pixiv未掲載小説

【GX】未完/万十/記憶喪失没案〔前編〕

2026/06/28 21:50
GX未完本棚未掲載
【番外if】万丈目が記憶喪失になった話の没案です。最初は記憶喪失をきっかけにいろいろ素直に話す十代もいいかなと書いたのですが、たぶん十代は一生言わないんだろうな……と思ってやめました。一万字以上書いたので、もったいないなあと思い、ここに公開します。

公開済小説の「万丈目が記憶をなくしてもう一ヶ月経つ。」のあたりから別ルートに入ってる感じです。

◇本編ここから◇

 ひょっとしてこいつは浮気してたんじゃないのか?
 そんな疑念を自分自身に対して持っていた。
 毎晩のように見る、茶色の髪に、茶色の瞳の少年と同じベッドに寝ている夢──その少年は同級生だった遊城十代と思われる。翔からは遊城十代と特別な関係だったわけではないと聞いたが、学生時代はともかく卒業後に付き合っていたのではないかと思っている。夢の姿が少年のままなのは、今のオレが卒業アルバムや過去の映像で見た少年時代の彼しか知らないからだろう。
 夢の中でオレは、遊城十代と楽しそうに話していることもあれば、何か深刻な顔をした遊城十代を見つめているときもあった。会話の内容はいつもよくわからなかった。しかし、至近距離で見つめるそのキャラメルみたいな色の目を、自分がとても愛しく思っているのははっきりわかった。
 まあ──そこまでなら過去の記憶を思い出しているだけだ。現在の配偶者であるジェイデンには申し訳ないが、浮気とまではいえない。
 だが、寝室を掃除して見つけた茶色の髪──それは十分な物的証拠なのではないか? ジェイデンに友人を泊めたりすることもあるのかと聞いたが、一緒に住むようになってからはないと言っていた。でも茶色の髪の『誰か』がここにいたわけで、その髪色が夢に出てくる彼とそっくりで、その彼はもう亡くなっていることを思うと──。
 遊城十代に未練があるばかりに、彼によく似た茶色の髪の誰かと浮気してるんじゃないのか?
 と、いうのが現在のオレが抱いている疑念だった。
 こういう場合はやはり携帯端末に証拠があるのが定番だろうと思ったが、それらしい記録は一切なかった。一番頻繁にメールで連絡しているのはマネージャーとの仕事関係のもので、その次がジェイデンへの帰宅時間などの連絡だった。電話の履歴もマネージャーが主だ。発覚を恐れて都度履歴を消している可能性もある。そのように慎重だからか、写真に茶色の髪の人物が残っていることもなかった。
 ならば日記などのアナログな記録は? と自室を探してみると、記憶を失くす前日までのオレはきっちりと日記を書いていた──が。
 なぜかやたらに「十代」という文字が出てきていた。
 まるで毎日遊城十代と会っているかのような口振りで日記は書かれていた。オレは彼を失ったショックを未だに抱えているのではないか? こんな妄想を毎日書き連ねてしまうほどに。
 日記を読み進めていくうちにあることに気がついた。ジェイデンの名が一度も出ない。万丈目準はまるで遊城十代と暮らしているかのような日記を書いている──。
 というか、ジェイデンのことを遊城十代とみなして日記を書いているのではないか? こんなことをされているとジェイデンは知っているのか? 個人の頭の中でやっていることだとしても、あまりにひどいのではないか。
 よくよく思えばジェイデンは眼鏡と髪や目の色の違いでわかりにくいがやや遊城十代の少年時代に似ている気もする。「万丈目準」はそれで彼を気に入ったのではないか? それだけで飽きたらず茶色の髪の誰かと浮気までして、たとえ友人──あるいは恋人の死がショックだったのだとしても、やっていいことと悪いことはある。
 ジェイデンは一生面倒を見るつもりがあると言うほど「万丈目準」に対して献身的だ。だが、こいつはそんな献身に値しない。仮に元はいい人間で、遊城十代の死によって変わってしまったのだとして(そこは同情に値するかもしれないが)、浮気やらジェイデンを頭の中で遊城十代とみなしているなんてことをやるべきではない。
 このことはジェイデンに話すべきだろう──そう思ったものの、この推測が本当に合っているのか、ジェイデンは知ったら傷ついてしまうのではないかと悩んだ。それに現在のオレの感情としてもジェイデンのことは好ましく思っているから、このことを告げれば別れるしかないだろうというのも惜しく感じていた。
 しかし、そんなオレのことを心配するジェイデンを見て、やはりこれは話さねばなるまいとオレは覚悟を決めた──。
「そう……か」
 オレの話を聞き終わったジェイデンは眼鏡を外した。髪と目の色こそ違うがやはり遊城十代に似ていると思う。そんな理由で好かれたなんて彼にとっても心外だろう。
「……オレもいつ言おうか迷ってて……」
 ジェイデンの目が瞬くと、その目は茶色へと変わった。目だけではない、髪も──。
「オレが遊城十代だよ。お前は浮気もしてないし頭の中で死人と生きてるわけでもない。ごめんな、変に悩ませちゃって」
 困ったように笑う、卒業アルバムや映像や夢で見たのと同じ顔──。
「……そんなわけないだろう。遊城十代は死んだのに」
「生きてるじゃん」
「あんな状況で生きてるわけないだろ!」
 思わず大きな声が出た。見ていた夢は穏やかなものばかりではなかった。何度も彼が殺される光景を見た。あんなに何度もナイフを振り下ろされて、生きているはずがない──。
「……やっぱりそれは思い出しちゃったんだ。本当にごめん。もっと早く話せばよかった。オレ、いっつもこうだ」
 自分は死なないのだと彼は言った。どんな傷も癒えて歳も取らない、だから今も生きていて学生の頃のような姿なのだと──。
「信じられないかもしれないけど、本当なんだよ」
「あるわけないだろ。人間が、そんな」
「人間じゃ……ないよ」
 茶色の瞳が揺らぐ。傷つけてしまった──と思ってどきりとする。
「……傷が治るとこでも見てみる?」
 頭の中にあの光景がよみがえる。
「やめろ、そんな」
「うん。見たくないよな」
 悲しそうに笑う。
「わ……わかった、お前の傷が治るんだとして……なら、なんで死んだことになった? 奇跡的に助かったことにしたらよかっただろ」
「その『奇跡的に助かった』はこの前ジェイデンの交通事故でやったよ」
 オレは兄たちから聞いた話を思い出す。交通事故といい立て続けによくないことが起きていると言われた。確かあれは「奇跡的に軽傷だった」と──。
「ジェイデンはただの事故だし死ぬ必要なんてないけど……遊城十代は死んだことになった方がよかったんだ。窃盗団に恨まれてたし、それに……」
 彼はややためらった。
「……オレも商品として狙われてて。報道じゃレアカード窃盗団としか言ってないけど、精霊の売買もしてた。オレにはたくさん精霊が憑いてるし、三幻魔を操れるとかどんな願いも叶えるとかデマも流れてたみたいだ。なんでそうなったかわかんないけど。生きたままにしたら一生追われる身になってたと思う」
「身を守るために死の偽装が必要だったということか」
「ああ」
「オレは何かそれに関わっていたのか?」
「関係なかったけど巻き込んじゃって、それは本当に申し訳なかったよ。……オレの勘違いで一生巻き込むことになっちゃったし」
「勘違い?」
「事件のあと、大徳寺先生からオレが死なないこと聞いてるかと思って、何も考えずに会いに来ちゃって」
「はあ?」
 そもそも大徳寺先生って誰だ──いや。オレはその名前を知っている。
 ファラオはもともと大徳寺先生が飼っていた猫で──そう言っていたのは翔だったか? デュエルアカデミアのレッド寮の先生だったと聞いた。しかし。
「大徳寺先生は亡くなられたと聞いたが」
「幽霊がファラオのお腹にいるんだよ」
「ゆうれいィ?」
 ふざけてるのかこいつは──そう思ってしまったが、そもそもこいつは自分が刺し殺された遊城十代だと言い出したのだった。献身的で可愛らしい年下の配偶者が、刺し殺された元同級生というヘンテコなものに急に変わってしまったのだ。オレは確かにジェイデンに好意を抱いていたはずだ、それが今は。
 ──ムカついている。
「本当だって、今ファラオのお腹から出てきてもらうからさ。……ファラオ、大徳寺先生出してくれよ。頼むって。」
 十代はソファで眠る猫に話しかけた。ファラオは嫌そうに寝返りをうつ。
「なんかうまいもんやるから……猫缶! 高いやつ開けてやるから、な?」
 猫に懇願するさまがなんとも情けない。ファラオはその取引に応じたのか、単なるあくびなのか、大きく口を開けた。
「……はあ、十代くん、またですかニャ? なんだか三年くらい前にも同じようなことを……」
 ファラオの口から出てきた金色の光はすらりとした男性の姿になった。卒業アルバムで見た教師、大徳寺が半透明でそこにいる。
「やあ、万丈目くん。記憶喪失なんて大変ですニャア」
 半透明の顔が微笑んだ。
 刺されてもよみがえる同級生、幽霊の元教師。デュエルアカデミアではいろいろと常識では考えられないことも起きたと翔に聞いたが、こいつらのせいじゃないか? なんでそんなヘンテコな連中が二人も揃っているのだ。
「……万丈目くんの目が冷たくて先生悲しいのニャ……」
「おジャマたちにはやさしかったじゃん……」
 大徳寺と十代は揃って悲しそうな顔をした。
「あのな、おジャマはオレのエースモンスターだろうが。聞くに学生時代から苦楽を共にしてきた相棒だ」
「アニキ!? アタシたちのことそんなに愛してたの!?」
「相棒だって!」
「すげ~」
「話がややこしくなるからすっこんでろ」
 現れた三兄弟をあしらう。今は精霊まで出てきたらややこしくてかなわない。イエローが「いつもの調子になってきたわぁ」と笑い、三兄弟は消えた。大徳寺も「あとはお二人で」と消えてしまう。
「よくわからん幽霊教師と、一ヶ月以上もオレのことを騙してたやつと同列になるわけないだろ」
「騙すっていうか……」
「お前のために悩んだのが馬鹿馬鹿しいぞオレは」
 十代の代わりにされたり浮気されたりしてたら傷つくだろうと心配したというのに、同一人物だったとは。
「……オレのために悩んでたの?」
 十代の目が輝く。
「喜ぶな!」
 ごめん、と十代は謝る。
「あのな、お前のためというか、うら若い青年が浮気者のクズに騙されていたら大変だという、そういう常識的な観点からの話だ。惚れた相手に似てるからって騙して手元に置いてるようなクズだったら大変だろうが」
「惚れた相手だったの?」
 十代ははにかむ。
「だから、喜ぶな。今はお前の考えたジェイデン・ケントの設定がめちゃくちゃなせいでオレが未成年の子供に手を出すクズ野郎になってただろうがって話をしてるんだ」
「未成年じゃないよ。身分証二十歳で作ったし」
「あのな、一緒に暮らし始めたの、お前が二十歳になった直後だぞ。一緒に暮らすほどの親密さをその時点で持ってるなら、その一年や二年は前に手を出したことになるだろうが」
 茶色の瞳がまたたいた。絶対そこまで考えずに「ジェイデン・ケント」を設定している。
「だいたいこんな一軒家で同居なんて最初から結婚を前提にしてるようなもんだろ」
「そうなの? さ──最初から?」
 頬を染めるな。お前と最初から結婚するつもりだったという話をしているわけじゃない。
「だから、今はお前の考えた設定がおかしいという話をしている」
「一応お前と話し合って決めたんだぜ、カードショップで出会ったとか……」
「年齢の整合性まで考えてなかったろ。深く話さない分にはそれで十分なんだろうがな──」
 思わずため息が出る。
「でも年齢はオレが考えたわけじゃなくて用意してもらった身分証がそうなってたんだ。なるべく長く使えるようにって二十歳にしといてくれたんだと思う。たぶん二十年ごとくらいには変えないといけないし……」
 同い年であるはずの彼は、まさに『十代』にしか見えない顔を曇らせた。
「そもそも身分証作ったときは、お前と暮らすことになると思ってなかったし……」
「元から一緒に暮らしてたんじゃないのか?」
「いや、事件の少し前から泊まらせてもらってたけど、何日かしたらまた旅に出るつもりだったよ」
 そういえば翔から遊城十代は卒業後に世界中どころか異世界にまで旅をしていたと聞いた。
「だから事件のあとも、荷物とファラオ取りに来ただけで、しばらく異世界にでも行こうかなって思って……」
「で──勘違いでオレに生きてることがバレたのか?」
「まあ……」
「そんな重要なことを話してなかったのか。今回と同様に」
 そう──ムカついているのはこの部分だ。こいつは重要なことを話さない。
「ごめん……」
 しょんぼりとして謝る。悪いとは思っているのだろう。だが。
「どうせこの二回じゃななくて学生時代からずっとそうだろ」
「記憶戻ったの?」
「戻っとらん。お前を見てたらそう思っただけだ。なんなら今もまだ隠してることがあるだろ」
「……まあ」
「何が『まあ』だ! あのな、オレが妙な勘違いを話さなかったら一生遊城十代だってこと隠すつもりだったのか?」
「そんなつもりないよ。ただいつ話したらいいか迷ってて──」
「迷って一ヶ月か!?」
「そのうち記憶戻るかと思ってたし、一ヶ月くらいじゃオレのこと信用してくれないと思ったんだよ。普通信じられないだろ、死なないなんて。血が苦手なお前に実演するわけにもいかないし……」
 一応オレを気遣っていたらしい。
「……あのな、それなら奇跡的に助かったとでも言えばよかっただろ」
「嘘はつきたくなくて」
「ジェイデン・ケント自体が嘘っぱちだろうが! お前は自分が言いたくないことを隠してただけだ!」
「……ごめん。そうだな。ジェイデン・ケントじゃなかったら追い出されるかもとか、それは思った」
 十代は顔を曇らせる。不安の理由が理解できないわけではない。でも。
「オレが簡単に配偶者を追い出すと思ってたのか?」
「……そっか。お前が信用してくれないんじゃなくて、オレがお前を信じられなかったんだ。ごめん」
「……他の隠し事もそういう、オレを信じられなくて話せないことか?」
「違──あ、いや、そうかも」
 認める素直さは評価すべきなのか?
「別にお前が言いたくないことを無理に聞くつもりはないが、内容によっては今回みたいに信用を失ったりするぞ」
「……そのうち言おうと思ってた、なんて言い訳だよな」
 十代は自嘲するように笑う。
「反省したなら重要なことは今のうちに吐いとけ」
「さっき聞かないって言ったのに」
「いずれ話そうということなら早めに言えと言っている。本当は遊城十代じゃないなんてことないだろうな」
「そんなことはな……あるかも」
「あるのか?」
 皮肉のつもりだったのだが。
「いや、なんか哲学的? な話かもしんない……」
「お前に哲学がわかるのか」
「わかんないけど……って、お前やっぱり記憶戻ってない?」
「いや……でもお前が馬鹿だということはわかる」
「戻りかけてるのか?」
 十代はぱっと笑った。今の言葉で笑うやつがあるか。
「だがお前が馬鹿なのは話していればわかることだ」
「……なんかオレが遊城十代だってわかってから冷たくない?」
 十代は笑顔から一転、不満そうに唇をとがらせた。
「一ヶ月もオレを騙してたやつにやさしくなれるか?」
「それはごめん……」
 またしょんぼりとした顔になる。コロコロと変わる表情には少し覚えがある気がして、確かに記憶は戻りかけているのかもしれない。
「で。お前が遊城十代じゃないってのはどういうことなんだ」
「ああ──オレって覇王じゃん? 覇王ってのは闇の力が人間の器に宿ったものだから、厳密には遊城十代じゃないのかもなって」
「何を言っているのかまったくわからん」
 きょとんとするな。不老不死よりも胡乱な話が出てくるとは。
「あ、そっか、オレが覇王なことも覚えてないよな」
「そもそもなんだ覇王って」
 十代は覇王について説明したのだが、不老不死の上を行く宇宙の起源の話にまでなってしまった。しかもただその説明だけすればいいものを、オレが学生時代に光の波動に影響されていたとか関係ないことに話が飛んで、説明に時間がかかった。まあつまりは十代の不老不死という体質はその覇王という存在だからである、ということになるのか。そしてその覇王である自分は厳密には人間遊城十代ではないのかもしれないと、そういう話であるらしい。
「まあ器自体が遊城十代だから遊城十代でいいのかな」
「いいんじゃないか」
 「命を育むやさしい闇」だの「破滅をもたらす光の波動」だのわけのわからない話だった。しかし「本当は遊城十代ではないのではないか」という話題を振ったのはオレで、彼はそれに答えようとしただけなのだから文句は言えない。
 とにかくこいつが常識はずれな存在であることだけははっきりわかった。この常識はずれな事情を記憶喪失のオレに話しあぐねたというのも理解はできる。しかもこいつは説明が下手だ。記憶喪失の初日に言われたら混乱しかもたらさないだろう。

後編へ続く

コメント

[ ログインして送信 ]

名前
コメント内容
削除用パスワード ※空欄可