〜1999.07.11
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『Letters』
「部下の娘だ」
羽張の後ろについていた少女は鳳に目を合わせると、ぺこりと礼をしてそのまま去っていった。
どうにも気恥ずかしいらしい。
「母親も働いていてな、たまにこうして父の職場に来ている」
将来は俺の下で働きたいのだと言っていた。
羽張は彼女が駆けていく先を見て穏やかに笑う。
「未来の新人って訳か」
だが、どうにも。
「お前には悪いが、なんか違う方が向いていそうな気もするなぁ」
彼女には晴天ような眩い青色よりも、もっと淡いともすれば儚い色の方が似合いそうで。
鳳の言葉に羽張は頷く。
「やはりお前もそう思うか」
笑みの消えた金色の目は少女の去った後の扉を、そのずっと先を見つめている。
「彼女は誰かの臣下にはなるのだろうが、それはきっと俺ではないのだろうな」
誰に告げるでもなく言葉を続けた羽張は、目をわずかに細めた。
(その目がどこか寂しげに見えたのは鳳の錯覚に違いなかった。)
…………
『はじめて見た君の瞳』
紫が家に帰ると、縁側で一言が猫を膝に抱いて座っていた。
猫に懐かれない師匠が、珍しいこともあるものだ。真白い小さな猫は、気持ち良さそうに目を閉じてゴロゴロと喉を鳴らす。
「片目だけ、緑色をしているんだ」
手にすっぽりと収まる小さな頭を撫でながら一言は誰に告げるでもなく、ポツリと呟く。
その目は猫を見ているようで、見ていない。
そんな時、師匠の眼が湛える深く静かな光が一体何を見ているのかを紫はよく知っている。
「その子も懐くといいですね」
そう言いながら隣に腰掛ければ一言は苦笑する。
「そうだといいけど懐かれ過ぎると、困る」
「あら」
あの三輪一言が困ることなどあるのか、と紫は少しだけ瞠目する。一言は深い瞳に煌めきを湛えたまま、寂しげに笑って口を再び開いた。
「別れる時にきっと名残惜しく思ってしまうから」
撫でられていた白猫は、琥珀色の両目をぱちりと開けてにゃあと鳴いた。
「部下の娘だ」
羽張の後ろについていた少女は鳳に目を合わせると、ぺこりと礼をしてそのまま去っていった。
どうにも気恥ずかしいらしい。
「母親も働いていてな、たまにこうして父の職場に来ている」
将来は俺の下で働きたいのだと言っていた。
羽張は彼女が駆けていく先を見て穏やかに笑う。
「未来の新人って訳か」
だが、どうにも。
「お前には悪いが、なんか違う方が向いていそうな気もするなぁ」
彼女には晴天ような眩い青色よりも、もっと淡いともすれば儚い色の方が似合いそうで。
鳳の言葉に羽張は頷く。
「やはりお前もそう思うか」
笑みの消えた金色の目は少女の去った後の扉を、そのずっと先を見つめている。
「彼女は誰かの臣下にはなるのだろうが、それはきっと俺ではないのだろうな」
誰に告げるでもなく言葉を続けた羽張は、目をわずかに細めた。
(その目がどこか寂しげに見えたのは鳳の錯覚に違いなかった。)
…………
『はじめて見た君の瞳』
紫が家に帰ると、縁側で一言が猫を膝に抱いて座っていた。
猫に懐かれない師匠が、珍しいこともあるものだ。真白い小さな猫は、気持ち良さそうに目を閉じてゴロゴロと喉を鳴らす。
「片目だけ、緑色をしているんだ」
手にすっぽりと収まる小さな頭を撫でながら一言は誰に告げるでもなく、ポツリと呟く。
その目は猫を見ているようで、見ていない。
そんな時、師匠の眼が湛える深く静かな光が一体何を見ているのかを紫はよく知っている。
「その子も懐くといいですね」
そう言いながら隣に腰掛ければ一言は苦笑する。
「そうだといいけど懐かれ過ぎると、困る」
「あら」
あの三輪一言が困ることなどあるのか、と紫は少しだけ瞠目する。一言は深い瞳に煌めきを湛えたまま、寂しげに笑って口を再び開いた。
「別れる時にきっと名残惜しく思ってしまうから」
撫でられていた白猫は、琥珀色の両目をぱちりと開けてにゃあと鳴いた。