余談
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先代のセプター4の隊員資料をめくる宗像の手がはたと止まった。
資料の間に挟まっていたのは、一枚の写真だった。使い捨てカメラで撮られたであろう色褪せた家族写真。
剣道の大会だろうか、金色のトロフィーを抱え満面の笑みを浮かべる子供。その両隣にキリリとしたつり気味の漆黒の瞳が印象的な気の強そうな女性と、彼女よりもふた周りほど体格差のある精悍な男性。恐らくは夫婦であろう男女が優しげな表情で写っている。
道着を着た子供の髪は短く、中性的な見た目も相まって一見性別はわからない。
母親と似た顔立ちから辛うじて女子であると判断できる。
ありふれた家族の幸せな一コマ、それはこの場に置いてひどく異質なものに見えた。
「第×回○○剣道大会児童の部、優勝!」
そう裏に闊達な文字で書かれている。大らかな人物が、愛娘の記録を残すために書いたものだろう。
その筆跡は、挟まれていたページの隊員資料の筆跡と同一人物の書いた文字であると宗像にはすぐ理解できた。羽張迅のセプター4において年長枠であったこの男は、些か変わった経歴を持っていた。
一介の警察官であったが、旧家である妻の家に結婚を猛反対されその親戚には権力がそれなりにあったため、上からの圧力がかかり閑職にまわされる。
不遇にあった男を拾ったのが先代の青の王羽張迅であったというのだ。
クランズマンとなる前からある種の秩序の守り手であった彼の見解は、頼りにされていたらしい。
そんな彼の最期はひどくあっけないものであった。
「迦具都事件の際に殉職、ですか」
迦具都事件の際、セプター4は半壊した。この男もまた迦具都玄示のダモクレスダウンに巻き込まれ殉職した。
彼の妻もまた、不運な事にこの事件で亡くなった。
彼ら夫妻の記録はここで途切れている。
しかし資料にはさらに続きがあった。
どうやら彼らの一人娘は迦具都事件に巻き込まれなお生きていたのだ。
彼女は迦具都事件の被害者の一人として、黄金のクランの傘下にある病院で療養した後、遠方の親戚に引き取られた。
記録はそこで終わっている、が宗像はどうにも気になって仕方がない。
何か語っていないことがこの資料にはあるのではないだろうと疑念が浮かぶ。
この傘下の病院というのは、かつてセンターとの息がかかっていたのではないか?
センターが壊滅した今となってはこちら側に資料が残されていないのが悔やまれる。
宗像は、生き残った彼女が少しだけ気になった。
もし今も健在であるならば、年も宗像とそう変わらないだろう。
「過ぎたことを考えてもしょうがないですね」
逃した魚は存外大きいのかもしれない、そう思いながら宗像は次のページをめくった。