よろず二次創作小説
墓守の仕事
玄関の戸を叩かれ、墓守は戸を開けた。
「ホラドリック? 何かあったのかい?」
そこにいたのは暗い顔をしたホラドリックだった。
「村長として君に知らせることがあってね……」
ホラドリックは、村人に死者が出てその遺体を頼みたいと言った。
「村の──」
村人に死者が出るのは墓守がここに来てから初めてのことだった。
「もしかしたら君も教会で会ったことがあるかな。まだ先代の墓守の頃に移住してきた巡礼者の家族でね、教会が開いた時にはすごく喜んでいたよ。少し足の悪いおばあさんで娘と通っていたと思うが……」
そういえば、教会を開いたばかりの頃にそんな二人がいた気がする。最近は説教を聞きに来る人数も増えて意識しなくなり忘れていたが──病みついて来られなくなったのかもしれなかった。
「……ああ、何度か見たと思う。お悔やみを……。遺体は火葬か土葬か、ご遺族の希望はあるのかい?」
「君が決めて構わない。村では遺体のことはすべて墓守に一任している」
では頼んだよとホラドリックは遺体を残し去っていった。墓守はその遺体を安置所へと運ぶ。
「ん? どこから死体持ってきたんだ?」
ジェリーが墓守に声をかけた。最近町から来る遺体は外の投げ込み口から安置所に入れられる。墓守が担いで運んで来るのは久しぶりのことだった。
「村人が亡くなったんだ」
「ふーん。知り合いか?」
「知り合いというほどでは……」
説教の際に何度か見かけただけで、名も知らなければ話したこともなかった。でも。
「その割には暗い顔だな」
「まあ──ね」
ほんの少しでも知っている相手をこの解剖台に載せるのは初めてのことだった。
いつも通りの仕事をするべきなのだろう。
いつも通りに──。
死体の状態が悪ければ、血と脂肪を抜き、有用な肉や臓器を取り出して燃やす。
死体の状態が良ければ、血と脂肪を抜き、より良い臓器と入れ替え、いくつもの薬剤で死体を投与して、埋めて墓石を飾って墓場の質を上げる材料とする。
あるいは、労働力として蘇らせる──。
今ではすっかり慣れたその仕事が、途端に残酷なもののように思えた。これまでそうしてきた死体たちにだって人生があり、家族や友人がいただろうに。
忘れていたわけではない。目を背け続けてきた。「顔も知らない誰か」だから。
私は家に帰りたいだけで──。
いや、数多の死体で道を作り家に帰ろうとしているのだ。後戻りも足踏みもするつもりはない。
私はそうして家に帰るのだ。死体を捌き、燃やして埋めて、時に蘇らせて──。
墓守は、かつての顔見知りの遺体をいつもより丁重に処理し、埋め、大理石の墓石を飾った。罪悪感を頭の片隅に残し、墓場を後にした。
2026/05/10
玄関の戸を叩かれ、墓守は戸を開けた。
「ホラドリック? 何かあったのかい?」
そこにいたのは暗い顔をしたホラドリックだった。
「村長として君に知らせることがあってね……」
ホラドリックは、村人に死者が出てその遺体を頼みたいと言った。
「村の──」
村人に死者が出るのは墓守がここに来てから初めてのことだった。
「もしかしたら君も教会で会ったことがあるかな。まだ先代の墓守の頃に移住してきた巡礼者の家族でね、教会が開いた時にはすごく喜んでいたよ。少し足の悪いおばあさんで娘と通っていたと思うが……」
そういえば、教会を開いたばかりの頃にそんな二人がいた気がする。最近は説教を聞きに来る人数も増えて意識しなくなり忘れていたが──病みついて来られなくなったのかもしれなかった。
「……ああ、何度か見たと思う。お悔やみを……。遺体は火葬か土葬か、ご遺族の希望はあるのかい?」
「君が決めて構わない。村では遺体のことはすべて墓守に一任している」
では頼んだよとホラドリックは遺体を残し去っていった。墓守はその遺体を安置所へと運ぶ。
「ん? どこから死体持ってきたんだ?」
ジェリーが墓守に声をかけた。最近町から来る遺体は外の投げ込み口から安置所に入れられる。墓守が担いで運んで来るのは久しぶりのことだった。
「村人が亡くなったんだ」
「ふーん。知り合いか?」
「知り合いというほどでは……」
説教の際に何度か見かけただけで、名も知らなければ話したこともなかった。でも。
「その割には暗い顔だな」
「まあ──ね」
ほんの少しでも知っている相手をこの解剖台に載せるのは初めてのことだった。
いつも通りの仕事をするべきなのだろう。
いつも通りに──。
死体の状態が悪ければ、血と脂肪を抜き、有用な肉や臓器を取り出して燃やす。
死体の状態が良ければ、血と脂肪を抜き、より良い臓器と入れ替え、いくつもの薬剤で死体を投与して、埋めて墓石を飾って墓場の質を上げる材料とする。
あるいは、労働力として蘇らせる──。
今ではすっかり慣れたその仕事が、途端に残酷なもののように思えた。これまでそうしてきた死体たちにだって人生があり、家族や友人がいただろうに。
忘れていたわけではない。目を背け続けてきた。「顔も知らない誰か」だから。
私は家に帰りたいだけで──。
いや、数多の死体で道を作り家に帰ろうとしているのだ。後戻りも足踏みもするつもりはない。
私はそうして家に帰るのだ。死体を捌き、燃やして埋めて、時に蘇らせて──。
墓守は、かつての顔見知りの遺体をいつもより丁重に処理し、埋め、大理石の墓石を飾った。罪悪感を頭の片隅に残し、墓場を後にした。
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