パロディ時空色々
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「チャリティコンサートで披露する楽曲の作曲、ですか?」
依子は電話の向こうの人物の言葉に、訝しげに目を瞬かせた。
「うん、今回は依子さんに是非お願いしたいんだ」
電話の向こう側でほんわかとした、けれども奥底にカリスマめいた得体の知れなさを秘める声で白銀のアイドルキング伊佐那社は答えた。
前回のチャリティコンサートについて、現在作曲家として活動する依子もある程度興行成功の舞台裏について事情を把握している。
弟弟子を含めたわずか三人のアイドルが所属する少数精鋭の事務所として再出発した白銀レコードは、アイドル大和合時代と謳いながらも反目しあう吠舞羅芸能事務所とプロモーション・セプター4、そして政府や非時院の方針に断固として反旗を翻し政府非公認事務所として独自路線を貫くJungleプロをまとめ上げ、チャリティーコンサートを成功させた。
気質も運営方針も何もかも異なるアイドル事務所を納得させ、今をときめくトップアイドル達をチャリティコンサートに参加させたのは、ひとえに伊佐那社の手腕によるものだと依子は認識している。
謎に包まれた得体の知れないアイドルキング。それが元アイドル百井依子から見た伊佐那社の評価であった。
そして、
「私に頼んだ理由をお聞きしてもよろしいですか?」
「クロがあなたのことを推薦したんだよ。君の名前も最近よく色んなところで聞くし実力も申し分ない」
「まあ、それは嬉しいことです」
依子はまだ、この伊佐那社という王を図りかねている。
少年のような見た目であるのに、師である一言のことでさえまるで直接面識があったかのように語り――三輪一言がアイドルとして活躍していたのはもう十年以上前のことだ――、あの國常路大覚とさえ親しげな関係を保つこの師にも似た柔らかな物腰の青年が、依子はどうにも信用しきれなかった。
身内の同志だからといって、頭から信頼出来るほど依子は甘くなれない。
芸能界(ここ)はそういう世界だ――。
「信用し切れていない、という感じだね」
「まさか」
「クロもあなたが最初から了承しないだろうと言っていたからね、これくらいは想定内だよ」
「あの子が何を言ったのか気になるところですが……先程の理由以外にも何か理由があるのでしょう? 思惑とでも言った方がよろしいかしら」
「実はちょっとだけ」
そう言って伊佐那社は小さく笑った。
「あなたがそうやって簡単に信用してくれないから、僕は君を選びたいんだ」
「それは、どういうことですか?」
怪訝な声で依子は伊佐那社に問うた。
「あなたは僕だけじゃなく比水流にも『御芍神紫のアイドルキングだから』という理由で甘くはならない。そしてそれは赤のアイドルキング周防尊にも青のアイドルキング宗像礼司にも同じ事が言える。あなたはけして誰かの色に染まろうとはしない」
そのひと言にタンマツを持つ依子の手は小さく震えた。
僅かな人にしか語った事のない決意を、彼は依子の成した事からあっさりと見抜いたのだ。
虚を衝かれたことを誤魔化すように、仕事用の朗らかな声に切り替える。
「私は、はぐれアイドルでしたから」
「そうだね。デビューからアイドル引退、そして今現在まで色を持とうとしないあなただから、どこの色にも寄らない中立的な視点から今回のコンサートに相応しい曲が作れる。僕はそう踏んでいるんだ」
「伊佐那さん、あなたは」
「シロでいいよ」
何をどこまで考えて、依子の中立さにこだわるのか。
緊張をはらむ依子の声とは裏腹に、伊佐那社の、否、シロの声は至って和やかなものだった。
「それとね、依子さんは僕がクロと同じ事務所で活動するアイドルだからって甘く見ないつまり真剣に見極めようとしているけど、僕は依子さんがクロと同じ一言さんの私塾でアイドルとしての道を究めたという点を買っているんだ。そんなあなたが作るみんなのために作る曲を、僕は聴いてみたい」
依子は僅かに目を見開いて、それから小さく吹き出した。伊佐那社は穏やかな顔に反して深謀遠慮の人なのだろう。だからこそ白銀レコードは今もなお伝統ある政府公認事務所たりえたのだ。
けれどもその一方で、この人は本当に、心底、音楽の力を信じている!
「伊佐那さん、いいえ、シロさん」
「なんだい?」
「あなたはそうやって一言様も誑かしたんですか?」
「酷いことを言うね!?」
ひとしきり笑った後、依子は滲んだ涙を拭ってようやく口を開いた。
「受けるからには、当然『あの』報酬はいただけるんですね?」
「勿論、とびっきり美味しいおにぎりを君にも用意するよ!」
含みを持たせた依子の言葉にシロは自信に満ちた明るい声で応えた。