2008〜2012.09.25
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「やっぱり痕になってしまったね」
依子の白い二の腕に生々しく残る一筋の赤い線を眺め、一言は悔やむように呟いた。
先日の『依頼』の時、止むに止まれず起きた小競り合いで、死角から放たれた攻撃から一言を庇った時に出来た傷だ。
大して深い傷ではなく、神経や太い血管のあるような箇所でもなかったこと。そして一言による応急処置が手早かった為か、傷の治りも通常より早かったのが不幸中の幸いだ。
だが一言にとって、他ならぬ依子に傷を負わせてしまったのも事実だ。
傷が塞がり、皮膚が新生するまで一言は依子に触れなかったし、『依頼』にも依子を連れて行こうとしなかった。
案じているのだろう、自分を。それが依子には歯痒くてならない。自分の不甲斐なさが、護るべき人を護れなかった後悔を眼前の男に与えてしまった事実が悔しくてならない。もう二度とこの人の手を自分の血で染めたくない。
「触れてください」
だから依子は敢えてそう言った。
「だって傷跡なんて一杯ありますし、それによく言うじゃないですか傷跡は勲章だって」
おちゃらけた依子の声に安堵したように一言は吹き出した。
実際、依子の体には稽古の痣が絶えないし、十年近く前の火傷跡だって薄っすらと残っている。
綺麗な体とは、言い難い。
それでも、だからこそ一言は依子に触れているというのに、一つ傷が増えたとしても依子にとっては大して問題ではないのだ。合点がいったのか、一言は苦笑する。
「仕様のない子だね、君は」
でもそれは男が言うものではないかなあ。
いいんです、女にとっても勲章ですよ。だって、
「貴方を守れた証だから」
その言葉を聞いて睦み笑いあっていた一言の目が揺らぐ、それでも依子は笑みをやめない。脆い壊れ物に触れる体で一言は依子の腕を掴み持ち上げる。
その光景を依子は息を呑み見つめた。
シーツと寝間着の擦れる音が静かになった部屋の中で響く。依子は一言に高鳴る鼓動を聞かれぬよう、もう片方の手を胸の前で握る。
祈りのように、赦しのように、柔らかな接吻が薄くなった皮膚の上に落とされた。
依子の白い二の腕に生々しく残る一筋の赤い線を眺め、一言は悔やむように呟いた。
先日の『依頼』の時、止むに止まれず起きた小競り合いで、死角から放たれた攻撃から一言を庇った時に出来た傷だ。
大して深い傷ではなく、神経や太い血管のあるような箇所でもなかったこと。そして一言による応急処置が手早かった為か、傷の治りも通常より早かったのが不幸中の幸いだ。
だが一言にとって、他ならぬ依子に傷を負わせてしまったのも事実だ。
傷が塞がり、皮膚が新生するまで一言は依子に触れなかったし、『依頼』にも依子を連れて行こうとしなかった。
案じているのだろう、自分を。それが依子には歯痒くてならない。自分の不甲斐なさが、護るべき人を護れなかった後悔を眼前の男に与えてしまった事実が悔しくてならない。もう二度とこの人の手を自分の血で染めたくない。
「触れてください」
だから依子は敢えてそう言った。
「だって傷跡なんて一杯ありますし、それによく言うじゃないですか傷跡は勲章だって」
おちゃらけた依子の声に安堵したように一言は吹き出した。
実際、依子の体には稽古の痣が絶えないし、十年近く前の火傷跡だって薄っすらと残っている。
綺麗な体とは、言い難い。
それでも、だからこそ一言は依子に触れているというのに、一つ傷が増えたとしても依子にとっては大して問題ではないのだ。合点がいったのか、一言は苦笑する。
「仕様のない子だね、君は」
でもそれは男が言うものではないかなあ。
いいんです、女にとっても勲章ですよ。だって、
「貴方を守れた証だから」
その言葉を聞いて睦み笑いあっていた一言の目が揺らぐ、それでも依子は笑みをやめない。脆い壊れ物に触れる体で一言は依子の腕を掴み持ち上げる。
その光景を依子は息を呑み見つめた。
シーツと寝間着の擦れる音が静かになった部屋の中で響く。依子は一言に高鳴る鼓動を聞かれぬよう、もう片方の手を胸の前で握る。
祈りのように、赦しのように、柔らかな接吻が薄くなった皮膚の上に落とされた。