pixiv未掲載小説

【刀夢】未完/清さに/転生モノっぽい話

2025/09/12 20:51
刀剣乱舞・夢未完本棚未掲載
 俺、前世は刀だったんだよねー。
 なんてことを口にしたら「お前何言ってんの? 頭大丈夫?」と言われることだろう。
 まあでも、事実なんだから仕方がない。『現在』からすればおよそ百年前に終わった『歴史保護戦争』 の記憶が、俺の頭の中にある。
 これが蘇ったのはつい最近。かつての『主』と出会ったからだった。
 彼女との出会いは、高校に入学して一週間ほど後のことだった。その時の俺はまだ普通の高校生らしく新しい生活に期待と不安を抱いていた。入学式の日には満開だった散りかけの桜を見つめる横顔に目を引かれ、俺は無意識のうちに彼女の側に立っていた。

 俺に気づいた彼女は少し驚いた様子で俺を見た。しかし、それから微笑む。
「かしゅう」
「え? なんで俺の名前……」
 突然美少女に名前を呼ばれた俺は驚いた。
「……名札ついてるから」
「あー……そうね。あんたは……佐庭さん」
「そう、さにわ。今も昔も」
 一瞬意味がわからなかった。もしや親が離婚の危機で名字が変わりそうとか?  何か事情があるのだろうかと悩む俺に、彼女は手を伸ばした。
「……桜」
 呟くように言って、俺の肩についていたらしい花びらを見せた。
「あ──ありがとう……」
「どういたしまして」
 彼女は微笑んで、それから他の生徒たちと同様に校門へと向かって行った。俺はしばしその後ろ姿を見つめたあと、帰路についた。
 翌日、彼女は教室まで俺を訪ねてきた。昨日、いつの間にか生徒手帳を落としていたらしい。念のため中の名前を確認しようとすると、栞が挟まれていることに気づいた。
『プール 18:00』
 桜の絵の栞が挟まれたページにはそう書かれていた。生徒手帳から目を上げて彼女を見ると、意味ありげに微笑んでからくるりと身を翻して廊下を走っていった。

「よかった。来てくれたんだ」
 薄暗いプールサイドで、彼女は俺に微笑みかけた。
「鞄、そこに置いたら」
 指差した先には彼女のものと思われる鞄があった。促されるままその隣に鞄を置く。
「えっと──なんの用?」
 そう尋ねると、彼女は俺に手招きした。俺は少し緊張しながら彼女の側へ行く。
「このプール、今日水を入れたところなの。あなた泳げる?」
「……うん、まあ」
「じゃあ服を脱いでくれる?」
「は?」
「今からプールに入ってもらうから」
 もしかして、部活の誘いなんだろうか。告白でもされるのかと期待した自分が馬鹿みたいだった。
「いや、俺水泳にはあんまり興味なくて……」
「水泳は関係ない。プールに入ってもらうから、脱いで」
 彼女は同じ言葉を繰り返した。さっきまで可愛い女の子に見えた目の前の人間が、今は不気味なものに見える。
「いやいやいや……こんな時期に入ったら寒いし。だいたい水着持ってないし」
 なんとか穏便に話を終わらせられないだろうか。俺は少しあとずさる。が、彼女は俺の方へ足を踏み出し、俺の肩に手を置き至近距離まで顔を近づけた。
「脱いで」
 もしかして水泳じゃないお誘いなのか、なんて思ったが、あいにくといくら相手が美少女でもこんな不審な状況で言われて喜べるようなハッピーな頭はしていなかった。
「何馬鹿なこと」
「やって!」
 俺から一歩離れ、彼女は鋭くそう言った。
「闇討ち、暗殺、お手のものっ!」
 そんな男の声が聞こえたと思ったと同時に、俺はプールへ突き落とされた。視界の端には男子生徒が見えた。
 誰あれ。彼氏? いきなりプールに突き落とすって何? 強引な水泳部の勧誘? それとも──殺って! だったのかな? なに? 自分に近づく男は全部殺す主義なの? それとも彼氏の方が『俺の彼女と話す男は全部殺す』みたいな? そういや闇討ち暗殺とか叫んでたな。
 ほんの一瞬の間に、つらつらそんなことを考えていた。その思考が止まった時、ごぼりと喉から空気が逃げていった。
 俺、死ぬの?
 そう思った時、俺の脳裏には走馬灯のように『前世の記憶』が蘇ったのだ。

「堀川! てめえ俺を殺す気か!」
 プールから顔を出し喋れるようになった直後、俺はそう叫んだ。
「やだなあ、きみなら生き残れるよ」
「ふざけやがって!」
 文句を言いながらも、俺はプールサイドから手を伸ばす堀川国広の手を掴んだ。引きずり落としてやろうかと思ったが。
「加州。おかえり」
 主がそう微笑んだものだから、やめておいた。大人しくプールサイドに上がった。
「……主、いったいなんなの?」
「ごめん、思い出させるには『死にそうになる』しかないみたいなの」
「だからって可愛い俺をプールに突き落とす!?」
「突き落とすのは僕の発案」
「お前! って……お前うちの堀川じゃないな」
「うん、そうだね」
 堀川はにこにこ笑いながら頷いた。
「とりあえず、着替えとタオルはあるから、説明はそのあとに」
 主が言った。その気遣いがあるなら最初から突き落とさないで! もっと穏やかな方法で思い出させて!
 堀川に更衣室へ案内された。シャワーを浴びつつ堀川に文句を言ったら、堀川の発案した過激な方法のうち、これが一番穏やかだったらしい。
「僕としては頭を殴るのがいいと思ったんだけど、審神者さんに止められちゃって」
「止めてくれてありがとう主」
「あとは階段から突き落とすとか……」
「暴力的じゃないやつはないわけ?」
「薬をきみのお弁当に」
「やめてこわい」
「これがやっと審神者さんがまだ安全そうだからって納得してくれたけど、服が濡れることをすごく気にしててね。審神者さん綺麗だから脱いでって言えば脱ぎますって言ったら、本当に『脱いで』しか言わないもんだからこんなことに」
「主のせいみたいに言わないでよ、そういうのには興味ない人なんだから……」
 用意されていた着替えは、学校の制服だった。サイズは俺が着ていたものと変わりなく、ご丁寧に名札まで付けられている。
「どうしたの、この制服」
「審神者さんが用意した。ブレザーとかダメになるだろうし、親への言い訳に困るだろうって」
「確かにそうだけど……」
 制服など安いものではない。いくらプールに突き落とされたとはいえ、受け取りにくい。
「下着は僕が用意したから」
「そりゃどーも」
「前の制服は僕が処分しておくね。じゃ、審神者さんのところに行こう」
 堀川は濡れた制服とタオルを袋に入れて回収するとすたすたと更衣室から出ていく。俺は鏡を見てまだ濡れた髪を軽く整えてから後を追った。もうすっかり暗くなり校舎は職員室以外真っ暗で、外には道を照らす常夜灯がぽつりぽつりと灯っているだけだ。
 主は常夜灯の明かりから隠れるように更衣室のある棟の壁際に立っていた。俺の鞄も足元に置いてある。
「お疲れ様。……ごめん、ドライヤーを忘れた」
「大丈夫。それより制服──」
「サイズは合ってた?」
「合ってた……けど、もらえないよ。制服なんて高いのに」
「気にしないで。はい、生徒手帳」
「……え?」
 俺は思わず胸ポケットを触る。いや、今着替えたのだから入っているわけがない。
「二回も生徒手帳取られるなんて、ちょっと油断しすぎだよ」
 堀川が笑う。
「……昨日も、桜を取る振りして生徒手帳盗んだの。ごめんね」
 え? 全然胸ポケットを触られた気がしなかったけど? 昨日もってことは今日も……今日はあの顔を近づけてきた時か……待って、主って前はそんなこと出来なかったよね?
「……いろいろ出来るようになった方がいいと思って」
 俺が怪訝な顔をしたからだろう。主は言い訳するみたいに目をそらした。いろいろって何……?
「とにかく──説明してよ、主」
 そうして、俺はやっと事の経緯を主から聞くことが出来た。
 主は、物心ついた時から既に記憶があったそうだ。長ずるにつれて、ここが戦争から百年後で、歴史は守られ平和が訪れたことを知った。主は、これまでに幾人もの元刀剣男士に出会った。その中には記憶のある者とない者がおり、記憶のある者は主が審神者の転生者であることを見抜く者もいた。堀川がその一人だ。彼とは中学生の頃に出会ったという。堀川は主に自分の本丸で一緒だった和泉守兼定を探すのを手伝ってほしいと頼んだ。主はあまり乗り気がせず、では無理難題でも出すかと思ったそうだ。
 かつての初期刀加州清光と、記憶のある状態で会わせること──それが堀川に出した条件だった。
 主はこれまでの人生でかつての自分が顕現した刀剣男士に出会うことはなかったそうだ。だから加州清光も見つけられまいと思っていたらしい。しかし。
「見つけましたよ! 僕、探し物は得意なんで」
 堀川は俺を見つけ出し、俺がこの高校に入るように手を回した。そして主にもここへの入学を勧めた──。
「……マジかよ。俺の進路お前が決めたわけ……?」
「そんなことないよ。ここの学校いいよって話を、きみのクラスメイトがするようにはしたけど、ここを選んだのはきみの意思だよ」
 それを手のひらで転がされるって言うんじゃ……?
「……主はそんな理由で学校決めて良かったの?」
「わたしは親の勧める学校は嫌だったから、そこ以外ならどこでもって……」
 主は、前世は親との折り合いが悪く家族の話はほとんどしなかった。今生もそうなのだろうか。
「審神者さんお金持ちですからね。私立のお金持ちの高校がご家族の勧めだったそうです」
 俺が聞きづらいと思ったことを堀川はさらりと言った。
「私立は小学校で懲りたから……まあ、子供に囲まれるのは公立の学校でも苦手だけど……」
 若い子はなんだか面倒くさいし、と主はため息をついた。前世に生きた年齢を考えれば、子供や若者と過ごすのは大変だろう。
「……でも、加州がいると学校も楽しくなりそう」
 主は本当に嬉しそうに頬笑む。……不意討ちだなあ、そういうの。
「兼さん探しもはかどりますね!」
「……お前はなんで主に和泉守探しを手伝わせるのさ」
「審神者の方が刀剣男士のこと見分けられるんだよ。僕ときみはだいたい前と同じ姿だけど、全然違う姿になる時もあるんだよ。性別が変わってしまったりね。名前は全然あてにならないし。僕の弟、山姥切だけど全然そんな名前じゃないし」
 堀川も、姓は堀川だが名は違うらしい。俺が『カシュウキヨミツ』だったのは奇跡的なことだったのかもしれない。
「……主はそれでいいの? さっきの口振りじゃ、俺に会う気もなかったんじゃ……」
「会いたかったのは本当だよ。ただ……無理矢理思い出させるのは、やっぱり申し訳なかった。ごめんなさい」
「……でも、主には思い出させたいだけの理由があったんだね?」
 少なくともついさっきまでは「普通の少年」だった俺を死の危険に曝すなら、相応の目的があるはずだ。戦中だって未成年が戦争に巻き込まれるようなことを嫌ったひとなのだから。
「……うん。わたしのわがままだけど、また一緒に──」
 主と初めて会った日のことを思い出す。
 ──わたしのわがままだけど、加州清光。一緒に──。
「戦ってほしい」
 そう言われたのだ。あの時も。
「──何か起きてるの?」
「具体的にはわからない。ただ、起きているか起きる可能性があると思ってる」
「どうして?」
「刀剣男士が人の身に生まれ、審神者が記憶を持って生まれてくる。この事象が起き始めたのはほんの三十年ほど前からなんだよ。戦争開始から二百年、戦争が終わってから百年──それが自然の事象と言うなら、もっと前からなければおかしい。『何か』が起こり始めてる気がする。何かはまだわからないけど」
 主の顔は至って真剣だった。それこそ審神者だった頃、俺たちに戦況を説明していた時のように。
 しかし今は平和な時代だ──主の言うような備えが必要とは思えない。でも。
「で、あんたは何をやろうっての?」
「とりあえずは転生者を探したい。出来れば、わたしの本丸の刀剣男士だった者を」
「つまり、また刀集めをするってことね。──本当、今も昔も審神者ってわけ」
「……そうだね。それで、あなたは」
「いーよ。あんたの頼みだしね」
 そう答えれば、主はぱっと顔を輝かせる。
「ありがとう、加州清光。苦労をかけると思うけど、これからよろしく」
 故意なのか、偶然なのか。主はあの日と同じ言葉を言った。

 そうして、一般的な高校生活を送るはずだったであろう俺の人生は変わった。放課後や休日は『仲間探し』や『基地整備』に費やされた。
 いや基地整備ってなんだよ、と思うだろ? 秘密基地を作ってるんだ、この人は。小学生かよ。
 あと有事に備えて、公園とか町のところどころに『物資』を埋めたりしている。公共の場所に埋めていいの……? しかも俺たちの見た目はどう見ても高校生、公園に穴を掘るのは目立つこと請け合いだ。穴を掘りながら毎度見つかりませんようにと祈り続けている。

 これ、馬鹿っぽくない?
 あんたの言う『何か』ってなんなの? 本当に起きるの?
 起きるにしても、この『備え』って本当に備えになってる……?

 主に付き合いながら、俺の疑問は常に尽きなかった。
 結局のところ俺たちは無知なのだ。憂う未来の形もわからなければ、この行動がどれほどの効果をもたらすのかも全くわかっていない。前世の記憶があろうとも、それは『本丸の運営』や『時間遡行軍との戦い』に特化した記憶だ。主は優秀な審神者だったと思う。だが逆に言えば「審神者でしかなかった」のだ。なんだかこんな、映画に出てくる『国の未来を憂う元スパイ』みたいな活動は一切向いてない、と思う。
 だけれど、今はまだ主を説得して止める気はなかった。内心馬鹿馬鹿しいと思いながら、俺はこの状況を楽しんでいる。
「結構、ひとが多いねえ」
「小中高まとめた大会だからね」
 今日は地元の剣道大会に来ていた。剣道に惹かれる転生者は多いのではないかと主は考えている。実際、既に数人見つけているそうだ。
「まあ、記憶のない者が多いけどね。記憶が戻ると、普通のスポーツ出来なくなるから」
「そーね……」
 不思議なことに、記憶が戻ってから俺は『普通』ではなくなっている。刀剣男士だった頃ほどではないが、ものがよく見えたり音がよく聞こえたり力が増していたり……この辺りも、主が「『何か』が起こり始めている」と感じる要因の一つらしい。
「そういや、主はどうなの? 審神者の力みたいなの、ある?」
 また付喪神を顕現出来たりするんだろうか。
「うーん……薬研が見えるくらいかな」
「薬研?」
 今生で初めて名を聞いた。薬研藤四郎──本丸に足を踏み入れたその日から共に戦った刀のひとつだ。
「うちの守り刀。何代か前の祖母の刀だよ。うちで祀られてる」
 いわく、主の先祖は終戦後まで審神者であったそうだ。戦争が終わった時、一部の審神者は敵の残党や新たな歴史修正主義者の出現に備える役割を負った。始めこそ顕現した刀剣男士を幾振りか待機させていたが、何も起きないまま百年経った今は薬研だけが刀の状態で祀られているらしい。他の家族にはただの刀にしか見えないが、主には刀剣男士の薬研藤四郎が見えるそうだ。
「……その薬研はうちの薬研じゃないんだよね」
「うん。わたしのばーさんの薬研だね。何かあれば力は貸してくれると思う。ただ……」
「ただ?」
「その『何か』が、薬研にとっては正しいもの、ならば味方してくれないと思う」
「どーいう意味?」
「加州は……」
 主は言いよどんだ。ちらと周りを見る。ここは体育館の観覧席の端の方だから、人は少ない。でも主は不安なのか、俺に顔を近づけた。
「ここが、正しい歴史の上だと思う?」
 その声は、俺に堀川国広を信用するなと言った時に似ていた。
「……そうじゃないと主は思うの?」
「まだわからない。でも加州、あの戦争に『終わり』が来ると思った? 時間を遡れるなら、永遠にいたちごっこするしかないと思わなかった?」
「でも敵の本拠地を叩けたんだろ」
 教科書にはそう書いてある。
「そうだけど……」
 ──主とて、そんなことはもう何度も考えたあとだろう。
「ともかくあんたは何かおかしいと思ってる、そういうことだね」
「うん。確証はなくてすまないけど」
「いーよ。あんたがそう思ってる、それで俺には十分。けど、その予想が正しいなら穏やかじゃないね──」
 俺は声をひそめた。つまり主は、あの戦争に『負けた』と考えている。ここは偽りの世界で、審神者や刀剣男士たちはその偽りを暴くために記憶を持って生まれた──なんだか、まるで映画の話みたいで、俺には全然現実味がないのだけれど。
「堀川だ」
 主が端末を取り出した。
『ダメでした。佐庭さんの予想通りです。』
 絵文字入りでそんなメールが来ていた。主曰く、電子通信は全て見張られている、絶対に『高校生らしい』連絡しかするな、大事な話は直接会うか手紙にしろ──だそうだ。陰謀論者っぽい。
 ちなみに、これは主が「骨喰っぽい子が居た」と言い堀川が接触しに行った結果報告だ。主が骨喰と思った相手は骨喰の転生者ではあったものの、記憶がなく堀川の本丸の骨喰でもなかった、ということだろう。
「……まだ他にも気配はあるけど、兄貴と鶯丸がいるからわかりづらいんだよなぁ……」
 主はため息をついた。主の兄は大包平だそうだ。記憶はなく、うちの本丸の刀でもない。鶯丸の方は記憶があるが、その大包平とは別の本丸の鶯丸らしい。堀川も同じ本丸の仲間に出会ったことはないと言う。俺たちは同じ本丸だった刀を探しているが、こうも会えないとそもそも一つの本丸から複数の刀剣男士が現代に転生することが珍しい事象なのではないかとさえ思えてくる。

2021/05/04

2025/09/12

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