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【刀非夢】同位体が怖い話~和泉守兼定の話~

2024/12/14 00:00
刀剣乱舞・非夢
とある和泉守兼定の話

 髪の短いオレをたまに見かけたんだ。どっちかといえば、人出の多い場所だったと思う。混んでる時の演練場とか、万屋とかな。見かけるだけで、話したことは一度もない。ただ、髪が短いから目につく──そんな感じだった。
 珍しいとは思ったが、髪型を変える刀剣男士がいないわけじゃない。切ってるのはほとんど見ねーが。でもオレや加州清光や歌仙兼定や乱藤四郎なんか、個体ごとにこだわりの装飾品をつけていたりするだろ。髪を切ってるのもあのオレなりのこだわりが何かあるのかと思って、深くは考えなかった。
 でもある日、ふと気がついた。国広と万屋に行った時だった。
「国広の髪型と同じだ」
「何が?」
「ほら、あそこの──」
 いまいま見た髪の短いオレを示そうとしたら、そいつはいなくなっていた。ほんの数秒の間に、まるで消えたみたいに。
「……さっき、髪の短いオレを見たんだが」
「本当? 見たかったなあ、兼さんきっとショートヘアも似合うよ!」
 国広はあのオレに気づいていなかった。時折、別の本丸のオレの髪型や装飾品を見ては「兼さんにも似合いそう」なんて言ったりするのに。そういえば、今までにも国広と一緒の時にあのオレを見たこともあったのに、一度も話題にしたことがなかったとその時に気がついた。
「前にも見かけなかったか?」
「髪の短い兼さん? 僕は見たことないなあ」
「まあ、またそのうち見かけるだろ」
 そう思ったが、その日以来一度も見かけなくなっちまった。それまでは何度も見たのに。
 オレがあの髪型が国広と同じだと気づいてしまったから──と、何故だか思った。
 そんなわけがない。ただ行き合わなくなっただけだ。それか、あいつはもうあの髪型に飽きて髪を伸ばしたから存在に気づかないだけで最近にだってどこかですれ違ってるかもしれない。
 そう考えるのが普通だ。
 なのに、本当に存在したのか、幻覚だったんじゃないか、と考えちまう。幻覚だとしたら、オレには国広と同じ髪型にしたいなんていう願望が実はあるのかね。考えたこともなかったが。
 本当に存在していたなら。
 どうして国広と同じ髪型なんだろうか。「お揃い」なんて可愛い理由ではない気がした。あいつが一人なのか誰かといたのか気に留めたこともなかったが、少なくともその隣に国広はいなかった──そんな気がするんだ。

2023/09/03 書き上げ
2024/12/14 公開

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