夏目友人帳
水に映る
コンコンコン、と玄関から音がした。田沼は玄関へと向かう。玄関扉を開ければ、足元に小さな客がいた。
「いらっしゃい、先生」
丸く大きな頭の三毛猫、ニャンコ先生がちょこんと座って田沼を見上げていた。田沼はその丸い身体を抱き上げる。
「あれ、ちょっとお酒くさくないか」
「八ツ原の連中と飲み会だ」
「相変わらずだなあ」
夏目は一人で大丈夫かな、と頭によぎるが、まだ時間も八時だ。遅くなるまでに帰ってもらえばいいだろう。
ニャンコ先生は、時時こうして田沼の家に来る。今日のように平日の夜だとか、休日の昼間だとか。最初は妖が近くにいて夏目が田沼に知られないように先生を送り込んでいるのではと疑った。しかし今日のように酒のにおいをさせている時もあり、ニャンコ先生は本当に気まぐれに田沼の家に来ているようだった。
「こんな早くに飲み会切り上げたのか?」
「あまり遅いと夏目がうるさい。それに甘味が食いたくなった」
そう、ニャンコ先生の目的は田沼の家の菓子だった。檀家からの貰い物など、田沼の家には大抵菓子がある。
「今日は最中があるよ」
「七辻屋か?」
「水月堂だったかな。まだ食べてないけど、きっとおいしいんじゃないかな」
話しながら田沼はニャンコ先生を台所に連れて行く。流しの隅にかけていた濡れ布巾でニャンコ先生の足を丁寧に拭いた。一度廊下に足跡をつけられてから、足を拭くまでは室内を歩かないようにしてもらった。今日は一日晴れていたからそれほど汚れていなかった。足を拭き終えて椅子の上に乗せる。
「今日はあっちで食うぞ」
「あっち?」
「お前たちがいつも将棋しとる部屋だ」
そう言ってニャンコ先生は椅子からすとんと飛び降りる。
「わかった。お茶持ってくな」
田沼は湯を沸かし茶を用意する。ニャンコ先生の来訪は田沼の密かな楽しみだ。夏目には「田沼は先生を甘やかしすぎてる」と言われているから、こうしてお菓子をあげていることは秘密なのだ。
菓子の入った戸棚を開ける。父に最近菓子の減りが早いと言われたことを思い出す。以前は親子二人では食べきれないほど貰い物が溜まってしまい他の人に分けることも多かった。しかしニャンコ先生が来るようになってからは殆ど田沼家で食べきれるようになった。
「最近、友達がよく遊びに来るんだ」
妖であることは父にも秘密だが、そう言った。父は嬉しそうに笑ってそうかと頷いた。きっと自分の顔も同じように笑っていたのだと田沼は思う。
ニャンコ先生はいつも田沼の父がいない時に家に来る。もしや一人の田沼を心配しているのかと思ったが、「坊主に会いたがる妖がいると思うか」と聞かれ妙に納得してしまった。何の裏もなく──お菓子が目当てではあるが──『気遣い』でもなくニャンコ先生が遊びに来てくれることが田沼は嬉しかった。
盆に茶と菓子を載せて、田沼はニャンコ先生の待つ部屋に向かった。廊下の向こうの部屋は電気もつけていないのに少し明るかった。部屋に入ると、ニャンコ先生は障子を開け放していた。月明かりが先生の丸い影を映す。見事な満月だった。
「お待たせ」
ニャンコ先生の横に盆を置いて、それを挟んで隣に座った。
「今日はこんなに綺麗な満月だったんだな」
「菓子も満月だな」
と言ってニャンコ先生は最中を口に運ぶ。さくりと音がした。
田沼も最中を手に取り、戯れに掲げて月と重ねた。それは見事な円で、色合いもまるで今夜の月のようだった。表面の水月堂の文字はクレーターと思うことにする。
「本当だ。月みたいだな」
「だんだん欠けて消えてしまうしな」
ニャンコ先生は最中を全部飲み込んで茶をすする。ニャンコ先生の肉球の器用さは素晴らしい。本人は缶切りで缶詰めを開けられないことやみかんの皮が剥けないことが悩みのようだが、湯飲みを持てるだけで上上だと田沼は思う。
ニャンコ先生が二個目の最中を口に運ぶのを見てから、田沼も最中をかじった。皮はさくりとよい音を立て、餡の甘みはくどくなく上品だ。ニャンコ先生が勢いよく食べるはずだと思う。
水月堂。その名にふと庭の池には月が映っているだろうかと思う。ちらと横目で見るニャンコ先生の細長い目は何処を見ているのだろう。池のありそうなあたりを見つめるが、田沼にはただ草と木と地面が見えるだけだ。
「先生には、池の月が見える?」
夏目には聞けないが、ニャンコ先生になら聞くことができた。ああ、と先生が答える。
「きっと綺麗なんだろうな」
羨ましくも思うけれど、見えるのが美しいものばかりではないことも知っている。田沼は身体を後ろに倒して寝転んだ。天井に波紋が映る。ああ。
波紋の中に、揺らめく円があった。これが先生の見ているものか。魚の影と同じように、色は見えないけれど。
田沼はかじりかけの最中を円に重ねる。己の視界もこの最中のように欠けているのだ。
「可視光線が違うのかな」
虫や鳥にはヒトに見えない紫外線を感知するものもいると授業で言っていたか。ならば彼らにとって紫外線は紫『内』線だろうか。いや可視光線に含まれているだけか。妖も何かそういう、紫外線や赤外線みたいなものかもしれない。妖といわゆる科学は相反するものと思いがちだが、そうでもないような気がする。名取は眼鏡を通すと妖が見えやすいから掛けているらしいと夏目に聞いた。田沼が真似して父の眼鏡を覗いても駄目だったが、眼鏡を通して見やすくなるなら問題は光の屈折率なのか。見える人間は水晶体やらなんやらが他の人とは違うのかもしれない。
──ヒトの見る世界は、結局のところ一人一人ばらばらなのだと教員は言っていたか。視界は脳で再構成された映像に過ぎず、厳密な意味では誰も「そのままの世界」など見ていない。しかしその脳の『認識』こそが『世界』なのだと……。
「田沼」
ニャンコ先生に呼ばれて、田沼ははっとした。波紋を眺めるうちにまどろんでいたようだった。何かごちゃごちゃと考えていた気がする。
「食わんならもらうぞ」
手に握ったままだった食べかけの最中を、ニャンコ先生は田沼の返事も聞かずに奪った。田沼が身を起こすと、皿に五つ載せてきた最中は跡形もなく消えていた。茶を飲もうとしたが、湯飲みは二つとも空だった。最中で口の水分を奪われた先生が、田沼の分まで飲んでしまったようだ。
「お茶入れてくる」
「酒でもいいぞ」
「うちにはないよ」
少し伸びをして、田沼は盆を持って台所へ行った。茶を入れ直し、今度は煎餅を載せてまた部屋に戻る。
「夏目はもっとお前を見習うべきだな」
茶と煎餅を満足げに口に運んでニャンコ先生は言った。
「夏目にはおやつをやりすぎるなって言われるけどな」
先生はおれのおやつまで取るんだといつか愚痴られた気がする。田沼も一口しか食べないうちに最中を取られてしまった。別に悔しくもない。でも夏目は、せっかく塔子さんがくれたのにとこぼしていただろうか。
「夏目のおやつ取っちゃだめだぞ。またうちのお菓子あげるから」
そう言ってつるふかの頭を撫でる。そういえば、この頭も満月のように真ん丸だ。池に映る月は見えないけれど、それ以外にも丸くて愛らしいものはある。
「先生なら欠けないなあ」
「ん?」
ニャンコ先生が丸い頭をひねって田沼を見た。口周りに煎餅の欠片がついていたので払ってやる。くすぐったかったのか、ニャンコ先生は猫のように前足で顔を洗う。
「……まだついてるか?」
田沼が笑っているからだろう。ニャンコ先生は頬をこすりながら聞いた。
「いや、綺麗だよ」
あの月みたいに、と言ったらニャンコ先生はそんなに丸くないと怒るだろうか。夏目は太りすぎていると言うけれど丸い方がいいと思う。多軌もきっと同じだろう。
そう考えて、田沼は思う。秘密も楽しいけれど、ここにみんなもいればいいのに。月を眺めて、お菓子を食べて、お茶を飲んで。月見の時期はいつだったかな。でも時期なんて本当はどうでもいいのかもしれない。今夜の月だってこんなに綺麗で、友とそれを眺めることはこんなに幸せなのだから。
ふと気づく。もしかするとニャンコ先生は、田沼と月を見る為に今夜来てくれたのかもしれない。自惚れかもしれないけれど。
「先生、今日は来てくれてありがとな。先生が来なかったら、月がこんなに綺麗だって気づかなかったよ」
それとも一緒に見るから綺麗なのかな、そう思ったけれどそこまで口にするのは恥ずかしかった。ニャンコ先生も照れているのか、ふんと鼻をならして田沼から顔をそらした。
居間の時計が鳴る音が遠く聞こえてきた。九時になったようだ。ニャンコ先生は立ち上がって、頭を下げておしりを高くし伸びをする。
「今度みんなでお月見をしようか」
「団子と酒」
短く先生は答えた。おねだりという形で即座に同意をしてくれることが嬉しかった。
「酒は買えないよ、未成年だし。でも、そうだなあ──団子は作ろうか。うまく出来ないかもしれないけど」
きっとその方が楽しい。歪な形の団子を笑いながらつまんだら、きっともっと。
「きな粉と餡」
「買っとく」
また田沼を見た先生は、笑っているように見えた。
「まずい団子は作るなよ」
「頑張るよ。またな、先生」
ニャンコ先生はひょいと庭に飛び降り、とことこと歩いていった。月に照らされる後ろ姿を、田沼は見えなくなるまで見送った。
2017/04/07 pixiv公開
2025/05/25 当サイト掲載
コンコンコン、と玄関から音がした。田沼は玄関へと向かう。玄関扉を開ければ、足元に小さな客がいた。
「いらっしゃい、先生」
丸く大きな頭の三毛猫、ニャンコ先生がちょこんと座って田沼を見上げていた。田沼はその丸い身体を抱き上げる。
「あれ、ちょっとお酒くさくないか」
「八ツ原の連中と飲み会だ」
「相変わらずだなあ」
夏目は一人で大丈夫かな、と頭によぎるが、まだ時間も八時だ。遅くなるまでに帰ってもらえばいいだろう。
ニャンコ先生は、時時こうして田沼の家に来る。今日のように平日の夜だとか、休日の昼間だとか。最初は妖が近くにいて夏目が田沼に知られないように先生を送り込んでいるのではと疑った。しかし今日のように酒のにおいをさせている時もあり、ニャンコ先生は本当に気まぐれに田沼の家に来ているようだった。
「こんな早くに飲み会切り上げたのか?」
「あまり遅いと夏目がうるさい。それに甘味が食いたくなった」
そう、ニャンコ先生の目的は田沼の家の菓子だった。檀家からの貰い物など、田沼の家には大抵菓子がある。
「今日は最中があるよ」
「七辻屋か?」
「水月堂だったかな。まだ食べてないけど、きっとおいしいんじゃないかな」
話しながら田沼はニャンコ先生を台所に連れて行く。流しの隅にかけていた濡れ布巾でニャンコ先生の足を丁寧に拭いた。一度廊下に足跡をつけられてから、足を拭くまでは室内を歩かないようにしてもらった。今日は一日晴れていたからそれほど汚れていなかった。足を拭き終えて椅子の上に乗せる。
「今日はあっちで食うぞ」
「あっち?」
「お前たちがいつも将棋しとる部屋だ」
そう言ってニャンコ先生は椅子からすとんと飛び降りる。
「わかった。お茶持ってくな」
田沼は湯を沸かし茶を用意する。ニャンコ先生の来訪は田沼の密かな楽しみだ。夏目には「田沼は先生を甘やかしすぎてる」と言われているから、こうしてお菓子をあげていることは秘密なのだ。
菓子の入った戸棚を開ける。父に最近菓子の減りが早いと言われたことを思い出す。以前は親子二人では食べきれないほど貰い物が溜まってしまい他の人に分けることも多かった。しかしニャンコ先生が来るようになってからは殆ど田沼家で食べきれるようになった。
「最近、友達がよく遊びに来るんだ」
妖であることは父にも秘密だが、そう言った。父は嬉しそうに笑ってそうかと頷いた。きっと自分の顔も同じように笑っていたのだと田沼は思う。
ニャンコ先生はいつも田沼の父がいない時に家に来る。もしや一人の田沼を心配しているのかと思ったが、「坊主に会いたがる妖がいると思うか」と聞かれ妙に納得してしまった。何の裏もなく──お菓子が目当てではあるが──『気遣い』でもなくニャンコ先生が遊びに来てくれることが田沼は嬉しかった。
盆に茶と菓子を載せて、田沼はニャンコ先生の待つ部屋に向かった。廊下の向こうの部屋は電気もつけていないのに少し明るかった。部屋に入ると、ニャンコ先生は障子を開け放していた。月明かりが先生の丸い影を映す。見事な満月だった。
「お待たせ」
ニャンコ先生の横に盆を置いて、それを挟んで隣に座った。
「今日はこんなに綺麗な満月だったんだな」
「菓子も満月だな」
と言ってニャンコ先生は最中を口に運ぶ。さくりと音がした。
田沼も最中を手に取り、戯れに掲げて月と重ねた。それは見事な円で、色合いもまるで今夜の月のようだった。表面の水月堂の文字はクレーターと思うことにする。
「本当だ。月みたいだな」
「だんだん欠けて消えてしまうしな」
ニャンコ先生は最中を全部飲み込んで茶をすする。ニャンコ先生の肉球の器用さは素晴らしい。本人は缶切りで缶詰めを開けられないことやみかんの皮が剥けないことが悩みのようだが、湯飲みを持てるだけで上上だと田沼は思う。
ニャンコ先生が二個目の最中を口に運ぶのを見てから、田沼も最中をかじった。皮はさくりとよい音を立て、餡の甘みはくどくなく上品だ。ニャンコ先生が勢いよく食べるはずだと思う。
水月堂。その名にふと庭の池には月が映っているだろうかと思う。ちらと横目で見るニャンコ先生の細長い目は何処を見ているのだろう。池のありそうなあたりを見つめるが、田沼にはただ草と木と地面が見えるだけだ。
「先生には、池の月が見える?」
夏目には聞けないが、ニャンコ先生になら聞くことができた。ああ、と先生が答える。
「きっと綺麗なんだろうな」
羨ましくも思うけれど、見えるのが美しいものばかりではないことも知っている。田沼は身体を後ろに倒して寝転んだ。天井に波紋が映る。ああ。
波紋の中に、揺らめく円があった。これが先生の見ているものか。魚の影と同じように、色は見えないけれど。
田沼はかじりかけの最中を円に重ねる。己の視界もこの最中のように欠けているのだ。
「可視光線が違うのかな」
虫や鳥にはヒトに見えない紫外線を感知するものもいると授業で言っていたか。ならば彼らにとって紫外線は紫『内』線だろうか。いや可視光線に含まれているだけか。妖も何かそういう、紫外線や赤外線みたいなものかもしれない。妖といわゆる科学は相反するものと思いがちだが、そうでもないような気がする。名取は眼鏡を通すと妖が見えやすいから掛けているらしいと夏目に聞いた。田沼が真似して父の眼鏡を覗いても駄目だったが、眼鏡を通して見やすくなるなら問題は光の屈折率なのか。見える人間は水晶体やらなんやらが他の人とは違うのかもしれない。
──ヒトの見る世界は、結局のところ一人一人ばらばらなのだと教員は言っていたか。視界は脳で再構成された映像に過ぎず、厳密な意味では誰も「そのままの世界」など見ていない。しかしその脳の『認識』こそが『世界』なのだと……。
「田沼」
ニャンコ先生に呼ばれて、田沼ははっとした。波紋を眺めるうちにまどろんでいたようだった。何かごちゃごちゃと考えていた気がする。
「食わんならもらうぞ」
手に握ったままだった食べかけの最中を、ニャンコ先生は田沼の返事も聞かずに奪った。田沼が身を起こすと、皿に五つ載せてきた最中は跡形もなく消えていた。茶を飲もうとしたが、湯飲みは二つとも空だった。最中で口の水分を奪われた先生が、田沼の分まで飲んでしまったようだ。
「お茶入れてくる」
「酒でもいいぞ」
「うちにはないよ」
少し伸びをして、田沼は盆を持って台所へ行った。茶を入れ直し、今度は煎餅を載せてまた部屋に戻る。
「夏目はもっとお前を見習うべきだな」
茶と煎餅を満足げに口に運んでニャンコ先生は言った。
「夏目にはおやつをやりすぎるなって言われるけどな」
先生はおれのおやつまで取るんだといつか愚痴られた気がする。田沼も一口しか食べないうちに最中を取られてしまった。別に悔しくもない。でも夏目は、せっかく塔子さんがくれたのにとこぼしていただろうか。
「夏目のおやつ取っちゃだめだぞ。またうちのお菓子あげるから」
そう言ってつるふかの頭を撫でる。そういえば、この頭も満月のように真ん丸だ。池に映る月は見えないけれど、それ以外にも丸くて愛らしいものはある。
「先生なら欠けないなあ」
「ん?」
ニャンコ先生が丸い頭をひねって田沼を見た。口周りに煎餅の欠片がついていたので払ってやる。くすぐったかったのか、ニャンコ先生は猫のように前足で顔を洗う。
「……まだついてるか?」
田沼が笑っているからだろう。ニャンコ先生は頬をこすりながら聞いた。
「いや、綺麗だよ」
あの月みたいに、と言ったらニャンコ先生はそんなに丸くないと怒るだろうか。夏目は太りすぎていると言うけれど丸い方がいいと思う。多軌もきっと同じだろう。
そう考えて、田沼は思う。秘密も楽しいけれど、ここにみんなもいればいいのに。月を眺めて、お菓子を食べて、お茶を飲んで。月見の時期はいつだったかな。でも時期なんて本当はどうでもいいのかもしれない。今夜の月だってこんなに綺麗で、友とそれを眺めることはこんなに幸せなのだから。
ふと気づく。もしかするとニャンコ先生は、田沼と月を見る為に今夜来てくれたのかもしれない。自惚れかもしれないけれど。
「先生、今日は来てくれてありがとな。先生が来なかったら、月がこんなに綺麗だって気づかなかったよ」
それとも一緒に見るから綺麗なのかな、そう思ったけれどそこまで口にするのは恥ずかしかった。ニャンコ先生も照れているのか、ふんと鼻をならして田沼から顔をそらした。
居間の時計が鳴る音が遠く聞こえてきた。九時になったようだ。ニャンコ先生は立ち上がって、頭を下げておしりを高くし伸びをする。
「今度みんなでお月見をしようか」
「団子と酒」
短く先生は答えた。おねだりという形で即座に同意をしてくれることが嬉しかった。
「酒は買えないよ、未成年だし。でも、そうだなあ──団子は作ろうか。うまく出来ないかもしれないけど」
きっとその方が楽しい。歪な形の団子を笑いながらつまんだら、きっともっと。
「きな粉と餡」
「買っとく」
また田沼を見た先生は、笑っているように見えた。
「まずい団子は作るなよ」
「頑張るよ。またな、先生」
ニャンコ先生はひょいと庭に飛び降り、とことこと歩いていった。月に照らされる後ろ姿を、田沼は見えなくなるまで見送った。
2017/04/07 pixiv公開
2025/05/25 当サイト掲載
1/7ページ
