけたから声をかけただけです」
そういって、にこりと笑みを浮かべた君が、素直な返事を返すから、なんだかこっちまでもが気恥ずかしくなってくる。
何を隠そう……さっきから渋い顔をしているのは、顔が緩むのを隠すため──
初めからだ。声をかけられたときから──
なんでって……決まってるだろ? ぼくは君のことが──なんて、今はまだ言えないなと、そう思いながら君の隣を歩く──
そんなぼくはとんだ天邪鬼だ。
the END