2004〜2009
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最近の狗朗は、今迄以上に稽古に励むようになった。
流石に昔のように雨の中濡れながら稽古をするということはないが、一層真剣に鍛錬をしている。
まだクランズマンとしての能力に目覚めてられていない事が、あの子を駆り立ているのだろうか。
私も以前より稽古を狗朗にせがまれる回数が増えた、紫ちゃんの代わりにという事だろう。
かく言う私は、料理のレシピが少し増えた。紫ちゃんがいた頃とは違う料理が、少しずつこの家の食卓に並び始めている。
一言様は……一人で晩酌をするようになった。だがその回数は増えてはいない、むしろ少し減ったくらいだ。
いつもは紫ちゃんがあの方の相手をしていた。私はまだ子供だから、あの人と酒を飲み交わすことは出来ない。盃に浮かぶ月を眺めるあの人の目が寂しげに、そして何かを待つような表情を見せる。
普段とは違う一言様の表情は好きだけれど、嫌い。
穏やかな日々は少しずつ形を変えて続いていく、兄弟子はーー紫ちゃんはそれが変わることを望んでいた。
気付かないほどに少しずつ小さくなっていくあの方の命の火を、兄は美しいまま自らの目に焼き付けたかったのだろう。
狗朗は少しずつ背が伸びている、私が家で一番背が低くなる日も近いのかもしれない。
私は髪を伸ばし始めた、あの事件の後遺症で変わってしまった髪の色が嫌いだった私に、綺麗だと最初に言ったのは一言様ではなくて紫ちゃんだ。
あの人はまだ変わらない、今のところはいつもと同じ通り。
いつかは来るべき時を、紫ちゃんは待つのではなく望む時に留めたかった。それは変化ではない。
「変わらぬものを」「永遠に続いて欲しい」と願うのは誰だってあることだ。
兄弟子にとっては師の美しさがそれだった。
紫ちゃんが求めたものと一言様が願うものは違った。それだけの話なのだろう。私にはそれくらいしか分からないけれどそれでいいのだ。
あの決闘は兄弟子の言う通り「魂のぶつかり合い」会話ではなく剣と剣がぶつかり合うことで通じ合った二人だけの絆の形だ。
……狗朗は今は幼くて分からなくても、いつかきっと分かる日が来るはずだ。
変わりゆく日常で、穏やかな日々だけは変わらないまま続いていく。それは私でも弟弟子でも兄弟子でもなく、一言様の望む通りに、時間は過ぎていく。その火が消える最期まで。
(ねえ、紫ちゃん。貴方がいないこの家は少しだけ寂しいよ)