よろず二次創作小説
墓守のある朝
いつもと変わらぬ教会へと向かう道で、エピスコプは不意に違和感を覚えた。
匂いだ。
何かの──焼ける匂い。
教会だったら面倒なことになると彼は思う。最近信者が増え寄付も増えて、いい方向に向かい始めたというのに。あの墓守なら建物も直せるだろうか? 彼は墓の装飾の腕ならば申し分ないが、果たして建築もできるだろうか。
教会に近づくにつれて焦げた匂いもきつくなる。霧がかかって見づらいが、しかし教会から火の手が上がっているようには見えなかった。
どうやら墓のはす向かいの森から煙が上がっている。離れているから教会に延焼はしないだろうが、エピスコプは様子を見に行った。
「おや、エピスコプ様。お早いですね」
火の近くにいたのは墓守だった。火が墓守の髭もじゃの顔を照らす。
「墓守か。こんな場所で何を燃やしているのだ?」
「遺体を火葬していました」
「火葬?」
「ええ」
言われてみれば、炎は人間よりも一回り大きいくらいか。今は木が燃えているようにしか見えないが、真ん中に遺体があるのだろう。あまりいい匂いはしない。
「てっきりすべて埋めているのだと思っていた」
「燃やす場合も多いですね」
「埋める遺体と燃やす遺体の違いは何かあるのか?」
墓守は炎を見つめてしばし考えた。
「そうですね……それぞれにふさわしい方法がある……とでも申しましょうか」
墓守は言葉を選びながら──といった様子で答えた。何か隠しているようだ。
エピスコプは深く訊ねずそうかと頷いた。
彼はどうにも怪しい男ではある。たいした悪事を働くようにも見えないが、何か脛に傷を持つ身だろうか。しかしそれはエピスコプには関係のないことだ。墓守は墓場と教会を整え説教をし金を集める。それで十分だ。
「私はそろそろ教会へ行く。墓守、くれぐれも延焼させるでないぞ」
「はい、エピスコプ様。また後で」
◇◆◇
「……ジェリー、もういいよ」
墓守は物入れ箱の陰に隠れていたジェリーに声をかけた。しゃれこうべはぴょんと飛んで出てくる。
「はあ、お前がこんな時間から焼くからだ」
墓守は肩をすくめた。日日の作業に追われ、うっかり届いた死体を腐らせてしまったのだ。腐敗しきったその死体の臭いにジェリーは辟易しており、墓守が死体安置所に入るなり墓守へ文句を言った(墓守は、いったいジェリーはどこでにおいを感じるのだと思うが)。
ぶつぶつ文句を言うしゃれこうべに墓守は言った。
「まあまあジェリー……ワインをあげるから許してくれよ」
「それ、お前がこの前失敗した銅星のワインだろ!」
「そうだけど……ホットワインならどうだ?」
墓守は火葬ついでにワインを温めることにした。それも、美食家お墨付きのスパイスを入れて。そうしているうちにエピスコプがやってきてしまったのだ。
「でもバレずに済んだし、ワインもちょうど温まったよ」
「ふん。貸してみな」
ジェリーはぐびりとワインを一口に飲み干した。しゃれこうべに飲み込まれたワインはどこへ行ってしまうのだろうと墓守はいつも不思議だ。しかしそんな不思議にもかなり慣れてきてしまった。墓守だって、遺体を燃やす炎でワインを温めるくらいはなんとも思わなくなっている……。
「おっ! こいつは悪くないぞ! 鼻の奥にこびりついた腐敗臭がワインとスパイスの香りで流された感じだ」
幸いジェリーはホットワインを気に入り、墓守は安置所に出入りする度に文句を言われることを免れそうだった。
「でもやっぱりワイン自体の出来はよくないぜ。次は金星な!」
ジェリーはそう言って安置所へ戻っていった。
一人残された墓守は、今日の説教はワインの話でもしようかと思案した。
2026/04/18
いつもと変わらぬ教会へと向かう道で、エピスコプは不意に違和感を覚えた。
匂いだ。
何かの──焼ける匂い。
教会だったら面倒なことになると彼は思う。最近信者が増え寄付も増えて、いい方向に向かい始めたというのに。あの墓守なら建物も直せるだろうか? 彼は墓の装飾の腕ならば申し分ないが、果たして建築もできるだろうか。
教会に近づくにつれて焦げた匂いもきつくなる。霧がかかって見づらいが、しかし教会から火の手が上がっているようには見えなかった。
どうやら墓のはす向かいの森から煙が上がっている。離れているから教会に延焼はしないだろうが、エピスコプは様子を見に行った。
「おや、エピスコプ様。お早いですね」
火の近くにいたのは墓守だった。火が墓守の髭もじゃの顔を照らす。
「墓守か。こんな場所で何を燃やしているのだ?」
「遺体を火葬していました」
「火葬?」
「ええ」
言われてみれば、炎は人間よりも一回り大きいくらいか。今は木が燃えているようにしか見えないが、真ん中に遺体があるのだろう。あまりいい匂いはしない。
「てっきりすべて埋めているのだと思っていた」
「燃やす場合も多いですね」
「埋める遺体と燃やす遺体の違いは何かあるのか?」
墓守は炎を見つめてしばし考えた。
「そうですね……それぞれにふさわしい方法がある……とでも申しましょうか」
墓守は言葉を選びながら──といった様子で答えた。何か隠しているようだ。
エピスコプは深く訊ねずそうかと頷いた。
彼はどうにも怪しい男ではある。たいした悪事を働くようにも見えないが、何か脛に傷を持つ身だろうか。しかしそれはエピスコプには関係のないことだ。墓守は墓場と教会を整え説教をし金を集める。それで十分だ。
「私はそろそろ教会へ行く。墓守、くれぐれも延焼させるでないぞ」
「はい、エピスコプ様。また後で」
◇◆◇
「……ジェリー、もういいよ」
墓守は物入れ箱の陰に隠れていたジェリーに声をかけた。しゃれこうべはぴょんと飛んで出てくる。
「はあ、お前がこんな時間から焼くからだ」
墓守は肩をすくめた。日日の作業に追われ、うっかり届いた死体を腐らせてしまったのだ。腐敗しきったその死体の臭いにジェリーは辟易しており、墓守が死体安置所に入るなり墓守へ文句を言った(墓守は、いったいジェリーはどこでにおいを感じるのだと思うが)。
ぶつぶつ文句を言うしゃれこうべに墓守は言った。
「まあまあジェリー……ワインをあげるから許してくれよ」
「それ、お前がこの前失敗した銅星のワインだろ!」
「そうだけど……ホットワインならどうだ?」
墓守は火葬ついでにワインを温めることにした。それも、美食家お墨付きのスパイスを入れて。そうしているうちにエピスコプがやってきてしまったのだ。
「でもバレずに済んだし、ワインもちょうど温まったよ」
「ふん。貸してみな」
ジェリーはぐびりとワインを一口に飲み干した。しゃれこうべに飲み込まれたワインはどこへ行ってしまうのだろうと墓守はいつも不思議だ。しかしそんな不思議にもかなり慣れてきてしまった。墓守だって、遺体を燃やす炎でワインを温めるくらいはなんとも思わなくなっている……。
「おっ! こいつは悪くないぞ! 鼻の奥にこびりついた腐敗臭がワインとスパイスの香りで流された感じだ」
幸いジェリーはホットワインを気に入り、墓守は安置所に出入りする度に文句を言われることを免れそうだった。
「でもやっぱりワイン自体の出来はよくないぜ。次は金星な!」
ジェリーはそう言って安置所へ戻っていった。
一人残された墓守は、今日の説教はワインの話でもしようかと思案した。
2026/04/18
