しのぶれど
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隣で、大切な人が眠っている。
多分。
何せ自分の隣で静かに寝息を立てている男は、盲目であるがゆえに大抵のことがない限りその何も映さぬ目を瞼の内に隠している。だから、実は眠っていないなんてこともあり得てしまうのだ。
だから雪には迂闊に士遠に触れることも出来ない。それでも、彼がいるのが夢なのか現なのかわからなくても、こうして気を緩めている士遠の隣に居るだけで、雪の胸は温かなもので満たされてしまう。
「きっと貴方はご存知ないのでしょうね、私がこんな些細な事で天にも登ってしまえるほど嬉しくなっているなんて」
士遠が狸寝入りをしていない事を願いながら、女は眠る男にほんの少しだけ心の内を明かして目を細めた。
………
隣で、大切な人が眠っている。
小さく胸を上下させ、士遠の方にほんの少しだけ体を傾けて規則正しく寝息を立てて、女は安心しきった様子で眠っている。
肩に流した洗い晒しの髪の先が、時折士遠の腕に触れるのでどうにもこそばゆくてならない。けれどもどうしてか、その場を立つことも髪を払うことも士遠には出来なかった。
「他の者には見せたがらないというのにな」
ポツリと小さく士遠は呟く。
己の呟きにも気付かぬ程深く眠る娘を一人置くことは士遠には出来ない。
何より、彼女がこうして深く眠るのは、どういうわけか昔から自分の前だけに限られていることも士遠はよく知っていた。
「どうしてだろうな」
返事はないとわかっていながら、士遠は独りごちる。
盲いた自分にはわからないが、彼女の寝顔は幼い頃のあどけない少女の面影を残しているのだろう。自分が「見る」ことの出来る、彼女が纏う「波」は今の彼女の状況と同じく静かに揺蕩っている。彼女はそうしていつだって士遠を拒まない。
彼に刀を振り下ろしたあの時もそうだった。
「君といると、許されるような心地になってしまうよ」
「ん……」
士遠の言葉に応えるようにわずかに身動いだ女は、今度こそ士遠の肩に身を委ねる。士遠は彼女の重みを肩で感じつつ、その温もりに目尻を下げた。