1999.07.11〜2004.05
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
三輪家はエアコンがない。
山の麓に位置するからか、夏は東京のようにアスファルトの熱で蒸し焼かれるような暑さではなく、時折涼しげな風が吹くため余程の猛暑でなければ扇風機で事足りる。
その分冬は厳しい。
寒がりの依子は半纏で武装し炬燵に篭るが、大抵兄弟弟子のどちらかに引っ張り出され、修行の付き合いをする羽目になる。似ていない兄と弟は妙な所でよく似ている。
だが今年の夏はどうにも暑い、暑くてたまらない。
新聞を見れば今年は例年稀に見る猛暑であり、三輪家のある地域はとりわけ暑いのだそうだ。
依子は正直この暑さに辟易していた。
少しでも風の通る縁側の日陰になっている場所で、細い手足を投げ出し猫のように寝そべっていた。
兄弟子の紫はいつものことながら修行の旅に行っており不在、弟弟子の狗朗も友人の三兄弟と川に遊びに行っている。
悲しいことに三輪家のある集落には依子と同年代の子供は殆どいない。
学校には僅かな同級生を含め中学に通う同年代の友人達はいるが、いずれもこの集落の子供達ではない。遊びに行くのは結構な遠出になってしまう。
依子は週末、大抵は主に修行や家事、狗朗や村の子供達のお姉さん役として遊びについて行くことが多い。紫や狗朗の様にストイックにもなれるがなんだかんだ遊ぶことも好きなのだ。
今日は一通りやるべきことを過ごし、夕食を作るまでの少しの間の無為な時間をのんびりとだらけて過ごそうと思ったのだ。
この暑ささえなければもっと快適であっただろうに、だがたまにはこういう余暇も必要であると思うのだ、何せ今日はこんなにも暑いのだから。
暑がりで寒がりな自分はともかく、体の弱い一言が気候の変化で体調を崩したりはしないだろうかと心配になる。
「私の体はどうしようもないものだし、君は心配しなくてもいいんだよ」と師である一言は言うが、心配して当たり前だと思うのだ。
家族というにはどこか遠く、でも同居人と言えばよそよそしいにも程がある。それでも彼は大切な人だ。
依子は第七王権者、無色の王である三輪一言のクランズマンだ。
命の恩人でもある彼に敬愛の感情は抱くが、「臣下」として忠誠を誓うというのも、紫や狗朗のようにはどうにもしっくりいかない。
心のどこかで、何かが「違う」と声を上げている。
一言と自分の関係は、他の兄弟弟子とはまた違うのかもしれない。でもそれが如何なる名前を持つものなのか、自分でもはっきりと分からず依子は悶々としていた。
ふと和室を覗けば、涼しげな顔で書を読んでいる一言の姿が見える。依子は気配を殺し、彼の背に抱きついてみた。一言は振り向き少し驚いた様子で笑いながら、依子に問いかけた。
「突然どうしたんだい?」
「なんだか涼しそうに思えて」
しゃりしゃりとした肌触りの夏紬は、依子の熱を奪う。
少しだけ暑さに浮かれたかったのだ。