【連作】遊城十代が死んだ

【if番外編】万丈目が記憶喪失になった話

 記憶喪失になったらしい。確かに自分の名前も初めて聞いたような気がしたし、病院に駆けつけた配偶者だという男の顔にもさっぱり見覚えはなかった。黒縁眼鏡をかけた男は、まじまじと顔を見るとずいぶん若そうに見えて──そう思う自分はどうやら三十前らしい──こいつは、記憶のあるときの自分は、彼を騙したりしているんじゃなかろうかと思ったほどだ。年の差は五歳らしいが、五歳差となれば自分が高校生のときに彼はまだ小学生だ。ちょっとどうかと思う。
「キミについて聞いてもいいか」
「もちろん」
「ジェイデン──は、なんの仕事をしてるんだ?」
 そう呼ぶように言われたものの、呼び捨てにするのはややためらいがある。
「インダストリアル・イリュージョン社の開発部。オレはデュエルモンスターズのカードの元になる伝承とか遺跡とか調べたりするのが仕事。だから海外に遺跡とか調べに行くこともある」
 デュエルモンスターズは、インダストリアル・イリュージョン社の会長ペガサス・J・クロフォードがエジプトの遺跡から着想を得たゲームである──という一般常識に関してはちゃんと頭の中にある。失われたのは個人的な部分だと医者に言われた通りだ。
「そうなると一ヶ月とか帰らないこともある。今は出張の予定はないけど」
「そうか」
「万丈目は自分の仕事も覚えてない……んだよな?」
 万丈目準というのが自分の名前だと聞いている。呼ばれても他人のように感じてしまうが。
「プロデュエリストだと説明はされた」
 そもそも記憶喪失のきっかけはデュエルディスクによる感電事故であるそうだ。どうやらプロデュエリスト万丈目準は人気らしく、イメージカラーの黒を基調にしたデュエルディスクが発売される。その宣伝用動画の撮影の際に腕につけたデュエルディスクが不具合を起こし感電した──と聞いている。記憶喪失は感電が原因なのか倒れた際に頭でも打ったのが原因なのかよくわからない。
 ともかく病院で目が覚めたときには自分がどこの誰かもわからなくなっており、付き添っていたマネージャーにも駆けつけた配偶者にも見覚えはなかった。
「そう、万丈目はプロデュエリストなんだ。家にたくさん映像あるから、後で見てみるか? 何か思い出すかもしれないし……」
「そうだな。ところで……キミはいつも万丈目と呼ぶのか」
「え? うん。サンダーのが覚えあったりする?」
「サンダー?」
「万丈目サンダーって呼ばれてる」
「なぜサンダーなんだ?」
「高校のときに万丈目って呼ぶと万丈目さんだ、って怒って、それがそのままあだ名になった感じ」
 ジェイデンはおかしそうに笑う。それからちょっと目をみはると付け足した。
「……って、聞いたぜ」
 自分が高校生──となれば、ジェイデンは小学生なのだ。そう思うとやはり真っ当な関係ではないのではと思ってしまう。
「キミとはどこで出会ったんだ?」
「オレ? えっと、万丈目がアメリカに来たときに……」
「キミはアメリカ人?」
「そう。万丈目がアメリカに来て、カードショップのコーナーでオレとデュエルして、友達になって。オレが日本で仕事することになったときにルームシェアさせてくれて、それで一緒に過ごすうちに付き合うことになって」
 結婚した──のか。
「その……付き合うことになったのは、何年前なんだ?」
「三年くらい前かな?」
 二十歳そこそこのジェイデンに手を出したのか。なんて野郎だ。成人した人間同士、相互の同意があれば法的な問題はない。ないのだが──思わずシワの寄った眉間に手を当てる。
「……どうした? 頭痛い?」
「いいや……キミ、その、五歳も離れてて嫌じゃなかったのか。キミにしてみたらオレはおじさんだろ」
「えっ? そんなこと考えたことねぇよ?」
 ジェイデンは心底驚いているようだった。
「だいたいオレ──えっと、万丈目大好きだし」
 万丈目大好き、という言葉に頭の奥で何か引っ掛かったような感覚がした。以前にも言われた気がする──。
 ──そりゃ言われているか。結婚しているのだから。
 自分も彼になにがしかの愛の言葉は言っているのだろう──あまり想像できないが。
「家に帰ったらデュエルしてみるか? オレたちの出会いとかってやっぱりデュエルあってこそだと思うからさ」
 そう言って笑うジェイデンを見ると、好ましいと感じる──配偶者であると聞いたときは驚いたが、自分が彼に好意を持っていたのは事実なのだろうと自然と思えた。
 タクシーで帰った自宅は小さな古い一軒家だった。築五十年ほどのものを借りているのだという。記憶をなくす前の自分は借りた理由を「一軒家に住んでみたかった」と話していたらしい。ざっと室内を案内されながらこの家のことは「一般的な家屋だろう」となんとなく思った。平屋の小さな家は単身か夫婦で住むことを想定されているのだろう。段差が少ないようにリフォームされているようだから、もとは老夫婦でも住んでいたものかもしれない。家には太った猫がいた。万丈目準の友人が飼っていた猫を引き取ったそうだ。
「万丈目、もとはお坊ちゃんだから、こういう家に住んだことなかったんだって。オレも一回だけ万丈目の実家に行ったけど、すごいお屋敷だった」
 すごいお屋敷、と言われても今は想像がつかない。個人的な記憶だから失われたものか。
「まあ、オレのせいで実質勘当されちゃったけど……」
「結婚に反対されたのか?」
「反対とは言われてないよ。お義父さんからはおめでとうって言われて、二人とも仕事が忙しいだろうから今後はこの家に一切関わらなくていいって笑顔で言われた」
 つまりは、結婚については口を出さないから関わるなということか。
「……だから、万丈目のお義父さんとはたぶん会えない。お義母さんはどうだろ……オレはあまり話したことなくて。お義兄さんたちは──ああ、万丈目はお兄さんが二人いるんだけど、二人ともたまにオレ含めてお茶するくらいの交流はある。お義兄さんなら予定さえ合えば会えると思うけど、会ってみる? 子供の頃の話とか聞けば、何か思い出すかもしれないし」
「ああ──そうだな」
 いろいろと話を聞いた方が記憶も戻るだろう。ジェイデンはすぐに兄たちに連絡を取り、数日後に自宅で会うことが決まった。
「とりあえず万丈目の試合見てみる? 一番最近放送されたやつ」
 そう言われ、リビングで紅茶を飲みながら「プロデュエリスト万丈目準」のデュエルを見た。自信に満ちた顔でステージに立ち、始めは押されたものの逆転勝利し観客たちを沸かせる。
「一、十、百、千、万丈目サンダー!」
 観客と一緒にコールして、拍手喝采を浴びる。自分のはずなのに「テレビの中の出来事」以上のものを感じられなかった。テレビの中で幾度か「絶望から這い上がった」「苦悩を乗り越えた」といった言葉が使われたことが気になった。
 そのことをジェイデンに訊ねると、やや答えにくそうに「万丈目はいろいろ大変なことがあって」と言った。
「ええと……万丈目の友達が……」
 数年前、目の前で友達が刺し殺された──らしい。彼は万丈目準の同級生だったという。犯人はレアカード窃盗団の一員で、彼が警察の捜査に協力したことを恨まれてしまったそうだ。日中の商店街での犯行で、世間的にも話題になったらしい。
 目の前で友人の理不尽な死を目撃した万丈目準はショックを受け、二ヶ月ほど休職していたそうだ。
「毎日夢にそのときのことがよみがえって全然眠れなくて、クマで目の下真っ黒になってて……本当に大変だったと思う。だから……」
 ジェイデンは少しためらったあとに続けた。
「そういうことは思い出さなきゃいいのにってちょっと思う。いいことだけ思い出せたらいいのにって」
 そう都合よくはいかないだろう。ショッキングな出来事だけが思い出せないという記憶喪失もあるようだが。
「事件の話もあるから見ない方がいいかと思ったけど……万丈目が全日本大会で優勝したときにさ、ざっくりだけど万丈目の生い立ちが紹介された番組があるんだけど、それ見る?」
「見せてくれ」
 ジェイデンは別の番組を再生した。
 まずは万丈目が全日本大会の決勝戦で勝利を決めた瞬間から流れた。前回の雪辱を果たし「絶望から這い上がった」とまた同じ文言が使われていた。友人が目の前で殺害されたというセンセーショナルな事件はテレビ番組にとっては「プロデュエリスト万丈目サンダー」を彩る一つの道具のようだった。
 万丈目準は万丈目グループの三男として生まれ、幼い頃からデュエルの才能を発揮し、ジュニア大会で優勝するほどだった。中学からはデュエルアカデミアへ進学し──と写真や映像を流しながら生い立ちが紹介されていく。デュエルを専門的に学ぶことのできるデュエルアカデミアにおいて、万丈目準は中等部・高等部共に首席であったそうだ。学生時代のデュエルの映像がいくつか流れ、そのうちの一つは毎年行われるデュエルアカデミア本校とノース校の交流戦だった。万丈目準は一時ノース校に在籍し、ノース校代表として本校代表の遊城十代とデュエルした。その遊城十代少年こそ宿命のライバルでありかけがえのない友人であったが、十年後に悲劇に見舞われたと悲しげな音楽を流す。一人の人間の死も番組を盛り上げる材料のようであまり気分はよくない。楽しそうにカードを引く遊城十代少年を流しながら、デュエルが大好きな彼は卒業後インダストリアル・イリュージョン社に就職したと彼のことを紹介する。事件のあらましと共にHEROのカードを愛した少年はレアカード窃盗団摘発に尽力する英雄となったのだとHEROのカードを使う少年時代の彼を流す。万丈目準が休職したことに触れその後の復帰へと話を繋げた。最近の功績や全日本大会の話へと移り、全日本大会決勝戦のデュエルを流した。そして万丈目準へのインタビューへ。事件のことを言われても大変なショックを受けたが家族や友人など多くの人に支えられたおかげで復帰し優勝できたという当たり障りのない返答をしている。その後の質問にもそつなく答え、次の目標はもちろん世界大会での優勝だと自信ありげに話す。今後の活躍にも目が離せないというナレーションで番組は締め括られた。
「……どう?」
 艶のある玉羊羮みたいな目が期待と不安を混ぜた色で見つめる。
「……特に何か思い出すことはなかったな」
「昔の写真や映像見ても?」
「ああ」
「そうか……」
「テレビ番組は誇張が多いと思うが、あれはどのくらい事実に沿ってたんだ?」
「うーん……別に嘘はないと思うんだけど、前に万丈目と見たときは、なんでエドや吹雪さんの話がないんだって言ってた」
「その人たちは?」
「あ、エドはエド・フェニックスって学生の頃からプロやってたデュエリスト。万丈目にとってはアカデミアの一年後輩。万丈目はプロ入りする前にしばらくエドの付き人やってたんだ。プロになれたのはエドのおかげって感謝してる。吹雪さんは、天上院吹雪っていうアイドルデュエリストで、年齢は万丈目の二個年上なんだけど、休学してて同級生だった人。優勝する前の年の決勝戦で万丈目は吹雪さんに負けて準優勝だった。二人とも万丈目にとっては師匠みたいなとこあって、万丈目のドキュメンタリー? 作るんなら絶対外せないんじゃないかなってくらい大事な人だと思うんだけど……」
 話はすべて「友人の死という悲劇からの復活」に集約されてしまった──ということか。テレビ番組にとっては「おいしい題材」だったのだろう。
「万丈目の人生に別にオレは大事じゃないと思うんだけど」
 なぜ急にそんなことを? ドキュメンタリーに彼は登場しないからだろうか。
「いや、大事だと思うが。出なくて残念だったか?」
 ジェイデンはきょとんとしてこちらを見返す。
「出るって?」
「ドキュメンタリーに」
「オレが?」
「映せなくてもパートナーに一言あればよかったな」
 ジェイデンは目を瞬かせた。少し会話が噛み合っていない気がする。
「……ごめんオレさっき何言った?」
 どうやら無意識に出てしまった言葉のようだった。
「万丈目の人生にオレは大事じゃないと……あの編集は事件に偏りすぎてたが、大事じゃないなんてことはないと思うぞ」
 ジェイデンは少し目を見開いたあと、はにかんだ笑顔を見せた。
「……万丈目大好き」
 その言葉はやはり頭の奥の何かを揺さぶる。デュエルの映像やドキュメンタリーを見るよりもよほど記憶への刺激になるのではないか。最初はそれが自分の名かわからなかった「マンジョウメ」という音も、ジェイデンに呼ばれていると自分のものだと感じてきている。何かを見るよりジェイデンと話す方がいいのかもしれない。
「……それはすごく聞き覚えがあるように感じる」
「本当か? オレ結構よく言うもん。覚えてた?」
 ジェイデンは少し照れながらもさらに笑みを見せた。明るくあたたかい笑顔だと思う。きっと記憶をなくす前もこの笑顔が好きだっただろう。
「オレは普段、そう言われたらなんと返していたんだ?」
「うーん、そのときの気分でいろいろかなあ? 昔は照れて何も言ってくれなかったり、勝手に言ってろとか言われたり」
「ひどくないか?」
「八割照れ隠しなのはわかってたから別に。最近はオレもって言ってくれることもあるかな。だーいぶ言いにくそうにだけど」
「……あんまり素直じゃないんだな」
「そこも可愛いと思ってるぜ。でもまあ、昔嫌われてたのは本当かなあ」
「気が合って友達になったんじゃないのか?」
「ザックリ説明するとそうなんだけどさあ。オレ万丈目のこと負かしちゃったからさ」
 なるほど、プロの身でありながらアマチュアのジェイデンに負けて、第一印象は悪かったのか。
「そこからよく結婚なんてしたな」
「……紆余曲折ってやつ? 細かく説明するのはちょっと大変」
 アメリカで出会い日本への転勤を機に同居し交際──というのはものすごく経緯を簡略化しているようだ。
「……でも、きっかけはあの事件かもな。すごくショック受けてたから、本当はそこにつけ込んじゃったのかも」
 事件とジェイデンが日本に来たのは同じ頃だったか。
「キミがつらい時期を支えたということだろう」
「……どうだろ、オレのせいでつらかったんだし」
「どうしてキミのせいなんだ?」
 ジェイデンは黙ってこちらを見つめた。
「……思い出せないならその方がいいのかも」
 どうやらジェイデンは話したくないようだった。悲しげな、寂しげな目をしている。
「……何があったかはわからないが、たぶん万丈目はそれでもキミが好きだと思う」
「へ……?」
 丸くなった瞳はやはり玉羊羮に似ている。ロマンチックなたとえではないが、宝石か何かに例えるより素朴な菓子の方が彼に似合う気がした。アメリカ人の彼の瞳を羊羮に例えるのも変かもしれないが。
「つらかったりしたことも含めてキミが好きなんじゃないか。そうでなければ結婚していないと思う」
 当の本人なのに他人事のような言い方になってしまうが、現在二人が結婚しているなら「万丈目」はそれを受け入れたということではないだろうか。
「……へへ、なんか、気ィ遣わせちゃったな」
 ジェイデンは少しだけ笑って頬をかいた。
「万丈目が大変なのにオレが愚痴っちゃダメだよな」
「キミだって今大変だろう。配偶者が記憶喪失なんだから」
「でもいろいろ不安だったりするだろ?」
「今はあまり。不安になるほどの記憶もない……というか」
「そうなの?」
「……まだいろいろと実感が持てないのかもしれない。もしかしたらこれは夢みたいなものなのかと」
「胡蝶の夢?」
「ああ、そうかもな」
「記憶なくす前も似たようなこと言ってたことあるよ。記憶なくなっても考え方みたいなのは同じなのかな。そんときはさ、味がしたら夢じゃなくて現実じゃないかって話をしてさ。──そうだ」
 ちょっと待って、と言うとジェイデンは紅茶のカップを片づけて緑茶と茶菓子を盆に載せて戻ってきた。奇しくも茶菓子は先程から考えていた玉羊羮だ。
「これ、万丈目が買ってきたんだ。玉羊羮好きみたいで、たまに買ってくるよ」
 彼の目に似ているからだろうか──と一瞬頭によぎった。そうなると目玉を食べるようで気味が悪いから黙っておいた。
 羊羮はほんのりと黒砂糖の味がした。これは仕事で地方へ言ったときの土産らしい。
「プロデュエリストってどんな仕事なんだ?」
「オレもあんま詳しくないけど、さっき見たみたいなデュエルの試合するのとか、地方のデュエルイベントのゲストしたりとか……みたい。前はテレビのバラエティー番組出たりも多かったけど今は減っちゃったな。事件のせいもあるかもしれないけど……。でも全日本大会の優勝もしたし売名はもう必要ないみたいなこと言ってた。テレビ出るにしてもデュエルが中心のやつに出たいみたい。前に一クール『万丈目サンダーのデュエル講座』って冠番組持ってたこともあるよ。インターネットの動画チャンネルもあって、事件のあと体調見ながらできるからって始めたけど、結構人気。これはパック開封とかデュエルモンスターズのデジタルゲームの実況とかやってる」
 まあ──なんにせよデュエル関係のことをしている、ということか。
「そうだ、デュエルしてみるか? ルール覚えてる?」
「ええと──相手のライフをゼロにする?」
「そうそう。とりあえずいつものデッキ見てみろよ」
 ジェイデンはオレのデッキだというカードの束を持ってきた。
「カードの見覚えは?」
「さっきテレビで見たやつだなとは……」
 普段使っているというデッキだそうだが、あまり覚えはない。
「こいつが万丈目のエースカード。デュエルアカデミアの頃からずっとな」
「攻撃力ゼロだな」
「うん。だからこっちの魔法カードで……」
 ジェイデンはデッキの使い方を説明する。どうやら万丈目準は単純な攻撃力よりも戦略を重視したデッキを組んでいるようだった。
「こっちのアームド・ドラゴンはノース校の校長からもらったやつ。当時はこの一枚しかないカードだったんだ」
 先程のドキュメンタリーでも出てきたなと思う。
「万丈目はノース校でも一番強くてノース校の校長にこのカード託されたんだ。交流戦のときデュエルはオレが」
 ジェイデンは言葉を詰まらせた。
「……オレが見ても惜しい試合だったけどさ、かっこよかったぜ」
 なぜだろうか、ジェイデンはたびたびこのように言葉を詰まらせ、少し考えてから続きを言う。最初は言い間違いをしたのだろうかなどと思ったが、こう何度もあると彼には何か秘密があるのではないか──とさえ思う。
 別にジェイデンが悪い人間には思えない。病院に駆けつけたときなど本当に焦った様子だったし、今も自分をよく気遣ってくれている。しかし自分たちのことなのに詳細を話したがらなかったり、思い出さない方がいいと言ったりする。先程ジェイデンの言ったように二人の間には紆余曲折あったのだろうし、過去に大きく関係に亀裂が入ったこともあるのかもしれない。そのことを思い出させたくない、だとか……。
「万丈目?」
 ジェイデンが説明をしてくれていたのに、いつの間にか聞いていなかった。
「……ごめん、一気にいろいろ言って、わかんないよな」
「あ──ああ……今のオレには、難しそうだ」
 実際、「手持ちのカードで相手のライフをゼロにする」以上の知識は現在の自分の脳にはないようだった。カードを見てもどのように使えばいいかはまるでわからない。
「ちょっと初心者向けの持ってくる」
 ジェイデンは初心者が買ってそのまま使えるというストラクチャーデッキをいくつか持ってきて基本的なやり方を説明してくれた。模擬戦で大まかな流れを把握すると共に、膨大な種類のカードとその効果の絡み合う複雑なゲームであることも理解した。記憶を取り戻さなければプロデュエリストとして仕事をするのは無理だろう。
「まあ、仕事できなくても心配はしなくていいよ。オレ一生面倒見るつもりでお前と結婚してるし」
 五歳も下の相手にそんなことを言われるのは不甲斐ないような気がした。そう思ったのが顔に出たらしく、ジェイデンは苦笑いしてさらに続ける。
「万丈目もあんまお金使う方じゃないから蓄えはあると思うし、とにかく慌てなくて大丈夫だと思う」
 まあ──経済的な心配はしなくていいと言いたいのだろう。
「まずは焦らずうちで日常生活してみるのどうかな。好きなもん食べたりしたら案外あっさり思い出すかもしれないし」
 ジェイデンは明るく笑ってみせた。

◇◆◇

 翌朝、万丈目はクマこそないもののげんなりとした顔で起きてきた。最近悪夢にうなされなくなったけれど、記憶喪失になったせいで逆に悪い記憶だけ夢に出たりしてしまうんじゃないかと、そんなことを思ったりする。
「おはよう。……なんか悪い夢でも見た?」
 万丈目は少しためらったあとに、ひまわりが、と言った。
「ひまわりが落ちてて、そこから血が流れる夢を見た」
 ひまわり──。
「あ! 庭のひまわり!」
 万丈目が世話をしているひまわりに、昨日の夕方は水をやっていない。オレは完全に忘れていたし、万丈目は記憶喪失なのだからやるはずもない。万丈目を着替えさせて、一緒に玄関前の庭に行く。かなり狭いのだが、一応土があって万丈目が石で囲って花壇っぽくしてあるのだ。今はそこに小さな芽がたくさん出ている。
「この前芽が出たとこなんだ。危うく枯らしちまうとこだった」
 万丈目がいつも使っているジョウロを渡して、万丈目に水やりをさせてみる。特にジョウロの使い方がわからないなんてこともなく、万丈目は小さな芽に水をかける。
「無意識っていうの? そういうのがひまわりが枯れちまうかもって思って見た夢かな」
 血の方はオレのせいだろうなと思ったけれど、それは黙っておいた。
「……かも、しれないな」
 万丈目は少しだけ笑った。記憶がないから仕方ないけど、少しだけ他人行儀だと思う。
「これは朝晩やった方がいいのか?」
「うん、確か。あんまり土が乾いてなさそうなら一回でもいいんだったかな」
 前に万丈目が仕事でいなかったときにそう言われた覚えがある。
「結構植物とか好きみたい。ひまわりは毎年植えてて、今年のは去年取った種を植えたんだ」
「そうなのか……」
 花壇を見つめる万丈目に、その石はお前が積んだんだとか秋ごろからは別の花を育ててたとか、そんな話をしたけれど、万丈目に覚えはないようだった。昨日の夕飯は好物のエビフライにしてみたけどものすごくいい反応があったわけじゃない。好きなものを食べたところで記憶に響くものではないようだった。
 やっぱり子供の頃の話とかの方が効くのかな、なんて思ったけれど、彼の兄たちに昔の話を聞いても万丈目は特に何かを思い出すことはなかったようだった。それでも、兄たちには親近感があり、記憶はなくても兄弟だと思えたというから、兄たちと話したことはまったくの無駄でもないようだった。
 誰かに話を聞くのは効果があるのかもしれない──そう思って、オレは友達から話を聞いてみないかと万丈目に提案した。ぜひ聞きたいと言われたから翔に連絡してみた。翔と万丈目は仕事でもプライベートでもよく会う間柄だ。高校生の頃のことから最近のことまで知っているから、記憶を取り戻すのに一番ふさわしい相手ではないかと思った。
 記憶のない万丈目に電話させるわけにもいかず、オレが翔に電話した。約束をする短時間の電話とはいえ妙に緊張した。翔はオレの正体には気づかなかったようだった。思えばあの日から翔と話したのはこれが初めてで、嘘をつくのは罪悪感がものすごかった。万丈目はいつもこんな思いをしているのだろうか。オレは万丈目にこんなことをさせているのか。やっぱりオレのことなんか思い出さないでいる方がいいのかな。そうしたら万丈目はもう嘘をつかなくて済む。
 だけどそうなったら、万丈目といられる時間はあと二十年もないかもしれない。万丈目に嘘をつかせないなら、息子や孫として一緒にいるのなんて無理だ。万丈目はオレの葬式をしてくれるかもしれないけど、オレは万丈目の葬式をできない。
 さいごのさいごまで一緒にいたいのに。
 万丈目とはどんなに長くても百年もいられない。その短い時間をなるべく悔いのないように過ごしておけというのが、オレよりずっと永く生きているユベルからのアドバイスだった。後悔を抱えたまま永い時を生きるのはつらすぎると。
 お前もそうだったの? と聞いたら、キミを失って後悔しないわけがないと言われた。オレとユベルは互いを一度失ってもこうしてひとつになることができた。その過程になんの痛みも悔いもないわけではないけど、ひとつになったことで癒えたものもある。もう永遠に離れることはないから、消えない後悔も痛みもあるけどものすごくつらいわけじゃない。
 だから、もし記憶を取り戻せないなら、やっぱりオレが遊城十代であることは話さなくてはいけない。嘘をつかせてでも一緒にいたいなんて、わがままが過ぎるけど。
 万丈目の人生にオレが織り込まれたみたいに、オレの人生にだってもう万丈目が織り込まれてるんだ。
 翔が家に来る時間、オレは鉢合わせないように外せない仕事があると嘘をついてその時間家を空けた。翔が帰ったあと、万丈目は翔から卒業アルバムを見せてもらったりしながら学生時代の話を聞いたり、卒業後に一緒にしていた仕事の話を聞いたりしたと言った。
「何か気になることあった?」
「精霊が見えるという話を聞いたんだが、本当か?」
 その話もしたのか。異世界に行ったことも話したのかな。
「ああ、本当だよ。おジャマたち、ちょっと出てきてくれ」
 そう声をかけると、おジャマ三兄弟はおそるおそる姿を現した。万丈目はそれを見て目をみはる。
「……これが精霊?」
「ああ。お前の相棒のおジャマ三兄弟」
「アニキ……アタシたちのこと、本当に覚えてないのね」
 イエローは目を潤ませた。
「すまない。早く思い出せるといいんだが」
「やさしくて怖いな」
「別人みたいだよ」
「思い出したあとキレたりしないか?」
 グリーンとブラックが身を寄せ合う。
「びっくりしちゃうかなと思って、ちょっと隠れててもらったんだ」
「そうなのか。……キミも精霊が見えるんだな。あまり見える人は多くないと聞いたが」
「そうだな。あんまりいないみたいだ」
「キミにも何か精霊が憑いてるのか?」
「いるけど、今はちょっと出てこれないんだ。……精霊に会ったら記憶戻ったりするかな?」
「どう……だろうな」
 万丈目はまたおジャマ三兄弟を見た。
「万丈目、すごく精霊に慕われてるんだよ」
「そうよ、アニキはアタシたちみたいなカードでも、華麗にデュエルしてくれて!」
「こんな楽しいデュエルができるなんて、井戸にいたときには思わなかったよな」
「そうそう!」
 グリーンとブラックはアカデミアの井戸で万丈目に拾われたこと、共にデュエルしたこと、そこの精霊たちと万丈目がしばらく一緒にいたことなどを話した。
「他の精霊たちはあの島の居心地がいいからって残ったけど、アタシたちはずっとアニキと一緒よ! たとえ記憶がなくなったって」
「そうか……ありがとう」
 万丈目は微笑み、三兄弟は悲鳴をあげた。
「素直すぎて怖い!」
「明日槍でも降るんじゃないか?」
「アタシは素直なアニキだって好きよ!」
 おジャマ三兄弟の反応に、万丈目は少し困ったみたいだった。
「あんまり言うと万丈目も困っちゃうぜ」
「あら、ごめんなさい」
「いや、大丈夫だ」
「いつもならすっこんでろ雑魚どもって言うところだぜ」
「調子狂うよな」
 グリーンとブラックはまたささやき合う。
「まあ──記憶なくても精霊はちゃんと見えてよかったよ」
 精霊を見てもそこまで驚いてないあたり、少しは覚えてるのかな。
「精霊たちも含めて、オレの人生にはデュエルが大きく関わっているんだな」
「そうだな」
「やはり記憶を取り戻すにはもっとデュエルした方がいいと思う」
「おお! それならオレも手伝えるぜ!」
 やっぱりデュエルだよな!
 それから毎日、万丈目はデュエルのルールやカード効果を読み込んだり、オレと対戦したりした。万丈目は自室にあったデュエル哲学やデュエル物理学の本まで読み込んでいた。記憶をなくしても勉強家なのだ。
 デュエルの記憶はしっかり身体に染み着いているのか、万丈目のデュエルはどんどんうまくなっていった。普通の初心者だってこんなに早く上達しない気がする。人間、泳ぎ方や自転車の乗り方は忘れないらしいから、デュエルのやり方だって忘れないんだろうか。
 一週間もすれば、万丈目はもう初心者向けのデッキならばオレと互角に渡り合うようになった。プロのデッキのおジャマとアームド・ドラゴンを織り交ぜる複雑なデュエルはまだ難しいようだったが、それに慣れるのもすぐだろう。それを使いこなせたらきっと記憶も取り戻せるんじゃないか──そんなことを思った。
 だがそんな単純なことはなく、おジャマ&アームドデッキを使いこなせるようになっても万丈目の記憶が戻ることはなかった。
 万丈目が記憶をなくしてもう一ヶ月経つ。最初は「不安になるほどの記憶がない」と言っていた万丈目も、こんなに戻らないとだんだん不安になってきたみたいで、元気のない日が増えたように思う。
「おはよう。……あんまり眠れなかった?」
 ほんのりとクマのできた目元を見てそう言った。万丈目が記憶を失くしてから夜は別の部屋で寝てるから、夜中にうなされたり飛び起きたりしてないかどうか、オレにはよくわからない。
「やっぱりあのときの夢とか見る……かな」
「そんなことは……」
 万丈目は目を逸らした。やっぱり見てるんじゃないかな。
「……悪い夢ではないんだが」
「どんな夢?」
「……遊城十代の」
「やっぱり悪い夢じゃん」
 最近夜中に飛び起きたりはしなくなったけど、万丈目の中にはまだくすぶっているんだと思う。
「あのときの夢ではなくて……デュエルしたり、話していたり……それに」
 万丈目は一度言葉を止める。何かためらっているみたいだ。いったい何が言いにくいんだろう?
「……ここで暮らしているような夢を見る。……遊城十代と」
 覚えてるんだ──。
「な……なんで笑うんだ」
 万丈目は戸惑っている。顔がニヤけちゃったみたいだ。
「ごめん。でも、嬉しくて」
「何が?」
「覚えててくれたから。だってオレが遊城十代だから」
 そう言うと、万丈目は顔をしかめた。
「……そういう冗談はよくないぞ」
「冗談じゃないって! ほら」
 オレは眼鏡を外して髪と目の色を元に戻す。万丈目はそれを見て驚いたけど、また不機嫌な顔になった。
「確かにキミの顔立ちは遊城十代に似ている。その手品もすごいがな──不謹慎だぞ」
「いや本当に」
「遊城十代は死んだ」
「生きてるよ、今目の前に」
「あんな状況で生きてるわけないだろ!」
 万丈目は大きな声を出した。覚えててくれたなんて浮かれてしまったけど、万丈目はあの夢を何回も見てつらかったんだろう。この一ヶ月、一度もオレに話してくれなかったけど。
「……すまない、怒鳴るべきではなかった。とにかくそういう冗談はやめてくれ」
 万丈目は悲しそうな顔をしてため息をついた。そうか、今万丈目の中でオレは「ジェイデン・ケント」なのだ。急に不老不死だなんて言ったら混乱すると思ってそうしたけど、失敗だったかも……。
「ええと、記憶をなくしたお前が混乱すると思って説明しなくて悪かったよ。でも本当にオレは遊城十代で」
「待て、もしかしてそれはオレがさせてるのか? なんというか、あー……ごっこ遊びを?」
 万丈目は、悲しそうな顔から一転、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「ごっこ遊びはしてねえ」
 むしろジェイデン・ケントがごっこ遊びだ──そうか、記憶をなくした万丈目にはジェイデン・ケントこそ本当で遊城十代の生存が嘘になってしまうのか。
「信じてもらえないかもしれないけど……」
 オレはこれまでの経緯を万丈目に話した。おジャマたちにも説明を手伝ってもらう。万丈目は非常識な話が出るたび変な顔をしたけれど、最後まで話を聞いてくれた。
「まあ……精霊売買の組織から身を守るために死を偽装して証人保護プログラムを受けた……というのは筋が通っている。キミがそうまでして遊城十代ごっこをしたくておジャマたちまでそれに協力しているという可能性も捨てきれないが……」
「疑うなァ……」
「一ヶ月も経ってるんだぞ」
「それは……本当にごめん。もうすぐ戻るかなって思って……お前には貴重な一ヶ月だよな」
 プロにとって一ヶ月の休職は痛手だろう。
「あのときも二ヶ月も休職させちゃったし、本当に迷惑かけてごめん」
「キミのせいではないだろ。だいたいキミが遊城十代だと聞いたところで記憶は戻ってない。真実なのか設定が念入りなのかの区別は──つかない」
 万丈目にオレが遊城十代だとわかってもらいたい。でも身分証とか全部ジェイデン・ケントになってるし、遊城十代ってどうやって証明したらいいんだ?
「……デュエルするか? そしたらオレが遊城十代だってわかるんじゃないか?」
「デュエルなら何度もしただろ」
「まだオレのデッキとはやってない」
「……E・HEROか」
 万丈目の目つきが鋭くなる。記憶を失ってからまだE・HEROデッキでデュエルしたことはない。でも万丈目はこの一ヶ月、過去の自分のデュエル映像を見て記憶を取り戻そうとしてきた。その中には学生時代のオレとのデュエルもあった。
「いいだろう。デュエルで遊城十代だと証明してくれ」
 万丈目はオレをにらんだ。まるで学生の頃みたいで少しどきりとした。

◇◆◇

「待たせたな」
 そう言って現れたのは、デュエルアカデミアの赤い制服を着た少年だった。左腕には白が基調で赤いライン入りのデュエルディスク。脳裏にかつてデュエルフィールドで彼と向き合った日がよみがえる。
 ここはインダストリアル・イリュージョン社日本支社内にあるデュエルフィールドだった。彼──ジェイデン・ケントが精霊研究室の社員として申請すれば使えるものであるらしい。彼の同僚たちは事情を説明され協力をしているらしく、支社ビルに入ってからの道案内は浦川という女性がしてくれた。オレが彼のことで精霊研究室へ電話したときにいつも出るのは自分なのだと言われたが、覚えはなかった。
 彼はオレがデュエルフィールドに案内されたり同僚たちに挨拶されたりするうちにあの制服に着替え、髪と目の色を「遊城十代」のものへと変えてきた。
 遊城十代が生きている、と言われてすぐに信じることはできなかった。だが、目の前にいる彼は確かに遊城十代だと、オレはほとんど確信していた。
 彼が目の前で何度も刺されたことを、記憶を失っても何度も夢に見た。素人目に見てもあの状態で生きてはいまいと思った。これがジェイデンがずっと心配していた記憶かと思うと、彼に話すことはできなかった。
 今思えばそれを話してしまった方が彼は自分が遊城十代であると言い出しやすかったのかもしれない。記憶を失った日から、彼はずっと遊城十代の話題で不安げな顔をしていた。
 最初は嘘をつかざるを得なかったのだろう。記憶を失い病院で「配偶者のジェイデン・ケントが来る」と言われたのに名前を聞いたこともない「遊城十代」が来たらまったく信用できない。一度はジェイデン・ケントとして話を合わせるのはわかるし、記憶喪失直後に荒唐無稽な話をされても困る。不老不死だとか、幽霊教師だとか、破滅をもたらす光の波動と命を育むやさしい闇の対立だとか──。
 話を聞いて、説明するより記憶が戻るのを待ちたくなった理由もわかった。でももっと早くに教えればいいものを──ジェイデン・ケントを遊城十代の代わりにしていたかもしれないなんて悩んでいたのが馬鹿みたいだった。
 繰り返し見た遊城十代の夢──彼が心配していた事件の夢も見たが、デュエルをしたり授業を受けたりといった、学生時代の記憶らしい夢も見た。最初はそれほど親しい友人だったのだろうと思った。しかし時間が経つにつれて夢は学生時代から最近のものになり、まるでジェイデン・ケントの位置に遊城十代がいるかのような夢を見た。共に食事をして、ソファで身を寄せ合って座り、同じベッドに眠り──その固いキャラメルのような色の瞳が自分を見つめるときに込められた感情が、それを見た自分が彼に抱く感情がなんであるのかなど、考えるまでもなかった。
 もしジェイデン・ケントへ遊城十代を重ねているのならば申し訳ないと悩んだというのに、赤い制服の彼は学生の頃と変わらない能天気な顔で笑っていた。
「久しぶりで見惚れてる?」
「誰が見惚れるか。少しばかり見覚えがあると思っただけだ」
 互いのデッキを交換しシャッフルする。彼のデッキに触れると、懐かしい気配がした。
 視界の端に茶色い毛玉と、白い羽根。ハネクリボーはクリクリと鳴いてふわりと彼の肩に乗った。
「負けないわよォ! ね、アニキ!」
 おジャマ三兄弟も姿を現した。もしかして、先程のハネクリボーの鳴き声は挑発だったのだろうか。
 デュエルディスクにデッキをセットし、離れて向かい合う。頭の奥から、何度もこうしてデュエルフィールドに立った記憶が流れてくる。プロとして対峙した数数のデュエリスト。師も同然のエド・フェニックス、天上院吹雪。学生時代の懐かしいデュエル、天上院明日香や三沢大地、そして──。
 憎らしく愛おしい顔が自信ありげに笑っていた。
 審判役の精霊研究室長がデュエルの開始を宣言した。
「もう手加減なしだぜ!」
「こっちの台詞だ! 病み上がりと思って舐めるなよ!」
 先攻はオレだ。デッキからカードを一枚ドローした。幸先のいい引きだった。十代を見れば、キャラメル色の目がキラキラと輝いていた。

2025/10/07
(2025/08/31に前半を未完として公開したものに加筆)
2025/12/05 一部修正
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