体のところどころが真っ黒に汚れている、自分と同じくらいの女の子。

　アンナがセンターで最初にそれを「観た」時から彼女はずっと変わらない姿でいた。
　思い返してみれば「彼女」はタタラと一緒に見た女の子の幽霊が出てくるホラー映画とは違って、こちらに向かって襲ってきたことは一度も無かった。
　それどころか、アンナがセンターで実験を受けた後、近寄りはしなかったが何か心配するような表情でこちらを伺うことすらあった。
　アンナは「彼女」が何者かを知らない。けれども何かが自分とよく似ていることだけは、薄らと察していた。

「あなたは、誰？」

　御槌に実験と称して何度も火傷を負わされた後。
　自分の受けた傷と「彼女」の真っ黒が似ていることに気が付いて、現れた「彼女」にそう問いかけたことがある。
　「彼女」はアンナと似ても似つかない薄い色をした大きな目を溢れそうなほど大きく見開いては、ぱちぱちと瞬かせた。煤だらけであちらこちらにガーゼが貼られた顔のなかで、その目だけがやけに目立っている。「彼女」はアンナに自分が見えていることに一頻り驚きあれこれ表情を変えた後にひと言、ぽつりと呟いた。

「ずうっと眠りたいのに寝かせてもらえないから、わたしが誰なのかも、どこに行けば良いのかも忘れちゃったんだ」

　焼け焦げてボロボロに朽ちていく体の真っ黒な部分にも気付かずに、寂しそうに笑った「彼女」の顔をアンナはまっすぐ見ることができなかった。
　あの忌まわしいセンターが焼け落ちた日、アンナが世界で一番綺麗だと思えたものに救われた日。
　燃え尽きる建物を背に、ミコトに手を引かれながら、アンナは「彼女」が嬉しそうに笑う声を聞いた。