2008〜2012.09.25
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二人きりでいる時に、なんとはなしに緩く編まれた依子の亜麻色の三つ編みに触れる事が一言は好きだった。柔らかく編まれた編み目が解けてしまわないように、髪の滑らかさを愛でるように、三輪一言は三つ編みに優しく触れる。
「猫のしっぽじゃないんですから」
擽ったげに笑う依子の声が聴きたくて、時にはほんの少し何かを誤魔化そうとする罪悪感から逃れたくて、一言はいつも手を伸ばす。
もしかしたら、自分は彼女の未来が朧げにしか己の目に映らないかわりに、留めて置きたいのかもしれない。
百井依子の未来を見ようとする度に、三輪一言の有する王の能力でしか見ることの叶わない彼女の未来の景色は、いつも断片的で、それもノイズがかかった古いテレビのように不鮮明だ。
この状態では一度は命以外の全てを失った彼女が、再び何かを失うかもしれない未来があったとしても一言には見て、防ぐための行動が出来ない。
つまりそれは、三輪一言は己が伴侶と定めた女性(ひと)をあらゆる悲劇から守ることが出来ないことを意味していた。
近い将来、自分は彼女に大切な存在を再び失わせてしまうというのに。
何も出来ぬ自分の悔しさを、もどかしさを誤魔化したくて、一言は依子の髪に触れる。触れる度に彼女は何もかも分かっているように、一言の手を拒まず淡い笑みを浮かべる。
「私はあなたみたいに未来が見えませんから」
だから、一言の行いにはきっと自分が計り知れぬ理由があるのだろうと彼女は思って、信じて、一言の手を受け容れる。
(けれども君は、本当は何もかも知っているんじゃないかい?)
時折そんな気になってしまう。
自分は兄弟子や弟弟子の二人とは違って、癖毛だから手入れも大変だ。
そんな風に口を尖らせていた少女だった彼女が。出会った頃、無残にも髪を刈り上げられ小さな頭に電極が貼られていた痛ましく幼かった彼女が。三つ編みが結える程、根気強く髪を伸ばしたというのに。
(私がいなくなった後に、君は躊躇いもなくその髪を切り落としてしまうんだね)
僅かに一言が垣間見た未来の彼女は、髪が短かったのだ。