2004〜2009
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『エル・ディアブロ』
「バーのマスターの二日酔いなんて医者の不養生みたい」
偶々遊びに来た後輩はくすくすと笑い、トマトジュースを草薙に渡した。
「二日ちゃう、三日や…」
痛みに魘されながら訂正する。彼女はグラスを更に二つ用意しながら、
「本当に楽しかったんですね」と苦笑まじりに言った返答を草薙は否定しなかった。
『アンジェロ』
「百井ちゃんはなあ……ええ女やと思うけどあれがないからな……」
「百井さんは夢がないからね……具体的には胸がね…………」
「完璧な人間なんぞおらんからな……」
「嘆きの平原ってああいうことを言うんだと俺は思ったよ……」
「触ると思ったより柔らかかった」
「「ちょっとキング(尊)、そこんところもっと詳しく」」
『スコーピオン』
「綺麗ね」
キャンドルの朧げな灯に照らされた蕩けるような琥珀色の瞳を見て、百井はほうと酒精混じりの溜息をつく。
周防はその独言に一つ視線を返し、眉を僅かに上げて口を開いた。
「……男に言うものじゃないだろ」
周防の言葉に淡い色をした大きな瞳をまあるくして百井は首を傾げる。つられて細い指で支えられた切子細工のグラスの中で氷がカラリと音を立てた。
「綺麗なものに性別なんて関係ないでしょう?」
「そういうものか」
「そういうものよ」
さも当たり前の事であるかのように百井は笑い、切子硝子のグラスを少し揺らす。
相変わらずこいつはわからない、変わらぬ調子で酒を開ける百井を一瞥し周防はグラスを傾けた。
…………
『ピニャコラーダ』
そいつは陽のあたる場所で、煙草に火をつけた。
紫煙が百井の艶のある唇から、僅かに漏れるのを周防は煙草を咥えながら横目で眺める。
恐る恐ると言った体で百井は味わうように目を細めて数秒後、盛大に咳き込んで煙草を口から離した。
煙草を吸う周防を見て物珍しげに見つめるものだから、物は試しと一本渡してみたがやはり駄目だったらしい。
そもそも確かこいつは
「まだ未成年だったろ」
「この前成人したからいいのよ」
でもやっぱり駄目ね、味が苦手みたい。
口に残る味と楽しみを失われた落胆から、苦々しげに百井は口を歪める。
周防は肩を竦め新しい煙草に火を付けた。
…………
『ウォッカギブソン』
「恋愛っていうものはですねぇ、お互いバカでなきゃ出来ないんですよぉ」
完全にこの後輩は酔っている。
暴れたり脱ぎ出したりしないだけまだマシだが、たまにくだを巻き始めるから困ったものだ。
草薙はチェイサーを入れたグラスを不機嫌な酔い方をした後輩に渡した。
「ほなら百井ちゃんの良い人もバカでええんか」
「それは、ちょっと嫌です……でも」
百井は口を尖らせ酩酊した目を少し伏せ少し考えるように出されたチェイサーを飲んでから続ける。
「私の前だけでバカみたいな事をするあの人は、ちょっと見てみたいかも」
「そらご馳走様」
これ以上惚気を聞くのは餡子並みに胸焼けしそうな気がして、草薙は追加の注文を聞いた。
…………
『ピコン&グレナデン』
感応能力を持つアンナは普段は能力をセーブしているが、たまに否が応に誰かの患者が流れ込んでしまう時もある。
尊の友人だという依子もその一人だ。
「謎多き淑女やな」
と出雲は冗談交じりに言うが、彼女は存外分かりやすいとアンナは思う。
依子の気持ちは嬉しい、美味しい、楽しい、そんな感情が淡い色彩のシャボン玉のようにくるくると周囲を旋回する。
彼女にとってHOMRAで過ごす時間は本当に楽しいものなのだ。
だが彼女が一番幸せな感情を見せる時をアンナは知っている、それはアンナと依子だけの、女の子同士の秘密だ。
…………
『ブラッディ・ブル』
慣れぬタバコの苦い味が舌に染み付く。
久しぶりにHOMRAに顔を出したら、思いの外長居をしてしまった。
「口の中がタバコの味がする」
「百井ちゃん、ここは分煙やないから勘弁してな」
「草薙先輩は悪くないです」
ちらと匂いの元凶を横目にすれば、眠たげな目の周防と視線が合う。
「……んだよ」
「別に」
喫煙というのは人の嗜好なのだから、健康の為とか変に理由を付けてとやかく言うつもりは依子にはない。ただ、
「慣れてないだけですから」
苦い芳香を纏うキスを、依子は知らない。あの人の匂いはなんとも形容し難いが落ち着くのだ。こんな風にトゲトゲとした甘くて苦い芳香ではない、一言はタバコを吸わないから。
自分が自分の選んだ香水でも、あの人のものでもない匂いを纏わせてしまうことに、どこか罪悪感を抱く自分がいた。
…………
『プリンセス・メリー』
「あら」
ふわりと依子の手に舞い降りたのは、暖かな赤い光。一際強く輝いた後、それは手の中で雪のように儚く消えた。
この赤は周防くんの赤だ。
遠くに見える赤い剣、幼い依子にとってそれは両親を奪った恐怖の対象だった。だが今は怖くない。
「素敵ね」
赤い剣のその下で獅子が高らかに吠えたような気がした。
(或いは、八月十三日に捧ぐ)
………
『猫とあなたと私』
「あなた周防くんの所に来た新しい子? 」
にぃー
「ふふ、ふわふわの赤い毛と目つきの悪さが彼そっくりね」
みぃ
「あら、そんなに歓迎してくれるなんて嬉しい、周防くんとは違うのね。十束くんの新人教育の賜物かしら」
「おい」
にぇー
「あの人は犬によく好かれるけど猫にはそんなに懐かれないから、あなたのような子にこうしてもらえるのも新鮮ね」
「百井」
「あら周防くん、今あなたの所の新入り君と話していたの」
みゃー
「その、ふわふわの毛玉とか」
「そうよ? 」
「……違うぞ」
「何が?」
「…………全部だ」
みゃあー
…………
あなたは芥川龍之介作「芥川龍之介歌集 薔薇」より「かりそめの涙なれどもよりそひて泣けばぞ恋のごとくかなしき」で尊さん夢小説の妄想をしてください
shindanmaker.com/507315
目の前の誰かに泣かれるのは面倒だ。
ましてやそれが女で、更に言えば周防自身が彼女に向ける感情の名前に見当がついていない女だから尚の事面倒だ。
せめてこの思いが恋であるならば話は単純だったかもしれないのに、周防も女も互いにそんな事にはなり得ないととうの昔に知っていた。
せめて彼女の涙が誰かに見られぬように、周防は自分のずっと下にある女の頭に上着を被せた。
……………
周防尊夢小説へのお題は『憎ませてもくれない、ずるい人』です。
shindanmaker.com/392860
俺を憎むか。
何気なく聞いたその問いに、女は色の違う両目が落ちそうな程大きく見開いた。
自分を友と言って笑っていた彼女は、かつて同じ色の王に命以外の全てを奪われた。
彼女は周防を恐れないが周防の自らさえも滅ぼしうる力を憂う。
何も恨まないと笑う彼女は、それでも周防に微笑む。
何故?
周防君は私に何もしていないのに。
(王様って、本当にずるい人達ばかりだわ)
「バーのマスターの二日酔いなんて医者の不養生みたい」
偶々遊びに来た後輩はくすくすと笑い、トマトジュースを草薙に渡した。
「二日ちゃう、三日や…」
痛みに魘されながら訂正する。彼女はグラスを更に二つ用意しながら、
「本当に楽しかったんですね」と苦笑まじりに言った返答を草薙は否定しなかった。
『アンジェロ』
「百井ちゃんはなあ……ええ女やと思うけどあれがないからな……」
「百井さんは夢がないからね……具体的には胸がね…………」
「完璧な人間なんぞおらんからな……」
「嘆きの平原ってああいうことを言うんだと俺は思ったよ……」
「触ると思ったより柔らかかった」
「「ちょっとキング(尊)、そこんところもっと詳しく」」
『スコーピオン』
「綺麗ね」
キャンドルの朧げな灯に照らされた蕩けるような琥珀色の瞳を見て、百井はほうと酒精混じりの溜息をつく。
周防はその独言に一つ視線を返し、眉を僅かに上げて口を開いた。
「……男に言うものじゃないだろ」
周防の言葉に淡い色をした大きな瞳をまあるくして百井は首を傾げる。つられて細い指で支えられた切子細工のグラスの中で氷がカラリと音を立てた。
「綺麗なものに性別なんて関係ないでしょう?」
「そういうものか」
「そういうものよ」
さも当たり前の事であるかのように百井は笑い、切子硝子のグラスを少し揺らす。
相変わらずこいつはわからない、変わらぬ調子で酒を開ける百井を一瞥し周防はグラスを傾けた。
…………
『ピニャコラーダ』
そいつは陽のあたる場所で、煙草に火をつけた。
紫煙が百井の艶のある唇から、僅かに漏れるのを周防は煙草を咥えながら横目で眺める。
恐る恐ると言った体で百井は味わうように目を細めて数秒後、盛大に咳き込んで煙草を口から離した。
煙草を吸う周防を見て物珍しげに見つめるものだから、物は試しと一本渡してみたがやはり駄目だったらしい。
そもそも確かこいつは
「まだ未成年だったろ」
「この前成人したからいいのよ」
でもやっぱり駄目ね、味が苦手みたい。
口に残る味と楽しみを失われた落胆から、苦々しげに百井は口を歪める。
周防は肩を竦め新しい煙草に火を付けた。
…………
『ウォッカギブソン』
「恋愛っていうものはですねぇ、お互いバカでなきゃ出来ないんですよぉ」
完全にこの後輩は酔っている。
暴れたり脱ぎ出したりしないだけまだマシだが、たまにくだを巻き始めるから困ったものだ。
草薙はチェイサーを入れたグラスを不機嫌な酔い方をした後輩に渡した。
「ほなら百井ちゃんの良い人もバカでええんか」
「それは、ちょっと嫌です……でも」
百井は口を尖らせ酩酊した目を少し伏せ少し考えるように出されたチェイサーを飲んでから続ける。
「私の前だけでバカみたいな事をするあの人は、ちょっと見てみたいかも」
「そらご馳走様」
これ以上惚気を聞くのは餡子並みに胸焼けしそうな気がして、草薙は追加の注文を聞いた。
…………
『ピコン&グレナデン』
感応能力を持つアンナは普段は能力をセーブしているが、たまに否が応に誰かの患者が流れ込んでしまう時もある。
尊の友人だという依子もその一人だ。
「謎多き淑女やな」
と出雲は冗談交じりに言うが、彼女は存外分かりやすいとアンナは思う。
依子の気持ちは嬉しい、美味しい、楽しい、そんな感情が淡い色彩のシャボン玉のようにくるくると周囲を旋回する。
彼女にとってHOMRAで過ごす時間は本当に楽しいものなのだ。
だが彼女が一番幸せな感情を見せる時をアンナは知っている、それはアンナと依子だけの、女の子同士の秘密だ。
…………
『ブラッディ・ブル』
慣れぬタバコの苦い味が舌に染み付く。
久しぶりにHOMRAに顔を出したら、思いの外長居をしてしまった。
「口の中がタバコの味がする」
「百井ちゃん、ここは分煙やないから勘弁してな」
「草薙先輩は悪くないです」
ちらと匂いの元凶を横目にすれば、眠たげな目の周防と視線が合う。
「……んだよ」
「別に」
喫煙というのは人の嗜好なのだから、健康の為とか変に理由を付けてとやかく言うつもりは依子にはない。ただ、
「慣れてないだけですから」
苦い芳香を纏うキスを、依子は知らない。あの人の匂いはなんとも形容し難いが落ち着くのだ。こんな風にトゲトゲとした甘くて苦い芳香ではない、一言はタバコを吸わないから。
自分が自分の選んだ香水でも、あの人のものでもない匂いを纏わせてしまうことに、どこか罪悪感を抱く自分がいた。
…………
『プリンセス・メリー』
「あら」
ふわりと依子の手に舞い降りたのは、暖かな赤い光。一際強く輝いた後、それは手の中で雪のように儚く消えた。
この赤は周防くんの赤だ。
遠くに見える赤い剣、幼い依子にとってそれは両親を奪った恐怖の対象だった。だが今は怖くない。
「素敵ね」
赤い剣のその下で獅子が高らかに吠えたような気がした。
(或いは、八月十三日に捧ぐ)
………
『猫とあなたと私』
「あなた周防くんの所に来た新しい子? 」
にぃー
「ふふ、ふわふわの赤い毛と目つきの悪さが彼そっくりね」
みぃ
「あら、そんなに歓迎してくれるなんて嬉しい、周防くんとは違うのね。十束くんの新人教育の賜物かしら」
「おい」
にぇー
「あの人は犬によく好かれるけど猫にはそんなに懐かれないから、あなたのような子にこうしてもらえるのも新鮮ね」
「百井」
「あら周防くん、今あなたの所の新入り君と話していたの」
みゃー
「その、ふわふわの毛玉とか」
「そうよ? 」
「……違うぞ」
「何が?」
「…………全部だ」
みゃあー
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あなたは芥川龍之介作「芥川龍之介歌集 薔薇」より「かりそめの涙なれどもよりそひて泣けばぞ恋のごとくかなしき」で尊さん夢小説の妄想をしてください
shindanmaker.com/507315
目の前の誰かに泣かれるのは面倒だ。
ましてやそれが女で、更に言えば周防自身が彼女に向ける感情の名前に見当がついていない女だから尚の事面倒だ。
せめてこの思いが恋であるならば話は単純だったかもしれないのに、周防も女も互いにそんな事にはなり得ないととうの昔に知っていた。
せめて彼女の涙が誰かに見られぬように、周防は自分のずっと下にある女の頭に上着を被せた。
……………
周防尊夢小説へのお題は『憎ませてもくれない、ずるい人』です。
shindanmaker.com/392860
俺を憎むか。
何気なく聞いたその問いに、女は色の違う両目が落ちそうな程大きく見開いた。
自分を友と言って笑っていた彼女は、かつて同じ色の王に命以外の全てを奪われた。
彼女は周防を恐れないが周防の自らさえも滅ぼしうる力を憂う。
何も恨まないと笑う彼女は、それでも周防に微笑む。
何故?
周防君は私に何もしていないのに。
(王様って、本当にずるい人達ばかりだわ)