パロディ時空色々
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白銀レコード主催のチャリティーコンサート以来、複数の政府公認事務所による合同イベントやコンサートの回数は一段と増えた。
これら一連の事象を國常路大覚が提唱するアイドル大和合時代の新たなステップと考える識者もいるが、実際のところ問題点も多い。
一つはそれら政府公認事務所と中立的な立場にあるスタッフの確保の困難さ。
そしてもう一つが――血気盛んな一面を持ち、完全に協調路線をとっているわけではない我の強いアイドル達の乱闘が発生する点にあった。
またか、と草薙は呆れてジッポの蓋を開け煙草に火を付けた。
草薙の目の前では例によって例の如く、アイドル達の乱闘が繰り広げられていた。カメラが入っていないイベント後の打ち上げだからまだマシなものの、八田のみならず周防まで参戦している事実に草薙は頭を抱えたくなる。
アンナを連れ少し離れた場所に移動すると、先に陣取っていたアイドル衣装ではないいでたちの女性がアンナに席を譲った。
「草薙先輩もこっちに来ていたんですね」
自分を「先輩」と呼称するのは芸能界広しといえども百井依子くらいのものだろう。高校時代に草薙らよりも早くにアイドルとしてデビューしていた百井は、同じ学校の先輩である自分を未だに「先輩」と呼び続けている。
「おう、百井ちゃんもお疲れ」
彼女は現在「諸事情」でアイドル活動を引退し、作曲活動を中心に多彩に活躍しており、今日もこの合同イベントの音楽を担当していたのだ。
彼女は政府の公認非公認問わず様々な事務所と等距離を保って仕事を受けるため、今回のような複数の事務所の思惑が絡むイベントに頻繁に呼ばれる。現役のアイドル時代に比べて草薙と顔を会わせる回数が増えた。
「これからもっと疲れますよ」
百井は苦笑しながらケータリングの箱を草薙とアンナの近くに置かれたテーブルに置いた。中に気軽につまめそうな一口サイズのサンドイッチが詰められている。
「周到やな」
「何度も参加していれば、予想くらいつきますから早めに確保しておいたんです」
百井は肩を竦めて、薄くスライスされた胡瓜とハムのサンドイッチを摘まんだ。
「ここのケータリングは美味しいのよね、自分のところでパンも仕込むんですって」
美味しそうに食べる百井につられてアンナも赤いピックが真ん中に刺されたBLTを手に取り少しずつ食べる。
「相変わらず師匠譲りの先見の明やな」
草薙の感心する声に二つ目のサンドイッチに手を伸ばそうとしていた百井は、動きを止めて恨めしげに睨んだ。
「あんまり言わないでくださいよ」
「隠しとるわけやないやろ」
「それはそうですけど、何色でもないのが私の唯一の強みなんですし」
デビュー当時未成年であったこともあり、百井は自身のプライベートな情報を開けっぴろげに公開することがなかった。
デビュー以前から自身の歌一本で芸能界を渡り歩く事を決めていた彼女にとって、あえて情報を公開しない戦略をとったことは、結果として「謎めいたはぐれアイドル」というファンからのイメージの定着に成功した。
そんな彼女が公表するが積極的に公言しない経歴の一つが、伝説のアイドルグループ「ザ・クレーターズ」のリーダー三輪一言の経営する私塾出身である事だった。
何を思って百井が多くを語ろうとしないのか、草薙には知るよしもないことだが。
「それが百井ちゃんの矜持なんやなあ」
草薙はそれだけは察することが出来た。
「まあ、そんな感じです」
機嫌が治りきらない百井はそう呟いて、タマゴサンドをひょいと頬張る。
どの色にも寄らない、というのは彼女の強みなのだろう。
しかし最近は弟弟子であるという夜刀神狗朗が芸能界で台頭し、兄弟子だという政府非公認事務所Jungleプロの御芍神紫が人気を盤石なものとしている。彼らと仕事をすることも増え、多くを語らずに過ごしてこれた彼女は多少やりにくくあるのだろう。
「あの人の名前が必要なくなるまで、自分から言わないつもりです」
「さよか」
普段心配りを絶やさない彼女の目は、強い意志を秘めていた。
「あっ」
それまで静かにサンドイッチを食べていたアンナの声に草薙と百井は、素早く視線を同じ方向に向ける。
周防と素手でやり合っていた御芍神の長い足が近くに置かれていたビール缶を蹴り飛ばし、ビール缶が自分たちに向かって勢いよく飛来する。
(あかん)
咄嗟に判断を迷い動けなくなる草薙の横から、自分よりも小さな人影が飛び出す。
百井は足を高く上げ、ビール缶を人のいない方向に蹴り飛ばす。ビール缶はけたたましい音を立てて壁に衝突した。動作に一切の無駄が無い流麗な足捌きに、草薙は煙草を落としかける。
「紫ちゃん! 気をつけてよね!」
珍しく聞く百井の怒声に御芍神は「あら、依子ちゃんならこれくらい平気でしょう? でもごめんなさいね」と周防のパンチをいなしながら平然と返した。
百井は「そうだけど、まったくもう……」と呆れた声で呟いて、アンナや草薙の無事の確認をする。
自分もそれなりに腕の立つ方だが、これは。
「百井ちゃん、君三輪一言仙人のところで何習ったん?」
百井は目を泳がせてからひと言、
「それは、企業秘密です」
はにかんでわざと意味ありげに笑うかつての後輩に、草薙は溜息交じりに苦笑した。
後日百井の行動を見ていた某局のプロデューサーからアクションドラマに出演しないかと熱烈に依頼され、困り果てた百井が草薙のバーに愚痴を漏らしに行くのはまた別の話。
これら一連の事象を國常路大覚が提唱するアイドル大和合時代の新たなステップと考える識者もいるが、実際のところ問題点も多い。
一つはそれら政府公認事務所と中立的な立場にあるスタッフの確保の困難さ。
そしてもう一つが――血気盛んな一面を持ち、完全に協調路線をとっているわけではない我の強いアイドル達の乱闘が発生する点にあった。
またか、と草薙は呆れてジッポの蓋を開け煙草に火を付けた。
草薙の目の前では例によって例の如く、アイドル達の乱闘が繰り広げられていた。カメラが入っていないイベント後の打ち上げだからまだマシなものの、八田のみならず周防まで参戦している事実に草薙は頭を抱えたくなる。
アンナを連れ少し離れた場所に移動すると、先に陣取っていたアイドル衣装ではないいでたちの女性がアンナに席を譲った。
「草薙先輩もこっちに来ていたんですね」
自分を「先輩」と呼称するのは芸能界広しといえども百井依子くらいのものだろう。高校時代に草薙らよりも早くにアイドルとしてデビューしていた百井は、同じ学校の先輩である自分を未だに「先輩」と呼び続けている。
「おう、百井ちゃんもお疲れ」
彼女は現在「諸事情」でアイドル活動を引退し、作曲活動を中心に多彩に活躍しており、今日もこの合同イベントの音楽を担当していたのだ。
彼女は政府の公認非公認問わず様々な事務所と等距離を保って仕事を受けるため、今回のような複数の事務所の思惑が絡むイベントに頻繁に呼ばれる。現役のアイドル時代に比べて草薙と顔を会わせる回数が増えた。
「これからもっと疲れますよ」
百井は苦笑しながらケータリングの箱を草薙とアンナの近くに置かれたテーブルに置いた。中に気軽につまめそうな一口サイズのサンドイッチが詰められている。
「周到やな」
「何度も参加していれば、予想くらいつきますから早めに確保しておいたんです」
百井は肩を竦めて、薄くスライスされた胡瓜とハムのサンドイッチを摘まんだ。
「ここのケータリングは美味しいのよね、自分のところでパンも仕込むんですって」
美味しそうに食べる百井につられてアンナも赤いピックが真ん中に刺されたBLTを手に取り少しずつ食べる。
「相変わらず師匠譲りの先見の明やな」
草薙の感心する声に二つ目のサンドイッチに手を伸ばそうとしていた百井は、動きを止めて恨めしげに睨んだ。
「あんまり言わないでくださいよ」
「隠しとるわけやないやろ」
「それはそうですけど、何色でもないのが私の唯一の強みなんですし」
デビュー当時未成年であったこともあり、百井は自身のプライベートな情報を開けっぴろげに公開することがなかった。
デビュー以前から自身の歌一本で芸能界を渡り歩く事を決めていた彼女にとって、あえて情報を公開しない戦略をとったことは、結果として「謎めいたはぐれアイドル」というファンからのイメージの定着に成功した。
そんな彼女が公表するが積極的に公言しない経歴の一つが、伝説のアイドルグループ「ザ・クレーターズ」のリーダー三輪一言の経営する私塾出身である事だった。
何を思って百井が多くを語ろうとしないのか、草薙には知るよしもないことだが。
「それが百井ちゃんの矜持なんやなあ」
草薙はそれだけは察することが出来た。
「まあ、そんな感じです」
機嫌が治りきらない百井はそう呟いて、タマゴサンドをひょいと頬張る。
どの色にも寄らない、というのは彼女の強みなのだろう。
しかし最近は弟弟子であるという夜刀神狗朗が芸能界で台頭し、兄弟子だという政府非公認事務所Jungleプロの御芍神紫が人気を盤石なものとしている。彼らと仕事をすることも増え、多くを語らずに過ごしてこれた彼女は多少やりにくくあるのだろう。
「あの人の名前が必要なくなるまで、自分から言わないつもりです」
「さよか」
普段心配りを絶やさない彼女の目は、強い意志を秘めていた。
「あっ」
それまで静かにサンドイッチを食べていたアンナの声に草薙と百井は、素早く視線を同じ方向に向ける。
周防と素手でやり合っていた御芍神の長い足が近くに置かれていたビール缶を蹴り飛ばし、ビール缶が自分たちに向かって勢いよく飛来する。
(あかん)
咄嗟に判断を迷い動けなくなる草薙の横から、自分よりも小さな人影が飛び出す。
百井は足を高く上げ、ビール缶を人のいない方向に蹴り飛ばす。ビール缶はけたたましい音を立てて壁に衝突した。動作に一切の無駄が無い流麗な足捌きに、草薙は煙草を落としかける。
「紫ちゃん! 気をつけてよね!」
珍しく聞く百井の怒声に御芍神は「あら、依子ちゃんならこれくらい平気でしょう? でもごめんなさいね」と周防のパンチをいなしながら平然と返した。
百井は「そうだけど、まったくもう……」と呆れた声で呟いて、アンナや草薙の無事の確認をする。
自分もそれなりに腕の立つ方だが、これは。
「百井ちゃん、君三輪一言仙人のところで何習ったん?」
百井は目を泳がせてからひと言、
「それは、企業秘密です」
はにかんでわざと意味ありげに笑うかつての後輩に、草薙は溜息交じりに苦笑した。
後日百井の行動を見ていた某局のプロデューサーからアクションドラマに出演しないかと熱烈に依頼され、困り果てた百井が草薙のバーに愚痴を漏らしに行くのはまた別の話。