2004〜2009
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周防くんはまるで体つきの大きな猫のよう。
くあ、と口を開けて悠々と欠伸をする様や、周りを気にしていないようでいて気になる人をちらと一瞥するところとか。
家によく来る猫よりも、もっとずっと猫らしい。
草薙先輩は「サバンナのライオン」だと表現するけど、だとしたら十束くんは猛獣使いのようなものかしら。
サーカスでピエロに扮した十束くんが鞭でピシリと指示をしてライオン姿の周防くんに火の輪くぐりをさせる様を想像してみたけど、気が乗らなくて燃える火の輪をちっとも怖がらずにくあと一つ欠伸をして眠り始めてしまうライオンの周防くんしか思い浮かばなかった。
炎をちっとも怖がらないライオンは少しかっこよくて羨ましい。自分が燃えてしまう恐れなんてちっとも感じていない。
危ないからちょっと離れて寝ようよキング。
そんな風にピエロ姿の十束くんが言おうが御構い無しにぐうぐうと寝るものだから、尻尾が少しチリチリと燃えている。
本人(もしかして本ライオン?)よりも周りの方が大慌てだ。
空想の中の周防くんがおかしくて思わずくすりと小さく笑うと、現実の周防くんが訝しむようにこっちを見た。
なんで笑ってるんだろうかこいつ、と言いたそうな面持ちだ。
「食べる?」
私は手元のお弁当から卵焼きを一つ差し出した。
「餌付けか」
「そんな感じかな」
最近十束くんとよくつるんでいるから周りが警戒心を少し解いているのか、十束くんが人にお菓子をもらうついでに周防くんにも恐る恐る分けるなんて光景をよく目にする。
代わりに私が何かお菓子とかあげる回数が減ってしまった。なんというか、よく懐いていた猫がとられてしまったような気持ちになる。
けれど周防くんは私の飼い猫でもないし誰の猫でもないのだろう。
サバンナで走ることは出来ないが周防くんは同じぐらい自由な姿が似合う。
「なんだよそれ」
よくわからない、と言いたそうな周防くんはそれでも私のお弁当から一つ卵焼きを摘んでひょいと口に入れた。飲み込んでからひと言。
「……甘いんだな」
「今日のはちょっと砂糖多めなんだ」
「草薙のは、甘くない」
「それは多分だし巻き卵なんだよ」
草薙先輩は京都の人だもんねえ。
私がそうやってうんうんと頷いていると、周防くんはもう一つ卵焼きをひょいと摘んだ。
あっ、と口を開いたがもう手遅れで、私のお弁当から黄色が消えてしまった。
久しぶりの餌付けが上手くいったと喜べばいいのか、おかずが減ってしまったとしょんぼりすればいいのか。
何処と無く満足げな周防くんを見て、まあいいかと絆されてしまった。
そんなところも彼は猫のようだった。