尾形×人外の物語


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【1900年 1月】


寒さの厳しい夜だった。

私は冷たい檻の中にいた。寒さは私の小さな体を容赦なく突き刺し、命を奪わんとしていた。

微かに残る意識の中で私はどうしてこうなったのかを考えた。


―遡ること2ヶ月前。

突然だが、私は転生者だ。かつて令和という時代で高校生として生きていた。死んだ理由は覚えていないがきっと交通事故にでも巻き込まれてしまったのだろう。覚えてないけど。

死んだ私はきっと生きている頃の記憶を忘れてまた新しい生を受けるか、それとも死んでそれまでかの二つしかないはずだった。

だが、私はかつての記憶を持ったまま新しい生を受けた。つまり、転生したってこと。

生まれて数週間後、私はそこで初めて自分が人間じゃないことがわかった。山の中で見つけた私を他の人たちが化け物を見るかのような目で見つめてきたからだ。

だがどうしたわけか、私は殺されることはなく生け捕りにされた。私を入れた檻は人の目につきやすいような所に置かれ、道行く人達に厭うような目や態度に蔑まれるという事がどういうことなのかを理解した。

それから私は今日までこの檻の中で過ごした。あれから数ヶ月経っているから少し檻が小さくなってきていた。

(寒いな…こたつに入りたい…)

人間だった頃が懐かしい。寒ければストーブをつけたり、こたつに入ったりといくらでも温める方法があった。望めばいくらでも手に入った。かつての私にとって当たり前のものがこんなににも尊い物だったなんて知らなかった。

(私、前世で悪い事でもしたのかな…?それともただこれが運命だったのかな…)

ボッーとする頭で考えるが何もまとまらない。あぁ、なんかどうでも良くなってきた。さっさとこんな人生終わらせたい…一度あったんだからもう一度あるんでしょ?また、転生できるんでしょ?

それなら…。こんなに辛い思いするんだったら、死んだ方が楽だ…。何とか引き止めていた意識を手放そうとしたその時。

「おい」

声をかけられた。驚いた私はゆくっりと顔を上げる。そこに居たのは片手に銃を持った男だった。ここら辺では見かけない服を着ていた。

「寒そうだな…これを使え」

そう言って檻の隙間から布のようなものを入れてきた。男は指先しか入らない檻に苦労しながら私が寝ているところに布を敷いた。

(どうして…?…なんで?)

さっきからボッーとしている私の頭では答えは分からず、疑問ばかりが浮き上がる。その時私は何を考えていたかは忘れたけど何をしたのかは覚えてる。

きっと男の顔を見たかったんだと思う。格子に近づき顔を見上げる。男は帽子をかぶっていて、目は大きな黒目が特徴的で、顎の髭もこの辺りでは見ない形だった。男は私に手を伸ばし頭を優しく撫でた。

(…あたたかい…)

人間の手ってこんなに暖かかったんだ…。なぜだか私は涙が出そうになった。

男は表情にあまり変化は見られなかったが、それでも微笑んでいるのがわかった。

「少し、待ってろ」

男はそう言って私の前から立ち去って行った。まだ、あの男の温かさが頭に残っている。体だけではなく、心までも温めてくれる優しい温かさだった。

(また、会えるかな…)

それを胸にいつもよりも温かい檻で久しぶりの安らぎを手に入れた。

そして次の日、あの男がもう一度私のところに訪れ、檻の鍵を開け私を抱き上げて言った。

「俺と一緒に、来い」


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