【改行増版】GX一話完結短編
病院の廊下で紅葉はぎょっとして足を止めた。
大きな翼のある精霊がいたのだ。その精霊はヒト型をベースにコウモリのような大きな翼、鋭い爪や鱗をまとっていた。隣に小学生になるかならないかくらいの子供がいるから、その子の連れた精霊なのだろうかと紅葉は思った。
その子供は暗い顔をして、目にはほんのり涙がにじんでいた。近くに保護者もいないようだが、どこか痛んだり迷子になったりしているのかもしれない。
「……坊や、大丈夫かい?」
「え?」
子供は少し驚いて紅葉を見上げた。精霊はギロリと紅葉を睨む。紅葉は精霊とトラブルにならないよう気づかないふりをした。
「泣いてるから、どこか痛かったりするかと思って」
子供は首を横に振った。
「ボクはなんにも……起きないの、オサム兄さん……」
子供は手の甲で涙を拭う。精霊はそんな彼を悲しげに見つめ、慰めるように触れられない手で背を撫でる仕草をした。見た目の割にはやさしい精霊なのだろうか。
「キミのお兄さんが入院してるの?」
「ボクのお兄さんじゃないけど、いつもあそんでくれるの。でも……」
子供はまたぽろぽろと涙を流す。精霊は子供を庇うように羽根を広げ紅葉を睨んだ。先ほど子供を見つめた悲しげな瞳とは違う。橙と緑の目に怒りと憎しみをにじませ、今にも射殺されそうな気迫がある。紅葉は思わず後退りそうになる──。
「クリィ!」
ハネクリボーが紅葉と精霊の間に飛び出した。子供が驚いて顔を上げる。精霊の怒りの目はハネクリボーへと移る。
「なんだお前──うわ!?」
ハネクリボーの身体が光って精霊も紅葉も子供も目を閉じた。
「ハネクリボー、どうした?」
紅葉は相棒に声をかける。子供は目をしばたたかせていた。
「十代、大丈夫?」
精霊が子供にたずねる。
「うん、まぶしかっただけ。……お兄さん、その精霊の友達なの?」
子供はハネクリボーを見て目を輝かせる。ようやく笑顔になったと思う。
「ああ、ハネクリボーっていうんだ」
「よろしく、ハネクリボー。ボク十代っていうんだ。こっちはユベル」
「クリィ~」
十代と名乗った少年にハネクリボーも笑顔で挨拶を返した。
「いま何したんだ?」
精霊、ユベルはハネクリボーを睨んだ──が、先ほどのように冷たく怒りをにじませた目ではなかった。今会ったばかりだが、極端に雰囲気が変わった気がした。
「クリ! クリクリ~」
「……ふん。別に」
精霊同士は言葉がわかるのだろうか。ふたりは何か会話をしたらしい。
「ユベル、どうしたの?」
「なんでもないよ」
ユベルは十代に対してはやさしい微笑みを見せた。
「ユベル──」
十代はユベルをじっと見つめる。
「なに?」
「……ユベルちょっと、怒んなくなった?」
「別にボクは怒ってないけど……」
ユベルはハネクリボーを見た。ハネクリボーは笑ってクリィと鳴く。
「十代くんも精霊が見えるんだね」
「うん。ボク初めて見えるひとに会ったよ」
「オレも初めてだ。っと──オレは響紅葉。よろしくね」
「ひびき──えっ響プロ!? ボクいつもテレビで見てる! すごいデュエルでHEROがかっこよくて!」
十代は驚いて、それから笑顔になった。
「ボクも響プロみたいに強くなりたいんだ」
「ありがとう。キミもデュエルをするんだね。よかったら今からオレとやってみるかい?」
「ほんと!? あ……」
十代は一瞬目を輝かせたが、すぐに暗い顔になりうつむいた。
「……だめだよ。ボクとデュエルしたらオサム兄さんみたいに……」
また十代の目には涙が浮かぶ。ユベルが触れられない腕で十代を抱きしめた。
「十代、大丈夫。そんなことはもう起きないよ。……キミを悲しませるつもりはなかった……ボク、どうしてあんなことを……」
「ユベル?」
「……彼はもう目が覚めてると思うから、会っておいで」
「ほんと!?」
十代はぱっと立ち上がり、はっと気づいて紅葉を見た。
「えっと……響プロもう帰っちゃう?」
「まだここにいるよ。行っておいで」
「うん!」
十代は早足で長椅子から二つ向こうの病室へ入っていった。
「……一応、礼は言うよ。助かった」
「クリィ」
ユベルはハネクリボーを見た。
「……いったいなんの話をしてるんだ?」
「クリクリ~。クリ、クリイ」
ハネクリボーは紅葉の質問に答えたようだが、紅葉に彼の言葉はわからなかった。
「……一言でいえばボクにまとわりついてた邪気みたいなものを払ってくれた。でも……」
ユベルは紅葉を見た。紅葉を探るように二色の目をやや細めた。
「……キミも何かに呪われてる?」
紅葉はどきりとした。ここ最近心臓の調子が悪く、検査に来たところだった。血液検査などの結果はまだ出ていないが、心電図と脳のMRI撮影に特段の異常は見られなかった。
「呪い……なんて、あるのか?」
「あるよ。……何か闇の気配だな。タチの悪い精霊とでもデュエルしたのか?」
「え? そんな覚えはないけど……」
ユベルは紅葉の目をじっと見た。なぜだか心を覗き込まれるような気がして居心地が悪い。
「……借りを返したいがボクの関与できる力じゃなさそうだ。元凶の精霊をどうにかした方がいいだろう」
「元凶の精霊と言われても……」
紅葉にはまったく身に覚えがない。そもそもハネクリボー以外の精霊は見かけることはあれど、デュエルどころか話さえしたことがない。
「変なカード持ってたりしないか?」
「変なカードなあ……」
紅葉はデッキを取り出してみる。ユベルはそれをしばらく見つめると「それじゃないな」と言った。
「わかるのか?」
「精霊の気配はハネクリボーしかないし、他に変な気配もない」
「へえ……」
「カードを持ってるわけじゃないなら、やっぱりキミ自身が呪われてると思う。キミは何か……」
ユベルはまたハネクリボーを見た。ハネクリボーはじっとユベルを見返す。
「……まあ、ハネクリボーには多少キミを守る力があるようだから、手離さないようにした方がいいよ」
「言われなくとも手離さないさ。子供の頃からの相棒でね」
そうか、とユベルは少しだけ笑みを見せた。十代のように子供の頃から精霊が見えたわけではないが、子供の頃から大切にしていたカードだ。
十代が病室から戻ってきた。ほんのり目が赤くなっている。
「大丈夫かい?」
紅葉が訊ねると十代はこくりと頷いた。
「オサム兄さん、ちゃんと目が覚めてた。お医者様とお話があるから帰りなさいって……」
「そうか、よかったね。じゃ、オレとデュエルしてみるかい?」
そう言うと十代はぱあっと笑った。
デュエルをしてみると、十代のデッキはかなり拙いものだった。幼い上、ユベルという難しいカードをエースとするのだから仕方ないだろうが。
「もっとユベルをサポートできるカードを入れるといいと思うよ。そうだなあ、たとえば……」
いくつかカード名を挙げてみたが、十代にはわからないものも多いようだった。自宅のストレージに眠らせているカードをいくつかわけてやろうかと考える。精霊の見える者同士今後も交流したいとも思う──ご両親に挨拶したいところだ。
「十代くん、今日はお父さんかお母さんとお見舞いに来たのかい?」
「ううん、ユベルとふたりで来たよ」
それはひとりで来たというのではないか?
「その……十代くんは今小学生なのかな?」
「うん、一年生」
一年生──少し前までは幼稚園児だ。とてもじゃないがひとりでこんなところに来るものではない。
「お父さんとお母さんは十代くんがここに来てること知ってるの?」
「たぶん」
曖昧な返事だ。ご両親は知らないのではないか?
十代と話していると、オサム兄さんというのは両親が忙しく留守がちなために面倒を見に来ていた青年のようだった。彼が倒れてしまい、心配した十代はひとりで見舞いに来たようだった。危ないからひとりで出歩かない方がいいと言ったが、十代はあまりわかっていないようだった。
「ユベルがいるからひとりじゃないよ」
十代としては、親や先生からひとりで出歩くなと言われてもきちんと守っているのだ。ユベルが一緒だからひとりではない、と。ユベルもユベルで「ボクが守るから心配ない」と十代の一人歩きを問題視していないようだった。
病院と十代の自宅は子供にはやや遠いが徒歩圏内のようだった。それでもひとりで帰すのは心配になった紅葉は、オサムに頼み彼の両親に連絡をしてもらうことにした。オサムも十代は両親と見舞いに来たものと思っていたらしく、かなり驚いていた。オサムも十代に一人歩きは危ないと言ったが、やはり十代には理解できないようだった。
ともかく紅葉は十代と共に彼の両親の到着を待った。先に到着した彼の母親は何度も紅葉に頭を下げた。十代を叱る母親がやや取り乱していたので紅葉はつい口を出してしまったが、今日の昼に子供を狙う連続殺人犯のニュースが出たばかりらしい。
「捕まったの自体は一ヶ月ほど前らしいんですが……」
なんでも、容疑者の男はこの近所で自家用車の車内で気絶していたところを救急に運ばれたが、車内に血痕があり事件を疑い警察が捜査したところ、血痕は行方不明の子供のDNAと一致したそうだ。さらに男の自宅を調べると複数の子供を手にかけたらしい痕跡が発見された──というのである。
「やっぱあいつやばいやつだったんだ」
ユベルがぽつりと言った。すぐさまユベルに問いただしたくなったが、十代の母親に何もない空間に話しかける不審者だと思われても困る。十代の父親も迎えに来て、彼にも挨拶をしてご両親さえよければ今後も交流したいと申し出たもののやんわりと断られた。子供を守る立場として当然だろう。
それから数年経ち、紅葉は入院を機に彼と再会した。松葉杖をついた彼は紅葉同様に入院患者のようだった。
紅葉の病室を訪ねてきた彼に、姉のみどりが対応する。
「遊城十代です。紅葉さんに以前お世話になって、ご挨拶にきました」
みどりが紅葉を振り向く。
「十代くんだよ。何年か前に話した、一人で病院にきちゃった……」
「あら。じゃあ今三年生か四年生?」
「四年です」
「しっかりしてるわね」
「十代くん、その怪我は?」
「階段で転んじゃって」
十代は苦笑いした。
「ニュースで入院したって聞いたから、もしかしたら同じ病院にいるかなあって」
もう紅葉さえ半ば忘れていたというのに、十代は紅葉のことをしっかり覚えていたようだった。体調を崩しがちであったとはいえプロとして活動は続けていたから、テレビなどで紅葉を見ていたのかもしれなかった。
「少し紅葉さんとお話できたらと思って……大丈夫ですか?」
十代は、記憶よりもずいぶんしっかりして見えた。──それこそ小学生には似合わないと思うほどに。紅葉が頷くと、みどりはお菓子を買ってきてあげると部屋を出ていった。
「紅葉さん、病院の検査で何かわかった?」
「いいや」
「やっぱり呪われてるんだろ」
相変わらず十代に憑いているユベルが姿を現す。
「うん、ボクもわかるようになってきたけど、紅葉さんは何かあるみたいだね」
十代も同意する。
「十代くんまで……」
「本当だよ。信じられないかもしれないけど……」
紅葉を心配する十代の目は嘘を言っているようには見えなかった。
「今のボクは何もできないけど、紅葉さんの呪いを解く方法、きっと探してみせるよ。だから」
ボクの先生になってほしいんだ、と十代は言った。
「紅葉さんが大変なときにごめんなさい。体調のいいときだけでいいんです。お願いします」
十代は頭を下げた。
「ボクからもお願いするよ。彼には先生が必要だと思う」
ユベルも真剣な目をしている。ふたりとも冗談を言っているわけではなさそうだ。
「その……どうして先生が必要で、どうしてオレなんだ?」
「ボク、もっと強くなりたいんだ。そのためには先生が必要だし、紅葉さんは強いし精霊が見える。ボクもHEROを使うしきっといい先生になってくれるって思って」
「十代くん、HEROを使うようになったのかい?」
「うん。E・HEROとE-HERO。もちろんユベルも」
なるほど、二つのHEROにユベルか。先生云云は横に置いて、現在の彼とデュエルをしてみたいと思う。
「じゃあ、少しデュエルをしてみるかい」
十代は少し顔を明るくした。彼には悪いがこのデュエルで「自分では先生に向いていない」などと言ってしまえば諦めてくれるだろうという思いもあった。
だが実際デュエルをしてみると、彼の指導をするのも悪くないのではないかと思った。粗いところはあれど筋はいい。数年前とは大違いだ。きちんと指導をすればジュニア大会の優勝も見込めるのではないか? そんなことまで思う。
「……うん、前のデッキよりずっとよくなってるね」
デュエルが終わったあと(もちろん紅葉の勝利だ)、軽くデッキを見させてもらう。以前のまとまりのないデッキと違い、きちんとカードの効果が噛み合うように組まれている。効果を使うタイミングはやや前のめりであった印象だが、数をこなせばその見極めもうまくなるだろう。
「正直な感想として、今のデュエルでキミの指導をするのは悪くないと思った」
十代は目を輝かせた。でも、と紅葉は続ける。
「キミの目標はなんだい? ジュニア大会の優勝を目指しているなら、オレでも指導できると思う」
「大会は……あまり興味ない。でも、強くなりたくて」
「どうして強くなりたいの?」
その質問に、十代は言葉を詰まらせた。
「……キミに目標がないようには思えない。でも、それを秘密にされてしまうとオレも指導のしようがないよ」
十代は黙ってしまう。ずっと黙っていたユベルが口を開く。
「キミの言うことはもっともだ。でも、十代の方にも言えない事情はある。十代が勝ったら先生を引き受けるのはどうだ?」
「今の結果を見ただろう?」
「今はそうでも、何度もチャレンジすればまた違うだろう?」
「つまり十代くんが勝つまで相手をしろって?」
ユベルは肩をすくめた。
「紅葉さん、ボク……」
十代は紅葉を見上げる。その目には決意が宿っているように見えた。
「ボク、宇宙を守らないといけないんだ」
十代は真剣そのものだった。先生になってほしいと頼んだときと同じだ。冗談を言っているわけではない。
「……宇宙?」
「宇宙には滅びをもたらす光の波動と命を育むやさしい闇の対立がある。ボクは闇の力の持ち主として宇宙を守らないといけないんだ。だから強くなりたい」
子供の好きなヒーロー番組の設定だろうか、と紅葉は思ってしまう。でも十代の瞳には子供に似合わない決意や覚悟の色が見てとれる。まるでちぐはぐだ。
「……壮大だね」
とりあえず否定はすまいとそう言った。
「だから言わない方がいいって言ったろ」
ユベルは呆れたように言った。十代はしょんぼりと悲しそうな顔になる。年相応な子供の顔だ。
「十代くんが嘘をついてるとか、そういう風には思わないよ。でもその……」
にわかには信じがたい。だが、先程デュエルしていたときの妙に思い詰めた表情は、宇宙を守らねばならないという壮大すぎる話を負ってのことなのか?
「どうして……キミなんだ?」
「もとからそうなんだ」
「もとから?」
「うん。ボクはそう生まれた」
生まれ持った運命──ということか?
「それはご両親も知ってるの?」
十代は首を横に振った。
「じゃあどうやって十代くんは知ったんだい?」
「わかるんだ。自分がそうだって」
それは──子供の思い込みなのではないか? テレビか何かのごっこ遊びをしているだけなのでは、と紅葉は思う。
「彼に宿命があることはボクが保証する。ボクは彼を守るためにここにいる」
ユベルが言った。確かに、こんな大きな精霊が憑いている人間を紅葉は他に見たことがない。精霊に憑かれるだけの理由があるのだ、と言われたらそれには信憑性を感じる。
「守るって、何から?」
「彼の命を奪おうとするすべてから」
ユベルは十代の肩に手を置いた。
「命を奪おうとなんて、そんなことがあるのか?」
「キミも聞いただろ、この近くで逮捕された連続殺人犯」
今日のお昼のニュースで──と数年前に十代の母親が青い顔で語った話を思い出す。後に被害者は三人もいたことが報道された。すべて当時の十代と同じ小学一年生の子供だった。
「あれは彼を狙ってたと思うよ」
「それは──犯人の好み……というか」
「どうかな。かなり嫌な気配がしていた。ボクも一瞬しか見てないから正確にはわからないが、何かに取り憑かれてたんじゃないか」
「見たって……そいつに会ったのか!?」
「十代を車に引きずり込もうとしたから眠らせた」
「な──」
つまり──ユベルが眠らせたことによって犯人は逮捕されたのか。思わず十代の顔を見る。
「……どうしてボクを狙ったかはわかんないけど、なんかすごく嫌な感じはしたよ」
「そ、そりゃ怖いだろ」
一歩間違えば十代も殺された子供の一人になっていた──。
「怖いのもあったけど、それとは別の『嫌な感じ』だよ。あれが光の波動なのかまではわからないけど」
「光の波動?」
「さっきも言ったが、この宇宙には破滅をもたらす光の波動と命を育むやさしい闇との対立があるのさ。人間にはもう伝わってないみたいだが」
ユベルが答えた。精霊たちの伝承ということか? 理由はわからないが、十代は精霊に見出だされた存在なのだろう。そのために命を狙われ、守るためにユベルがそばにいる──ということか。
「ボクのせいで関係ない誰かを巻き込んだかもしれない。もうそんなこと起きないように早く強くなりたいんだ。お願い紅葉さん」
十代がデュエル中に思い詰めたような顔をしていたのはそれも理由なのだろうか。
「その……子供の連続殺人はキミが責任を感じる必要はない。偶然被害にあいかけただけだ。嫌な気配というのは、たぶん相手が殺人犯だからそう感じただけで……」
もちろん真実は紅葉にはわからない。しかし殺人犯の動機がなんであれ、ターゲットにされた十代が責任を感じることではない。
「ええと……じゃあ、こうしないかな。先生になるんじゃなくて、入院してる間、暇つぶしに楽しくデュエルするってのは? 先生なんて荷の重いことはできないけど……オレはキミが楽しくデュエルできたらいいと思うよ」
「楽しく?」
十代は大きな目をぱちくりとさせた。
「そう。さっきのデュエル、キミは昔より確かに強くなっていたけど、昔あった楽しいって気持ちはなくなってたんじゃないかな」
「……だってボク、強くならないと──」
「うん、その気持ちがあるのは悪いことじゃないよ。オレはプロの世界しかわからないけど、勝たなくちゃと思い詰めてるときより楽しくやろうって気持ちのときの方が案外勝てたりするものさ。負けないぞって緊張感と一緒に、楽しいってリラックスした気持ちがある方が心に余裕ができる。
さっきのデュエル、キミは勝とうと気負いすぎて効果を使うタイミングが早すぎることが何度かあった。それがなかったら勝敗は変わっていたかもしれない」
「そう……なの?」
「ああ。だからオレとは楽しくデュエルしてみないか? 強くなりたいなら──」
病室のドアが開いた。みどりが戻ってきた。
「ちょうどいいところに、姉上」
「何よ?」
「姉上は今度設立されるデュエルアカデミアの教師になるんだ」
「デュエルアカデミア?」
十代が聞き返す。背後のユベルも興味を持ったようだった。
「デュエリストを養成する学校よ。中等部と高等部があって、私は高等部の教師になるの」
「強くなりたいならデュエルアカデミアはどうかなって。きちんと学ぶ方がきっと将来のためになるし」
「興味あるならパンフレットあげるわ。よかったらご両親に相談してみて」
みどりは先ほど紅葉に見せていたパンフレットを十代に渡した。
「学校……」
十代はまだ飲み込めない様子でパンフレットをめくる。
「いいじゃないか。まあキミの頭で入学できるかかなり怪しいが……」
パンフレットを覗き込みながらユベルが言った。どうやら十代は学校の成績があまりよくないらしい。
「五年かけて必死に勉強すれば高等部にはギリギリいけるかもしれない」
「そんなにかい?」
「残念ながら」
「紅葉?」
精霊の見えないみどりが紅葉の言葉を不審に思ったようだ。
「ああいや、悩んでるから成績に自信がないのかなと」
「あんまり勉強は得意じゃなくて……」
「あら……それなら少し私が教えましょうか。入院中は学校も行けないものね」
「頼んでおけ十代。キミただでさえ成績悪いんだから」
「その、ご迷惑でなければお願いします」
ユベルに後押しされて十代は遠慮がちに言った。
「迷惑なんて。小学生に教えるのは初めてだから私も勉強になるわ」
「響先生は、いまは結構有名な塾の講師なんだ。厳しいぞ」
「えっ」
「紅葉、余計なこと言わないの」
「はは。それと十代、できたらちゃんとご両親に挨拶したいんだけど」
え、と十代は少し嫌そうな顔をした。
「あのね、いかに病院の中とはいえ、親御さんは心配なものだよ」
「紅葉さん、考えすぎじゃないの」
「そんなことないわよ、このあたりは殺人犯も出たし」
みどりにも言われ、十代は渋渋といった様子だったが承諾し、夕方に着替えを届けに来た彼の両親に挨拶することができた。女性のみどりもいるからか以前よりは警戒されていないようだった。
それから、みどりは十代に勉強を教え、紅葉は十代とデュエルをした。みどりは、十代は少し覚えが悪いもののしっかり勉強すればデュエルアカデミア中等部も行けるのではないか、と言った。デュエルでも、回を重ねると少しずつ楽しむことができるようになってきているようだった。
十代の怪我が治り退院できる頃には、再会したばかりの頃よりずっと子供らしく笑うようになった。
「紅葉さんはまだしばらく入院なの?」
「ああ……今度の大会には出られるように調整中だけどね。十代とデュエルしていたからきっと勘も落ちていないさ」
十代もデュエルを楽しむだけではなく、だんだんと強くなってきている。十代とのデュエルは楽しいが、まだ拙いところも多い。強敵と大舞台でデュエルしたいという欲求は強くなってきていた。
「大会に出るときにはチケット送るから、見に来てくれよ」
「もちろん。またお見舞いにも来ていい?」
「ああ。勉強もしっかりな」
「このまま頑張れば中等部も夢じゃないわよ」
みどりが十代に笑いかける。
「本当? 頑張るね」
「十代、そろそろ……」
十代の母親が病室の外から声をかける。姉弟にお世話になりましたと頭を下げた。紅葉も十代のおかげで楽しく過ごせたと礼を言い、みどりは勉学の努力ができる子だと褒めた。十代の母親は息子をデュエルアカデミアへ進学させることを前向きに考えているようだった。
「ただ、あとはこの子の成績が……」
「頑張るってば」
まあ、十代の成績をずっと憂えていたのだろう。みどりも教え始めは「十代くんはちょっと手強いね」と紅葉にこぼしていた。
十代は紅葉に笑顔で手を振って病室を出ていった。みどりも時計を見てそろそろ時間だと病室を出る。
「紅葉」
ひとりになった病室にユベルが現れた。
「わっユベル、どうした?」
「短い間だが、彼の師となってくれたこと、感謝する」
ユベルは丁寧に一礼した。
「十代が思い詰めてるのはボクも気になっていた。ボクが肩の力を抜けと言ってもあまり聞かなくてね。助かったよ」
ユベルは微笑んだ。見た目は恐ろしく見えるがこの精霊が十代を想っているのは確かだ。
「それから忠告だ。キミの呪い、デュエルに関わっていると思う。ボクとデュエルしてたとき、妙な気配がした」
以前、一度だけユベルとデュエルした。ユベルは手強く非常に楽しかったのだが、突如発作が起きて中断してしまったのだ。
「だが、発動条件がよくわからない。十代とのデュエルではなんともないし、精霊とのデュエルが理由なら人間としかデュエルしてないのに入院したのも変だ。だから何に気をつけろとは言えないんだが──」
「頭に入れておくよ。わざわざありがとう」
「力になれずすまない」
ユベルはそう言うと姿を消した。
初めて聞いたときには怪しく思った呪いという言葉も、今は信憑性があるように思う。どんなに検査しても医学的にはなんの異常も見つからず、デュエル中やデュエル後に発作が起きる──。デュエルに関わる呪いだと言われた方がしっくりくるくらいだ。
でも呪いによって死ぬなら、大舞台でデュエリストとして死ねたら本望ではないか──?
次の大会にはそんな想いさえあった。
◇◆◇
響紅葉、優勝後に救急搬送──そんなニュースが大会のあとに流れた。
紅葉から大会のチケットをもらい、応援に行った日のことだった。紅葉は事前に大会が終わったら楽屋に遊びに来てくれと関係者用のパスをくれていた。その日は十代の父と母も珍しく休暇を取り一緒に観戦し、三人で挨拶をしようと手土産を買ってきていた。久しぶりに紅葉に会えることを十代も楽しみにしていた。
しかし関係者入り口は封鎖され、十代が何かと思いながら待つうちに救急車のサイレンが響いてきた──。
後に紅葉からあの病院に入院していると連絡があり、十代は見舞いに行った。病室の紅葉は以前と同じくらいには元気そうに見えた。
「優勝おめでとう、紅葉さん」
「ありがとう。お父さんとお母さんと三人で見に来てくれてたね」
「うん。すごいデュエルで、楽しかった。父さんと母さんも熱中してたよ。父さんも母さんもあんまりデュエルに興味なかったけどさ、あれ見て頑張ってデュエルアカデミアに入れって言ってくれて」
「そうか、よかった」
「もっと頑張って勉強しないとだけどね」
「勉強も肩に力入れすぎず楽しめよ」
「どうかな……勉強は難しいかも。デュエルは楽しいよ」
「……また来れるかい?」
「うん。……紅葉さんはしばらく入院するの?」
「そうなりそうだ。だから……」
その間キミの先生をしようと思って、と紅葉は言った。
「え? いいの?」
十代は驚く。以前は断られていたからだ。「楽しくデュエルをする」というかたちで実質的な師ではあったものの、改めてそのように言われるとは予想外だった。
「ああ。もちろん学校の勉強もしっかりやるんだぞ」
「うん……あ──はい! よろしくお願いします! 紅葉先生!」
十代は頭を下げた。紅葉は「先生はよしてくれ」と苦笑いした。
紅葉が前回の入院から退院して一年半ほど経っていた。久しぶりの紅葉とのデュエルでも、十代はやはり勝つことができなかった。十代も町内のこどもデュエル大会では準優勝まで行ったのだが、プロにはまだまだ及ばない。
紅葉は先生をすると言った通り、十代の問題点を指摘し、褒めるところは褒めた。楽しくデュエルすることを第一とした以前とは明確に違っていた。
やはり紅葉は師としてふさわしいとユベルは思う。なぜ心変わりしたかはよくわからないが、デュエルアカデミア入学までの間に師となってもらえるならばありがたい。
脅威はいつでもあるのだから。
以前十代が骨折したのは精霊とデュエルをしたことが原因だった。ある公園に幽霊が出るのだと噂になり、見に行ってみるとアンデッド族の精霊が人間界に迷い出ていたものだった。精霊は人間界に来たことで混乱して正気を失っており、十代がデュエルで大人しくさせたのだが──苦戦して相手の攻撃を受けた際に吹き飛ばされ骨折した。大事ではなかったが、早く決着をつけていれば防げた怪我だった。
あの頃の十代はかなり未熟だったと思う。しかし実戦を重ねなければ強くはなれない──師を得ることで安全に特訓ができるならそれに越したことはない。入院を機に紅葉に再会できたのは僥倖だった。
気になるのは彼を蝕んでいるなにがしかの呪いだが──。
紅葉は再度十代とデュエルする。十代とのデュエルでは、まったく妙な気配はしない。なぜユベルとのデュエルでは彼から妙な気配がしたのだろう? 十代が覇王であるからか──とも思うが、十代はまだその力をあまり操ることができない。現在も特に力を使っていないから、紅葉にも影響はないだろう。
「──今のはよくなかったな」
紅葉はそう指摘し、自分のターンになるとすぐさま十代のライフをゼロにする。
「うわあ」
「ま、こんな感じで一手が命取りになることもあるよ。さっきの盤面だと……」
紅葉は手筋を説明する。この調子で指導されていけば、十代は大きく成長するだろう。
二人が話すうち、紅葉の姉のみどりがやってきた。
「あら十代くん、来てくれてたの」
「みどりさん! ボク、あれから成績すごくよくなったよ!」
十代は元気よくみどりに報告した。すごいじゃないとみどりも笑う。
「父さんと母さんもデュエルアカデミアに入れるように頑張れって言ってくれて。来年中等部受けるんだ」
「難関よ、頑張って」
「うん!」
「五年生の授業はどう? わからないところある?」
「えーと、歴史はちょっと難しいかなあ……」
「姉さん、また少し指導してあげて」
「もちろん」
「十代、オレ少し疲れたからさ、談話室で姉上に教わっておいで」
「大丈夫?」
「ああ。少し休めば」
「わかった。今日はありがとうございました」
十代は紅葉に頭を下げた。
「しばらく、十代の先生になることにしたよ」
「あら、いいじゃない。入院生活にも張りが出るわ」
みどりは微笑み、十代と共に談話室へ向かう。紅葉がユベルへと視線を寄越したため、ユベルは病室に残った。
「……どうかしたかい」
「十代はあれから大丈夫か?」
「大きな怪我はあれ以来ないよ」
「光の波動というのは?」
「今は動きがないようだ。少なくともこの近くでは」
「ならすぐさま十代が危ないなんてこともないのか」
「油断は禁物だけどね。……十代が心配で先生を買って出てくれたのかい?」
「それもあるが……自分の命が惜しくなったからかな。倒れたとき、どうせ死ぬなら後進を育てたいなと思ってしまってね」
「後進といっても、十代はプロにはならないよ。そんなことをしている暇はない」
「プロとしてじゃなくてもいいさ。楽しいデュエルをする、そんなデュエリストを育てたくなった。──だから、これはオレのわがままさ」
紅葉は笑ってそう言った。
紅葉の元へ通うようになって一年が過ぎ、十代はデュエルアカデミアの中等部に合格することができた。紅葉に報告すると彼は喜び、合格祝いに本気のデュエルをしようと言った。明日のデュエルには紅葉がプロとして使っていたデッキを用いる、と。
紅葉は真剣な目をしていた。十代にもその並並ならぬ覚悟は伝わったようだったが──その理由がデュエルにより発作が起きかねないことに起因するとは十代は気づいていない。
「いいのかい、紅葉」
ユベルが訊ねると紅葉は頷いた。本人も覚悟の上ならばユベルが口を挟むことではないだろう。
結果として十代は紅葉に負けた。もとよりユベルも勝てるとは思っていない。十代はユベルを召喚し、E-HEROのエースで一度は紅葉を追い詰め、健闘したと思う。十代も全力を出しきれたという思いがあったらしく、負けて悔しがった後は楽しかったと笑っていた。
デュエルの後、紅葉は十代に自分のデッキを託し、デュエリストは引退すると十代に告げた。十代はきっと治るから早まらないでほしいと言ったが、紅葉の決意は固いようだった。
どんな相手でもデュエルを楽しむデュエリストになれと言った紅葉の笑顔は穏やかだった。
翌日十代が見舞いに行くと、紅葉は昏睡状態になっていた。昨日の夕方から昏睡状態になったのだとみどりは話した。昨日のデュエルで呪いが進行したのだろうとユベルは思う。ハネクリボーが紅葉を癒そうとしていたが、彼の力では昏睡を解くには至らないようだった。
「え──」
みどりが息を飲む。彼女は驚愕した顔でハネクリボーとユベルを見た。
「ハネクリボー……に、ユベル……?」
十代が驚いて振り向く。
「みどりさん……見えるの?」
「見──」
みどりは困惑しているようだった。十代とハネクリボーとユベルを何度も見る。
「十代くんも見えるの?」
「うん。紅葉さんも……」
「だから──知り合ったのね。そうか……」
みどりは驚くと同時に納得もしたようだった。なぜ紅葉が十代を気にかけているのか理由がわかったからだろう。
「あのね、みどりさん。紅葉さんはたぶん、呪いみたいなのにかかってて……」
「呪いというのはボクの見立てだが」
ユベルはみどりに自分の見立てを説明した。十代の手前、デュエルで進行したかもしれないということは伏せておいた。
「では──医学ではどうしようもないということね」
「でもボク、呪いを解く方法を探すよ。あの島になら何かあるかもしれないし」
「島って、デュエルアカデミアの?」
「あの島は確か三幻魔を封じた場所のはずだ。知ってて学校を建てたのか、偶然かは知らないが」
「三幻魔?」
みどりはユベルに聞き返す。
「まあ──精霊さ。あの島に何かあるかもしれないというのはボクも思うよ」
「何か……遺跡の類いはあるようだけど……」
「精霊がいるかもしれないな。キミひとりで近づくのはおすすめしない。十代ももう少し強くならないと、下手な精霊がいたときに痛い目を見ることになる。焦って近づいたりするなよ」
「う……はい……」
ユベルは遺跡に興味を持った様子の十代に釘を刺した。
「……なんだかあなたたちって兄弟みたいね。十代くん、昨日は兄弟がいないからうらやましいなんて言ってたけど」
みどりが目を細めた。
「兄弟? そうかなァ……」
十代は眉を寄せて首をかしげる。
「あら、嫌なの?」
「嫌っていうか、兄弟とは違うと思う。実際兄弟はいないけど……ユベルは兄弟よりもっと近いような気がする。魂の距離みたいなのが」
「魂……詩的なことを言うのね。私は精霊が見えるようになったばかりでよくわからないけど……」
みどりはハネクリボーを見つめた。
「オマエも紅葉の魂のそばにずっといたのかしら?」
ハネクリボーは黙ってみどりを見返した。彼はなぜ紅葉を選んだのか、そもそも彼にどんな役割があるのか? ハネクリボーはなんらかの使命を帯びているようだ──という感覚はあるのだが。以前訊ねてみたが彼は答えなかった。ユベルとて十代の宿命をハネクリボーに詳しく話したわけではないから、そこはお互い様だろうか。
「ハネクリボーも一緒に頑張ろうな。絶対紅葉さんの呪いを解こう」
「クリィ!」
ハネクリボーは元気よく返事をした。
あとは紅葉の身体がどれだけもつか──とユベルは思う。呪いの進行自体が止まったとしても、人間の体力の限界はある。昏睡状態の人間がどれほど生きられるものか、ユベルにはよくわからない。
異世界にでも行けば解呪の方法は見つかるかもしれないが──十代が覇王の力を操れるようになるまで、異世界に近づくのは危険だろう。どんなに早くとも十代が十五、六になるまで──それまで紅葉は無事なのだろうか?
命をかけて彼が師となったことを知ったら十代は──。
そう思い、紅葉が師になったことを「自分のわがままだ」とわざわざユベルに告げたことを思い出す。あれにはもし万一のことがあっても十代が気に病まないようにという意図もあったろう。それを聞いたところで十代が納得するとも思えないが、彼の心は汲むだろう。
──そんな日が来ないことが一番だけど。
その後、十代は晴れてデュエルアカデミア中等部に入学した。だが、その晴晴しいはずの入学式の日は、不運から始まった。電車が事故を起こし、デュエルアカデミアのある島へ出航する船に乗り遅れそうになったのだ。
「先が思いやられるなァ」
「オレが悪いんじゃないだろ!」
埠頭に向かい走りながら十代は文句を言った。
「あーもう、ちょっと観光したかったのに!」
船の待つ港は童実野埠頭、デュエリストを目指す者たちにはかのデュエルキングが戦った聖地のひとつだった。
「まあそのおかげで船には間に合いそうじゃないか。埠頭は逃げやしないんだから、また今度観光しな」
「あ~もったいねぇ」
「──おい!」
ユベルが警告し十代は止まろうとスピードを落としたものの、前を歩く人にぶつかった。尻餅をついた拍子にデッキケースからカードがこぼれ落ちる。
「すみません!」
十代は謝り、カードを慌てて拾う。カードが飛び出して驚いたのかハネクリボーも姿を現す。
「ちゃんと前見ないから」
十代は唇の動きだけで仕方ないだろと言った。昔なら素直に謝った気がするが、最近は反抗期だろうか。
十代がぶつかった相手は、十代の鞄から落ちた封筒を拾ってくれていた。デュエルアカデミア行きの乗船チケットが入った封筒だ。
青年はユベルとハネクリボーを見て微笑んだ。
ユベルは、青年に礼を返した。かつて精霊界を窮地から救った人物だった。
「──キミ、デュエルアカデミアに行くのかい」
青年は十代にデュエルアカデミアのロゴマークの入った封筒を差し出した。
「あ、はい。今日が入学式で……」
封筒を受け取った十代は視線を上げわずかに目を見開いた。
「あなたは……」
青年はただ微笑み、頑張れよと声をかけて歩いていく。十代はその背中に頭を下げた。
「ま──マジかよ、今の」
「いいから港に急ぎな」
「わかってる!」
十代は再び走り出した。ユベルは青年を振り返る。ここは彼の生家のある町だから、いることは不自然ではないだろう。ユベルと十代を見る瞳に何か感情のあるように見えたが──。
──まあ、何かあるのならいずれわかるだろう。
「すみませーん! 乗ります乗りまーす!」
今にも出航しそうな船に向かって十代は叫んだ。どうやら、入学式には間に合いそうだった。
2025/02/09
大きな翼のある精霊がいたのだ。その精霊はヒト型をベースにコウモリのような大きな翼、鋭い爪や鱗をまとっていた。隣に小学生になるかならないかくらいの子供がいるから、その子の連れた精霊なのだろうかと紅葉は思った。
その子供は暗い顔をして、目にはほんのり涙がにじんでいた。近くに保護者もいないようだが、どこか痛んだり迷子になったりしているのかもしれない。
「……坊や、大丈夫かい?」
「え?」
子供は少し驚いて紅葉を見上げた。精霊はギロリと紅葉を睨む。紅葉は精霊とトラブルにならないよう気づかないふりをした。
「泣いてるから、どこか痛かったりするかと思って」
子供は首を横に振った。
「ボクはなんにも……起きないの、オサム兄さん……」
子供は手の甲で涙を拭う。精霊はそんな彼を悲しげに見つめ、慰めるように触れられない手で背を撫でる仕草をした。見た目の割にはやさしい精霊なのだろうか。
「キミのお兄さんが入院してるの?」
「ボクのお兄さんじゃないけど、いつもあそんでくれるの。でも……」
子供はまたぽろぽろと涙を流す。精霊は子供を庇うように羽根を広げ紅葉を睨んだ。先ほど子供を見つめた悲しげな瞳とは違う。橙と緑の目に怒りと憎しみをにじませ、今にも射殺されそうな気迫がある。紅葉は思わず後退りそうになる──。
「クリィ!」
ハネクリボーが紅葉と精霊の間に飛び出した。子供が驚いて顔を上げる。精霊の怒りの目はハネクリボーへと移る。
「なんだお前──うわ!?」
ハネクリボーの身体が光って精霊も紅葉も子供も目を閉じた。
「ハネクリボー、どうした?」
紅葉は相棒に声をかける。子供は目をしばたたかせていた。
「十代、大丈夫?」
精霊が子供にたずねる。
「うん、まぶしかっただけ。……お兄さん、その精霊の友達なの?」
子供はハネクリボーを見て目を輝かせる。ようやく笑顔になったと思う。
「ああ、ハネクリボーっていうんだ」
「よろしく、ハネクリボー。ボク十代っていうんだ。こっちはユベル」
「クリィ~」
十代と名乗った少年にハネクリボーも笑顔で挨拶を返した。
「いま何したんだ?」
精霊、ユベルはハネクリボーを睨んだ──が、先ほどのように冷たく怒りをにじませた目ではなかった。今会ったばかりだが、極端に雰囲気が変わった気がした。
「クリ! クリクリ~」
「……ふん。別に」
精霊同士は言葉がわかるのだろうか。ふたりは何か会話をしたらしい。
「ユベル、どうしたの?」
「なんでもないよ」
ユベルは十代に対してはやさしい微笑みを見せた。
「ユベル──」
十代はユベルをじっと見つめる。
「なに?」
「……ユベルちょっと、怒んなくなった?」
「別にボクは怒ってないけど……」
ユベルはハネクリボーを見た。ハネクリボーは笑ってクリィと鳴く。
「十代くんも精霊が見えるんだね」
「うん。ボク初めて見えるひとに会ったよ」
「オレも初めてだ。っと──オレは響紅葉。よろしくね」
「ひびき──えっ響プロ!? ボクいつもテレビで見てる! すごいデュエルでHEROがかっこよくて!」
十代は驚いて、それから笑顔になった。
「ボクも響プロみたいに強くなりたいんだ」
「ありがとう。キミもデュエルをするんだね。よかったら今からオレとやってみるかい?」
「ほんと!? あ……」
十代は一瞬目を輝かせたが、すぐに暗い顔になりうつむいた。
「……だめだよ。ボクとデュエルしたらオサム兄さんみたいに……」
また十代の目には涙が浮かぶ。ユベルが触れられない腕で十代を抱きしめた。
「十代、大丈夫。そんなことはもう起きないよ。……キミを悲しませるつもりはなかった……ボク、どうしてあんなことを……」
「ユベル?」
「……彼はもう目が覚めてると思うから、会っておいで」
「ほんと!?」
十代はぱっと立ち上がり、はっと気づいて紅葉を見た。
「えっと……響プロもう帰っちゃう?」
「まだここにいるよ。行っておいで」
「うん!」
十代は早足で長椅子から二つ向こうの病室へ入っていった。
「……一応、礼は言うよ。助かった」
「クリィ」
ユベルはハネクリボーを見た。
「……いったいなんの話をしてるんだ?」
「クリクリ~。クリ、クリイ」
ハネクリボーは紅葉の質問に答えたようだが、紅葉に彼の言葉はわからなかった。
「……一言でいえばボクにまとわりついてた邪気みたいなものを払ってくれた。でも……」
ユベルは紅葉を見た。紅葉を探るように二色の目をやや細めた。
「……キミも何かに呪われてる?」
紅葉はどきりとした。ここ最近心臓の調子が悪く、検査に来たところだった。血液検査などの結果はまだ出ていないが、心電図と脳のMRI撮影に特段の異常は見られなかった。
「呪い……なんて、あるのか?」
「あるよ。……何か闇の気配だな。タチの悪い精霊とでもデュエルしたのか?」
「え? そんな覚えはないけど……」
ユベルは紅葉の目をじっと見た。なぜだか心を覗き込まれるような気がして居心地が悪い。
「……借りを返したいがボクの関与できる力じゃなさそうだ。元凶の精霊をどうにかした方がいいだろう」
「元凶の精霊と言われても……」
紅葉にはまったく身に覚えがない。そもそもハネクリボー以外の精霊は見かけることはあれど、デュエルどころか話さえしたことがない。
「変なカード持ってたりしないか?」
「変なカードなあ……」
紅葉はデッキを取り出してみる。ユベルはそれをしばらく見つめると「それじゃないな」と言った。
「わかるのか?」
「精霊の気配はハネクリボーしかないし、他に変な気配もない」
「へえ……」
「カードを持ってるわけじゃないなら、やっぱりキミ自身が呪われてると思う。キミは何か……」
ユベルはまたハネクリボーを見た。ハネクリボーはじっとユベルを見返す。
「……まあ、ハネクリボーには多少キミを守る力があるようだから、手離さないようにした方がいいよ」
「言われなくとも手離さないさ。子供の頃からの相棒でね」
そうか、とユベルは少しだけ笑みを見せた。十代のように子供の頃から精霊が見えたわけではないが、子供の頃から大切にしていたカードだ。
十代が病室から戻ってきた。ほんのり目が赤くなっている。
「大丈夫かい?」
紅葉が訊ねると十代はこくりと頷いた。
「オサム兄さん、ちゃんと目が覚めてた。お医者様とお話があるから帰りなさいって……」
「そうか、よかったね。じゃ、オレとデュエルしてみるかい?」
そう言うと十代はぱあっと笑った。
デュエルをしてみると、十代のデッキはかなり拙いものだった。幼い上、ユベルという難しいカードをエースとするのだから仕方ないだろうが。
「もっとユベルをサポートできるカードを入れるといいと思うよ。そうだなあ、たとえば……」
いくつかカード名を挙げてみたが、十代にはわからないものも多いようだった。自宅のストレージに眠らせているカードをいくつかわけてやろうかと考える。精霊の見える者同士今後も交流したいとも思う──ご両親に挨拶したいところだ。
「十代くん、今日はお父さんかお母さんとお見舞いに来たのかい?」
「ううん、ユベルとふたりで来たよ」
それはひとりで来たというのではないか?
「その……十代くんは今小学生なのかな?」
「うん、一年生」
一年生──少し前までは幼稚園児だ。とてもじゃないがひとりでこんなところに来るものではない。
「お父さんとお母さんは十代くんがここに来てること知ってるの?」
「たぶん」
曖昧な返事だ。ご両親は知らないのではないか?
十代と話していると、オサム兄さんというのは両親が忙しく留守がちなために面倒を見に来ていた青年のようだった。彼が倒れてしまい、心配した十代はひとりで見舞いに来たようだった。危ないからひとりで出歩かない方がいいと言ったが、十代はあまりわかっていないようだった。
「ユベルがいるからひとりじゃないよ」
十代としては、親や先生からひとりで出歩くなと言われてもきちんと守っているのだ。ユベルが一緒だからひとりではない、と。ユベルもユベルで「ボクが守るから心配ない」と十代の一人歩きを問題視していないようだった。
病院と十代の自宅は子供にはやや遠いが徒歩圏内のようだった。それでもひとりで帰すのは心配になった紅葉は、オサムに頼み彼の両親に連絡をしてもらうことにした。オサムも十代は両親と見舞いに来たものと思っていたらしく、かなり驚いていた。オサムも十代に一人歩きは危ないと言ったが、やはり十代には理解できないようだった。
ともかく紅葉は十代と共に彼の両親の到着を待った。先に到着した彼の母親は何度も紅葉に頭を下げた。十代を叱る母親がやや取り乱していたので紅葉はつい口を出してしまったが、今日の昼に子供を狙う連続殺人犯のニュースが出たばかりらしい。
「捕まったの自体は一ヶ月ほど前らしいんですが……」
なんでも、容疑者の男はこの近所で自家用車の車内で気絶していたところを救急に運ばれたが、車内に血痕があり事件を疑い警察が捜査したところ、血痕は行方不明の子供のDNAと一致したそうだ。さらに男の自宅を調べると複数の子供を手にかけたらしい痕跡が発見された──というのである。
「やっぱあいつやばいやつだったんだ」
ユベルがぽつりと言った。すぐさまユベルに問いただしたくなったが、十代の母親に何もない空間に話しかける不審者だと思われても困る。十代の父親も迎えに来て、彼にも挨拶をしてご両親さえよければ今後も交流したいと申し出たもののやんわりと断られた。子供を守る立場として当然だろう。
それから数年経ち、紅葉は入院を機に彼と再会した。松葉杖をついた彼は紅葉同様に入院患者のようだった。
紅葉の病室を訪ねてきた彼に、姉のみどりが対応する。
「遊城十代です。紅葉さんに以前お世話になって、ご挨拶にきました」
みどりが紅葉を振り向く。
「十代くんだよ。何年か前に話した、一人で病院にきちゃった……」
「あら。じゃあ今三年生か四年生?」
「四年です」
「しっかりしてるわね」
「十代くん、その怪我は?」
「階段で転んじゃって」
十代は苦笑いした。
「ニュースで入院したって聞いたから、もしかしたら同じ病院にいるかなあって」
もう紅葉さえ半ば忘れていたというのに、十代は紅葉のことをしっかり覚えていたようだった。体調を崩しがちであったとはいえプロとして活動は続けていたから、テレビなどで紅葉を見ていたのかもしれなかった。
「少し紅葉さんとお話できたらと思って……大丈夫ですか?」
十代は、記憶よりもずいぶんしっかりして見えた。──それこそ小学生には似合わないと思うほどに。紅葉が頷くと、みどりはお菓子を買ってきてあげると部屋を出ていった。
「紅葉さん、病院の検査で何かわかった?」
「いいや」
「やっぱり呪われてるんだろ」
相変わらず十代に憑いているユベルが姿を現す。
「うん、ボクもわかるようになってきたけど、紅葉さんは何かあるみたいだね」
十代も同意する。
「十代くんまで……」
「本当だよ。信じられないかもしれないけど……」
紅葉を心配する十代の目は嘘を言っているようには見えなかった。
「今のボクは何もできないけど、紅葉さんの呪いを解く方法、きっと探してみせるよ。だから」
ボクの先生になってほしいんだ、と十代は言った。
「紅葉さんが大変なときにごめんなさい。体調のいいときだけでいいんです。お願いします」
十代は頭を下げた。
「ボクからもお願いするよ。彼には先生が必要だと思う」
ユベルも真剣な目をしている。ふたりとも冗談を言っているわけではなさそうだ。
「その……どうして先生が必要で、どうしてオレなんだ?」
「ボク、もっと強くなりたいんだ。そのためには先生が必要だし、紅葉さんは強いし精霊が見える。ボクもHEROを使うしきっといい先生になってくれるって思って」
「十代くん、HEROを使うようになったのかい?」
「うん。E・HEROとE-HERO。もちろんユベルも」
なるほど、二つのHEROにユベルか。先生云云は横に置いて、現在の彼とデュエルをしてみたいと思う。
「じゃあ、少しデュエルをしてみるかい」
十代は少し顔を明るくした。彼には悪いがこのデュエルで「自分では先生に向いていない」などと言ってしまえば諦めてくれるだろうという思いもあった。
だが実際デュエルをしてみると、彼の指導をするのも悪くないのではないかと思った。粗いところはあれど筋はいい。数年前とは大違いだ。きちんと指導をすればジュニア大会の優勝も見込めるのではないか? そんなことまで思う。
「……うん、前のデッキよりずっとよくなってるね」
デュエルが終わったあと(もちろん紅葉の勝利だ)、軽くデッキを見させてもらう。以前のまとまりのないデッキと違い、きちんとカードの効果が噛み合うように組まれている。効果を使うタイミングはやや前のめりであった印象だが、数をこなせばその見極めもうまくなるだろう。
「正直な感想として、今のデュエルでキミの指導をするのは悪くないと思った」
十代は目を輝かせた。でも、と紅葉は続ける。
「キミの目標はなんだい? ジュニア大会の優勝を目指しているなら、オレでも指導できると思う」
「大会は……あまり興味ない。でも、強くなりたくて」
「どうして強くなりたいの?」
その質問に、十代は言葉を詰まらせた。
「……キミに目標がないようには思えない。でも、それを秘密にされてしまうとオレも指導のしようがないよ」
十代は黙ってしまう。ずっと黙っていたユベルが口を開く。
「キミの言うことはもっともだ。でも、十代の方にも言えない事情はある。十代が勝ったら先生を引き受けるのはどうだ?」
「今の結果を見ただろう?」
「今はそうでも、何度もチャレンジすればまた違うだろう?」
「つまり十代くんが勝つまで相手をしろって?」
ユベルは肩をすくめた。
「紅葉さん、ボク……」
十代は紅葉を見上げる。その目には決意が宿っているように見えた。
「ボク、宇宙を守らないといけないんだ」
十代は真剣そのものだった。先生になってほしいと頼んだときと同じだ。冗談を言っているわけではない。
「……宇宙?」
「宇宙には滅びをもたらす光の波動と命を育むやさしい闇の対立がある。ボクは闇の力の持ち主として宇宙を守らないといけないんだ。だから強くなりたい」
子供の好きなヒーロー番組の設定だろうか、と紅葉は思ってしまう。でも十代の瞳には子供に似合わない決意や覚悟の色が見てとれる。まるでちぐはぐだ。
「……壮大だね」
とりあえず否定はすまいとそう言った。
「だから言わない方がいいって言ったろ」
ユベルは呆れたように言った。十代はしょんぼりと悲しそうな顔になる。年相応な子供の顔だ。
「十代くんが嘘をついてるとか、そういう風には思わないよ。でもその……」
にわかには信じがたい。だが、先程デュエルしていたときの妙に思い詰めた表情は、宇宙を守らねばならないという壮大すぎる話を負ってのことなのか?
「どうして……キミなんだ?」
「もとからそうなんだ」
「もとから?」
「うん。ボクはそう生まれた」
生まれ持った運命──ということか?
「それはご両親も知ってるの?」
十代は首を横に振った。
「じゃあどうやって十代くんは知ったんだい?」
「わかるんだ。自分がそうだって」
それは──子供の思い込みなのではないか? テレビか何かのごっこ遊びをしているだけなのでは、と紅葉は思う。
「彼に宿命があることはボクが保証する。ボクは彼を守るためにここにいる」
ユベルが言った。確かに、こんな大きな精霊が憑いている人間を紅葉は他に見たことがない。精霊に憑かれるだけの理由があるのだ、と言われたらそれには信憑性を感じる。
「守るって、何から?」
「彼の命を奪おうとするすべてから」
ユベルは十代の肩に手を置いた。
「命を奪おうとなんて、そんなことがあるのか?」
「キミも聞いただろ、この近くで逮捕された連続殺人犯」
今日のお昼のニュースで──と数年前に十代の母親が青い顔で語った話を思い出す。後に被害者は三人もいたことが報道された。すべて当時の十代と同じ小学一年生の子供だった。
「あれは彼を狙ってたと思うよ」
「それは──犯人の好み……というか」
「どうかな。かなり嫌な気配がしていた。ボクも一瞬しか見てないから正確にはわからないが、何かに取り憑かれてたんじゃないか」
「見たって……そいつに会ったのか!?」
「十代を車に引きずり込もうとしたから眠らせた」
「な──」
つまり──ユベルが眠らせたことによって犯人は逮捕されたのか。思わず十代の顔を見る。
「……どうしてボクを狙ったかはわかんないけど、なんかすごく嫌な感じはしたよ」
「そ、そりゃ怖いだろ」
一歩間違えば十代も殺された子供の一人になっていた──。
「怖いのもあったけど、それとは別の『嫌な感じ』だよ。あれが光の波動なのかまではわからないけど」
「光の波動?」
「さっきも言ったが、この宇宙には破滅をもたらす光の波動と命を育むやさしい闇との対立があるのさ。人間にはもう伝わってないみたいだが」
ユベルが答えた。精霊たちの伝承ということか? 理由はわからないが、十代は精霊に見出だされた存在なのだろう。そのために命を狙われ、守るためにユベルがそばにいる──ということか。
「ボクのせいで関係ない誰かを巻き込んだかもしれない。もうそんなこと起きないように早く強くなりたいんだ。お願い紅葉さん」
十代がデュエル中に思い詰めたような顔をしていたのはそれも理由なのだろうか。
「その……子供の連続殺人はキミが責任を感じる必要はない。偶然被害にあいかけただけだ。嫌な気配というのは、たぶん相手が殺人犯だからそう感じただけで……」
もちろん真実は紅葉にはわからない。しかし殺人犯の動機がなんであれ、ターゲットにされた十代が責任を感じることではない。
「ええと……じゃあ、こうしないかな。先生になるんじゃなくて、入院してる間、暇つぶしに楽しくデュエルするってのは? 先生なんて荷の重いことはできないけど……オレはキミが楽しくデュエルできたらいいと思うよ」
「楽しく?」
十代は大きな目をぱちくりとさせた。
「そう。さっきのデュエル、キミは昔より確かに強くなっていたけど、昔あった楽しいって気持ちはなくなってたんじゃないかな」
「……だってボク、強くならないと──」
「うん、その気持ちがあるのは悪いことじゃないよ。オレはプロの世界しかわからないけど、勝たなくちゃと思い詰めてるときより楽しくやろうって気持ちのときの方が案外勝てたりするものさ。負けないぞって緊張感と一緒に、楽しいってリラックスした気持ちがある方が心に余裕ができる。
さっきのデュエル、キミは勝とうと気負いすぎて効果を使うタイミングが早すぎることが何度かあった。それがなかったら勝敗は変わっていたかもしれない」
「そう……なの?」
「ああ。だからオレとは楽しくデュエルしてみないか? 強くなりたいなら──」
病室のドアが開いた。みどりが戻ってきた。
「ちょうどいいところに、姉上」
「何よ?」
「姉上は今度設立されるデュエルアカデミアの教師になるんだ」
「デュエルアカデミア?」
十代が聞き返す。背後のユベルも興味を持ったようだった。
「デュエリストを養成する学校よ。中等部と高等部があって、私は高等部の教師になるの」
「強くなりたいならデュエルアカデミアはどうかなって。きちんと学ぶ方がきっと将来のためになるし」
「興味あるならパンフレットあげるわ。よかったらご両親に相談してみて」
みどりは先ほど紅葉に見せていたパンフレットを十代に渡した。
「学校……」
十代はまだ飲み込めない様子でパンフレットをめくる。
「いいじゃないか。まあキミの頭で入学できるかかなり怪しいが……」
パンフレットを覗き込みながらユベルが言った。どうやら十代は学校の成績があまりよくないらしい。
「五年かけて必死に勉強すれば高等部にはギリギリいけるかもしれない」
「そんなにかい?」
「残念ながら」
「紅葉?」
精霊の見えないみどりが紅葉の言葉を不審に思ったようだ。
「ああいや、悩んでるから成績に自信がないのかなと」
「あんまり勉強は得意じゃなくて……」
「あら……それなら少し私が教えましょうか。入院中は学校も行けないものね」
「頼んでおけ十代。キミただでさえ成績悪いんだから」
「その、ご迷惑でなければお願いします」
ユベルに後押しされて十代は遠慮がちに言った。
「迷惑なんて。小学生に教えるのは初めてだから私も勉強になるわ」
「響先生は、いまは結構有名な塾の講師なんだ。厳しいぞ」
「えっ」
「紅葉、余計なこと言わないの」
「はは。それと十代、できたらちゃんとご両親に挨拶したいんだけど」
え、と十代は少し嫌そうな顔をした。
「あのね、いかに病院の中とはいえ、親御さんは心配なものだよ」
「紅葉さん、考えすぎじゃないの」
「そんなことないわよ、このあたりは殺人犯も出たし」
みどりにも言われ、十代は渋渋といった様子だったが承諾し、夕方に着替えを届けに来た彼の両親に挨拶することができた。女性のみどりもいるからか以前よりは警戒されていないようだった。
それから、みどりは十代に勉強を教え、紅葉は十代とデュエルをした。みどりは、十代は少し覚えが悪いもののしっかり勉強すればデュエルアカデミア中等部も行けるのではないか、と言った。デュエルでも、回を重ねると少しずつ楽しむことができるようになってきているようだった。
十代の怪我が治り退院できる頃には、再会したばかりの頃よりずっと子供らしく笑うようになった。
「紅葉さんはまだしばらく入院なの?」
「ああ……今度の大会には出られるように調整中だけどね。十代とデュエルしていたからきっと勘も落ちていないさ」
十代もデュエルを楽しむだけではなく、だんだんと強くなってきている。十代とのデュエルは楽しいが、まだ拙いところも多い。強敵と大舞台でデュエルしたいという欲求は強くなってきていた。
「大会に出るときにはチケット送るから、見に来てくれよ」
「もちろん。またお見舞いにも来ていい?」
「ああ。勉強もしっかりな」
「このまま頑張れば中等部も夢じゃないわよ」
みどりが十代に笑いかける。
「本当? 頑張るね」
「十代、そろそろ……」
十代の母親が病室の外から声をかける。姉弟にお世話になりましたと頭を下げた。紅葉も十代のおかげで楽しく過ごせたと礼を言い、みどりは勉学の努力ができる子だと褒めた。十代の母親は息子をデュエルアカデミアへ進学させることを前向きに考えているようだった。
「ただ、あとはこの子の成績が……」
「頑張るってば」
まあ、十代の成績をずっと憂えていたのだろう。みどりも教え始めは「十代くんはちょっと手強いね」と紅葉にこぼしていた。
十代は紅葉に笑顔で手を振って病室を出ていった。みどりも時計を見てそろそろ時間だと病室を出る。
「紅葉」
ひとりになった病室にユベルが現れた。
「わっユベル、どうした?」
「短い間だが、彼の師となってくれたこと、感謝する」
ユベルは丁寧に一礼した。
「十代が思い詰めてるのはボクも気になっていた。ボクが肩の力を抜けと言ってもあまり聞かなくてね。助かったよ」
ユベルは微笑んだ。見た目は恐ろしく見えるがこの精霊が十代を想っているのは確かだ。
「それから忠告だ。キミの呪い、デュエルに関わっていると思う。ボクとデュエルしてたとき、妙な気配がした」
以前、一度だけユベルとデュエルした。ユベルは手強く非常に楽しかったのだが、突如発作が起きて中断してしまったのだ。
「だが、発動条件がよくわからない。十代とのデュエルではなんともないし、精霊とのデュエルが理由なら人間としかデュエルしてないのに入院したのも変だ。だから何に気をつけろとは言えないんだが──」
「頭に入れておくよ。わざわざありがとう」
「力になれずすまない」
ユベルはそう言うと姿を消した。
初めて聞いたときには怪しく思った呪いという言葉も、今は信憑性があるように思う。どんなに検査しても医学的にはなんの異常も見つからず、デュエル中やデュエル後に発作が起きる──。デュエルに関わる呪いだと言われた方がしっくりくるくらいだ。
でも呪いによって死ぬなら、大舞台でデュエリストとして死ねたら本望ではないか──?
次の大会にはそんな想いさえあった。
◇◆◇
響紅葉、優勝後に救急搬送──そんなニュースが大会のあとに流れた。
紅葉から大会のチケットをもらい、応援に行った日のことだった。紅葉は事前に大会が終わったら楽屋に遊びに来てくれと関係者用のパスをくれていた。その日は十代の父と母も珍しく休暇を取り一緒に観戦し、三人で挨拶をしようと手土産を買ってきていた。久しぶりに紅葉に会えることを十代も楽しみにしていた。
しかし関係者入り口は封鎖され、十代が何かと思いながら待つうちに救急車のサイレンが響いてきた──。
後に紅葉からあの病院に入院していると連絡があり、十代は見舞いに行った。病室の紅葉は以前と同じくらいには元気そうに見えた。
「優勝おめでとう、紅葉さん」
「ありがとう。お父さんとお母さんと三人で見に来てくれてたね」
「うん。すごいデュエルで、楽しかった。父さんと母さんも熱中してたよ。父さんも母さんもあんまりデュエルに興味なかったけどさ、あれ見て頑張ってデュエルアカデミアに入れって言ってくれて」
「そうか、よかった」
「もっと頑張って勉強しないとだけどね」
「勉強も肩に力入れすぎず楽しめよ」
「どうかな……勉強は難しいかも。デュエルは楽しいよ」
「……また来れるかい?」
「うん。……紅葉さんはしばらく入院するの?」
「そうなりそうだ。だから……」
その間キミの先生をしようと思って、と紅葉は言った。
「え? いいの?」
十代は驚く。以前は断られていたからだ。「楽しくデュエルをする」というかたちで実質的な師ではあったものの、改めてそのように言われるとは予想外だった。
「ああ。もちろん学校の勉強もしっかりやるんだぞ」
「うん……あ──はい! よろしくお願いします! 紅葉先生!」
十代は頭を下げた。紅葉は「先生はよしてくれ」と苦笑いした。
紅葉が前回の入院から退院して一年半ほど経っていた。久しぶりの紅葉とのデュエルでも、十代はやはり勝つことができなかった。十代も町内のこどもデュエル大会では準優勝まで行ったのだが、プロにはまだまだ及ばない。
紅葉は先生をすると言った通り、十代の問題点を指摘し、褒めるところは褒めた。楽しくデュエルすることを第一とした以前とは明確に違っていた。
やはり紅葉は師としてふさわしいとユベルは思う。なぜ心変わりしたかはよくわからないが、デュエルアカデミア入学までの間に師となってもらえるならばありがたい。
脅威はいつでもあるのだから。
以前十代が骨折したのは精霊とデュエルをしたことが原因だった。ある公園に幽霊が出るのだと噂になり、見に行ってみるとアンデッド族の精霊が人間界に迷い出ていたものだった。精霊は人間界に来たことで混乱して正気を失っており、十代がデュエルで大人しくさせたのだが──苦戦して相手の攻撃を受けた際に吹き飛ばされ骨折した。大事ではなかったが、早く決着をつけていれば防げた怪我だった。
あの頃の十代はかなり未熟だったと思う。しかし実戦を重ねなければ強くはなれない──師を得ることで安全に特訓ができるならそれに越したことはない。入院を機に紅葉に再会できたのは僥倖だった。
気になるのは彼を蝕んでいるなにがしかの呪いだが──。
紅葉は再度十代とデュエルする。十代とのデュエルでは、まったく妙な気配はしない。なぜユベルとのデュエルでは彼から妙な気配がしたのだろう? 十代が覇王であるからか──とも思うが、十代はまだその力をあまり操ることができない。現在も特に力を使っていないから、紅葉にも影響はないだろう。
「──今のはよくなかったな」
紅葉はそう指摘し、自分のターンになるとすぐさま十代のライフをゼロにする。
「うわあ」
「ま、こんな感じで一手が命取りになることもあるよ。さっきの盤面だと……」
紅葉は手筋を説明する。この調子で指導されていけば、十代は大きく成長するだろう。
二人が話すうち、紅葉の姉のみどりがやってきた。
「あら十代くん、来てくれてたの」
「みどりさん! ボク、あれから成績すごくよくなったよ!」
十代は元気よくみどりに報告した。すごいじゃないとみどりも笑う。
「父さんと母さんもデュエルアカデミアに入れるように頑張れって言ってくれて。来年中等部受けるんだ」
「難関よ、頑張って」
「うん!」
「五年生の授業はどう? わからないところある?」
「えーと、歴史はちょっと難しいかなあ……」
「姉さん、また少し指導してあげて」
「もちろん」
「十代、オレ少し疲れたからさ、談話室で姉上に教わっておいで」
「大丈夫?」
「ああ。少し休めば」
「わかった。今日はありがとうございました」
十代は紅葉に頭を下げた。
「しばらく、十代の先生になることにしたよ」
「あら、いいじゃない。入院生活にも張りが出るわ」
みどりは微笑み、十代と共に談話室へ向かう。紅葉がユベルへと視線を寄越したため、ユベルは病室に残った。
「……どうかしたかい」
「十代はあれから大丈夫か?」
「大きな怪我はあれ以来ないよ」
「光の波動というのは?」
「今は動きがないようだ。少なくともこの近くでは」
「ならすぐさま十代が危ないなんてこともないのか」
「油断は禁物だけどね。……十代が心配で先生を買って出てくれたのかい?」
「それもあるが……自分の命が惜しくなったからかな。倒れたとき、どうせ死ぬなら後進を育てたいなと思ってしまってね」
「後進といっても、十代はプロにはならないよ。そんなことをしている暇はない」
「プロとしてじゃなくてもいいさ。楽しいデュエルをする、そんなデュエリストを育てたくなった。──だから、これはオレのわがままさ」
紅葉は笑ってそう言った。
紅葉の元へ通うようになって一年が過ぎ、十代はデュエルアカデミアの中等部に合格することができた。紅葉に報告すると彼は喜び、合格祝いに本気のデュエルをしようと言った。明日のデュエルには紅葉がプロとして使っていたデッキを用いる、と。
紅葉は真剣な目をしていた。十代にもその並並ならぬ覚悟は伝わったようだったが──その理由がデュエルにより発作が起きかねないことに起因するとは十代は気づいていない。
「いいのかい、紅葉」
ユベルが訊ねると紅葉は頷いた。本人も覚悟の上ならばユベルが口を挟むことではないだろう。
結果として十代は紅葉に負けた。もとよりユベルも勝てるとは思っていない。十代はユベルを召喚し、E-HEROのエースで一度は紅葉を追い詰め、健闘したと思う。十代も全力を出しきれたという思いがあったらしく、負けて悔しがった後は楽しかったと笑っていた。
デュエルの後、紅葉は十代に自分のデッキを託し、デュエリストは引退すると十代に告げた。十代はきっと治るから早まらないでほしいと言ったが、紅葉の決意は固いようだった。
どんな相手でもデュエルを楽しむデュエリストになれと言った紅葉の笑顔は穏やかだった。
翌日十代が見舞いに行くと、紅葉は昏睡状態になっていた。昨日の夕方から昏睡状態になったのだとみどりは話した。昨日のデュエルで呪いが進行したのだろうとユベルは思う。ハネクリボーが紅葉を癒そうとしていたが、彼の力では昏睡を解くには至らないようだった。
「え──」
みどりが息を飲む。彼女は驚愕した顔でハネクリボーとユベルを見た。
「ハネクリボー……に、ユベル……?」
十代が驚いて振り向く。
「みどりさん……見えるの?」
「見──」
みどりは困惑しているようだった。十代とハネクリボーとユベルを何度も見る。
「十代くんも見えるの?」
「うん。紅葉さんも……」
「だから──知り合ったのね。そうか……」
みどりは驚くと同時に納得もしたようだった。なぜ紅葉が十代を気にかけているのか理由がわかったからだろう。
「あのね、みどりさん。紅葉さんはたぶん、呪いみたいなのにかかってて……」
「呪いというのはボクの見立てだが」
ユベルはみどりに自分の見立てを説明した。十代の手前、デュエルで進行したかもしれないということは伏せておいた。
「では──医学ではどうしようもないということね」
「でもボク、呪いを解く方法を探すよ。あの島になら何かあるかもしれないし」
「島って、デュエルアカデミアの?」
「あの島は確か三幻魔を封じた場所のはずだ。知ってて学校を建てたのか、偶然かは知らないが」
「三幻魔?」
みどりはユベルに聞き返す。
「まあ──精霊さ。あの島に何かあるかもしれないというのはボクも思うよ」
「何か……遺跡の類いはあるようだけど……」
「精霊がいるかもしれないな。キミひとりで近づくのはおすすめしない。十代ももう少し強くならないと、下手な精霊がいたときに痛い目を見ることになる。焦って近づいたりするなよ」
「う……はい……」
ユベルは遺跡に興味を持った様子の十代に釘を刺した。
「……なんだかあなたたちって兄弟みたいね。十代くん、昨日は兄弟がいないからうらやましいなんて言ってたけど」
みどりが目を細めた。
「兄弟? そうかなァ……」
十代は眉を寄せて首をかしげる。
「あら、嫌なの?」
「嫌っていうか、兄弟とは違うと思う。実際兄弟はいないけど……ユベルは兄弟よりもっと近いような気がする。魂の距離みたいなのが」
「魂……詩的なことを言うのね。私は精霊が見えるようになったばかりでよくわからないけど……」
みどりはハネクリボーを見つめた。
「オマエも紅葉の魂のそばにずっといたのかしら?」
ハネクリボーは黙ってみどりを見返した。彼はなぜ紅葉を選んだのか、そもそも彼にどんな役割があるのか? ハネクリボーはなんらかの使命を帯びているようだ──という感覚はあるのだが。以前訊ねてみたが彼は答えなかった。ユベルとて十代の宿命をハネクリボーに詳しく話したわけではないから、そこはお互い様だろうか。
「ハネクリボーも一緒に頑張ろうな。絶対紅葉さんの呪いを解こう」
「クリィ!」
ハネクリボーは元気よく返事をした。
あとは紅葉の身体がどれだけもつか──とユベルは思う。呪いの進行自体が止まったとしても、人間の体力の限界はある。昏睡状態の人間がどれほど生きられるものか、ユベルにはよくわからない。
異世界にでも行けば解呪の方法は見つかるかもしれないが──十代が覇王の力を操れるようになるまで、異世界に近づくのは危険だろう。どんなに早くとも十代が十五、六になるまで──それまで紅葉は無事なのだろうか?
命をかけて彼が師となったことを知ったら十代は──。
そう思い、紅葉が師になったことを「自分のわがままだ」とわざわざユベルに告げたことを思い出す。あれにはもし万一のことがあっても十代が気に病まないようにという意図もあったろう。それを聞いたところで十代が納得するとも思えないが、彼の心は汲むだろう。
──そんな日が来ないことが一番だけど。
その後、十代は晴れてデュエルアカデミア中等部に入学した。だが、その晴晴しいはずの入学式の日は、不運から始まった。電車が事故を起こし、デュエルアカデミアのある島へ出航する船に乗り遅れそうになったのだ。
「先が思いやられるなァ」
「オレが悪いんじゃないだろ!」
埠頭に向かい走りながら十代は文句を言った。
「あーもう、ちょっと観光したかったのに!」
船の待つ港は童実野埠頭、デュエリストを目指す者たちにはかのデュエルキングが戦った聖地のひとつだった。
「まあそのおかげで船には間に合いそうじゃないか。埠頭は逃げやしないんだから、また今度観光しな」
「あ~もったいねぇ」
「──おい!」
ユベルが警告し十代は止まろうとスピードを落としたものの、前を歩く人にぶつかった。尻餅をついた拍子にデッキケースからカードがこぼれ落ちる。
「すみません!」
十代は謝り、カードを慌てて拾う。カードが飛び出して驚いたのかハネクリボーも姿を現す。
「ちゃんと前見ないから」
十代は唇の動きだけで仕方ないだろと言った。昔なら素直に謝った気がするが、最近は反抗期だろうか。
十代がぶつかった相手は、十代の鞄から落ちた封筒を拾ってくれていた。デュエルアカデミア行きの乗船チケットが入った封筒だ。
青年はユベルとハネクリボーを見て微笑んだ。
ユベルは、青年に礼を返した。かつて精霊界を窮地から救った人物だった。
「──キミ、デュエルアカデミアに行くのかい」
青年は十代にデュエルアカデミアのロゴマークの入った封筒を差し出した。
「あ、はい。今日が入学式で……」
封筒を受け取った十代は視線を上げわずかに目を見開いた。
「あなたは……」
青年はただ微笑み、頑張れよと声をかけて歩いていく。十代はその背中に頭を下げた。
「ま──マジかよ、今の」
「いいから港に急ぎな」
「わかってる!」
十代は再び走り出した。ユベルは青年を振り返る。ここは彼の生家のある町だから、いることは不自然ではないだろう。ユベルと十代を見る瞳に何か感情のあるように見えたが──。
──まあ、何かあるのならいずれわかるだろう。
「すみませーん! 乗ります乗りまーす!」
今にも出航しそうな船に向かって十代は叫んだ。どうやら、入学式には間に合いそうだった。
2025/02/09