ヒプマイ短編
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くゆる煙草。予想紙の擦れる音。
溶ける煙
最初の頃、家にいたくないのだと言った。帝統はふうん、と呟いたきり、何も聞いてこなかった。
触れられたくねえもんは誰にでも一つや二つあらあな。いつかそんなことを言っていた気がする。
帝統の傍は居心地が良かった。
「帝統、ギャンブルしよう」
「いいけど、お前何ができんの」
「何も知らないから教えて」
「あのな……」
呆れたように言って、名前にはこれがせいぜいだと、帝統は賽を取り出した。サイコロ。卓上遊戯や賭博に用いるもの。乱数を発生させるために使うもの。
「このサイコロって結構いいやつ?」
「安物は五の面が上になりやすいからな」
市販のサイコロは、彫った穴の面積による重心の偏りを避ける工夫がなされていないものが多い。帝統は賽の目には神が宿ると信じている。大事なことを決める時には賽で判断する。持ったものはあればあるだけギャンブルに使ってしまう男でも、自分の運命を託す道具には拘るのだと、賽の目に宿る神を信じる彼らしさを感じた。
軽く放り投げて弄びながら、で、何を賭ける、と帝統が聞く。
「賽の目が偶数ならキスして」
視線が重なる。帝統は私を見つめる。少しの間の後、表情を崩さず、深く吸った煙を吐き出す。そして、賽を振る。
(連れていって)
目が出るまでの一瞬が永遠に感じられた。
(連れていって)
サイコロが静止する。
「奇数だな。俺の勝ちだ」
帝統が言った。私は賽の神から寵愛を受けることはできなかった。そうか。負けてしまった。ぼうっとサイコロを見下ろす私を尻目に、帝統はよっこらと立ち上がり、私の傍に座った。
唇が軽く触れる。
「俺が勝ったから奪った」
こんなにお互いの匂いが混ざるような距離にいるのに、寂しくて仕方なかった。私にはある直感のようなものがあった。
帝統はいつか私を置いていくだろう。何も言わずにいなくなる。愛も優しさも本当なのだろう。それでも去っていく。そういう男だ。
この瞬間もいつか煙のように夢に溶けていく。六回に一回でもいいから思い出して欲しい。賽の目に呪いをかけることしかできない自分に笑い、私は目を閉じた。
2018/12/06
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