しのぶれど
名前変換
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「せんせい」
「君まで私をそう呼ぶのかい?」
いつもとは違う呼び方に困ったように口をすぼめる士遠が物珍しくて、雪は思わず吹き出した。
「ちょっとだけ典坐殿や棋聖殿が羨ましくなりまして」
「そういうものなのか」
「そういうものですよ」
所在なさげに頬を掻く士遠はまだどこか納得してないらしい。
この人は、本当に仕方がない人だ。
「あなたが何かを与えたと思った相手にそう呼ばれるのなら、私だってその範疇には入ると思いますよ?」
出来ることならば、この人が自分に与えてくれた分と同じくらいーー最も山田浅ェ門士遠と言う男からしたらそれは至極当たり前の行為であるけれど、雪という女が自分に成された細やかな行いを一つ一つ後生大事に抱え込んでいることなど、ちっとも気付いてもいないのだろうけどーー自分も彼にあげられたらいいのだが、それは今言うべき事ではないので、雪は言葉を飲み込んで微笑んだ。
「そう思ってくれるのは、ありがたいんだが……」
士遠は少し言い淀む。
「お嫌ですか?」
「嫌ではないよ。だがやはり君からは名前を呼んでもらった方がしっくりくると思ってね」
好きなんだろうな、そう呼んでもらうことが。
思いもよらぬ士遠の言葉に雪は顔を赤らめた。
そんな風に言われてしまったら、次からどう名前を呼べばいいのか分からなくなってしまうではないか。
次に言うべき言葉が思わぬ一言で何処かに放り投げられ返答できずにいる雪に、士遠は「雪?」と不思議そうに小首を傾げた。