イニシャルはQ【爆上・範道大也】
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※夢主の口が悪い
BBGから戻って来ても、地球は相変わらずだった。事件や事故は起きているし、偉い人はよくわからないことを喋っているし、物価は高いし、ハシリヤンの残党も未だに出てくる。
「大也、こっちは終わったわよ」
「ああ。お疲れ様、柚葉。周囲を確認したが、もうハシリヤンの心配はなさそうだ」
幸いなことに、ネジレッタだけだった為二人で対処出来た。ブンレッドから範道大也の姿に戻った彼の元に駆け寄ろうとすると、大也に助けられた女二人が頬を紅潮させて彼に話しかけている。
「あっ、あのっ!ブンブンジャーですよね!?数年前に宇宙人と戦ってた!」
「?ああ、そうだが…」
「わ、わわ…本物だ~っ…!わ、私、ブンブンジャーのファンなんです!私、ブンブルーが好きで!それで、その、こっちの子が…」
彼女は自分の後ろに隠れていた、友人であろう女の背中を押して大也の前に出させた。大也と目が合った女は言葉にならない歓声、というか奇声じみた声を上げ、肩に掛けていた鞄を自分の前で持つ。
「ほら、言いなよ~…!こんなチャンス滅多にないよ!」
「…ッ、私、そのっ…ブンレッドが推しで!だから、あのっ、あなたが好きなんです!このグッズも、レート高かったけど全部集めて!」
「へえ、凄いな。こんなに沢山集めるのは大変だっただろ?」
「いやっ、推しの為なんで!全然いけます!何ならもう一つ作ります!」
「はは、応援ありがとう。良かったら、俺以外のブンブンジャーのことも大好きになってもらえると嬉しいな」
「はっ、はいぃ…!あっ!ツーショ撮ってもらってもいいですか!?あとサインも…!」
「ああ、構わないよ。ええっと…」
そのやり取りを遠巻きに見ていると、私のスマホに着信が入った。シャーシロからである。大也のチェンジャーに連絡すればいいものを、態々私にかけてくるあたり、千里眼でも持っているのかと言いたくなる。
「”まだか?”」
「今取り込み中。あなたのことだからわかってるでしょ」
「”あんまりのんびりするな。I.S.Aへの報告もある”」
「うっさい。私に言わないで」
通話をぶち切り、傘の石突でコンコン、と地面を叩いた。大也はちらりとこちらを見る。急かされていることには気付いている筈だ。それでもすぐに目を逸らし、色紙にサインをし始める。
結局、彼は丁寧に女二人の相手をした。
*
「何アレ。キモい。信じらんない。恥ずかしくないのかしら、ああいうの」
「俺達を応援してくれてるんだ。そんな言い方はよくないぞ」
「全員じゃないわよ、大也とシャーシロだけじゃない。ああいうのオタクって言うんでしょ」
「柚葉」
「は、何?ああいう連中の肩持つの?」
「柚葉」
大也に腕を掴まれた。彼は怒っていた。それが凄く嫌で、イライラして、悲しくて、力強く彼の手を振り払った。
「どうしてそんなこと言うんだ。…あの人達が笑顔なら、それでいいじゃないか」
「大也はアイドルじゃない!!」
咄嗟に掴みかかろうとする。誰かに羽交い絞めにされて、ジタバタと手足を動かした。
「とりあえず落ち着け。大也に八つ当たりしてどうする」
シャーシロだ。てっきり錠あたりかと思ったが、大也への危害に関しては彼の方が察しが良かった。
「大也は…ブンブンジャーは、アイドルじゃないでしょ!?あんな風に扱うの…少なくとも、本人の前でやるなんて迷惑よ!」
「俺は迷惑だなんて思ってない。誰かを本気で応援できるのは、良いことだ。その形は、人によって違うだけだと思うぞ。柚葉だって、BBGの間はずっと俺達ブンブンジャーのPRや広報をしてくれていただろ?」
「……私のやってたことは、あんな一般人の応援と同レベルってこと?」
「そうじゃない。あれは柚葉だから出来る応援のやり方だ。でも本来は、応援に上も下もない。ブンブンが復活したのだって、みんなの応援があったからだ。そういう人達に、俺達は支えられているんだ」
そう言われると、反論が出来なかった。ブンブンジャー、というか、ヒーローにとって応援というのは、力の源だ。誰かが一生懸命応援するから、ヒーローは何度だって立ち上がることができる。
わかっている。わかっている筈なのに、素直に言葉を聞き入れることができない。大也達がいいなら、それでいいのに。私に口出しする権利はないのに。彼らの代弁者になったつもりで語るなんて、烏滸がましいにも程があるのに。
「……わかったわよ……」
私が項垂れると、シャーシロは拘束を解いた。ガレージから出ていこうとすると、大也に「柚葉!」と呼び止められる。その言葉を無視して、逃げるようにして外に出た。
*
「ふむ、所謂推し活というやつだな。ブンドリオや若旦那…いや、今は大旦那か。二人のべろーらーに対する思いみたいなものだ」
「べろーらーは…マスコットでしょ…。大也達は、生きてる人間なのに…」
「アイドル推してるのと変わんねーだろ。ほっとけほっとけ」
街中をフラフラしていると、運悪く始末屋二人に捕まった。素知らぬフリをしているが、どうせ事情は大也達から聞いているのだろう。やけにすんなりと二人は私の話を受け入れた。
「柚葉、少し言葉を選ばずに伝えるぞ」
「…何」
「お前は…ただ単に、嫉妬しているだけじゃないか?」
「…は…」
「それを自分でもわかっているから、あくまでも自分は相手を心配している風を装っているのではないか、という話だ」
胸の内を、刃で抉られたような感覚。厭な汗が背中を伝う。
「…確かに柚葉の言う通り、生きている人間に対して推し活をしている人々は…推しに対して距離感を考えろと度々話題に上がることがある。お前の言うことも、あながち間違いという訳ではない」
「…」
「しかし、状況から考えるに…二人はお前達が戦闘を終わらせ、安全確認をした後に声をかけたのだろう?そして、大也の了承も得た上でファン活動を行ったそうではないか。ならば、お前がとやかく言うことではない…と、私は思うが」
図星、だった。様々な記憶と感情が混ざり、荒波として押し寄せる。
こんな感情を抱く自分は、とても醜いのではないかという不安。大事な人に八つ当たりして、酷いことを言って。ましてや、誰かを応援している人を気持ち悪いという一言で切り捨てたこと。
誰が悪いのかなんて、一目瞭然だった。こんなこと、小さな子供でもわかる。
「後戻りできなくなる前に謝っとけよ。大也が相手なら、ちゃんと謝ったらあいつもわかるだろ」
「……」
「ま、これに懲りたらその短気と口の悪さも直しとくことだな」
「そうだぞ。胸を張って大也の隣に立っていたいのなら、それなりの振る舞い方を身に着けた方がいい」
正論フルボッコ。当然である。二人は私より人生経験が豊富だ。今までは許されていたワガママだって、近いうちに許されなくなる時がくる。もう私は、子供と呼ばれるような年齢ではないのだから。私一人ならまだしも、私の行いが大也だけではなくみんなの評価を下げることに繋がってしまう。そんなのは最悪のシナリオだ。
「……あーあ、あなた達に説教される日がくるなんて思わなかった…」
「お前~…そういうところだぞマジで…」
「…これでも褒めてるし、感謝してるのだけれど」
「じゃあ素直に礼くらい言えよ…」
「はいはい。……ありがと」
*
「た、ただい、ま…」
ガレージに戻って来ると、車の向こう側から大也が出てきた。どうやら、メンテナンスをしていたらしい。
「お帰り。随分短い家出だったな」
「…うっさい」
メンテナンスを切り上げて私のところにやって来た。手を引かれるがままソファに二人で座る。暫くの間沈黙が続いたが、耐えられなくなった私が「あの」と口を開いた。
「ごめん、なさい」
「…それは…誰と、何に対してだ?」
容赦がない。やっぱりまだ怒っていた。
「…ファンの人や、大也に酷い言葉を使ったこと。人の気持ちを馬鹿にしたこと。自分がムカついただけなのに、その感情に嘘を吐いて…大也を心配してるっていう体にしたこと」
「…そうだな。でも、それ以外にもあるだろ?」
「え…」
それ以外?いや、確かにほぼほぼ私が悪くて…それらを総じて言ったつもりだったのだが。
「心配してるって言葉を使って、俺のハンドルを握ろうとした」
「あ……」
大也は迷惑じゃない、あの人達が笑顔ならいいと言っていた。でも私は、「そうじゃない」と言って、「大也にとって迷惑なことだ」と押し付けようとした。もし大也が私の言葉を受け入れていたら、彼はこの一件についての自分のハンドルを私に握らせることになっていたのだ。
「#柚葉が無意識だったことくらいはわかってる。いつもならそんなことしないし、むしろ柚葉自身がそういうことをされるのが一番嫌いなことも知ってる」
「…うん…」
「だからこそ、改めて分かっていてほしいんだ。それがどれだけ、危険で残酷なことなのか」
他人のハンドルを握ろうとすれば、自分のハンドルすらも疎かになる。まだハシリヤンでクイーンを名乗っていた頃、大也のこの言葉を間近で聞いた。あの時の私は洗脳されていたが、それでも彼の言葉は胸に響いた。それなのに、無自覚とはいえ未来の元カレと同じことをしようとした。
「…ごめんなさい」
「…もう大丈夫か?」
「ええ。もうあんなことしない。…気が短いのとか、口が悪いのも…直すわ」
「…短気なのはともかく…口が悪いのをただ直すっていうのは、少し違うかもな」
「…どういうこと?」
「ハンドルと同じだ。自分の発言に責任を持つ、ってことだよ」
パチパチと瞬きをしたあと、胸の内のモヤモヤが晴れた気がした。ふっと口元を綻ばせ、「わかった」と頷く。
「私、もっともっと良い女になるわ。強くて優しくて、余裕のある大人な女に!」
「ああ。応援してるよ、柚葉」
BBGから戻って来ても、地球は相変わらずだった。事件や事故は起きているし、偉い人はよくわからないことを喋っているし、物価は高いし、ハシリヤンの残党も未だに出てくる。
「大也、こっちは終わったわよ」
「ああ。お疲れ様、柚葉。周囲を確認したが、もうハシリヤンの心配はなさそうだ」
幸いなことに、ネジレッタだけだった為二人で対処出来た。ブンレッドから範道大也の姿に戻った彼の元に駆け寄ろうとすると、大也に助けられた女二人が頬を紅潮させて彼に話しかけている。
「あっ、あのっ!ブンブンジャーですよね!?数年前に宇宙人と戦ってた!」
「?ああ、そうだが…」
「わ、わわ…本物だ~っ…!わ、私、ブンブンジャーのファンなんです!私、ブンブルーが好きで!それで、その、こっちの子が…」
彼女は自分の後ろに隠れていた、友人であろう女の背中を押して大也の前に出させた。大也と目が合った女は言葉にならない歓声、というか奇声じみた声を上げ、肩に掛けていた鞄を自分の前で持つ。
「ほら、言いなよ~…!こんなチャンス滅多にないよ!」
「…ッ、私、そのっ…ブンレッドが推しで!だから、あのっ、あなたが好きなんです!このグッズも、レート高かったけど全部集めて!」
「へえ、凄いな。こんなに沢山集めるのは大変だっただろ?」
「いやっ、推しの為なんで!全然いけます!何ならもう一つ作ります!」
「はは、応援ありがとう。良かったら、俺以外のブンブンジャーのことも大好きになってもらえると嬉しいな」
「はっ、はいぃ…!あっ!ツーショ撮ってもらってもいいですか!?あとサインも…!」
「ああ、構わないよ。ええっと…」
そのやり取りを遠巻きに見ていると、私のスマホに着信が入った。シャーシロからである。大也のチェンジャーに連絡すればいいものを、態々私にかけてくるあたり、千里眼でも持っているのかと言いたくなる。
「”まだか?”」
「今取り込み中。あなたのことだからわかってるでしょ」
「”あんまりのんびりするな。I.S.Aへの報告もある”」
「うっさい。私に言わないで」
通話をぶち切り、傘の石突でコンコン、と地面を叩いた。大也はちらりとこちらを見る。急かされていることには気付いている筈だ。それでもすぐに目を逸らし、色紙にサインをし始める。
結局、彼は丁寧に女二人の相手をした。
*
「何アレ。キモい。信じらんない。恥ずかしくないのかしら、ああいうの」
「俺達を応援してくれてるんだ。そんな言い方はよくないぞ」
「全員じゃないわよ、大也とシャーシロだけじゃない。ああいうのオタクって言うんでしょ」
「柚葉」
「は、何?ああいう連中の肩持つの?」
「柚葉」
大也に腕を掴まれた。彼は怒っていた。それが凄く嫌で、イライラして、悲しくて、力強く彼の手を振り払った。
「どうしてそんなこと言うんだ。…あの人達が笑顔なら、それでいいじゃないか」
「大也はアイドルじゃない!!」
咄嗟に掴みかかろうとする。誰かに羽交い絞めにされて、ジタバタと手足を動かした。
「とりあえず落ち着け。大也に八つ当たりしてどうする」
シャーシロだ。てっきり錠あたりかと思ったが、大也への危害に関しては彼の方が察しが良かった。
「大也は…ブンブンジャーは、アイドルじゃないでしょ!?あんな風に扱うの…少なくとも、本人の前でやるなんて迷惑よ!」
「俺は迷惑だなんて思ってない。誰かを本気で応援できるのは、良いことだ。その形は、人によって違うだけだと思うぞ。柚葉だって、BBGの間はずっと俺達ブンブンジャーのPRや広報をしてくれていただろ?」
「……私のやってたことは、あんな一般人の応援と同レベルってこと?」
「そうじゃない。あれは柚葉だから出来る応援のやり方だ。でも本来は、応援に上も下もない。ブンブンが復活したのだって、みんなの応援があったからだ。そういう人達に、俺達は支えられているんだ」
そう言われると、反論が出来なかった。ブンブンジャー、というか、ヒーローにとって応援というのは、力の源だ。誰かが一生懸命応援するから、ヒーローは何度だって立ち上がることができる。
わかっている。わかっている筈なのに、素直に言葉を聞き入れることができない。大也達がいいなら、それでいいのに。私に口出しする権利はないのに。彼らの代弁者になったつもりで語るなんて、烏滸がましいにも程があるのに。
「……わかったわよ……」
私が項垂れると、シャーシロは拘束を解いた。ガレージから出ていこうとすると、大也に「柚葉!」と呼び止められる。その言葉を無視して、逃げるようにして外に出た。
*
「ふむ、所謂推し活というやつだな。ブンドリオや若旦那…いや、今は大旦那か。二人のべろーらーに対する思いみたいなものだ」
「べろーらーは…マスコットでしょ…。大也達は、生きてる人間なのに…」
「アイドル推してるのと変わんねーだろ。ほっとけほっとけ」
街中をフラフラしていると、運悪く始末屋二人に捕まった。素知らぬフリをしているが、どうせ事情は大也達から聞いているのだろう。やけにすんなりと二人は私の話を受け入れた。
「柚葉、少し言葉を選ばずに伝えるぞ」
「…何」
「お前は…ただ単に、嫉妬しているだけじゃないか?」
「…は…」
「それを自分でもわかっているから、あくまでも自分は相手を心配している風を装っているのではないか、という話だ」
胸の内を、刃で抉られたような感覚。厭な汗が背中を伝う。
「…確かに柚葉の言う通り、生きている人間に対して推し活をしている人々は…推しに対して距離感を考えろと度々話題に上がることがある。お前の言うことも、あながち間違いという訳ではない」
「…」
「しかし、状況から考えるに…二人はお前達が戦闘を終わらせ、安全確認をした後に声をかけたのだろう?そして、大也の了承も得た上でファン活動を行ったそうではないか。ならば、お前がとやかく言うことではない…と、私は思うが」
図星、だった。様々な記憶と感情が混ざり、荒波として押し寄せる。
こんな感情を抱く自分は、とても醜いのではないかという不安。大事な人に八つ当たりして、酷いことを言って。ましてや、誰かを応援している人を気持ち悪いという一言で切り捨てたこと。
誰が悪いのかなんて、一目瞭然だった。こんなこと、小さな子供でもわかる。
「後戻りできなくなる前に謝っとけよ。大也が相手なら、ちゃんと謝ったらあいつもわかるだろ」
「……」
「ま、これに懲りたらその短気と口の悪さも直しとくことだな」
「そうだぞ。胸を張って大也の隣に立っていたいのなら、それなりの振る舞い方を身に着けた方がいい」
正論フルボッコ。当然である。二人は私より人生経験が豊富だ。今までは許されていたワガママだって、近いうちに許されなくなる時がくる。もう私は、子供と呼ばれるような年齢ではないのだから。私一人ならまだしも、私の行いが大也だけではなくみんなの評価を下げることに繋がってしまう。そんなのは最悪のシナリオだ。
「……あーあ、あなた達に説教される日がくるなんて思わなかった…」
「お前~…そういうところだぞマジで…」
「…これでも褒めてるし、感謝してるのだけれど」
「じゃあ素直に礼くらい言えよ…」
「はいはい。……ありがと」
*
「た、ただい、ま…」
ガレージに戻って来ると、車の向こう側から大也が出てきた。どうやら、メンテナンスをしていたらしい。
「お帰り。随分短い家出だったな」
「…うっさい」
メンテナンスを切り上げて私のところにやって来た。手を引かれるがままソファに二人で座る。暫くの間沈黙が続いたが、耐えられなくなった私が「あの」と口を開いた。
「ごめん、なさい」
「…それは…誰と、何に対してだ?」
容赦がない。やっぱりまだ怒っていた。
「…ファンの人や、大也に酷い言葉を使ったこと。人の気持ちを馬鹿にしたこと。自分がムカついただけなのに、その感情に嘘を吐いて…大也を心配してるっていう体にしたこと」
「…そうだな。でも、それ以外にもあるだろ?」
「え…」
それ以外?いや、確かにほぼほぼ私が悪くて…それらを総じて言ったつもりだったのだが。
「心配してるって言葉を使って、俺のハンドルを握ろうとした」
「あ……」
大也は迷惑じゃない、あの人達が笑顔ならいいと言っていた。でも私は、「そうじゃない」と言って、「大也にとって迷惑なことだ」と押し付けようとした。もし大也が私の言葉を受け入れていたら、彼はこの一件についての自分のハンドルを私に握らせることになっていたのだ。
「#柚葉が無意識だったことくらいはわかってる。いつもならそんなことしないし、むしろ柚葉自身がそういうことをされるのが一番嫌いなことも知ってる」
「…うん…」
「だからこそ、改めて分かっていてほしいんだ。それがどれだけ、危険で残酷なことなのか」
他人のハンドルを握ろうとすれば、自分のハンドルすらも疎かになる。まだハシリヤンでクイーンを名乗っていた頃、大也のこの言葉を間近で聞いた。あの時の私は洗脳されていたが、それでも彼の言葉は胸に響いた。それなのに、無自覚とはいえ未来の元カレと同じことをしようとした。
「…ごめんなさい」
「…もう大丈夫か?」
「ええ。もうあんなことしない。…気が短いのとか、口が悪いのも…直すわ」
「…短気なのはともかく…口が悪いのをただ直すっていうのは、少し違うかもな」
「…どういうこと?」
「ハンドルと同じだ。自分の発言に責任を持つ、ってことだよ」
パチパチと瞬きをしたあと、胸の内のモヤモヤが晴れた気がした。ふっと口元を綻ばせ、「わかった」と頷く。
「私、もっともっと良い女になるわ。強くて優しくて、余裕のある大人な女に!」
「ああ。応援してるよ、柚葉」
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