1999.07.11〜2004.05
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狗朗が体を動かす度に、頭の後ろで結った髪が子犬のしっぽのようにひょこひょこと揺れるのが面白くて、依子は餃子を包みながら小さく笑った。
突然小さく吹き出した依子に、狗朗はボウルから新しい具を掬う手を止める。
「どうしたんですか姉上」
「ううん、なんでもないの。狗朗の髪が伸びたなあって思っただけ」
切ろうか?と問えば狗朗はぶんぶんと慌てて首を横に振った。
「好きで伸ばしているので大丈夫です!」
「ならいいんだけど」
理由は聞かなくともなんとなく察しがつく。何せ二人の師である一言も癖のある黒髪を結っている人だ。
もっとも彼の場合は、本人曰く「自分は不精者だから、切ろうとしてもつい放っておいてしまう」らしいのだけど。
狗朗は真剣な目をしながら、一つ、また一つと餃子を包む。最初は具がはみ出て皮を破いてしまったが、この短時間で随分と手慣れてきた。
「そういえば姉上はあまり髪を伸ばさないんですね」
依子よりも少し遅いペースで、しかし丁寧に餃子を包み終えて一つまた皿に置いてから狗朗が言った。
依子の髪は狗朗よりも短い。
髪が入らないように幅広いカチューシャで前髪を上げているが、後ろは肩よりも上の位置で切りそろえている。
「短いと楽だしねー。肩につくと跳ねちゃうから伸ばすのが億劫で」
「髪が、跳ねる……?」
心底不思議そうに首を傾げる狗朗に、依子は表情を変えないまま、包み終えたばかりの餃子の羽を強く握り破きそうになった。
(悩み知らずのつやさらヘアーめ……!)
依子が密かにままならない嫉妬をするのも知らず、狗朗は話を続ける。
「一言様、まだ帰ってきませんね」
「そういえばそうね」
『今日は紫が夕飯頃に帰ってくるから、餃子でも作ろうか』と言いだした当の本人は、すぐに帰ってくるから先に作り始めておいてと依子に頼んで集落へと赴いた。
しかし、依子と狗朗で大皿二つ分ほど作り終えても一向に帰ってくる気配がない。
「しかたないから先に他のおかずも作っておこうか。狗朗は残りの種を包んでおいて」
「はい」
再び作り始めた狗朗を横目に、依子は出来上がった餃子の乗った大皿にラップをかける。
やはり汁物は欲しい、確か卵がまだあったから残ったネギと合わせて中華スープみたいにしようか。付け合わせのザーサイもいつか漬けてみようか。趣味の漬物作りも最近は随分堂に入っていると一言の舌を唸らせることができるようになった。
作業の邪魔にならないようにテーブルの脇に避けておこうと皿を持ち上げた瞬間、台所の引き戸が開かれる。
依子は不覚にも狗朗と話し込んでいたから、玄関の戸が開いたのにも気がつかなかった。
「今帰ったよ、遅くなってごめんね」
「お帰りなさい、一言さ……」
依子はいつものように一言の声に言葉を返そうとして振り返り、思わず声が止まった。
いつもの総髪ではなくうなじの辺りまでさっぱりと短く髪を切った一言に、依子は思わず両手で持っていた大皿を落とした。
すんでの所で一言が皿を片手で受け止め、依子に手渡す。
「床屋の若松さんの相談にのったら、お礼に髪を切ってくれてね」
びっくりしただろう? 楽しそうな一言の言葉に依子と狗朗は声もなく何度も頷いた。
突然小さく吹き出した依子に、狗朗はボウルから新しい具を掬う手を止める。
「どうしたんですか姉上」
「ううん、なんでもないの。狗朗の髪が伸びたなあって思っただけ」
切ろうか?と問えば狗朗はぶんぶんと慌てて首を横に振った。
「好きで伸ばしているので大丈夫です!」
「ならいいんだけど」
理由は聞かなくともなんとなく察しがつく。何せ二人の師である一言も癖のある黒髪を結っている人だ。
もっとも彼の場合は、本人曰く「自分は不精者だから、切ろうとしてもつい放っておいてしまう」らしいのだけど。
狗朗は真剣な目をしながら、一つ、また一つと餃子を包む。最初は具がはみ出て皮を破いてしまったが、この短時間で随分と手慣れてきた。
「そういえば姉上はあまり髪を伸ばさないんですね」
依子よりも少し遅いペースで、しかし丁寧に餃子を包み終えて一つまた皿に置いてから狗朗が言った。
依子の髪は狗朗よりも短い。
髪が入らないように幅広いカチューシャで前髪を上げているが、後ろは肩よりも上の位置で切りそろえている。
「短いと楽だしねー。肩につくと跳ねちゃうから伸ばすのが億劫で」
「髪が、跳ねる……?」
心底不思議そうに首を傾げる狗朗に、依子は表情を変えないまま、包み終えたばかりの餃子の羽を強く握り破きそうになった。
(悩み知らずのつやさらヘアーめ……!)
依子が密かにままならない嫉妬をするのも知らず、狗朗は話を続ける。
「一言様、まだ帰ってきませんね」
「そういえばそうね」
『今日は紫が夕飯頃に帰ってくるから、餃子でも作ろうか』と言いだした当の本人は、すぐに帰ってくるから先に作り始めておいてと依子に頼んで集落へと赴いた。
しかし、依子と狗朗で大皿二つ分ほど作り終えても一向に帰ってくる気配がない。
「しかたないから先に他のおかずも作っておこうか。狗朗は残りの種を包んでおいて」
「はい」
再び作り始めた狗朗を横目に、依子は出来上がった餃子の乗った大皿にラップをかける。
やはり汁物は欲しい、確か卵がまだあったから残ったネギと合わせて中華スープみたいにしようか。付け合わせのザーサイもいつか漬けてみようか。趣味の漬物作りも最近は随分堂に入っていると一言の舌を唸らせることができるようになった。
作業の邪魔にならないようにテーブルの脇に避けておこうと皿を持ち上げた瞬間、台所の引き戸が開かれる。
依子は不覚にも狗朗と話し込んでいたから、玄関の戸が開いたのにも気がつかなかった。
「今帰ったよ、遅くなってごめんね」
「お帰りなさい、一言さ……」
依子はいつものように一言の声に言葉を返そうとして振り返り、思わず声が止まった。
いつもの総髪ではなくうなじの辺りまでさっぱりと短く髪を切った一言に、依子は思わず両手で持っていた大皿を落とした。
すんでの所で一言が皿を片手で受け止め、依子に手渡す。
「床屋の若松さんの相談にのったら、お礼に髪を切ってくれてね」
びっくりしただろう? 楽しそうな一言の言葉に依子と狗朗は声もなく何度も頷いた。