To the outside of the Jail-檻の外へ-


【ブラックアウトside】


 俺は、一週間前にある有機生物体を拾った。
 こいつ…ラナウェイと名付けたこの動物にスキャンをかけなくとも怪我をして弱っているのは一目瞭然だった。ラナウェイの体には無数の傷があったが大して酷いものではなかったが、目尻にある傷だけは違った。そこは銃弾が掠ったのか、他の傷に比べて傷が深く出血も酷かった。
 俺はラナウェイの治療の仕方を知らない。仕方なく大昔に搭載したヒューマンモードで、町でこいつ専門の建物…動物病院という所に連れて行ってやった。そこに勤めていた虫けらが大慌てでこいつの治療を始めた。外で待っていてくださいと虫けらに言われて、仕方なく待ってやった。
 手術が始まってからおよそ4時間が経った。治療が終えたラナウェイはそのままケージの中に収納されていた。俺は暫くの間ラナウェイの所にいた。ラナウェイの目には、白い布…包帯と言われると物が巻かれていた。

「あと少しで多量出血で死ぬところでした…とても危ない状況でしたが、一命を取り留めることが出来ました…それで、あの子はあなたの子ですか?」

「いや、ちょうど通りかかった時にこいつを見つけた。そのままなのも目覚めが悪かったから連れてきた」

…ん?ちょっと待て。俺は今なんて言った?目覚めが悪いから、だと。
俺は自分の口にした言葉に驚いていた。いままでの俺ならそんなこと思わはかっただろう。なんで俺はこんなことを口にしたんだ?顔には出さなかったが、内心戸惑いを隠しきれなかった。

「そうですか、後少し見つかるのが遅かったら助かっていなかったでしょう。ありがとうございます」

"ありがとね、ブラックアウト"

俺は目を見張った。少しからず俺は驚いた。何千年ぶりだろうか、ありがとう、だなんて他の奴に言われるのは。サイバトロンにいた時は、そんなことを言える者なんてごくごくわずかだった。そもそもディセプティコンに感謝を言う奴なんていなかった。それを思うとつくづく碌でもない所に俺はいたのだと思う。
 少しの間をおいて獣医は俺にある提案をしてきた。

「この子をこちらで預かることもできますがどうしますか?」

今度のこいつのことだ。俺は間髪入れず二言で返事をした。

「いや、俺が面倒が見る。」

 俺の話はこの際どうでもいい、今はラナウェイのことだけを考えよう。その後、獣医と呼ばれる者からは、3日後ここにもう一度来てくださいと言われた。ラナウェイを飼うと決めた以上責任を取らなくてはならない。俺は仕方なく今日は帰り、3日後ラナウェイを見に行った。
 3日後、あいつの所に行くと酷い騒ぎようでケージを脱走しようとしていた。自慢の長く鋭い歯を使ってケージを壊そうとしていた。ラナウェイは俺を見た瞬間、檻を噛むのを止め俺に威嚇してきた。虫けら共は危ないので手を出さないでくださいと言っていたが俺はそんなのを無視してラナウェイのケージの鍵を外してに手を出した。それを見たラナウェイは一度檻の奥のほうへ行ったが勢いよく俺の方に飛びかかりその鋭い牙を俺に向けた。俺はラナウェイに腕を噛ませた。腕からは思った以上に血が流れ出ていた。後ろの方から悲鳴が聞こえたが俺は気にせずラナウェイを見続けた。噛み続けていても威嚇を止めようとしないラナウェイにやさしく言い聞かせるように声をかける。

「大丈夫だ、ここにお前を傷つけるものは何もない」

そう言えば、若干唸り声は小さくなったがそれでもまだ警戒しているようだった。

「ラナウェイ、大丈夫だ」

優しく声をかけ頭を数回撫でれば、唸り声は鳴りを潜め静かに俺を方を見ていた。空いている手でラナウェイの体を支えれば腕に刺していた牙を抜いた。久しぶりこの体で感じた痛みと体から流れ出る血にこの星に帰ってきたことをより実感させた。
 俺の腕の中で落ち着いたラナウェイはスヤスヤと寝息を立て始めた。よっぽど体にも精神的にも来ていたようだ。もう一度優しく頭を撫でれば俺の体の方にすり寄ってきた。…思ったより、かわいい。

「すごい…あんなに暴れていたのに落ち着かせちゃうなんて…ってそうじゃない!ブラックさん止血しないと、処置するのでこっちに来てください」

獣医にそう言われ奥の方から一人の女がやってきた。俺は大人しく腕の治療をされる。こうやって治療されるのはいつぶりだろうか。どこを怪我をしてもいつも自己修復機能に任せてしまっていた。

"元の身体ならこんなことで怪我をしないと思うけど、私たちの身体って結構傷つきやすいの"

あぁ、あの時もこうやって…。

「終わりましたよ」

思いにふけっていた俺はそれに少し驚いたが表には出さないようにもう誰にも言うことはないと思っていた感謝の言葉を口にした。

「すまない、助かった」

「いいえ、当然のことです」

 手当てをした女は嬉しそうに笑って言い、包帯とかを片付けに行った。入れ違いにラナウェイを治療した獣医が部屋に入ってきてラナウェイの退院の手続きや今後の手当ての仕方を聞いた。手当ての方は案外簡単で、水分補給をさせることとしっかり食事を取らせることと言われた。確かにラナウェイは、痩せ細っていて子供にしては小さ過ぎた。
 獣医に言われた通り1週間それを続けた。そしたら、今までの事が嘘に思えるくらい元気になってあちこち歩き回っていた。正直元気になり過ぎて道路に飛び出したときは肝が冷えた。それ以外にも列車に轢かれそうになったり、自動車を追いかけ回したりと動くもの全てに興味を持っていた。好奇心旺盛なのはいいことだが限度ということを知って欲しい。そうしないと俺の身がもたない。
 だが、こいつといて感じたことがあった。昔も同じ感覚に陥ったことがあった。それは、“楽しい”という事。何千年も経った今でもこんなことを感じられるなんてな…“アイツ”といた時と同じだ。でももう“アイツ”はどこにも居ない。そんなの分かっているだけど諦められない自分がいるのがわかっていた。

「どうやったら“アイツ”を諦められるのだろうな」

そんな問いをラナウェイに言い頭をひと撫でした。ラナウェイは嬉しそうに目を細めてナーと鳴いた。そんなラナウェイに俺は微笑みラナウェイと共に星を眺めた。



-Distant memory-

(この星には)

(お前との記憶が多すぎる)


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