一話完結短編
8月31日
「あ。誕生日じゃないか、キミ」
ユベルが思い出したように言った。十代はたった今自分が記入した数字が八月三十一日だったことに気がついた。
「あー。本当だ」
十代は他人事みたいに頷いた。実際他人事なのかもしれない。もうずっと精霊界にいて人間の暦を半ば忘れかけている。暦のルールもとうの昔に変わって、グレゴリオ暦の八月三十一日と現在の八月三十一日は同一ではない。八月は明日からもまだ続くしもうしばらくしたら人人はもう一年も終わりだと言い出す。人の世界はずいぶん変わってしまった。何千年と経てばそうなるのだろう。
人の世は移ろいやすいものだ、なんて昔の人は言ったけど、その「人」自体も変わってしまうなんて昔の人には想像もつかなかったんじゃないかなあ──そんな風に十代は思う。
滅びを免れるために人類は自ら変化することを選び、現在の「人類」と「十代が認識していた人類」はずいぶん違っている。「かつての人類」はほとんどいなくなってしまった。人数は少ないものの現在もどこかにいるらしい。わざわざ会いに行ったことはない。会いにいけば今現在がグレゴリオ暦の何年何月何日なのかわかるのかもしれないが、自分の年齢や誕生日にそれほどこだわりがあるわけではない。そもそも本当にそれが正確なのだろうかと思う。この世界はかつてと大きく違うのだから。
十代は記入した書類を職員に渡した。ここは人間界の門にあたる場所だ。どんな技術か知らないが、異世界から人間界に行こうとするとここに飛ばされる。ここで入国手続きのようなことをしなければ人間界を歩くことはできなかった。書類を渡した職員、十代からしてみれば「新人類」とでもいうべき彼らは、顔は人間に近いが身体には植物が混ざっている。これもやはりどのような技術か知らないが、かつての人類は植物と融合することを選んで生き延びた。
「はい、大丈夫です。では、ごゆっくり」
職員は書類を確認すると微笑んだ。声は頭の中に直接響いてくるような感覚だ。「新人類」のコミュニケーションは音声ではなくなった。
外に出ると、ピンクの空が広がっている。色つきのわたあめみたいだ。夜になっても星空は見えない。「新人類」からそのメカニズムについて講釈を聞いたこともあるけれど、十代の頭からはそんなことはもう消えてしまった。そもそも空が青かった理由さえよく覚えていない。太陽の光と地球の大気のナントカカントカだろうが、世界を作った神様の手元に青い絵の具が大量にあったからだろうが、十代にはどちらでも構わない。わたあめみたいな空だって、無限にわたあめが出てくる石臼の止め方を忘れたんだろうがなんだろうが、なんだっていいのだ。
「石臼?」
ユベルが聞き返す。
「わたあめに石臼はないだろう。モーターかなんかがいる」
「石臼は塩だな。海の底に沈んでる……」
この世界にはもう海もかなり減っている。今現在地表になっているところをくまなく探したら、無限に塩の出てくる石臼が見つかるのかもしれない。
きっとそんな物語はとうに失われている。でも違う物語を「新人類」は生み出しているのかもしれない。
「わたあめとはなんですか」
十代の頭に言葉が浮かんできた。周りを見回すと一人の新人類と目が合う。
「どうも」
十代がそう言うと新たな人類はにこりと笑う。
「わたあめってのは昔人類の食べてたお菓子だよ。砂糖でできてる。綿みたいにふわふわで……綿はわかる?」
こくりと頷く。
「見た目はあれに似て、食感もふわふわで甘いんだ。それがわたあめ」
「ありがとう」
「どういたしまして」
彼──十代には男か女かの区別さえつかないが──は、棒切れのようなものを差し出した。この世界の貨幣だ。彼らにとって、何か教えてもらったらその代金を支払うのが礼儀であるらしく、十代はそれを受け取った。少し質問に答えるだけでこうだから、この世界で金に困ったことがない──とはいうものの、使い道も特にないのだが。彼らに何か聞いてこれを渡そうとしても、それより「原なるもの」──彼らはかつての人類をそう呼ぶ──の何かを教えてくれと言われて質問に答えればチャラになってしまうことが多い。原なるものは彼らの好奇心の対象だ。しかし話しかけすぎるのはマナー違反ということになっているらしく、あまり声をかけられることはない。こちらから話しかければみな親切だ。それは、ここが原なるものが足を踏み入れることが許可された場所だから、かもしれない。
十代は、この世界の全貌をよく知らない。地図や地球儀を見せてもらったが、十代が足を踏み入れていい場所はそのうちの一部だけだ。もっと他に行けないのかと言うと「危険ですから」と言われた。なんでもこのピンクのわたあめみたいな空には有害物質を取り除く作用があるらしく、その外に出れば原なるものはひとたまりもないのだそうだ。それが事実かどうかは知らない。新人類が旧人類を好き勝手出歩かせないために揃って嘘をついているとしても、十代には判別がつかない。
かつてはこの地球上で生まれたといっても、現在の十代は自分が部外者であると感じる。一度この世界を見捨ててしまっているのだから、それも当然のことなのだ──。
「キミねえ! いい加減にしなよ!」
ユベルが声を荒げたのは何回目に丸焼きにされたときだったか。どうやら突然に戦争を始めてしまったらしい人類は、遠慮なく地表を何度も焼いていた。十代は何が起こったのか調べようとしたのだが、ただ何回も焼かれるばかりでろくに情報を得ることができなかった。確かなのはそれに光の波動もダークネスも精霊も一切関与しておらず、ただ人間同士のいさかいから起きてしまったものらしいということだ。
「こんな状況でキミにできることはない。もう諦めろ」
怒りをにじませた目でユベルは十代をにらんだ。
「でも」
「でもじゃあない! あのね、第一こんな焼け野ッ原で人間見つけたって事情のわかるやつなんかいないんだ! どっかで安全にぬくぬくしてるお偉いさんしかわかんないの! そんなお偉いさんはどこにいるかわかんないし、もしわかってもお偉いさんはキミみたいな国民番号もないやつとは会わない! 会ったところでキミは何をするんだよ、覇王の力でお偉いさんたち操るのか!? キミがデウスエクスマキナになろうってンなら手伝ってもいいけど、しないだろ!」
デウスナントカが何かまったくわからなかったが、おそらく力ずくの解決法なのだろうとは察しがついた。
「だいたいキミはボクも他の連中も守ってるつもりだろうがね、火は免れてもキミが焼かれて治るまでをボクらは見てなきゃいけないんだよ! あと何回それに耐えろっていうんだ!」
二色の目には怒り以外にも悲しみや嘆きが宿っていた。焼かれる痛みはかつてユベルが経験したものだ。ユベル自身が焼かれなくても、かつての記憶を思い出させただろう。そして愛するひとが傷つく姿を見るということ──十代はそれについてはまったく考えが及んでいなかった。どれほどユベルを、仲間たちを傷つけてしまったのだろう。ユベルの言うことはすべてもっともだと思えた。
十代は長い間、人智の外側を守ろうとしてきた。それが人間に悪影響を及ぼさないことだと思っていたが、同時に人間社会への関わりを放棄してきたことでもあった。人間社会の内側から起こったことに十代はなんの力もなかった。人智の外の力を使って人間を操ればこの戦争は一旦終わるのかもしれないが、それは人間社会にとっての新たな厄災にすぎない。
自分にできることは何もないのだと十代は思った。
そうして十代は人間界を去った。逃げ出したと言っていい。避難だよとユベルは言った。事実多くの精霊たちが人間界から精霊界へと避難していた。
精霊界は精霊界で混乱が起きていた。その混乱をなんとかするために十代は走り回った。その間は人間界への罪悪感を薄めることができたし、目の前の者を救うことは十代の癒しにもなった。多くに慕われ、時には恨まれ疎まれ──それでも精霊界は十代にとって居心地がよかった。
もはや人間界へ戻ることはないと思っていた。気がつけば数千年の時が経ち、精霊界にも最近の人間界は安全になったようだという噂が届き十代は人間界へと足を運んだ。すっかり様変わりした人間界には新たな文明が築かれていた──。
「ケーキでも食うか」
原なるもの向けの食品を扱う飲食店を見つけて中に入った。ケーキそのものはないが、ドライフルーツ入りのパンと甘いクリームを頼んだ。先ほどもらった貨幣で代金を払う。パンもクリームも植物を原料にしているそうだ。動物はあの戦争で多くが死滅してしまったと聞いた。
「覇王城にいた方がいいもの食べれたかもね」
「オレたち向けに作ってくれるだけありがたいぜ」
食感としては固めでクッキーやクラッカーに近いかもしれないと十代は思う。原なるものは少数だし、保存のきくものを用意しているのだろう。クリームを載せればケーキらしくないこともない……。
「ケーキにはほど遠いけど、お誕生日おめでとう」
「ありがとう」
たぶん本当の意味で「誕生日」なわけではないけれど。それでも祝いの気持ちとその言葉が嬉しい。
「昔はこんなに小さかったのに……」
ユベルは豆粒のような大きさを指で示してみせた。
「そんなに小さなわけないだろ」
「本当さ。胎児ってのは小さいからね」
胎児? そんなわけないだろうと思うが、ユベルが覇王となる前の幼い十代を見つけ出したのは事実だ。ユベルが感じ取るのが覇王となる者の魂だとしたら、胎児の頃だって見つけ出すことができるのか?
「……マジ?」
「お誕生日のサプライズってやつさ」
ユベルはニヤリと笑って二色の目を細めた。
「それってどっちの意味で?」
「秘密」
真偽はユベルにしかわからないようだ。昔からユベルにはこういうところがある。数千年の付き合いなのだから、出会いが胎児の頃か五、六歳の頃かなんて、今さらたいした差はないのかもしれないが。
十代は食事を終えて外へ出た。空は相変わらずピンクだ。地球上が大きく変わっても、人類が植物と融合した新人類へなろうとも、自分と魂の片割れはあまり変わらないのだなと空を見上げて思った。
2025/08/31
「あ。誕生日じゃないか、キミ」
ユベルが思い出したように言った。十代はたった今自分が記入した数字が八月三十一日だったことに気がついた。
「あー。本当だ」
十代は他人事みたいに頷いた。実際他人事なのかもしれない。もうずっと精霊界にいて人間の暦を半ば忘れかけている。暦のルールもとうの昔に変わって、グレゴリオ暦の八月三十一日と現在の八月三十一日は同一ではない。八月は明日からもまだ続くしもうしばらくしたら人人はもう一年も終わりだと言い出す。人の世界はずいぶん変わってしまった。何千年と経てばそうなるのだろう。
人の世は移ろいやすいものだ、なんて昔の人は言ったけど、その「人」自体も変わってしまうなんて昔の人には想像もつかなかったんじゃないかなあ──そんな風に十代は思う。
滅びを免れるために人類は自ら変化することを選び、現在の「人類」と「十代が認識していた人類」はずいぶん違っている。「かつての人類」はほとんどいなくなってしまった。人数は少ないものの現在もどこかにいるらしい。わざわざ会いに行ったことはない。会いにいけば今現在がグレゴリオ暦の何年何月何日なのかわかるのかもしれないが、自分の年齢や誕生日にそれほどこだわりがあるわけではない。そもそも本当にそれが正確なのだろうかと思う。この世界はかつてと大きく違うのだから。
十代は記入した書類を職員に渡した。ここは人間界の門にあたる場所だ。どんな技術か知らないが、異世界から人間界に行こうとするとここに飛ばされる。ここで入国手続きのようなことをしなければ人間界を歩くことはできなかった。書類を渡した職員、十代からしてみれば「新人類」とでもいうべき彼らは、顔は人間に近いが身体には植物が混ざっている。これもやはりどのような技術か知らないが、かつての人類は植物と融合することを選んで生き延びた。
「はい、大丈夫です。では、ごゆっくり」
職員は書類を確認すると微笑んだ。声は頭の中に直接響いてくるような感覚だ。「新人類」のコミュニケーションは音声ではなくなった。
外に出ると、ピンクの空が広がっている。色つきのわたあめみたいだ。夜になっても星空は見えない。「新人類」からそのメカニズムについて講釈を聞いたこともあるけれど、十代の頭からはそんなことはもう消えてしまった。そもそも空が青かった理由さえよく覚えていない。太陽の光と地球の大気のナントカカントカだろうが、世界を作った神様の手元に青い絵の具が大量にあったからだろうが、十代にはどちらでも構わない。わたあめみたいな空だって、無限にわたあめが出てくる石臼の止め方を忘れたんだろうがなんだろうが、なんだっていいのだ。
「石臼?」
ユベルが聞き返す。
「わたあめに石臼はないだろう。モーターかなんかがいる」
「石臼は塩だな。海の底に沈んでる……」
この世界にはもう海もかなり減っている。今現在地表になっているところをくまなく探したら、無限に塩の出てくる石臼が見つかるのかもしれない。
きっとそんな物語はとうに失われている。でも違う物語を「新人類」は生み出しているのかもしれない。
「わたあめとはなんですか」
十代の頭に言葉が浮かんできた。周りを見回すと一人の新人類と目が合う。
「どうも」
十代がそう言うと新たな人類はにこりと笑う。
「わたあめってのは昔人類の食べてたお菓子だよ。砂糖でできてる。綿みたいにふわふわで……綿はわかる?」
こくりと頷く。
「見た目はあれに似て、食感もふわふわで甘いんだ。それがわたあめ」
「ありがとう」
「どういたしまして」
彼──十代には男か女かの区別さえつかないが──は、棒切れのようなものを差し出した。この世界の貨幣だ。彼らにとって、何か教えてもらったらその代金を支払うのが礼儀であるらしく、十代はそれを受け取った。少し質問に答えるだけでこうだから、この世界で金に困ったことがない──とはいうものの、使い道も特にないのだが。彼らに何か聞いてこれを渡そうとしても、それより「原なるもの」──彼らはかつての人類をそう呼ぶ──の何かを教えてくれと言われて質問に答えればチャラになってしまうことが多い。原なるものは彼らの好奇心の対象だ。しかし話しかけすぎるのはマナー違反ということになっているらしく、あまり声をかけられることはない。こちらから話しかければみな親切だ。それは、ここが原なるものが足を踏み入れることが許可された場所だから、かもしれない。
十代は、この世界の全貌をよく知らない。地図や地球儀を見せてもらったが、十代が足を踏み入れていい場所はそのうちの一部だけだ。もっと他に行けないのかと言うと「危険ですから」と言われた。なんでもこのピンクのわたあめみたいな空には有害物質を取り除く作用があるらしく、その外に出れば原なるものはひとたまりもないのだそうだ。それが事実かどうかは知らない。新人類が旧人類を好き勝手出歩かせないために揃って嘘をついているとしても、十代には判別がつかない。
かつてはこの地球上で生まれたといっても、現在の十代は自分が部外者であると感じる。一度この世界を見捨ててしまっているのだから、それも当然のことなのだ──。
「キミねえ! いい加減にしなよ!」
ユベルが声を荒げたのは何回目に丸焼きにされたときだったか。どうやら突然に戦争を始めてしまったらしい人類は、遠慮なく地表を何度も焼いていた。十代は何が起こったのか調べようとしたのだが、ただ何回も焼かれるばかりでろくに情報を得ることができなかった。確かなのはそれに光の波動もダークネスも精霊も一切関与しておらず、ただ人間同士のいさかいから起きてしまったものらしいということだ。
「こんな状況でキミにできることはない。もう諦めろ」
怒りをにじませた目でユベルは十代をにらんだ。
「でも」
「でもじゃあない! あのね、第一こんな焼け野ッ原で人間見つけたって事情のわかるやつなんかいないんだ! どっかで安全にぬくぬくしてるお偉いさんしかわかんないの! そんなお偉いさんはどこにいるかわかんないし、もしわかってもお偉いさんはキミみたいな国民番号もないやつとは会わない! 会ったところでキミは何をするんだよ、覇王の力でお偉いさんたち操るのか!? キミがデウスエクスマキナになろうってンなら手伝ってもいいけど、しないだろ!」
デウスナントカが何かまったくわからなかったが、おそらく力ずくの解決法なのだろうとは察しがついた。
「だいたいキミはボクも他の連中も守ってるつもりだろうがね、火は免れてもキミが焼かれて治るまでをボクらは見てなきゃいけないんだよ! あと何回それに耐えろっていうんだ!」
二色の目には怒り以外にも悲しみや嘆きが宿っていた。焼かれる痛みはかつてユベルが経験したものだ。ユベル自身が焼かれなくても、かつての記憶を思い出させただろう。そして愛するひとが傷つく姿を見るということ──十代はそれについてはまったく考えが及んでいなかった。どれほどユベルを、仲間たちを傷つけてしまったのだろう。ユベルの言うことはすべてもっともだと思えた。
十代は長い間、人智の外側を守ろうとしてきた。それが人間に悪影響を及ぼさないことだと思っていたが、同時に人間社会への関わりを放棄してきたことでもあった。人間社会の内側から起こったことに十代はなんの力もなかった。人智の外の力を使って人間を操ればこの戦争は一旦終わるのかもしれないが、それは人間社会にとっての新たな厄災にすぎない。
自分にできることは何もないのだと十代は思った。
そうして十代は人間界を去った。逃げ出したと言っていい。避難だよとユベルは言った。事実多くの精霊たちが人間界から精霊界へと避難していた。
精霊界は精霊界で混乱が起きていた。その混乱をなんとかするために十代は走り回った。その間は人間界への罪悪感を薄めることができたし、目の前の者を救うことは十代の癒しにもなった。多くに慕われ、時には恨まれ疎まれ──それでも精霊界は十代にとって居心地がよかった。
もはや人間界へ戻ることはないと思っていた。気がつけば数千年の時が経ち、精霊界にも最近の人間界は安全になったようだという噂が届き十代は人間界へと足を運んだ。すっかり様変わりした人間界には新たな文明が築かれていた──。
「ケーキでも食うか」
原なるもの向けの食品を扱う飲食店を見つけて中に入った。ケーキそのものはないが、ドライフルーツ入りのパンと甘いクリームを頼んだ。先ほどもらった貨幣で代金を払う。パンもクリームも植物を原料にしているそうだ。動物はあの戦争で多くが死滅してしまったと聞いた。
「覇王城にいた方がいいもの食べれたかもね」
「オレたち向けに作ってくれるだけありがたいぜ」
食感としては固めでクッキーやクラッカーに近いかもしれないと十代は思う。原なるものは少数だし、保存のきくものを用意しているのだろう。クリームを載せればケーキらしくないこともない……。
「ケーキにはほど遠いけど、お誕生日おめでとう」
「ありがとう」
たぶん本当の意味で「誕生日」なわけではないけれど。それでも祝いの気持ちとその言葉が嬉しい。
「昔はこんなに小さかったのに……」
ユベルは豆粒のような大きさを指で示してみせた。
「そんなに小さなわけないだろ」
「本当さ。胎児ってのは小さいからね」
胎児? そんなわけないだろうと思うが、ユベルが覇王となる前の幼い十代を見つけ出したのは事実だ。ユベルが感じ取るのが覇王となる者の魂だとしたら、胎児の頃だって見つけ出すことができるのか?
「……マジ?」
「お誕生日のサプライズってやつさ」
ユベルはニヤリと笑って二色の目を細めた。
「それってどっちの意味で?」
「秘密」
真偽はユベルにしかわからないようだ。昔からユベルにはこういうところがある。数千年の付き合いなのだから、出会いが胎児の頃か五、六歳の頃かなんて、今さらたいした差はないのかもしれないが。
十代は食事を終えて外へ出た。空は相変わらずピンクだ。地球上が大きく変わっても、人類が植物と融合した新人類へなろうとも、自分と魂の片割れはあまり変わらないのだなと空を見上げて思った。
2025/08/31
