小樽編


明黎side


「杉本が居なくなった?」

コタンに帰って来れば、また新たな問題が起こっていた。アシㇼパによると朝起きた時には既に杉元の姿がなく、一人で勝手に出ていってしまったとの事だ。しばらくの間は何も起きないと思っていたのに一難去ってまた一難とはこの事か。探すのを手伝ってやりたいのは山々だが、私達にもやるべき事がある。桂寿郎はつい先程コタンの男たちと一緒に狩りに出かけてしまった。今日一日は絶対に無理だ。かくいう私も今日の昼間のうちはダメだ。先日拾って来た男の容態が中々回復しないから昼間は付きっきりで見なくてはいけない。

「すまん、アシㇼパ。今、私が担当している患者がな、重篤な状態で手が離せない。だから、杉元の捜索に今は手を貸せない。夜だったらもしかしたら行けるかもしれないから、夜、いつもの町の入口で待っていてくれ」

「わかった。忙しいのにわざわざすまない」

「いいんだ、アシㇼパは遠慮なく言ってくれ。私はアシㇼパの力になりたいんだ」

「……ありがとう…」

少し照れくさそうに言うアシㇼパ。ほんとこういう所がいつもとギャップがあって可愛いな。

「じゃ、また後でな」

「あぁ、行ってくる!」

「いってらっしゃい」

まさか私がこんな言葉を言うだなんてな。いつも見送られる側だったからな。これが見送る側の気持ちか…。

「…何もなければいいんだがな…私も頑張るか」

夜ほとんど寝れていなということで眠気があるから、シャキッとする為にいつもより少し高めに髪を結いあの軍人の看病を行った。



...



日がまたがり丑三つ時を過ぎようとしていた頃。私はやっとアシㇼパと合流することが出来た。桂寿郎は遠くまで仮に出かけたらしく昨日は帰って来なかった。だから、今回は私だけの手伝いになって大変かと思っていたが案外大丈夫そうだった。アシㇼパの横にはレタがいた。アシㇼパによると杉元の片っぽ靴下のおかげで既に居場所はわかるとのこと。流石はホケウカムイだな、きっと私よりも効く鼻なのだろう。これなら私が来なくても大丈夫そうだったなと思ったが物事はそう簡単にはいかなかった。

私はアシㇼパの後をついて行き、一軒の家に着いた。レタがその家に強く反応してアシㇼパにここだと伝えていた。

「この中にいるのか?」

アシㇼパは静かに窓の戸を開ける。

「よしっ、行け」

勢いよくたが、静かに家の中に忍び込むレタ。ほんとよく人の言葉を理解している狼だ。アシㇼパとレタの絆には感服だ。

「うわぁああああぁ!?妖か、いだぁ!!」

ゴドッ!とストゥで思いっきり杉元と思われる奴を殴るが、多分こいつ杉元じゃない。匂いが違う。アシㇼパが灯りをつければそこに居るのはやはり杉元ではなかった。

「あれ?杉元じゃない。お前は確か…脱糞王の…」

脱糞王………え……。

脱 獄 王・ ・ ・の白石由竹だ!」

脱獄王?何処かで聞いたことのある名前だな。

「…あ?何だおめぇこの間のアイヌのガキじゃねぇ、痛たただはぁぁあ!」

「食べちゃダメ。レタが匂いを間違うはずがない。杉元は何処にいる?」

「いるわけねぇだろ!?俺一人だ!」

「おかしい…杉元の靴下の匂いを追ってきたのに。なんで白石の所なんかに…」

語尾を少し強めに言うアシㇼパ。苛立ちが見て取れるな。

「靴下?まさかあの時…間違えねぇ、あの時取り違えたんだ」

白石がそう言えば、アシㇼパはすごい顔をして気持ち悪いと言った。まぁ、確かに気持ち悪い。洗った靴下ならまだしも…洗っていないとなるちょっと、いや無理だな。

「何だお前、さては杉元に裏切られたな?刺青の皮を持ち逃げされたんだろ?」

入れ墨?なんの事だ?私はその事が頭に引っかかったが聞けるはずもなく話は進んでいく。

「成程、合点がいったぜ。やはりあの噂は杉本だったのか」

「あの噂?なんの事だ?」

「昨日、顔に大きな傷跡のある男が大暴れの末、第七師団の根城に連れ去られたって」

「ッ!」

「今頃とっくに殺されているだろうな、あ!?」

白石に向かって毒矢を構えるアシㇼパ。

「そこへ案内しろ。この弓矢は羆なら10歩だが…お前は一歩も動けずに死ぬ!」

「アシㇼパの言う通りだ。命惜しければ言う通りにしろ。」

「な!?」

白石に急に私の方をガン見してきた。な、なんだ?ガン見してきたかと思えば、ちょっと気持ち悪い動きをしながら私の方に来た。

「白石由竹です!独身で彼女は居ません!付き合ったら一途で情熱的です!」

とちょっと声色を変えて私に自己紹介をする。急な手の平返しに処理追い付けず、おどおどしながら自己紹介をした。

「れ、煉獄明黎だ」

「あぁ、名前も声も美しい…俺、こんな美人を見るの初めてです!」

「そ、そうか」

今まで会って来た奴の中で特殊な自己紹介で困っている私にアシㇼパが助け舟を出してくれた。

「明黎が困っているだろ!やめろ!それよりも今は杉元の救出が第一だ!」

そう言ってもう一度毒矢を向ける。流石の白石も嫌なのか、諦めたようにため息を吐き、顔洗って来るから待ってろと私たちに言う。だが、その後すぐに外から走る音が聞こえる。レタも気づいたのか外に顔を向ける。

「あいつ、逃げたぞ」

「え?…あ、逃げた」

戸から外を見れば白石が走っている姿が見えた。手際のよさ、やはり脱獄囚だな。

「アシㇼパ。私はあいつの跡を追いかけてみたくなった。アシㇼパはレタについていけ」

「わかった!」

そう言って二手に分かれる。私は手加減をしながら白石のあとを追いかける。人間にしては中々やるな。このように身軽なら脱獄もできるだろうな。脱獄王と言われるだけはあるな。だが、あの追跡者には勝てないな。

白石は雪の中から出た瞬間レタに頭を噛まれた。若干血も出てるから恐らくさっきよりは強く噛んでいる。

「レタは一晩中でも走り続けられる。たとえ便所の下に隠れようとも見つけ出す。何度でも逃げてみろ、脱獄王。ホケウカムイの追跡からは逃れられないぞ。勿論、明黎の追跡からもだ」

そう言って、私の方にも顔を向けるアシㇼパ。それを追うように白石も私の方を見る。

「明黎ちゃんだったら、俺、大歓迎☆」

「レタ

ガブッ!

「痛たただはぁぁあ!?」

白石の懲りない様には苦笑いしかできなかった。そうして私たち三人と一匹は第七師団の根城へと向かった。


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