pixiv未掲載小説
【刀夢】加州清光、蜻蛉切の短い文
2024/12/04 00:00刀剣乱舞・夢
加州清光
内番の報告に行ったら、主が手招きをした。
「加州ちゃん。これ、あげる」
そう言って差し出されたのは赤いリボンだった。
「昼に頂き物のお菓子を配ったでしょう。あれの包装についていたの。加州ちゃんにきっと似合うと思って」
鮮やかな赤色をしたそれは、確かに俺の目や爪の色と似ていた。しかし贈答品の飾りとはいえ、お世辞にもその手触りはいいとは言えない。そもそも包装用であって、着飾るに向いたものではないだろう。だけど。
「他の子には内緒ね。一つしかないの」
宝物の存在を告げるように主は声をひそめた。だから俺には、その安物のはずのリボンが絹よりも上等なもののように感じられたのだった。
2017/06/28 書き上げ
蜻蛉切
初めて触れたその手は、小さくて、やわらかくて。かつて『蜻蛉切』を振るった、あの力強い手とはまるで違う。
「蜻蛉切?」
名前を呼ばれて、はっとして手を離す。
「……切れて、しまうかと」
その言葉に、審神者は苦笑した。
「でも、手入れはしないと」
審神者が打ち粉をし拭えば、傷は瞬く間に癒えた。その動作は、先程触れたやわくもろそうな手に似つかわしくないほど、刀剣の扱いに慣れている。彼女は数多の刀剣を率いているのだ。それをまるで幼子が刃物に触れるかのごとく心配するなど、なんと無礼なことだろう。
「失礼いたしました」
「いいえ。確かにあなたから見れば、わたしなんてとてもひ弱に見えるでしょう」
「そのような……いえ──人の身の儚さは、確かに感じます」
やわらかくて、この身よりも随分と小さくて。
「だからこそ、我らがあるのだと──そう、実感いたしました」
審神者は少し目をみはり、そのあとはにかんで笑った。
「……ありがとう。とても、心強い」
「今はまだ至らぬばかりですが、精進いたします」
「こちらこそ。今後ともよろしくお願いします」
審神者は手入れの終わった槍を蜻蛉切に渡す。蜻蛉切は頭を下げてから立ち上がる。手入れ部屋を出ようとした瞬間、審神者が叫んだ。
「蜻蛉切! 言い忘れて──」
蜻蛉切が振り向こうとしたのと、頭に衝撃が走ったのは同時だった。
「この部屋鴨居が低くて、みんな初回はそのまま手入れ部屋にリターンを……ごめんなさい!」
「い、いえ……精進、いたします……」
痛む頭をおさえ、蜻蛉切は再び審神者の前に膝をついた。
2018/10/28 書き上げ
2024/12/04
内番の報告に行ったら、主が手招きをした。
「加州ちゃん。これ、あげる」
そう言って差し出されたのは赤いリボンだった。
「昼に頂き物のお菓子を配ったでしょう。あれの包装についていたの。加州ちゃんにきっと似合うと思って」
鮮やかな赤色をしたそれは、確かに俺の目や爪の色と似ていた。しかし贈答品の飾りとはいえ、お世辞にもその手触りはいいとは言えない。そもそも包装用であって、着飾るに向いたものではないだろう。だけど。
「他の子には内緒ね。一つしかないの」
宝物の存在を告げるように主は声をひそめた。だから俺には、その安物のはずのリボンが絹よりも上等なもののように感じられたのだった。
2017/06/28 書き上げ
蜻蛉切
初めて触れたその手は、小さくて、やわらかくて。かつて『蜻蛉切』を振るった、あの力強い手とはまるで違う。
「蜻蛉切?」
名前を呼ばれて、はっとして手を離す。
「……切れて、しまうかと」
その言葉に、審神者は苦笑した。
「でも、手入れはしないと」
審神者が打ち粉をし拭えば、傷は瞬く間に癒えた。その動作は、先程触れたやわくもろそうな手に似つかわしくないほど、刀剣の扱いに慣れている。彼女は数多の刀剣を率いているのだ。それをまるで幼子が刃物に触れるかのごとく心配するなど、なんと無礼なことだろう。
「失礼いたしました」
「いいえ。確かにあなたから見れば、わたしなんてとてもひ弱に見えるでしょう」
「そのような……いえ──人の身の儚さは、確かに感じます」
やわらかくて、この身よりも随分と小さくて。
「だからこそ、我らがあるのだと──そう、実感いたしました」
審神者は少し目をみはり、そのあとはにかんで笑った。
「……ありがとう。とても、心強い」
「今はまだ至らぬばかりですが、精進いたします」
「こちらこそ。今後ともよろしくお願いします」
審神者は手入れの終わった槍を蜻蛉切に渡す。蜻蛉切は頭を下げてから立ち上がる。手入れ部屋を出ようとした瞬間、審神者が叫んだ。
「蜻蛉切! 言い忘れて──」
蜻蛉切が振り向こうとしたのと、頭に衝撃が走ったのは同時だった。
「この部屋鴨居が低くて、みんな初回はそのまま手入れ部屋にリターンを……ごめんなさい!」
「い、いえ……精進、いたします……」
痛む頭をおさえ、蜻蛉切は再び審神者の前に膝をついた。
2018/10/28 書き上げ
2024/12/04