しのぶれど
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頼み事というものはあまり無碍にはしたくない。まして密かに恋い慕う男のものであれば尚更。
そんなことを前者だけでも言えば、人にはーー特に期聖あたりからーー「そんなこと言ってたら雪さんその内悪い男に引っかかるんじゃねえの?」なんて冗談半分でどやされる。今自分が慕う相手は悪い男ではないから、その心配も必要はない。
そう、士遠であれば、何だって頼まれれば応えたい。糸の引かれるままに動く絡繰ではなく自分自身の意志で、己を見るよりも他者を見守ってばかりいる男の頼りになれたらと希ってしまう。
けれども、物事には例外というものがある。
「すまないが頼まれてくれないか」
飼い主を見失い途方に暮れた犬みたいな顔をされてしまえば、雪は即座に「否」を唱えたい衝動を堪えざるをえない。
「君があまり乗り気ではないのも分かるが、今は君しか頼れる人がいなくてな……」
密かに慕う男に、言われて無碍に断る選択など出来やしない。
だが。
「ん〜〜雪ちゃん優しくして〜」
「……」
「……」
二人の横で寝転がるしょうもない飲兵衛(と書いて山田浅ェ門十禾と読む)を横目に見て、雪はこれ以上ないほど深くため息をついた。
「これを介抱せよと」
「うん、まあ、そういうことになる」
「俺、雪ちゃんの膝枕で介抱されたいなぁ」
いつもよりも冷ややかな声の雪に、士遠は躊躇いがちに頷いた。酔っ払っている人間の言葉は二人して受け流す。
なんでも士遠曰く、いつものように居酒屋で十禾と酒を飲んでいたら遊郭帰りの棋聖と源嗣に鉢合わせ、子分のような二人の話を聞きながら十禾は機嫌良く酒を呷り。案の定泥酔し山田家へと担ぎ込まれる羽目になった。
「いつもみたく怒りながら見上げられるのも悪くないけど、そんな目で見下されるのもグッとくるね〜」
ふにゃふにゃと酒臭い息でのたまう十禾を雪は一瞥し、ポツリと「そんな目……?」と不思議そうに呟く士遠には茶を注いで差し出した。
「確かに十禾は『目』を疑うようなところもあるにはあるが……」
そこまで邪険にすることもないだろう?と茶を受け取りながら暗にそう伝えようとする士遠に雪は首を横に振った。
「士遠殿は勿論、衛善殿や御当主が認める技量を持っていると分かっています。ですが……」
「?」
「いえ……本人の前では言いたくはないので」
珍しく子供っぽくつんとそっぽを向く雪に、士遠は小さく苦笑して少しぬるくなった茶を啜る。
「自分の気持ちを知っていて、わざと目の前から士遠(あなた)を掻っ攫っていく十禾(このひと)が癪に触る」なんて、二人の前で口が裂けても言えなかった。
そんなことを前者だけでも言えば、人にはーー特に期聖あたりからーー「そんなこと言ってたら雪さんその内悪い男に引っかかるんじゃねえの?」なんて冗談半分でどやされる。今自分が慕う相手は悪い男ではないから、その心配も必要はない。
そう、士遠であれば、何だって頼まれれば応えたい。糸の引かれるままに動く絡繰ではなく自分自身の意志で、己を見るよりも他者を見守ってばかりいる男の頼りになれたらと希ってしまう。
けれども、物事には例外というものがある。
「すまないが頼まれてくれないか」
飼い主を見失い途方に暮れた犬みたいな顔をされてしまえば、雪は即座に「否」を唱えたい衝動を堪えざるをえない。
「君があまり乗り気ではないのも分かるが、今は君しか頼れる人がいなくてな……」
密かに慕う男に、言われて無碍に断る選択など出来やしない。
だが。
「ん〜〜雪ちゃん優しくして〜」
「……」
「……」
二人の横で寝転がるしょうもない飲兵衛(と書いて山田浅ェ門十禾と読む)を横目に見て、雪はこれ以上ないほど深くため息をついた。
「これを介抱せよと」
「うん、まあ、そういうことになる」
「俺、雪ちゃんの膝枕で介抱されたいなぁ」
いつもよりも冷ややかな声の雪に、士遠は躊躇いがちに頷いた。酔っ払っている人間の言葉は二人して受け流す。
なんでも士遠曰く、いつものように居酒屋で十禾と酒を飲んでいたら遊郭帰りの棋聖と源嗣に鉢合わせ、子分のような二人の話を聞きながら十禾は機嫌良く酒を呷り。案の定泥酔し山田家へと担ぎ込まれる羽目になった。
「いつもみたく怒りながら見上げられるのも悪くないけど、そんな目で見下されるのもグッとくるね〜」
ふにゃふにゃと酒臭い息でのたまう十禾を雪は一瞥し、ポツリと「そんな目……?」と不思議そうに呟く士遠には茶を注いで差し出した。
「確かに十禾は『目』を疑うようなところもあるにはあるが……」
そこまで邪険にすることもないだろう?と茶を受け取りながら暗にそう伝えようとする士遠に雪は首を横に振った。
「士遠殿は勿論、衛善殿や御当主が認める技量を持っていると分かっています。ですが……」
「?」
「いえ……本人の前では言いたくはないので」
珍しく子供っぽくつんとそっぽを向く雪に、士遠は小さく苦笑して少しぬるくなった茶を啜る。
「自分の気持ちを知っていて、わざと目の前から士遠(あなた)を掻っ攫っていく十禾(このひと)が癪に触る」なんて、二人の前で口が裂けても言えなかった。