イニシャルはQ【爆上・範道大也】
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「今日の実験はここまでにしておきましょう」
「ゲホッ、ゴホッ……!」
「明日からも期待していますよ、柚葉」
何度も激痛が体に走った。もうすぐ意識を手放すというところで実験から解放され、私はネジレッタ達に粗雑に抱えられて部屋という名の物置に幽閉される。
「……死にたい……」
もう殺してほしい。こんなの、死んだ方がマシだ。
毎日毎日実験と改造の繰り返し。痛い、やめて、家に帰りたい、殺して。何度も助けを求めたが、実験を主導しているキャノンボーグという異星人に跳ね除けられた。突き飛ばされ、ぶたれた。人権なんてものが異星人にある訳がない。
物置の居心地は案外悪くない。少し埃っぽいが、寒くも暑くもない。宇宙船はずっと適温を保たれていた。
申し訳程度に置かれたベッドに寝転がり、目を瞑る。夢の中なら少しは心が休まるが、心が休まる程現実との乖離に絶望させられた。
夢の中にはいつも大也が出て来る。会いたかった。助けてほしかった。しかし、何も知らない彼に何かが出来る訳ではない。
それでも、また手を差し伸べてほしかった。この悪夢のような現実が、夢であると気付かせてほしかった。
*
「ッ、カハッ…!!」
飛び起きた。忘れていた筈のハシリヤン時代の記憶だった。悪夢だ。
胃液が口から出そうになったが何とか持ち堪える。口元に手を当て、前屈みになって悶えた。
ハシリヤンの時の記憶は、正直忘れていた方が幸せなものだ。クイーンとして完成する前の記憶は文字通り悪夢でしかない。人権も尊厳も全てを壊され、その中で正気を保とうとしていた。間違いだ。狂気に陥った方が楽だった。
「………怖い……」
何となく人肌が恋しくなり、そっとベッドを抜け出した。大也の家はだだっ広く、散歩には丁度良い。
未来にメッセージでも送ろうかと思ったが、時間帯はド深夜だ。流石に彼女も寝ているだろう。錠は夜勤かもしれない。玄蕃は…声さえ掛ければいつでも応じそうだが、彼も故郷のことがある為あまり刺激したくない。射士郎と先斗は論外だ。
「……柚葉?何してるんだ?」
前方から大也が歩いてきた。ラフなTシャツを寝巻にしており、入浴した為いつものヘアセットが崩れている。レアな姿にドキリとし、少しだけ心が癒された。
「…怖い夢、見て……眠れなくて…」
「…そうか」
「大也は?何してたの?」
「ブンブンカーの調整を少し、な。思い付いたうちにやっておきたかったんだ」
「そう……」
本当は、今すぐにでも抱きしめてほしい。頭を撫でてほしい。甘く優しい言葉をかけてもらいたい。この悪夢から救ってほしい。だが、言える訳がない。
「…柚葉は分かりやすいな」
「…え?」
「目を見たらわかるよ」
「…」
「怖いなら、一緒に寝るか?」
冗談半分でそう言ってきた。だが、その冗談半分が運の尽きだ。人肌を求めていた私にとってこれ程有難い提案はない。
「…一緒に、寝たい」
「……え」
「…ダメ?」
精一杯可愛い子振り、上目遣いで彼を見つめた。何なら手まで握りに行き、積極的に甘える。まだ付き合って日は浅いが、付き合い自体は長いのだ。これくらい許されるだろう。
「…ダメじゃないが…良いのか?」
「大也が良いなら…誰かと一緒にいたい」
「じゃあ俺はソファで寝るから…」
「ダメ!いっしょのベッドで…隣で寝て。お願い、大也」
「……わかった」
根負けしたのか、大也は私を自室へと連れて行ってくれた。私に与えてくれた部屋と同じくらい広い部屋に、どう見ても一人用のベッド。一瞬大也は「一人用なんだが」という目をしたが、構わずに彼をベッドに押し込んだ。私も布団に潜り込めば、いやでもくっ付くことになる。
「…狭くないか?」
「…狭い」
「…ダブル、買うか」
「…引っ付くの、嫌?」
「……嫌じゃ、ない…けど…」
妙に歯切れが悪い。もしかして照れているのだろうかと顔を見ようとしたが、背を向けられてしまった。それは逃げではないかと思い、ヤケクソになって後ろから彼にピトリと引っ付く。
「っ、柚葉」
「嫌じゃないんでしょ?」
「……そんなに怖い夢を見たのか?」
「…昔の…ハシリヤンに攫われて、実験されてた時の夢」
ぴくりと大也の背中が反応した。
「死んだ方がずっと良いって、何度も思ったの。でも殺してもらえなかった。毎日使い潰されて、気絶一歩手前で解放されるの。……怖かった」
「……忘れていた方が、楽だったか?」
「…それは、ちょっとある。でも…それじゃあ、大也との思い出が消える。それは…やだ」
「そうか…」
「……不安になるの。また、ハシリヤンに攫われるんじゃないかって。キャノンボーグはいないから、私に価値を見出す奴なんている訳ないのに…」
「攫わせない」
大也はゆっくりと振り向いた。吐息がかかりそうな距離で、私の頬を優しく撫でる。いつも車のメンテナンスをしている為少しガサガサした手だが、心地よかった。
「もう、絶対に…柚葉を取られたりなんてしない。俺がさせない。だから…安心してくれ」
「……うん」
「…俺に、何か出来ることはあるか?」
「……出来れば、抱きしめてほしい」
俯いてそう言った。少し甘え過ぎただろうかと自分で言っておきながら羞恥心で穴に入りたくなる。
しかし、大也は許してくれた。そっと、割れ物を扱うように私を抱き寄せた。体温と心音が重なり、溶け合う。ついでに頭まで撫でてくれた。
「…柚葉が起きるまでこうしててやるから」
「……ありがとう、大也」
私からも手を回し、二人で抱き合う。聞こえるか微妙な程の声の小ささで「大好き」と言うと、聞こえていたのか聞こえていなかったのか、彼は「おやすみ」と言ってより一層私を抱きしめた。
「ゲホッ、ゴホッ……!」
「明日からも期待していますよ、柚葉」
何度も激痛が体に走った。もうすぐ意識を手放すというところで実験から解放され、私はネジレッタ達に粗雑に抱えられて部屋という名の物置に幽閉される。
「……死にたい……」
もう殺してほしい。こんなの、死んだ方がマシだ。
毎日毎日実験と改造の繰り返し。痛い、やめて、家に帰りたい、殺して。何度も助けを求めたが、実験を主導しているキャノンボーグという異星人に跳ね除けられた。突き飛ばされ、ぶたれた。人権なんてものが異星人にある訳がない。
物置の居心地は案外悪くない。少し埃っぽいが、寒くも暑くもない。宇宙船はずっと適温を保たれていた。
申し訳程度に置かれたベッドに寝転がり、目を瞑る。夢の中なら少しは心が休まるが、心が休まる程現実との乖離に絶望させられた。
夢の中にはいつも大也が出て来る。会いたかった。助けてほしかった。しかし、何も知らない彼に何かが出来る訳ではない。
それでも、また手を差し伸べてほしかった。この悪夢のような現実が、夢であると気付かせてほしかった。
*
「ッ、カハッ…!!」
飛び起きた。忘れていた筈のハシリヤン時代の記憶だった。悪夢だ。
胃液が口から出そうになったが何とか持ち堪える。口元に手を当て、前屈みになって悶えた。
ハシリヤンの時の記憶は、正直忘れていた方が幸せなものだ。クイーンとして完成する前の記憶は文字通り悪夢でしかない。人権も尊厳も全てを壊され、その中で正気を保とうとしていた。間違いだ。狂気に陥った方が楽だった。
「………怖い……」
何となく人肌が恋しくなり、そっとベッドを抜け出した。大也の家はだだっ広く、散歩には丁度良い。
未来にメッセージでも送ろうかと思ったが、時間帯はド深夜だ。流石に彼女も寝ているだろう。錠は夜勤かもしれない。玄蕃は…声さえ掛ければいつでも応じそうだが、彼も故郷のことがある為あまり刺激したくない。射士郎と先斗は論外だ。
「……柚葉?何してるんだ?」
前方から大也が歩いてきた。ラフなTシャツを寝巻にしており、入浴した為いつものヘアセットが崩れている。レアな姿にドキリとし、少しだけ心が癒された。
「…怖い夢、見て……眠れなくて…」
「…そうか」
「大也は?何してたの?」
「ブンブンカーの調整を少し、な。思い付いたうちにやっておきたかったんだ」
「そう……」
本当は、今すぐにでも抱きしめてほしい。頭を撫でてほしい。甘く優しい言葉をかけてもらいたい。この悪夢から救ってほしい。だが、言える訳がない。
「…柚葉は分かりやすいな」
「…え?」
「目を見たらわかるよ」
「…」
「怖いなら、一緒に寝るか?」
冗談半分でそう言ってきた。だが、その冗談半分が運の尽きだ。人肌を求めていた私にとってこれ程有難い提案はない。
「…一緒に、寝たい」
「……え」
「…ダメ?」
精一杯可愛い子振り、上目遣いで彼を見つめた。何なら手まで握りに行き、積極的に甘える。まだ付き合って日は浅いが、付き合い自体は長いのだ。これくらい許されるだろう。
「…ダメじゃないが…良いのか?」
「大也が良いなら…誰かと一緒にいたい」
「じゃあ俺はソファで寝るから…」
「ダメ!いっしょのベッドで…隣で寝て。お願い、大也」
「……わかった」
根負けしたのか、大也は私を自室へと連れて行ってくれた。私に与えてくれた部屋と同じくらい広い部屋に、どう見ても一人用のベッド。一瞬大也は「一人用なんだが」という目をしたが、構わずに彼をベッドに押し込んだ。私も布団に潜り込めば、いやでもくっ付くことになる。
「…狭くないか?」
「…狭い」
「…ダブル、買うか」
「…引っ付くの、嫌?」
「……嫌じゃ、ない…けど…」
妙に歯切れが悪い。もしかして照れているのだろうかと顔を見ようとしたが、背を向けられてしまった。それは逃げではないかと思い、ヤケクソになって後ろから彼にピトリと引っ付く。
「っ、柚葉」
「嫌じゃないんでしょ?」
「……そんなに怖い夢を見たのか?」
「…昔の…ハシリヤンに攫われて、実験されてた時の夢」
ぴくりと大也の背中が反応した。
「死んだ方がずっと良いって、何度も思ったの。でも殺してもらえなかった。毎日使い潰されて、気絶一歩手前で解放されるの。……怖かった」
「……忘れていた方が、楽だったか?」
「…それは、ちょっとある。でも…それじゃあ、大也との思い出が消える。それは…やだ」
「そうか…」
「……不安になるの。また、ハシリヤンに攫われるんじゃないかって。キャノンボーグはいないから、私に価値を見出す奴なんている訳ないのに…」
「攫わせない」
大也はゆっくりと振り向いた。吐息がかかりそうな距離で、私の頬を優しく撫でる。いつも車のメンテナンスをしている為少しガサガサした手だが、心地よかった。
「もう、絶対に…柚葉を取られたりなんてしない。俺がさせない。だから…安心してくれ」
「……うん」
「…俺に、何か出来ることはあるか?」
「……出来れば、抱きしめてほしい」
俯いてそう言った。少し甘え過ぎただろうかと自分で言っておきながら羞恥心で穴に入りたくなる。
しかし、大也は許してくれた。そっと、割れ物を扱うように私を抱き寄せた。体温と心音が重なり、溶け合う。ついでに頭まで撫でてくれた。
「…柚葉が起きるまでこうしててやるから」
「……ありがとう、大也」
私からも手を回し、二人で抱き合う。聞こえるか微妙な程の声の小ささで「大好き」と言うと、聞こえていたのか聞こえていなかったのか、彼は「おやすみ」と言ってより一層私を抱きしめた。