刀剣乱舞の夢以外の小説
呪われしクソ句歌本丸の話
「やあ古今伝授の太刀。待っていたよ」
この本丸の審神者への挨拶を終えたあと、古今伝授の太刀は歌仙兼定のもとへと行った。
「きみの話をしたら、本丸の仲間たちがきみの歓迎会をしたいと言ってね……今、藤の下でお茶を用意して待っているよ。みんなで句歌を楽しもうとね」
「それは、ありがとうございます。そんなにもてなしてくださるなんて……」
古今は感激する。しかし、歌仙はそんな古今の様子を見て少し顔を暗くした。
「古今、きみに言っておかなければならないことがあるんだ……この本丸は、呪われている」
「え?」
「ここに雅はない……いや、きみなら、あるいはこの本丸によい影響をもたらしてくれるかもしれないね……」
歌仙の言葉に、古今はよくわからず「はあ」と気の抜けた返事をした。
「古今伝授さん! 本丸へようこそ!」
歓迎会の会場である藤棚の方へ行くと、真っ先に脇差の少年が古今を出迎えた。
「僕は堀川国広です。今日は僕がホストなんで、よろしくお願いします!」
「ほすと?」
「お客を迎える役割のことだよ。僕たちはこうして不定期に歌や句を詠む茶会を開いているんだけど、その時に準備をする役割を持ち回りでやっているんだ」
古今が首を傾げたので歌仙が説明をした。
「さ、お茶とお菓子がたくさんありますから、座ってください」
堀川に促されて古今は毛氈のような敷物の上に座った。
「まず自己紹介しましょう。改めて、僕は堀川国広です。よろしくお願いします」
「和泉守兼定だ」
「今剣です!」
「俺は岩融」
「鶯丸だ」
「私は篭手切江」
短刀から薙刀まで、茶や句歌の好きな者たちが集まっているのだという。
「古今伝授の太刀と申します。こたびは、このような会にお招きいただきありがとうございます」
「今からみんなで句歌を詠むところです。古今さんも好きに詠んでくださいね」
堀川はお茶を渡しながら微笑んだ。
「ぼく、いっくできましたよ!」
今剣が元気よく片手を挙げた。
ふじのはな こんぺいとうみたいでおいしそう
「おお、本当だな」
「今剣はいい俳句を考えるな! 流石だ!」
「今日のおやつはこんぺいとうもあるよ!」
「流石国広だ」
今剣が一句披露すると刀たちが褒め称えた。古今も、こどもらしい可愛い一句だと思う。
「よぉーし、俺も出来たぞ! ここで一句!」
こんぺいとう 噛むといい音 こんぺいとう
「すごいや兼さん! これは世界のこんぺいとう業界が標語にすべき一句だよ……!」
堀川が涙ぐみながら称賛する。
「季語……」
古今はぽつりと言ったが、季語のない俳句もあるのだったか……?
「こんぺいとうか……よし!」
和泉守の句に刺激され、岩融も一句披露する。
こんぺいとうみたいにちっちゃくて賑やかなのは 俺の相棒今剣だ
「……?」
古今は首を傾げる。
「わあーい! ぼく、こんぺいとうみたいなんですね!」
今剣が歓声をあげた。
「岩融の俳句も流石だな!」
「こんぺいとうの色鮮やかな様子を今剣の元気さに見立てたいい俳句だ」
和泉守と鶯丸が褒める。
「……私もあいであが浮かんできた! だんすでこんぺいとうを表す!」
篭手切が立ち上がって踊り出す。
「篭手切さん、すごくこんぺいとうです!」
堀川が拍手する。
「ぼくもおどります!」
今剣も踊りに参加する。
「今剣もこんぺいとうだ!」
「篭手切のだんすは踊りで表す俳句だな」
和泉守が深く頷く。
「俳句……」
俳句とは……? と思い呟いた古今に歌仙が言った。
「僕のさっきの言葉が理解できたかな……?」
「皆さん、酔ってらっしゃる?」
「これは茶会だから酒は一切入ってない。みんな素面だ」
「それは……皆さん、お元気ですね……」
「あっ、古今さんもお好きに詠んでくださいね! 今こんぺいとう縛りみたいになってますけど、自由に詠んでもらって構いませんので」
堀川が古今に声をかける。
「ええと……」
「まあ無理に詠まずとも、茶を飲んだり菓子を食べたりして楽しんでくれたらそれでいい。今日はきみの歓迎会だ」
鶯丸が微笑んだ。
そうか、皆さんはわたくしを楽しませようと……先程まで不思議な俳句や踊りに戸惑っていたが、古今はその心遣いに嬉しくなる。
「ありがとうございます。わたくし……」
歓迎会 心から楽しみ 感謝します
「流石古今さん……! 素敵な俳句です!」
「之定の知り合いはやっぱり違ぇなあ!」
堀川と和泉守は尊敬の眼差しで古今を見つめる。
「えっ……今のは、俳句では……」
やはり戸惑ってしまう古今の肩を、歌仙が叩いた。
我が友よ ようこそクソ句歌本丸へ 雅な句歌は二度と詠めない
「歌仙……?」
「ここは呪われしクソ句歌本丸なんだ……! きみが来れば少しはいい影響があるかと思ったが、やはりきみもクソ俳句を詠むことに……」
「あれはお礼の言葉で俳句ではありませんよ! 季語も五七五もなかったでしょう?」
「無季自由律も俳句だからね」
「無季自由律でもありませんよ!?」
歌仙は微笑んでいるがその目は虚ろだった。
「よぉーし、俺も和歌を詠むぞ!」
和泉守が大きな声で宣言する。
古今さん 変わった連中ばかりだが仲良くやろうぜ よろしく頼む
「なっ! ここに来たからにはみんな兄弟みたいなもんだ!」
和泉守は古今に屈託ない笑顔を見せた。
「素敵な和歌だよ兼さん!」
「流石和泉守殿! 仲間を歓迎する和歌も上手い!」
「では、私は歓迎のだんすを」
「ぼくもかんげいのまいをします!」
古今にとって、この本丸の俳句や和歌の出来については理解の範疇を越える。しかし、彼らが心から新しい仲間を喜び迎えようとしていることは理解出来た。
「歌仙。わたくし、句歌は雅なだけが全てではないような気がします。彼らの句歌は、この時間を楽しくしてくれます」
「……そうだね」
歌仙は虚ろだった目を細めた。
「でも……雅な句歌は二度と詠めない」
「その下の句でたくさん歌が詠めそうです」
「そうか……きみも是非詠んでくれ。僕はもう本が一冊できた」
「今度読ませてください。参考にします」
「ああ。……お茶のおかわりをいただけるかな」
「はい、歌仙さん」
堀川が歌仙の湯飲みに茶を注ぐ。
「今日は一段と賑やかな茶会になったな」
鶯丸は満足げに笑って茶を飲んだ。
2020/05/15 pixiv公開
2024/11/02 当サイト掲載
「やあ古今伝授の太刀。待っていたよ」
この本丸の審神者への挨拶を終えたあと、古今伝授の太刀は歌仙兼定のもとへと行った。
「きみの話をしたら、本丸の仲間たちがきみの歓迎会をしたいと言ってね……今、藤の下でお茶を用意して待っているよ。みんなで句歌を楽しもうとね」
「それは、ありがとうございます。そんなにもてなしてくださるなんて……」
古今は感激する。しかし、歌仙はそんな古今の様子を見て少し顔を暗くした。
「古今、きみに言っておかなければならないことがあるんだ……この本丸は、呪われている」
「え?」
「ここに雅はない……いや、きみなら、あるいはこの本丸によい影響をもたらしてくれるかもしれないね……」
歌仙の言葉に、古今はよくわからず「はあ」と気の抜けた返事をした。
「古今伝授さん! 本丸へようこそ!」
歓迎会の会場である藤棚の方へ行くと、真っ先に脇差の少年が古今を出迎えた。
「僕は堀川国広です。今日は僕がホストなんで、よろしくお願いします!」
「ほすと?」
「お客を迎える役割のことだよ。僕たちはこうして不定期に歌や句を詠む茶会を開いているんだけど、その時に準備をする役割を持ち回りでやっているんだ」
古今が首を傾げたので歌仙が説明をした。
「さ、お茶とお菓子がたくさんありますから、座ってください」
堀川に促されて古今は毛氈のような敷物の上に座った。
「まず自己紹介しましょう。改めて、僕は堀川国広です。よろしくお願いします」
「和泉守兼定だ」
「今剣です!」
「俺は岩融」
「鶯丸だ」
「私は篭手切江」
短刀から薙刀まで、茶や句歌の好きな者たちが集まっているのだという。
「古今伝授の太刀と申します。こたびは、このような会にお招きいただきありがとうございます」
「今からみんなで句歌を詠むところです。古今さんも好きに詠んでくださいね」
堀川はお茶を渡しながら微笑んだ。
「ぼく、いっくできましたよ!」
今剣が元気よく片手を挙げた。
ふじのはな こんぺいとうみたいでおいしそう
「おお、本当だな」
「今剣はいい俳句を考えるな! 流石だ!」
「今日のおやつはこんぺいとうもあるよ!」
「流石国広だ」
今剣が一句披露すると刀たちが褒め称えた。古今も、こどもらしい可愛い一句だと思う。
「よぉーし、俺も出来たぞ! ここで一句!」
こんぺいとう 噛むといい音 こんぺいとう
「すごいや兼さん! これは世界のこんぺいとう業界が標語にすべき一句だよ……!」
堀川が涙ぐみながら称賛する。
「季語……」
古今はぽつりと言ったが、季語のない俳句もあるのだったか……?
「こんぺいとうか……よし!」
和泉守の句に刺激され、岩融も一句披露する。
こんぺいとうみたいにちっちゃくて賑やかなのは 俺の相棒今剣だ
「……?」
古今は首を傾げる。
「わあーい! ぼく、こんぺいとうみたいなんですね!」
今剣が歓声をあげた。
「岩融の俳句も流石だな!」
「こんぺいとうの色鮮やかな様子を今剣の元気さに見立てたいい俳句だ」
和泉守と鶯丸が褒める。
「……私もあいであが浮かんできた! だんすでこんぺいとうを表す!」
篭手切が立ち上がって踊り出す。
「篭手切さん、すごくこんぺいとうです!」
堀川が拍手する。
「ぼくもおどります!」
今剣も踊りに参加する。
「今剣もこんぺいとうだ!」
「篭手切のだんすは踊りで表す俳句だな」
和泉守が深く頷く。
「俳句……」
俳句とは……? と思い呟いた古今に歌仙が言った。
「僕のさっきの言葉が理解できたかな……?」
「皆さん、酔ってらっしゃる?」
「これは茶会だから酒は一切入ってない。みんな素面だ」
「それは……皆さん、お元気ですね……」
「あっ、古今さんもお好きに詠んでくださいね! 今こんぺいとう縛りみたいになってますけど、自由に詠んでもらって構いませんので」
堀川が古今に声をかける。
「ええと……」
「まあ無理に詠まずとも、茶を飲んだり菓子を食べたりして楽しんでくれたらそれでいい。今日はきみの歓迎会だ」
鶯丸が微笑んだ。
そうか、皆さんはわたくしを楽しませようと……先程まで不思議な俳句や踊りに戸惑っていたが、古今はその心遣いに嬉しくなる。
「ありがとうございます。わたくし……」
歓迎会 心から楽しみ 感謝します
「流石古今さん……! 素敵な俳句です!」
「之定の知り合いはやっぱり違ぇなあ!」
堀川と和泉守は尊敬の眼差しで古今を見つめる。
「えっ……今のは、俳句では……」
やはり戸惑ってしまう古今の肩を、歌仙が叩いた。
我が友よ ようこそクソ句歌本丸へ 雅な句歌は二度と詠めない
「歌仙……?」
「ここは呪われしクソ句歌本丸なんだ……! きみが来れば少しはいい影響があるかと思ったが、やはりきみもクソ俳句を詠むことに……」
「あれはお礼の言葉で俳句ではありませんよ! 季語も五七五もなかったでしょう?」
「無季自由律も俳句だからね」
「無季自由律でもありませんよ!?」
歌仙は微笑んでいるがその目は虚ろだった。
「よぉーし、俺も和歌を詠むぞ!」
和泉守が大きな声で宣言する。
古今さん 変わった連中ばかりだが仲良くやろうぜ よろしく頼む
「なっ! ここに来たからにはみんな兄弟みたいなもんだ!」
和泉守は古今に屈託ない笑顔を見せた。
「素敵な和歌だよ兼さん!」
「流石和泉守殿! 仲間を歓迎する和歌も上手い!」
「では、私は歓迎のだんすを」
「ぼくもかんげいのまいをします!」
古今にとって、この本丸の俳句や和歌の出来については理解の範疇を越える。しかし、彼らが心から新しい仲間を喜び迎えようとしていることは理解出来た。
「歌仙。わたくし、句歌は雅なだけが全てではないような気がします。彼らの句歌は、この時間を楽しくしてくれます」
「……そうだね」
歌仙は虚ろだった目を細めた。
「でも……雅な句歌は二度と詠めない」
「その下の句でたくさん歌が詠めそうです」
「そうか……きみも是非詠んでくれ。僕はもう本が一冊できた」
「今度読ませてください。参考にします」
「ああ。……お茶のおかわりをいただけるかな」
「はい、歌仙さん」
堀川が歌仙の湯飲みに茶を注ぐ。
「今日は一段と賑やかな茶会になったな」
鶯丸は満足げに笑って茶を飲んだ。
2020/05/15 pixiv公開
2024/11/02 当サイト掲載
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