1999.07.11〜2004.05
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深々と庭に静かに積もる白い雪を、依子は縁側でじっと眺めている。
寝る時間になってもどうにも寝付けず、気を紛らわせたくて雪に覆われる庭を見ていたらいつしかそちらが目的になってしまったのだ。
ふと此方に近づく気配を感じ、振り返れば寝巻きに半纏を着た一言が歩いてきた。
「一言様」
「そんなところにいたら、風邪をひいてしまうよ」
一言は依子に近づいて、一人座り込む依子に声をかけた。
随分と長いこと縁側にいたせいか、雪見のお供にしていたホットミルクはすっかりと冷めきっていて今この場で飲めたものではない。
「雪が積もっていく光景を、見たことがなかったんです」
都会で育った依子には、三輪家で起こる何もかもが物珍しい。
今日も雪が降り始めて土を白く覆うまで、ずっと眺めてしまうくらいに。
「もうそろそろ寝る時間だよ。ああ、鼻が赤くなっているじゃないか」
そう言って一言は、依子の色素の薄い髪を撫でながら優しげに一笑した。
降りしきる雪が依子の頭にも積り溶けてしまっていたのか、彼女の髪は自身でも分かるほどに冷えきっていた。色の白い依子の肌は、指先が寒さのせいでほんのりと朱に染まっている。
自身の頭を撫でる手を、依子は自分の手と重ねる。温かく大きな手から、体温を分け与えられるような感覚に陥った。
「一言様の手は、暖かいですね」
そう言って依子ははにかみ、温もりを求めるよりも一言の掌の感触を確かめるようにそっと握る手の力を強めた。
「凍えてしまったね。ミルクを温め直して飲んだら寝ようか」
「はい」
冷え切ったミルクを片手に、もう片方の手は一言の暖かな手をしっかりと握っていた。