GX最終回後短編集

猫と影丸

「じいさん、猫好きか」
 影丸が電話に出るなり遊城十代はそう言った。猫を預かってほしいと頼んできた。預かるのは構わないが、なぜこんな老いぼれに頼むのだろうと影丸は思う。猫どころか自分の世話さえままならぬのに。
「誰に頼むか迷ったけど、あんたが一番暇かなってな」
 十代はにかっと笑った。確かに現在の影丸は理事長職も退き、正式な仕事はしていない。斎王兄妹への支援がきっかけで始めた孤児の教育支援事業に多少関わってはいるが、ほとんどは若い者に任せている。まったくの暇とはいえないが、彼の友人に多いデュエリストたちの比ではなかろう。
 十代の連れてきた猫は人懐こいようで、現在影丸の膝で丸くなっている。色褪せてぼさぼさの毛からずいぶん年老いた猫なのだと感じられる。
「いいもん食わしてやってよ。そんなに量は食べないからさ」
「ああ。スタッフも喜ぶよ」
 猫を預かることをスタッフたちに伝えると嬉嬉として猫に必要なものを揃えていた。いっそアニマルセラピーとしてもっと飼わないかと勧められたほどだ。
「……だが、きみはいいのかね」
 このままだと看取れないだろうと、そこまでは言えなかったが十代はわかったようだった。
「──異世界で死なすのは、嫌で。オレのわがままだけど」
 十代はこの世界のみならず異世界も飛び回っている。何をしているのか具体的には話したがらないが、常に忙しくしているようだった。
「また異世界に?」
「ああ。明日には。しばらくは戻れないと思う」
 そのしばらくが数日なのか数ヶ月なのか、影丸にはわからない。少なくともこの老猫を誰かに預けなくてはと思うほどの期間だと十代は見ているのだろう。
「そうか。ひとつ聞いてもいいか」
「何?」
「三幻魔のカードはそのままきみが持つつもりか」
「そういや借りパクしてたな」
「借りパク……」
 思いもしなかった言葉に、影丸はおうむ返ししてしまう。まるで友達に借りた鉛筆をそのまま持っていたかのような口振りだ。世界を滅ぼしうるカードに対してあまりに軽軽しい。
「卒業前に鮫島校長にも聞かれたんだけど。そのときはまだダークネスのことが片づいてなくて、まだ使うってユベルが……そのあとはずっと忘れてた」
 ばつが悪そうに十代は言った。深い意味があって持っていたわけではないらしい。
「……そのカードが何かわかっているかね?」
「あ~……」
 十代は視線を宙にそらす。いや違う、見ているのだ。影丸には見えない存在を。しばらく黙ってそれを見つめたあと、十代は影丸に視線を戻す。
「……ユベルが使うって」
「それは──きみのその姿のために?」
 十代はもう三十かそこらになるだろうに、高校生と見紛う若若しさだ。卒業した頃からまるで変わっていないように見えるのは、ティーンエイジャーらしい幼さの残る顔だけではない。十代のまとうデュエルアカデミアの赤い制服は、旅をしながら十年以上着ても汚れやほつれのひとつもなければ、縮んでも伸びても色褪せてもいない。インナーやズボン、靴も同様に。まるきり新品ともいわないが、長年着古した様子もない。まるで「遊城十代という存在」そのものがあの頃で時を止めたように。
「じいさん、まだ不老不死に未練があるのか?」
 十代は大きな瞳をいぶかしげに細めた。
 不老不死。金と権力を手に入れた影丸が最後に求めたもの。その野望は、いま目の前にいる遊城十代によって砕かれた。絶望にうちひしがれる影丸に、十五歳だった頃の彼は「じいさんはまだ元気だよ」と笑って言ったのだ。影丸は直前まで世界を滅ぼしかねない行動を取っていたにもかかわらず、もうそんなことは忘れたかのように励ましてくれた。──その後彼のせいで骨折をしたのだが、それはそれとして。その励ましにより老いを受け入れ、しかし老いに負けじと生きることを影丸は選んだ。幸か不幸かあの日一時的に得た力のためか通常の人間より長生きをしているが、近頃はそれも限界だろうかと感じている。
「ないといえば嘘になるがね。今はきみの話をしている」
「三幻魔は関係ないよ。こいつはオレの……業ってとこかな」
「業? そんなことが──いや、ではその若さを保つエネルギーはどこから──」
 浮かんだ疑問を口にした影丸に、十代は肩を揺らして笑う。
「じいさん、やっぱだいぶ未練あんな。エネルギーとか難しいことはオレもわかんねーな。ただ、光の波動が簡単に滅びないのとは似てるんじゃねーの?」
 宇宙における光と闇の対立。世界を破滅に導く光と命を育む闇。デュエルモンスターズにまつわる文献をひもといていけば、そのような記述を見つけることができる。そして正しい闇の力を司る『覇王』という存在についても。遊城十代は覇王の力を持つという。ならば彼は光の波動に対抗するための存在として、不滅のものとなったというのか。肉体のみならず衣服さえ朽ちない、ひとならざるものへ──。
「それが業だと?」
「業って言葉は思いつきだ。正確には違うかもな。あんたの言う通り『人智の及ばない』ってやつだ」
 十代は肩をすくめた。
 影丸、あんたかわいそうなやつだな──。
 かつて彼に言われた言葉を思い出す。不老不死は影丸が人生をかけて追い求めたものだったが、十代は己で求めたわけではない。むしろ不本意であるからこそ『業』という言葉を選んだのかもしれない。
「まあとにかく三幻魔は関係ないからじいさんのときみたいなことは起きないよ。もし悪用を心配してるなら、オレがさせない」
 覇王として、と遊城十代はきっぱりと言った。
 影丸が三幻魔を利用しようとしたあのとき、デュエルの相手として遊城十代を選んだ理由は彼が強い精霊の力の持ち主だったからだ。当時も文献から覇王の名を知ってはいた。しかしそれは数多ある伝説上の存在にすぎず、実在するなど、ましてや目の前の彼がそうなのだとは微塵も思わなかった。だが今にして思えば、それは何か必然的なものだったのだろうか? 本当は影丸が選んだのではなく、彼の力に引き寄せられたのだろうか──。
 ──いや、違う。選んだのだ。
 運命だのを引き合いに出すのは己の責任からの逃げにしかならない。十代は己が望んだわけではない力でも受け入れているというのに。
「返してほしい? 所有権とかで言ったらあんたのだろ」
「いや、もとより人間の手には余るものだ。正しく使える者がいるなら、その方がいいのだろう」
 十代はまた影丸には見えないものを見上げた。ユベルは今、彼の右隣にいるようだ。影丸が十代の視線を追ってもそこには何もない。強大な力を持つ三幻魔を操る精霊がどんな者なのか、影丸は見ることも言葉を交わすこともできない。
「……本当にいいのかって聞いてる」
「今から封印方法を探すのも手間だ」
 実際にはすでに複数の封印方法を探してある。三幻魔のカードはいつか封じねばといつも頭の片隅にあった。しかしもう誰かに託すときなのだろう。
「そうか。じゃ、遠慮なくもらっとく。よかったなユベル、借りパクじゃなくなったぜ」
 十代が宙に向けて笑った。
「ニャア……ア」
 猫がかすかに鳴いた。見下ろせば、猫はあくびをしていた。意外と大きな口が開くと影丸は思う。何かが影丸の視界の端にちらつく。光。いや。
「大徳寺……?」
 二度と見ることがないと思った友の姿が、半透明でそこにあった。

 すとん、とファラオが影丸の膝から床に降りた。ファラオの腹から抜け出た大徳寺は、影丸に微笑んだ。影丸は驚いた顔のまま硬直している。
 十代は立ち上がって、部屋を出ていくファラオの後を追った。
 ファラオは庭に出た。秋が深まり庭の木は茶色くなっている。芝生には枯れ葉が落ちていて、掃除が大変だろうなあと十代は思った。十代は木の種類などわからないが、春には花でも咲くのかもしれない。
 ファラオは日当たりのいいベンチによじ登った。十代もそれに腰掛けると、ファラオは十代の膝を枕にすると決めたようだった。
 ファラオは旅に出たときはずいぶん重かったが、最近少し痩せてきた。何歳になるのかはよくわからない。飼い主であった大徳寺も忘れたと言っていた。十代がデュエルアカデミアに入学した頃にはもう成猫だったから、確実に十は越えている。あの頃つやつやしていた毛並みは、今は色が抜けてぼさついていた。動きもかなりゆっくりとしている。
 この十年以上、よほど危険な場所でない限り異世界であろうと共に旅をしてきた。十代が楽しく過ごそうが危機に陥ろうが、ファラオは我関せずと昼寝をしたり毛づくろいをしたり虫や小動物を追いかけたりしていた。常に気ままだが遠くには離れず、寒い日は寄り添ってくれることもあった。ファラオとしてはただ暖を求めただけかもしれないが、ふわふわの毛並みとぬくもりには癒されるものがあった。
 本当は、この小さな命を最後まで見守りたい気持ちもある。でも今はその時間がなかった。異世界という理の違う世界で死なせるのは忍びない──そんなものは十代の個人的な感情で、ファラオはそんなことに興味がないかもしれない。しかし異世界に限らずこれ以上の旅は弱ってきたファラオには酷だろう。かといって、影丸のいる療養施設が本当に最適なのかはわからないが。
 少なくとも建物は綺麗で清潔で、食事もきちんと三食出されるだろう。野宿も空腹に耐える日も無縁になる。影丸も猫が好きだというスタッフたちもよく面倒を見てくれるはずだ。
「あのじいさん、意外とおとなしかったねえ」
 ユベルが言った。そうだなと十代は頷く。
 今回十代が影丸に会いにきたのは、ただファラオを預けるためだけではない。このところ影丸に不審な動きがあると斎王琢磨から連絡があったからだ。影丸はデュエルアカデミアの旧ブルー寮の解体やレッド寮の建て直しなどを指示していたらしい。旧ブルー寮と聞いて十代が真っ先に連想するのはダークネスと錬金術師アムナエルとのデュエルだ。また不老不死になる術でも探しているのではないかと思った。しかし影丸の周辺にダークネスなどの怪しい気配はなかった。ユベルが影丸の心の闇を見ても、一般的な程度の死への恐怖くらいしかなかったらしい。
「でもデュエルはちょっとしてみたかったな」
 ユベルはもし影丸が三幻魔のカードを返せと言うならデュエルをするつもりだった。しかしあっさりと譲られてその機会は消えてしまった。
「あんまりじいさんに無理させてもかわいそうだぜ」
 ただでさえ琢磨からは弱っているようだと聞いている。十代と話すときは元気そうにしていたが、無理をしているのかもしれない。
 ──ファラオも。
 最近は食べる量が減った。虫も追いかけない。眠る時間も長くなったように思う。これ以上連れ回すのは酷だ。離れるのは寂しい。でも。
 ファラオの腹に手を乗せて、ゆっくり動く命を感じる。
「……あったかいな」
 日差しとファラオと、両方に思う。十代は目を閉じた。
 十代、キミが望むなら──。
 かつてユベルに言われたことがある。ファラオが弱り始めた頃だったと思う。十代が望むなら、その小さな命を引き延ばしてやれると。
 馬鹿なこと言うなよ、と十代は返した。生命の理を曲げるなど、本来やるべきではないのだ。きっと本当はユベルも巻き込むべきではなかった──そんなことは絶対に言えないし、考えるべきでもない。それはユベルの覚悟と愛を無碍にすることだ。
 ──それに。
 きっと自分の方が寂しくって無理だろう。たったひとりで永遠に宿命に立ち向かわねばならないなんて。ほんの十数年寄り添った猫との別れさえこんなに寂しくて悲しいのに。これからいったいどれだけ見送らなくてはならないのだろう。
 ──でもユベル、お前はもうずっとそうしてきたのか。かつてのオレが大人になれないまま死んだあの日から。
 それはどれだけつらくて、悲しくて、寂しかったんだろう。寂しいなんて言葉では言い表せないほどの孤独かもしれない。たかだか数十年しか生きていない十代には想像もつかないほどの──。
「十代」
 ユベルに呼ばれて、十代は自分が眠っていたことに気づいた。どのくらい寝ていたのだろう。先程より日の高さが違う気がした。
 十代の顔を見つめるユベルは、触れられない手で十代の目元をぬぐう仕草をする。自分の指でそこに触れたら少し濡れていた。眠りながら、せんないことを考えていた気がする。
「……道連れが、減るのは寂しいな」
 十代は呟く。ユベルは十代の手に重ねるようにファラオの上に手をやる。実際に触れることはできないけれど、それでも寄り添っていてくれる。
「撫でる?」
「毛玉はそんなに好きじゃない」
 ユベルはこんなときでも憎まれ口を欠かさない。その『毛玉』にはファラオ以外も入っているのだろうと十代は思う。
「毛玉といえば、昔翔に寝ぐせのついた頭がクリボーみたいって言われたな」
 不意に思い出した。まだレッド寮に翔と隼人がいた頃だ。あの寮も今は建て替えられたのか。学生寮なのにキャットウォークのついたあの建物は、今思えばまるでファラオのためにあったみたいだ。
「似てないと思う」
 ユベルは不満げに言った。
「そうかな。隼人もだからハネクリボーが相棒なのかなって」
「似てない」
 ユベルは十代の言葉をさえぎる。十代とクリボーたちが似ていると言われるのは嫌なようだ。それがおかしくて、十代は笑ってしまう。ユベルも笑った。急に懐かしい気持ちになった。そういえば子供の頃にも寂しい気持ちの十代をユベルはこうして笑わせてくれたのだったか。消された記憶はまだおぼろげな部分もあるけれど、時折こうして思い出す。
 膝のファラオがもぞりと動く。大徳寺が建物の方からこちらに来ていた。
「十代くん。ちょっといい知らせだニャ」
 大徳寺は、影丸が旧ブルー寮の解体をしたのは、ダークネスや錬金術の資料を確実に処分するためと、大徳寺の遺骨回収が目的だった、と話した。
「まあ、わたしの遺骨なんて砂になっちゃって回収できなかったみたいだけどニャ」
 大徳寺は笑っているが、十代には砂になって崩れた大徳寺の記憶がはっきり残っている。しかし、三幻魔事件のとき大徳寺は駒にすぎないと言った影丸が遺骨を探したということは、弔いたいという気持ちがあったのだろう。
「レッド寮も旧ブルー寮の解体ついでに、老朽化してたから建て直しただけらしいニャ」
「そっか……じゃ、いろいろ心配しすぎただけなのかもな」
 琢磨にはいい報告ができそうだと十代は思う。
「ファラオもすぐじいさんに懐いてくれてよかったな」
「ああ、ファラオはもともと影丸理事長が拾った猫だからニャ。ファラオもちょっと覚えてたかもしれないニャ」
「そうなの?」
「まだ学園が完成する前だったかニャ~。錬金術の材料にでもなるかってわたしに渡してそれっきりで、理事長はたぶん覚えてないと思うニャ。でもカラスに食べられそうだから拾ったらしくて、まだあのひとにもそういう心が残ってたんだと思って──そのときに、わたしはあのひとを止めないとって思ってしまったんだけどニャ」
 理事長には墓穴だったニャア、と大徳寺は笑った。
「じゃ、三幻魔のとき世界を救ったのはお前だな、ファラオ」
 十代が撫でるとファラオは喉を鳴らした。十代はしばらくその音に耳をすませていたが、ざあ、と風が木木を揺らす音がした。きっとまたたくさん枯れ葉が飛んだだろうなと思う。
 風が吹くと少し冷える。日が傾き始めていた。
 十代は膝のファラオを抱き、立ち上がる。
「またじいさんが悪さしねーように見張っててくれな。うまいもんいっぱい食わしてもらえ。スタッフの人も猫好きみたいだからきっと可愛がってくれるよ」
 十代はファラオに語りかける。あと何か言い忘れたことはないかな、と考える。
「……ずっとついてきてくれてありがとな。あとはここでのんびりしてくれよ」
 このふわふわの毛並みとぬくもりに、もう二度と触れられないかもしれない。ファラオは珍しく十代に頬ずりを返した。
 影丸の部屋にファラオを連れていく。ベッドにもたれていた影丸が行くのか、と声をかける。
「ああ。ファラオのこと頼むな」
 十代がベッドに近づくと、ファラオは自らベッドに降りてまた影丸の膝に乗った。
「じいさん、ずいぶん好かれたなあ」
「年寄り仲間と思われとるかな」
「かもな」
「十代」
「ん?」
「大徳寺に会わせてくれてありがとう」
 十代は驚く。そんなことを言われるとは思わなかった。
「──せめて遺骨でもと思ったが、見つからなくてな。今さら虫がいいと我ながら思ったが、死期が近くなると他人の墓まで心配になる」
「あんたの墓は?」
「妻と子の墓があるから、そこに。……まあ何十年も行っておらんから、向こうにしたら今さらだろうな」
「そっか」
 影丸が不老不死を求めた理由はそこにあるのかもしれないと少し思った。あくまでも想像だが。
「猫を弔う場所は考えてあるのか?」
「この世界にとは思ってた……けど」
 ファラオの好きな場所──デュエルアカデミアが最初に思いついた。しかしもうデュエルアカデミアにいた期間より旅をしていた期間の方が長いかもしれない。
「大徳寺の墓を作ろうと思っていてな。そこの霊園でペット埋葬もやっている。もしよければそうするが」
「先生の? ……そっか、じゃあ頼むよ。ファラオもたぶん先生と一緒のがいいと思う。先生とずっと一緒だったから」
 ファラオは本当に大徳寺を好いていた。大徳寺の魂を食べたのは偶然なのかどうかよくわからないけれど。
「……じゃあな、ファラオ」
 最後にファラオを一撫でする。ファラオは尻尾をぱたんと動かした。そっけない返事だが、それがファラオらしいと十代は思う。
「じいさんも、世話になったな」
「気をつけてな」
「うん。さよなら」
 置いていた鞄を持ち上げる。ファラオがいないとずいぶん軽かった。
 外に出ると大徳寺がいた。あれからずっと外にいたらしい。少し日は暮れ始めていた。
「十代くん、ファラオがいないからって、あんまり無茶はしないように」
「はは。最後まで先生だな」
「教師ですからニャー」
「大徳寺先生。お世話になりました」
 十代は深く頭を下げた。
「元気で」
「はい」
 大徳寺は微笑み、光の玉になって建物の中へ入っていった。またファラオの腹の中に戻るのだろう。
 歩き出す。風が冷たかった。次にこの世界に戻るときには、季節がいくつ過ぎているだろうか。
「寂しい?」
 ユベルが言った。まあね、と十代は答える。
「昔からずっとキミは寂しがりだ」
 子供の頃のことはよく覚えていないが、ユベルが言うならそうなのだろう。遊城十代として生まれる前の自分もそうだったのかもしれない。
「でもユベルがずっといてくれるだろ」
「当たり前だ」
「クリ~」
 ハネクリボーが姿を現す。
「もちろん相棒もな」
 ふたりだけではない。ネオスペーシアンたちもだ。それに異世界には新たな仲間もいるかもしれない。終わりなき宿命のもと、見送る命もたくさんあるだろう。悲しみに暮れる日もあるかもしれない。
 でも、ひとりではない。
 夕陽に伸びる影はひとつだ。しかし地面ではなく隣を見れば、心強い仲間たちがいる。十代は軽くなった鞄を背負い直し、走り出した。

2024/04/03
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