光を抱く者
019 - 破滅の未来
姉妹が座るテーブルから最も遠い位置。だが視線を僅かに滑らせれば二人の様子を常に確認できるカウンター席に、アブサンは腰を下ろした。革張りの椅子が軋み、長身の影を受け止める。
アブサンはカウンターに置かれた組織端末を引き寄せた。
画面を立ち上げると、自動的に幹部たちの任務予定が整然と並びはじめる。無機質な光に目を細めながら、指先が静かに滑り、諸星大――ライの予定を順番に確認していく。
宮野明美の言葉を踏まえれば、情報漏洩の件はライの仕業と見て差し支えなかった。わざわざ気取られる危険を冒してまで外部と連絡を取る必要性――そこには明確な意図がある。無駄な行動を取る男ではないことは、部下として扱った経験からも理解していた。
つまり、連絡した先にいるのは“必要な相手”。
仲間か――あるいは上部の組織。
通信に使われていた暗号方式は、組織独自のものとは異質な痕跡を残していた。情報の断片を繋ぎ合わせる限り、CIAかFBI――ライはいずれかの諜報機関に属していると見て間違いない。
諜報機関が狙うのは、常に内部情報。
標的にされるのは、露見すれば不利益になる情報を握り、そして失えば痛手となる幹部級の構成員。
だが、いくら諜報機関と言えど無謀ではない。
複数の幹部を同時に捕縛しようとすれば、どんなに計策し尽くされた作戦だろうと綻びは生じる。現実的に狙うとすれば、二人一組で行動する幹部任務――所謂ツーマンセルだった。
アブサンの灰緑の瞳が、予定表の中を淡々と追っていく。
目線の先を次々と撫でるのは、何気ない任務、定例の取引、護送や監視――どれもこれも凡庸な記録に見えた。だが、一つの予定に視線が止まった瞬間、呼吸が僅かに硬くなった。
---
任務概要:取引相手の抹殺と情報奪取
実行者 :ジン、ライ
---
画面に表示されていたのは、翌日の任務だった。
そこに刻まれた名を見て、アブサンの口元が僅かに歪んだ。キーボードを触る手が止まり、黒手袋で覆われた指先が無意識に口元を覆う。奥歯が軋む音が、己にだけ届いた。
アブサンは舌打ちを洩らし、携帯を親指で弾いた。
無骨な機械音が短い呼び出しを刻み、数秒の間を置いて低い声が耳へ叩きつけられる。
《……俺だ。何の用だ、アブサン》
ジンの鋭い声音。
携帯を耳と肩で挟みながら、アブサンの指は組織端末の上で滑っていた。黒い画面に白文字が流れ、冷徹な光の羅列が幾重にも並んでいく。
「会議で上がっていた件だが、調べがついた」
淡々と告げる声に、ジンは短く息を吐いた。
僅かに感嘆を帯びた響きが返る。
「まだ確証には至らんが……明日のお前の任務、奴には伝えず延期しろ。現地での裏取りは俺がする」
《裏取りなんざする必要はねぇ……》
即答だった。
電話越しに紙を擦る音、そして深く煙草を吸い込む気配。次いで低く乾いた笑いが混じる。
《今から俺とお前で殺しに向かえば、それで済む話だろうが》
キーボードを叩く軽い音が響く。
アブサンは冷ややかに鼻を鳴らした。
「確証のない殺しは好かん……やるなら、お前一人でやれ」
電話の向こうが静まった。数秒の沈黙。やがて肺から吐き出される煙の音が、マイク越しに届く。
《……まあいい。裏取りが済んだら、俺に報告を入れろ。ねぇとは思うが……何かあれば回収に向かう》
鋭い声はそこで途切れ、通話は無造作に切断された。アブサンは掌の中で熱を帯びた携帯を下ろし、深く吐息を洩らす。ジンを即時の行動から押し留められたのは、僥倖に等しかった。
携帯を一度カウンターに置き、端末に視線を戻す。
白文字が走るログを遡り、ヘッダー情報から拾い上げたIPアドレスとライの端末情報を突き合わせるが、一致しない。入念に偽装が施されている。やはり机上の演算では断定に至らず、現地での裏取りが必要だと、アブサンは低く吐息を落とした。
再び携帯を手に取り、呼び出し音を響かせる。
今度は一度のコールで応答があった。
《ジンの次は私に掛けてくるなんて……忙しいわね、アブサン》
その甘美な声はベルモットだった。
微笑みすら透けて響く声色に、アブサンは短く苦笑を浮かべた。声の向こうには、同じ場にジンがいる気配が仄かに滲む。
「ああ、なら聞いていると思うが……」
言葉を切り、胸ポケットからソフト煙草を取り出した。
一本を口に咥え、火を灯す。煙を深く吸い込み、吐息に混ぜて紫煙を天井へ押し上げた。
「明日の裏取りで顔を変える必要があってな……出来れば無害そうな人間に扮したいのだが……」
《それは構わないけど……貴方、どうするつもり?》
ベルモットの声に小さな溜め息が混じる。アブサンは窓の外へ視線を滑らせ、灰皿を手元に寄せた。灰を静かに落とす。
「直接確認を入れる。奴が黒なら、お仲間が近くに潜んでいるだろうからな……その中には、所属を口走る奴もいるだろう」
《ボスも一目置いてる男よ……単身は危険すぎるんじゃない?》
ベルモットの声が僅かに翳る。
アブサンは指先で煙草を回しながら、冷ややかに返した。
「問題はない。明日はあくまで裏取り――」
一度言葉を切り、低く吐息を零す。
「無理に処理するつもりもない。事を荒立てても……組織の存在が世間に露呈するだけだからな……」
視線を上げると、紫煙が天井に溶けていった。
《……そう、なら良いけど。くれぐれも無理は禁物よ……昔から貴方はそうやって……いえ、何でもないわ》
ベルモットの声音には、珍しく翳りを帯びた気配が宿っていた。
何かを言いかけて、横からの制止に言葉を呑み込んだ声。その一瞬に潜んだ情を、アブサンは確かに感じ取った。
片眉を僅かに上げる。
ジンもベルモットも、それぞれ異なる形で彼を案じるような仕草を見せる。だが、理由を探ろうとする素振りは見せなかった。
「肝に銘じる。では明日、よろしく頼む」
淡々と返答し、通話を切断する。
残されたのは、静かな紫煙と冷たい端末の光だけだった。
胸ポケットに携帯を戻すと、アブサンは端末の画面をじっと見据えた。画面上の予定表はただ冷たい事実を列挙するのみだが、その一行は、やがて連鎖する破滅の始まりを告げていた。
ライを処理する選択肢は、アブサンの中にはない。
それは情か、あるいは甘さ故か。どちらにせよ、スコッチと同様一度気を許した相手を手に掛ける気にはなれなかった。ましてや、闇に身を投じる人間ではなく“光を歩む者”なら尚更だった。
仮にライが黒で、引き連れた仲間が少数だとしても、アブサンは己を犠牲にしてでも“逃がす道”を作る覚悟がある。それがどう転ぼうとも、考えを変える気など毛頭なかった。
だが、それよりも厄介なのは、宮野明美の存在だった。
ライが諜報機関に所属する諜報員なら、ライを組織に引き入れた宮野明美は危険分子と見做される。組織がその事実を知れば、彼女は確実に処理対象となる。それは言うまでもない。
ライを処理すれば宮野明美は壊れる。
宮野明美を処理すれば、シェリーも壊れる。
誰も処理しなければ、己が無数の疑念に晒される。
救い出したところで、その真実を告げることはできない。
アブサンは視線を僅かに移し、遠くの二人を見据えた。
立ち上る紫煙の隙間から、姉妹の純粋な笑顔が零れ落ちる。その笑顔を絶望の色に塗り替える未来に、ただ悲嘆した。
アブサンは疑心を怠っていた。
実働部隊ではない、幼少期から組織に属する幹部であり、ある種組織に縛られている身の上。多少気を許したところで実害もなく、その無垢な信頼を裏切ることにはならない――そう考えていた。
幻想を抱かせることは容易い。だが、それが後に破滅に繋がると知りながら手を差し伸べる自分の行為こそ、最も救いのない裏切りと言える。その事実に、アブサンは吐き気に似た嫌悪を覚えた。
正解など、誰も教えてはくれない。
人に心を預けることさえ、この身には罪となる。許されぬ安堵に縋った先にあるのは、必ず裏切りと喪失だけ――その繰り返しに、吐き気がするほどの虚無を思い知らされる。
アブサンは片手で顔を覆い、奥歯を噛み締めた。気を落ち着かせるように、ただ静かに目を伏せる。外の光が店内の空気を透かし、灰色の調光グラスが薄く濁りを帯びていく。
「……アブサン? 具合悪そうだけど……大丈夫?」
シェリーの声が、不意に耳へ落ちた。
何気ない一言――だが、その純粋な気遣いと確かな温度が、抑え込んでいた痛みを淡く突き破っていく。
胸を抉るほどに、シェリーの言葉は温かかった。だが、その温もりを取ることは、もう出来ない。掴めば崩れ、寄り掛かれば壊す。己に許された道は、ただ孤独の中で歩を進めることだけだった。
「……シェリー、仕事中だ……姉のところに戻れ」
今のアブサンには、これが精一杯の拒絶だった。
声はそれだけで途切れ、沈黙が二人の間に落ちる。
紫煙が細く立ち上り、やがて空調に呑まれて消えていく。
残されたのは、カップの中で微かに揺れる液面と、時計の針が刻む乾いた音だけだった。
姉妹が座るテーブルから最も遠い位置。だが視線を僅かに滑らせれば二人の様子を常に確認できるカウンター席に、アブサンは腰を下ろした。革張りの椅子が軋み、長身の影を受け止める。
アブサンはカウンターに置かれた組織端末を引き寄せた。
画面を立ち上げると、自動的に幹部たちの任務予定が整然と並びはじめる。無機質な光に目を細めながら、指先が静かに滑り、諸星大――ライの予定を順番に確認していく。
宮野明美の言葉を踏まえれば、情報漏洩の件はライの仕業と見て差し支えなかった。わざわざ気取られる危険を冒してまで外部と連絡を取る必要性――そこには明確な意図がある。無駄な行動を取る男ではないことは、部下として扱った経験からも理解していた。
つまり、連絡した先にいるのは“必要な相手”。
仲間か――あるいは上部の組織。
通信に使われていた暗号方式は、組織独自のものとは異質な痕跡を残していた。情報の断片を繋ぎ合わせる限り、CIAかFBI――ライはいずれかの諜報機関に属していると見て間違いない。
諜報機関が狙うのは、常に内部情報。
標的にされるのは、露見すれば不利益になる情報を握り、そして失えば痛手となる幹部級の構成員。
だが、いくら諜報機関と言えど無謀ではない。
複数の幹部を同時に捕縛しようとすれば、どんなに計策し尽くされた作戦だろうと綻びは生じる。現実的に狙うとすれば、二人一組で行動する幹部任務――所謂ツーマンセルだった。
アブサンの灰緑の瞳が、予定表の中を淡々と追っていく。
目線の先を次々と撫でるのは、何気ない任務、定例の取引、護送や監視――どれもこれも凡庸な記録に見えた。だが、一つの予定に視線が止まった瞬間、呼吸が僅かに硬くなった。
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任務概要:取引相手の抹殺と情報奪取
実行者 :ジン、ライ
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画面に表示されていたのは、翌日の任務だった。
そこに刻まれた名を見て、アブサンの口元が僅かに歪んだ。キーボードを触る手が止まり、黒手袋で覆われた指先が無意識に口元を覆う。奥歯が軋む音が、己にだけ届いた。
アブサンは舌打ちを洩らし、携帯を親指で弾いた。
無骨な機械音が短い呼び出しを刻み、数秒の間を置いて低い声が耳へ叩きつけられる。
《……俺だ。何の用だ、アブサン》
ジンの鋭い声音。
携帯を耳と肩で挟みながら、アブサンの指は組織端末の上で滑っていた。黒い画面に白文字が流れ、冷徹な光の羅列が幾重にも並んでいく。
「会議で上がっていた件だが、調べがついた」
淡々と告げる声に、ジンは短く息を吐いた。
僅かに感嘆を帯びた響きが返る。
「まだ確証には至らんが……明日のお前の任務、奴には伝えず延期しろ。現地での裏取りは俺がする」
《裏取りなんざする必要はねぇ……》
即答だった。
電話越しに紙を擦る音、そして深く煙草を吸い込む気配。次いで低く乾いた笑いが混じる。
《今から俺とお前で殺しに向かえば、それで済む話だろうが》
キーボードを叩く軽い音が響く。
アブサンは冷ややかに鼻を鳴らした。
「確証のない殺しは好かん……やるなら、お前一人でやれ」
電話の向こうが静まった。数秒の沈黙。やがて肺から吐き出される煙の音が、マイク越しに届く。
《……まあいい。裏取りが済んだら、俺に報告を入れろ。ねぇとは思うが……何かあれば回収に向かう》
鋭い声はそこで途切れ、通話は無造作に切断された。アブサンは掌の中で熱を帯びた携帯を下ろし、深く吐息を洩らす。ジンを即時の行動から押し留められたのは、僥倖に等しかった。
携帯を一度カウンターに置き、端末に視線を戻す。
白文字が走るログを遡り、ヘッダー情報から拾い上げたIPアドレスとライの端末情報を突き合わせるが、一致しない。入念に偽装が施されている。やはり机上の演算では断定に至らず、現地での裏取りが必要だと、アブサンは低く吐息を落とした。
再び携帯を手に取り、呼び出し音を響かせる。
今度は一度のコールで応答があった。
《ジンの次は私に掛けてくるなんて……忙しいわね、アブサン》
その甘美な声はベルモットだった。
微笑みすら透けて響く声色に、アブサンは短く苦笑を浮かべた。声の向こうには、同じ場にジンがいる気配が仄かに滲む。
「ああ、なら聞いていると思うが……」
言葉を切り、胸ポケットからソフト煙草を取り出した。
一本を口に咥え、火を灯す。煙を深く吸い込み、吐息に混ぜて紫煙を天井へ押し上げた。
「明日の裏取りで顔を変える必要があってな……出来れば無害そうな人間に扮したいのだが……」
《それは構わないけど……貴方、どうするつもり?》
ベルモットの声に小さな溜め息が混じる。アブサンは窓の外へ視線を滑らせ、灰皿を手元に寄せた。灰を静かに落とす。
「直接確認を入れる。奴が黒なら、お仲間が近くに潜んでいるだろうからな……その中には、所属を口走る奴もいるだろう」
《ボスも一目置いてる男よ……単身は危険すぎるんじゃない?》
ベルモットの声が僅かに翳る。
アブサンは指先で煙草を回しながら、冷ややかに返した。
「問題はない。明日はあくまで裏取り――」
一度言葉を切り、低く吐息を零す。
「無理に処理するつもりもない。事を荒立てても……組織の存在が世間に露呈するだけだからな……」
視線を上げると、紫煙が天井に溶けていった。
《……そう、なら良いけど。くれぐれも無理は禁物よ……昔から貴方はそうやって……いえ、何でもないわ》
ベルモットの声音には、珍しく翳りを帯びた気配が宿っていた。
何かを言いかけて、横からの制止に言葉を呑み込んだ声。その一瞬に潜んだ情を、アブサンは確かに感じ取った。
片眉を僅かに上げる。
ジンもベルモットも、それぞれ異なる形で彼を案じるような仕草を見せる。だが、理由を探ろうとする素振りは見せなかった。
「肝に銘じる。では明日、よろしく頼む」
淡々と返答し、通話を切断する。
残されたのは、静かな紫煙と冷たい端末の光だけだった。
胸ポケットに携帯を戻すと、アブサンは端末の画面をじっと見据えた。画面上の予定表はただ冷たい事実を列挙するのみだが、その一行は、やがて連鎖する破滅の始まりを告げていた。
ライを処理する選択肢は、アブサンの中にはない。
それは情か、あるいは甘さ故か。どちらにせよ、スコッチと同様一度気を許した相手を手に掛ける気にはなれなかった。ましてや、闇に身を投じる人間ではなく“光を歩む者”なら尚更だった。
仮にライが黒で、引き連れた仲間が少数だとしても、アブサンは己を犠牲にしてでも“逃がす道”を作る覚悟がある。それがどう転ぼうとも、考えを変える気など毛頭なかった。
だが、それよりも厄介なのは、宮野明美の存在だった。
ライが諜報機関に所属する諜報員なら、ライを組織に引き入れた宮野明美は危険分子と見做される。組織がその事実を知れば、彼女は確実に処理対象となる。それは言うまでもない。
ライを処理すれば宮野明美は壊れる。
宮野明美を処理すれば、シェリーも壊れる。
誰も処理しなければ、己が無数の疑念に晒される。
救い出したところで、その真実を告げることはできない。
アブサンは視線を僅かに移し、遠くの二人を見据えた。
立ち上る紫煙の隙間から、姉妹の純粋な笑顔が零れ落ちる。その笑顔を絶望の色に塗り替える未来に、ただ悲嘆した。
アブサンは疑心を怠っていた。
実働部隊ではない、幼少期から組織に属する幹部であり、ある種組織に縛られている身の上。多少気を許したところで実害もなく、その無垢な信頼を裏切ることにはならない――そう考えていた。
幻想を抱かせることは容易い。だが、それが後に破滅に繋がると知りながら手を差し伸べる自分の行為こそ、最も救いのない裏切りと言える。その事実に、アブサンは吐き気に似た嫌悪を覚えた。
正解など、誰も教えてはくれない。
人に心を預けることさえ、この身には罪となる。許されぬ安堵に縋った先にあるのは、必ず裏切りと喪失だけ――その繰り返しに、吐き気がするほどの虚無を思い知らされる。
アブサンは片手で顔を覆い、奥歯を噛み締めた。気を落ち着かせるように、ただ静かに目を伏せる。外の光が店内の空気を透かし、灰色の調光グラスが薄く濁りを帯びていく。
「……アブサン? 具合悪そうだけど……大丈夫?」
シェリーの声が、不意に耳へ落ちた。
何気ない一言――だが、その純粋な気遣いと確かな温度が、抑え込んでいた痛みを淡く突き破っていく。
胸を抉るほどに、シェリーの言葉は温かかった。だが、その温もりを取ることは、もう出来ない。掴めば崩れ、寄り掛かれば壊す。己に許された道は、ただ孤独の中で歩を進めることだけだった。
「……シェリー、仕事中だ……姉のところに戻れ」
今のアブサンには、これが精一杯の拒絶だった。
声はそれだけで途切れ、沈黙が二人の間に落ちる。
紫煙が細く立ち上り、やがて空調に呑まれて消えていく。
残されたのは、カップの中で微かに揺れる液面と、時計の針が刻む乾いた音だけだった。