1999.07.11〜2004.05
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今日の夕食はカレーを作ろう。
依子はふと思い立ち狗朗と共に台所へと向かった。
三が日も過ぎ、黄金の王への新年の挨拶を終え帰ってくる二人も喜ぶだろうと言えば、狗朗は張り切って人参を切り始める。
今頃一言は狗朗とよく似た表情で、狗朗の誕生日祝いを選んでいるのだろう。そう思うと彼ら二人が、本当の親子のように思えて仕方がなかった。
コトコトと湯気が蓋を鳴らし、スパイスの芳醇な匂いを台所に漂わせる。
「ん、良い感じ」
依子はカレーの蓋を開け、小皿に少しよそって口をつけた。
広がる肉と野菜、それからいくつものスパイスの風味が混ざり合い懐旧すら抱かせる味わい。
だが少し甘いだろうか、同じ材料で作っているのにあの人の味にはならない。
「姉上、支度ができました!」
「ありがと狗朗、ちょっと味見をしてくれない?」
居間から戻ってきた狗朗に小皿を渡す。手渡されたそれに口をつけると、狗朗は少し眉根を寄せ難しい顔をした。
「やっぱり違うよね」
「不味くはないです」
「そりゃそうよ」
「でも姉上の言う通り、一言様の味ではありません」
「だよねえ……」
うーんと二人で首をかしげる。
もうすぐ二人も帰ってくるというのに、変なところで二人躓いてしまった。
「何が違うんだろうねー」
「カレー一つに姉上にも再現できぬ仕込みをなさるとは……流石一言様だ」
「いや多分入れてるものが違うだけよ」
「えぇっ!?」
バッサリと依子が切り捨てれば、狗朗はひどく愕然とした表情で姉弟子を見上げた。
『この人は己が師になんということを!』
そんなセリフが弟弟子の愛らしい顔にでかでかと書いてあるように見えてしまい、依子は思わず吹き出すのを堪えた。
「だってねえ、カレーだよ?」
「ですけど!それを常人に再現困難な複雑な味にする一言様はカレー一つにも深い見識とこだわりを持たれる博識かつ探究心の深い」
「うんうんそうだねー」
「聞いてない!?」
「まあ、すごい人よ?あの人。でも神様みたいに尊敬しすぎても、一言様だって困ってしまうわよ?」
「一言様が困ることって何があるんだ……?」
「そりゃ、色々あるわよ」
あなたのことや私や紫ちゃんのこととか、もっと与り知らぬこと世界の色々とかね。
真面目すぎるほど真面目な弟弟子の頭をひと撫でして、依子は盛り付けの準備を始めると、玄関から扉の開く音が聞こえた。師匠と兄弟子が帰ってきたのだ。
「ただいま、今帰ったよ」
「あら、今日はカレー?」
「「お帰りなさい!」」
「しばらくおせちや味の薄い懐石尽くしだったから、たまには良いわね」
「二人で作ったのかい?」
「おれはご飯の用意を!姉上がカレーを作りました」
「そうか、依子もクロも頑張ったね」
「ありがとうございます、でもちょっと味が」
「どんな感じなの」
「食べてみればわかるかと。はいこれ、一言様はこっちで」
「一言様と姉上のは味が違うんです……」
「作り方も見てレシピもメモして調味料も同じはずなんですけど……」
「十分美味しいよ」
「でも依子ちゃんの言う通り味が違うのは確かね」
「でしょう?一言様、何か隠し味ってあるんですか?」
「うーん普通の材料だよ?」
「では何か一言様ならではの特別なことでもなさっているのですか?」
「そうだね……強いて言うなら料理に『愛情』を注ぐことかな?」
「「一言様……!」」
(目を輝かせる二人に、紫はまたいつものが始まったと呆れた顔をしているが内心は二人と同じ反応をしていたのは内緒の話)