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【刀非夢】未完/宗三左文字は籠の鳥になる暇がない

2026/02/06 21:43
刀剣乱舞・非夢未完本棚未掲載
「宗三左文字と言います──」
 口上を述べると、目の前の人間は目を輝かせた。きっとこれも自分を侍らせて満足する人間の一人だろう、と宗三は思う。きっとまた、飾り物に──。
「やった、やっと大きいのが来たぁ~」
 人間の後ろに控えていた刀と思わしき男が感嘆の声をあげる。
「あなたが来て助かるよ。これからよろしく、宗三。わたしは審神者の──」
「俺、加州清光。あんたと同じ打刀! よろしく」
 審神者と刀は自己紹介をし、この本丸にはまだ他に刀がいると言った。
「今、みんなで朝ごはんを作ってるところ。宗三も一緒に食べよう」
 そうして宗三は『きっちん』と呼ばれる場所に案内された。そこに近づくとにぎやかな声が聞こえてくる。
「鯰尾兄さん、それ強く握りすぎてなーい?」
「そうかなあ?」
「軽めに握った方が食べやすいぞ」
「なー誰か味噌の場所知らねーか?」
「冷蔵庫じゃないの」
 十振り近く、短刀や脇差たちがひしめいている。と──その中に、懐かしい気配を感じた。
「みんな! 今仲間になった宗三左文字だよ」
 審神者が大きな声で伝えた。ようこそ、よろしく、という声が口口に聞こえてくる。
「主さーん、味噌どこ?」
「冷蔵庫の……三段目かなあ?」
 赤い髪の少年に呼ばれ、審神者は冷蔵庫という大きな棚のようなものに向かっていった。
「ちょっと待ってて、すぐ飯になるから」
 加州清光も宗三に一声かけて朝食の準備に向かう。宗三はきっちんの入り口で、動き回る審神者と刀たちを眺める。
「……宗三兄さま」
 青い髪の少年が近づいてきた。先程の懐かしい気配は彼、小夜左文字のものだったようだ。
「お小夜。あなたもいたんですね」
「……うん。僕も、少し前に来たところ。……いつもこんな感じで、せわしないところだよ……」
「そうですか……」
 楽しそうに食事の準備をする刀たちに、彼はまだ馴染めていないのかもしれない。
「お味噌汁出来たよ。おにぎりは?」
「できましたー!」
「出来てます」
「お腹空いたー」
 審神者の声に刀たちが返事をする。
「じゃ、運んで。──宗三、向こうの広間で食べるよ」
 審神者に言われて広間へ移動する。広間には机が置かれ皿や椀、箸が並べられている。
「おっ、宗三か? 久しぶりだな」
 黒髪の少年が声をかけてくる。懐かしい気配は小夜だけではなかったようだ。
「薬研藤四郎だ。覚えてるか?」
「……ええ」
「またよろしく頼む。きっとすぐ戦場に出されるぜ」
「どうでしょう。手に入れて満足する連中は多いですから……」
 薬研藤四郎は相変わらず戦場に出向いているようだ。
「……まあ決めるのは大将だからな。とりあえず飯にしようや」
 朝食は、おにぎりと味噌汁と漬物だった。大皿に用意された中身も大きさもさまざまなおにぎりから好きなだけ食べていいという。
「いただきます!」
 審神者と刀たちが手と声を合わせた。皆好きなようにおにぎりへ手を伸ばす。
「あ、お味噌汁もおかわりあるからね」
 審神者が言い、刀たちがはーいと返事をする。
 刀、なのに。
 おにぎりにかぶりつき、味噌汁を飲んでいる。
 こんなの必要なんだろうか、と宗三は思う。
「僕のおすすめは、ソーセージ……これ、僕の作ったやつ……」
 小夜が宗三の取り皿におにぎりを置いた。
「これ、ソーセージ。お肉を加工したもの」
 小夜は三角の頂点から飛び出している茶色のものを指差す。
 宗三は他の刀たちを真似ておにぎりを一口かじる。パリッと小気味いい音がして独特の香りと塩味が口内に広がる。
「おいしい?」
「……ええ!」
 宗三の返事に小夜は少し口角を上げた。
 朝食後、宗三は薬研の言った通り戦場へと出された。
 そして、初陣の余韻に浸る間もなく、騒がしいきっちんに連れていかれ、今度は昼食の用意を手伝わされた。
「じゃ、宗三さんネギ切ってください」
 鯰尾藤四郎が言った。こうするんですよ、と包丁の使い方を実演してみせる。
「なるべく大きさは揃ってる方がいいけど、バラけても大丈夫です。どーせ食べちゃうんで!」
 明るく言った鯰尾の隣で宗三はネギを刻む。
「そういや宗三さん。どっかの美術館で同じ部屋にいませんでした?」 
「さあ、いろんなところに行きましたから」
「ですよねー! 俺もうろ覚え!」
 雑談をしながらネギを切り終えた。……包丁というのは、存外切れ味が悪い。切ったつもりが、下の方だけくっついていた。
「大丈夫です! 食べるだけなんで!」
 鯰尾はまちまちの大きさのネギを鉢に入れた。
 昼食はうどんだった。宗三が切っていたのはうどんの薬味であったらしい。各各が好きなようにネギを入れ、宗三の切れていないネギに当たった今剣が
「あー! ぼくのなかまがいます!」
 と笑った。彼も包丁の扱いにはまだ慣れていないようだった。
「包丁研ぎ直した方がいいんじゃありません?」
 包丁のせいにした宗三だが、主はそうだねと頷いた。
「砥ぎ器も買い物リストに入れないと」
「この前拾った石じゃダメなの?」
 加州が言った。
「あれ刀用じゃない? そもそも研師みたいなことは素人に出来ないし」
「そっか。主、お手入れの手付きもまだちょっとやばいもんねー」 
「短刀は慣れてきたよ」
「大将はもうちょっと筋肉つけないとでかい刀は持てないんじゃないか?」
「精進しまーす」
 刀たちに遠慮なく言われても主は笑っている。はっきり言って、威厳のある人間ではない。ただ、それでも刀たちに慕われていることはわかった。
 昼食が済んだ後、皆で片付けをした。宗三は小夜から皿などの洗い方を教わった。片付けの後は一時間ほど休憩だった。宗三は小夜と本丸の生活について話し、宗三さえよければ同室にならないかと聞かれた。
「ええ、もちろんです。兄弟なのですから」
「……うん。後であるじさまに兄様と同じ部屋にするって伝えておくね」
 小夜は、少し照れたように口角を上げた。
 休憩後、宗三は遠征を命じられた。遠征は加州清光と一緒に行かされた。
「どーお? 身体を持った感想は」
「戦い、思うようにはいかないものですね」
「わかる! なんか最初はうまくいかないんだよね。身体が慣れないっていうかさ。俺なんか初陣で負けちゃって、本当にサイアクだった! 主のお手入れの手付きもなんかやばかったしさ~」
 サイアク、と言いながら加州は楽しそうに話した。手入れの手付きがやばい、というのは刀の持ち主として致命的だと思うのだが。
「食べるのはどう? 俺初めて食べた時感激しちゃった」
「ええ、おいしいですね。用意と片付けは面倒ですけど」
「そーだよね。でも、ご飯って出来てるの買うと高いんだってさ。そうそう、この後買い出しも行くんだけどさ、万屋結構楽しいよ!」
 加州は、本丸の暮らしは楽しいと宗三に話した。小夜や他の刀たちの態度からも、そうなのだろうと思った。
 遠征は滞りなく終わった。今回は二振りだが、今後は一振りで出されることもあるだろうと加州から言われた。
「うち、資源も札も少ないからさ、遠征多いんだ。貧乏暇なしっていうか……」
 遠征完了の報告を終えると、今度は短刀が入れ替わりに遠征へ向かった。なるほど、小夜が「せわしないところ」と表現するはずである。
「加州、買い出しはもうあなたたちだけでも行ける? 書類片付けちゃいたくて」
「うん、大丈夫だよ」
「じゃあ、よろしくね。宗三もお願い。他の面子にもう準備してもらってるから」
 審神者は加州に四角い板を渡した。後に端末というのだと知ったそれには、買い出しの一覧らしい文字が写し出されている。
「ん、りょーかい。行ってきます」
 行ってらっしゃい、と言うと審神者はすぐ自分の仕事にとりかかる。
「ほら、暇がないでしょ」
 加州が笑う。貧乏暇なし──か。左文字や吉光の名刀をぞろぞろと揃えて言う言葉ではないと思うのだが。
 門へ行けば、大きな台車を用意して刀たちが待っていた。小夜、薬研、鯰尾、骨喰に、あれは確か……。
「宗三さん! 俺、愛染国俊! まだあんま話したことなかったよな」
「そうですね。よろしくお願いします」
「よろしくー!」
 元気よく挨拶をされた。
「ひき肉たくさん買って、今日はハンバーグだって! 俺まだ写真でしか見たことないけど、スッゲーうまそうだぜ!」
 愛染は期待に満ちた目で言った。
「実際おいしいよ。じゃ、頑張って運ぼーねー」
 加州がそう言って、転送門に主から渡された板──端末というらしい、をかざした。
 初めて行った万屋は、確かに面白いものがたくさんあった。今回の買い出しは食料品のみだが、別の機会があれば他も見て回りたい、と宗三は思った。
 食料品を買い終えると、大きな台車の三分の一ほどが肉と野菜、油や砂糖などの調味料で埋まった。大きすぎたのではないか──と宗三は思ったが。
「こっからが難関だぜ、宗三。期待してるからな」
 薬研が宗三の背を叩いた。その意味は、台車を引いて行った先でわかった。
『米・小麦引換所』
 大きな看板のあるそこには、台車を引いた刀剣男士たちが数組並んでいた。受付係らしいこんのすけに端末を見せて、奥へ行くと米俵を台車に載せて戻ってくる──。
「……もしかして、あの俵を台車に載せるの、僕たちがやるんですか?」
「そうだ」
「……なんでうちには、あの大きいのみたいなのがいないんです?」
 宗三の本丸と他の本丸で、明らかに並んでいる刀剣男士が違う。他の本丸は筋骨隆隆とした男士ばかりだ。
「まだまだ出来立ての本丸だからな。槍や大太刀はいないんだ。大丈夫だ、協力すれば俺たちでも運べる!」
 薬研はそう言って拳を握った。宗三は──やっと、今朝加州清光が宗三の存在にえらく喜んだ理由を理解した。米俵を運ぶ人員が増えるからである。
 米俵三俵と、小麦粉二袋。骨の折れる作業、という言葉があるが、宗三は実際に骨が折れるのではないかと思った。しかも台車に載せただけではまだ終わりではない。一番近い転送門まで、この台車を運ばねばならないのだ……。そして本丸についたあとも、本丸の保管場所でまたこの米俵と小麦粉の袋を運ばねば……。
 宗三にとって、気の遠くなるような作業だった。加州は「初日から大変でごめんね」と謝った。薬研は「ここは飽きなくて最高だろ!」と楽しそうだった。
「じゃ、俺台車片付けてきますね。何もない台車ってめっちゃ軽~!」
 鯰尾も楽しそうに台車を片付けに行った。これがこの本丸の日常なのか。まあ、米俵を運ぶのは、流石に頻度は高くないはずだ。
「……疲れました」
「兄様、お疲れさま……。でも、これから夕御飯の準備、あるから……」
 弟から残酷な一言を告げられた。
「そう……なんですか……」
 きっちんへと宗三は向かった。そこでは、買い出しに行かなかった短刀たちと、主がせわしなく動いていた。
「主、お米とかしまっといたから」
 加州が主へ報告する。
「ありがと! お疲れさま。加州と薬研はイモ手伝って。小夜、宗三とサラダお願い! レタスとキュウリだけでいいから。骨喰はスープやって。コンソメで具はキャベツとニンジンね」
 一言労うなり、次の命令が飛ぶ。
「サラダ、簡単だから……」
 小夜が慰めなのかそう言った。が、簡単で早めに終わったら終わったで、使い終わった調理器具などを洗えと命じられた。
「……毎日、こうですか?」
「えっと……まあ、日によって忙しさも違うけど……」
 ひき肉をこねた後らしい大きな金属の器を洗いながら小夜に訊ねた。
「ハンバーグなんかは、手のかかる料理だから。でも……」
 肉を焼くよい香りが漂ってくる。ぐうぅ、と小夜のお腹が鳴った。小夜は少し恥ずかしそうに頬を染めた。
「……大変だけど、おいしい」
「それは楽しみですね」
 弟の可愛らしい一面を見られて、宗三は少し疲れの癒された気分がした。
 洗い物の次は広間の机を消毒し、箸やふぉーくやないふの準備をした。今朝薬研がやっていたものだな、と思いながら作業をした。
 またきっちんへと戻り、今度は炊かれた米を茶碗に盛っていく。他の刀剣たちも皿に出来上がった料理を載せており、やっと終わりが見えてきた、と宗三は思った。
 全ての料理を広間に運ぶ。皆が座ってから、主だけが立ち挨拶をした。
「みんな、今日もお疲れさまでした!」
 お疲れ! お疲れさまでした! と他の刀剣たちが口口に返す。
「今日もみんな無事でよかった。たくさん食べて、たくさん休んでください! ご飯とスープはおかわりあるからね。それじゃ」
 主は合掌した。そういえば仏教徒なのだとちらと聞いた気がする。
「いただきます!」
「いただきます!」
 主の言葉に続けて刀たちが言った。主も座り、食事が始まる。
「うめえ! 主さん、ハンバーグめっちゃうめえ!」
 愛染が大きな声で言った。
「口に合ってよかった」
「作るの大変だけど、ボクも大好き!」
 乱藤四郎もそう言った。他の刀たちもおいしい、と口にする。宗三も、箸でハンバーグを口に運んだ。
「おいしい……!」
「……大変だけど、ね」
 宗三の漏らした感嘆の声に、小夜が小さく付け足した。しかしその顔には笑みが浮かんでいる。
 味の濃いハンバーグと白米を交互に食べていたら、あっという間に茶碗は空になる。向かいの小さな机を見れば、骨喰藤四郎が鍋から茶碗に米をついでいる。なるほどああして『おかわり』を取るのか。宗三は隣の小夜をちらと見る。小夜の茶碗もほとんど空だ。
「お小夜、よかったらおかわりをもらってきましょうか?」
「あ、自分で行くよ」
「僕も欲しいので、ついでに」
 宗三の言葉に、小夜は口角を上げた。
「じゃあ、お願い」
 宗三が炊飯器のもとへ行くと、まだ数人はおかわりできそうな量の米が残っていた。二人分の茶碗に米をつぎ、自分の席へと戻る。
「ありがとう」
「お米って、おいしいですね」
「うん」
 二人はおかわりした白米もぺろりと平らげ、余っていたスープもおかわりをした。食後、油で汚れた皿を洗うのは少少手間だったが、宗三の心にはそれよりも満足感があった。
 食休みののちに、小夜と共に風呂へ入った。身体を洗い、温かい湯に浸かる。出陣や買い出し、食事の準備などで溜まった疲れが、すーっと身体から抜けていくような感覚がした。
「……気持ちがいいですね」
「うん」
 小夜は微笑んで頷く。宗三も自然と嬉しくなった。兄弟で同じものを食べ、同じ湯に浸かる──刀の頃には想像もしなかったことだ。飾り物とは違う何かを、ここでは得られるのかもしれない。
 翌日。やはりせわしない朝食の準備から始まった。
「今朝はパンケーキにするよ。まだやったことない秋田、愛染、宗三、パンケーキお願いね。鯰尾と小夜が教えてあげて。スープは今剣と骨喰と……」
 主は今朝の役目を割り振り、それぞれが動き出す。
 パンケーキというのは、小麦粉と砂糖、卵と牛乳を混ぜた生地を焼いたものだという。それにソーセージや果物を添えて食べるのだそうだ。生地を混ぜるにはなかなか腕力がいるし、たくさんの枚数を焼くのがかなり手間だった。生地を鉄板に流すまではいいが、ひっくり返すにはやや慣れがいる。宗三が最初にひっくり返そうとしたパンケーキは、端が折れてしまった。
「みんなそれやるんですよ! 大丈夫ですって!」
 鯰尾がにこにこと笑っていた。
 何度もやるうちにきれいにひっくり返せるようになる。これは達成感があるな、と宗三は思った。
 広間に出来上がったパンケーキを運ぶ。まずは三枚ずつ取り分け、余った分はおかわりするという形式だった。夕食と同じくスープのおかわりもある。この本丸では、基本的に主食と汁物を多めに用意する方針のようだ。
 主食のパンケーキの他には、玉葱のスープとサラダ、オムレツという卵を焼いたもの、そして一口大に切った何種類かの果物と……。
「この白いのはなんですか?」
「ホイップクリーム。甘くておいしいよ」
 スプーンにほんの少し掬い口に入れてみる。ほのかな甘味が口の中に溶けた。
「……これは」
「ね?」
 目を輝かせた宗三に小夜が微笑む。

2023/04/17

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