いつもの様に街をぶらぶら歩く──

　もしかしたら“あの時”みたいに偶然アイツに出会したりしないか……なんて淡い期待を胸に、とあるカフェを横切る──その時だ。
　テラスに彼女の姿を見つける。アイツは1人、本のページをめくっていた。

「Ciao！」

　俺が近付き軽く声をかけると、本を読む手を止めてこっちに視線を合わせながら、ニコリと微笑みを向けてくれる。

「1人か？」
「えぇ」

　そう答えた彼女の前席に座りながら、俺は話を続ける。

「待ち合わせでもしてんのか？」
「そうね……いや、私が勝手にしてる事──」
「そうかよ……それより、俺以外にも沢山の野郎に声をかけられたんじゃあねーの？　オメー、結構Bellaだからよォ」

　俺の軽口を愛想笑いで交わしながら、再び彼女は本に目を向ける。

　アイツには、想いを寄せている相手がいる……以前聞いた話だ。でも、それは決して叶わない恋のようで──アイツ曰く、相手の男にはどうにも“忘れ得ぬ人”がいるらしい。それでもいいからと口にするアイツを、本当は奪い去って俺の物にしたい──本心ではそう思う。
　そんな奴なんて忘れさせてやると抱きしめ、口付け、そして俺自身を刻み込みたい──けれど、そうしない……正確に言うなら、俺はそうできない。何故なら──

「こんな所でなに油売ってんだ、オメーはよォ？」

　その言葉に彼女が振り返る。話しかけてきたのは、ブロンド髪の黒いスーツを着こなした男。こいつがきっとアイツの──

「お迎えが来たようだな……じゃあまたな」

　そう言ってその場を後にする。しかし、女々しくも一定の距離をとった後に振り返ると、そこにはさっきまで俺がいた席に、その男が座りながら談笑しているアイツの姿があった。
　あれは俺にはまだ作り出せねぇ笑顔だ……だが、勝機がねーわけじゃあねぇからな、今に見てろよ──


　そんな闘志を燃やしながら、また前を向いて歩き出す──そんな午後のひと時。