イニシャルはQ【爆上・範道大也】
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大也のもとに一通のメッセージが届いた。学童時代の友人から同窓会の誘いだ。小学校のミニ同窓会と書いており、同窓会用のSNSアカウントを見に行くと参加者は既に何十名も名を連ねている。
「柚葉、同窓会に行かないか?」
「え。同窓会?」
「ああ、誘いが来たんだ。折角なら、ちゃんと戻って来たことを見せたいだろ?」
「…私、小学校3年生くらいまでしか通ってなかったけど…」
柚葉は少し嫌そうな顔をした。気まずい、と言いたげだ。大也も気付いてはいるが、どうしても彼女を誘いたいのか退こうとしない。
「大丈夫だ。俺がフォローするから」
「……わかった」
「ありがとう」
大也は嬉しそうな様子でメッセージに返信を始めた。それを柚葉は不安げに見つめているが、スマホを見ている彼はその視線に気付かない。
*
当日、柚葉は大也と共に同窓会の会場まで行った。大也が車から降りた瞬間、同じように車で来ていた同級生達がわらわらと寄ってくる。殆どが男だった。
「うわ!高級車からイケメンが降りて来た!」
「ていうか同窓会に彼女連れて来るなよ!」
「俺今日正直出会いを求めて来たんだけど、お前のせいで既に心が折れかけてる」
男特有の低俗なノリを爽やかに流しつつ、大也は柚葉をエスコートした。会場が近付いてくると流石に女からの目も増え、居心地が悪そうな様子で柚葉は大也のスーツを掴んでいる。
「あれ誰?」
「さあ、知らない」
「成人式の時いなかったよね」
「え、範道君って彼女いたの…?ショック~…」
名簿に名前を書きに行くと、受付の男が大也を見て「範道!」と目を輝かせた。大也が名乗る前に彼の名前の横にマークを付け、出席を確定させる。次に柚葉に目を向け、首を傾げた。
「範道、この人は…?」
「名前、あるだろ?巴柚葉って」
「巴!!?」
男の大声で周りの人間が一斉に振り向いた。そして「巴」という名前がヒソヒソと囁かれ、好奇の目が柚葉に向けられる。耐えられない、といった様子で柚葉は「大也」と彼に縋った。
「私、やっぱ帰る……」
「柚葉…」
「え!?何で帰るんだよ、ていうかいつ帰って来たんだお前!?行方不明だっただろ!?」
「…最近」
「そんなことってあるんだな…いやマジで今まで何してたんだよお前…」
何十年も行方不明だった人間が帰って来たのだ。当然の反応である。
戸惑いつつも男は柚葉の名前の横にマークを付けた。名前が用意されていたことに柚葉は驚き、はあ、と溜め息を吐く。
「悪いけど、あんまり思い出したくないからその辺聞かないでくれる?」
「あ、悪い…」
「…大也、本当に参加するの?」
あまりの嫌がり様と会場の雰囲気を見て流石に大也も思うところがあったのか、そうだな…と踵を返そうとした。しかしそれを、大勢の男女が物理的に阻む。大也は男女問わず多くの人間に囲まれ、柚葉は何人かの男に囲まれた。
「大也君、久しぶり!折角なんだし色々話そうよ~!」
「あ、抜け駆けしたらダメってみんなでさっき話し合ってたでしょ!」
「大也~、仕事上手くいかないから雇ってくれよ~!!」
冷たくあしらうことも出来ず、大也は困った様子で一人一人に対応を始めた。それを横目で見ている柚葉は面白くないと言いたげな様子でむくれた面をしているが、それに気付いていないのか果敢にアタックする猛者が出て来る。
「巴、結構雰囲気変わったな!」
「大也とはどういう関係なんだ?」
「奥に料理あるから取ってくるよ俺」
所謂モブに囲まれた柚葉は彼らで気を紛らわそうと思ったのか、大也を無視して会場の奥に彼らと入って行った。その背中を大也は見つめるが、男女に強く手を引かれて彼も引き込まれた。フォローするとは言ったが、柚葉に手が届かない。
大也は目が回りそうな量の男女を捌いた。女からの好意を避け、流し、断る。男からのお悩み相談には真剣に答え、低俗なノリは肯定せず苦笑だけを浮かべる。大也が一歩も動かずとも、彼の皿やグラスには料理や飲み物が補充された。勿論アルコールは飲んでいない。
それは柚葉も同じだった。男女共に大人気な大也を見てイライラしているのか、柚葉は自分に擦り寄ってくる男共に「あれ取ってきて」「これ何」「代わりに食べて」とワガママに振る舞っている。取り巻きもそれを喜んで受け入れた。
「巴、酒飲める?」
「アルコール…飲んだことない…」
「え、まだ飲んだことないのか?まあちょっと舐めるくらいの量飲んでみ」
グラスに少しだけ入れられた酒をこくんと飲む。アルコール度数は7%だ。さらりと喉を通り、「美味しい」と柚葉は呟いた。
「お、もしかして結構酒いけんじゃね?」
「いける、かも…」
「良いじゃん。じゃあこっちも飲んでみろよ」
「ん、ありがと」
取り巻き達に勧められるがままに酒を飲む。ドライバーである大也に断りも無しに自分だけ飲むのは良くないだろうという倫理観は苛立ちで既に消えていた。柚葉のイライラをアルコールが癒し、それでいて加速させる。横目で見る大也は、沢山の人間に囲まれている。女にボディタッチをされても、平然とした態度でいる。
──何アレ。女慣れしてるってコト?私のこと家に住ませてるのも、慣れてるからってワケ?もしかして他の女も家に住ませたことあるの?
勝手な解釈は勝手に進んでいく。アルコールはそれを止めない。思考を暴走させ、狂わせていく。だが、アルコール初心者の柚葉は自分の限界なんて知らない。
「めっちゃ飲めるじゃん柚葉!」
「良いバーあるから今度行こうよ」
「ん……」
「他の女子も誘って行こうぜ。でも、範道はダメな。アイツいたら俺ら勝てないから」
はは、と男は笑った。頬を赤く染めた柚葉はグラスに注がれている酒を一気に飲み干す。そして、大股でずんずんと歩き人の波をかき分けて大也のもとまで向かった。
「大也!!」
「え…柚葉?顔赤いぞ、どうし」
「もう帰る!!運転して!!」
「え、」
駄々をこねる子供のように大也の裾を掴む。周りはその様子を見てドン引きしていたが、大也を諦めきれていない女が「ちょっと!」と声を上げた。
「た、大也君困ってるんだしやめなよ!」
「はあ~!?」
柚葉は真っ赤な顔で女を睨んだ。洗脳されていたとはいえ、何度もブンブンジャーと戦ったハシリヤンのクイーンだ。一般人とは流石に貫禄が違う。
睨まれた女が一瞬だけ怯んだのを大也は見逃さなかった。柚葉の手を引っ張り、謝って逃げるように会場を出て行く。柚葉は酔っ払ってぐちゃぐちゃになった脳味噌を揺らしながら走った。自分の手を包む大也の手を強く握り返し、その感触に愛おしさを感じた。
「柚葉、同窓会に行かないか?」
「え。同窓会?」
「ああ、誘いが来たんだ。折角なら、ちゃんと戻って来たことを見せたいだろ?」
「…私、小学校3年生くらいまでしか通ってなかったけど…」
柚葉は少し嫌そうな顔をした。気まずい、と言いたげだ。大也も気付いてはいるが、どうしても彼女を誘いたいのか退こうとしない。
「大丈夫だ。俺がフォローするから」
「……わかった」
「ありがとう」
大也は嬉しそうな様子でメッセージに返信を始めた。それを柚葉は不安げに見つめているが、スマホを見ている彼はその視線に気付かない。
*
当日、柚葉は大也と共に同窓会の会場まで行った。大也が車から降りた瞬間、同じように車で来ていた同級生達がわらわらと寄ってくる。殆どが男だった。
「うわ!高級車からイケメンが降りて来た!」
「ていうか同窓会に彼女連れて来るなよ!」
「俺今日正直出会いを求めて来たんだけど、お前のせいで既に心が折れかけてる」
男特有の低俗なノリを爽やかに流しつつ、大也は柚葉をエスコートした。会場が近付いてくると流石に女からの目も増え、居心地が悪そうな様子で柚葉は大也のスーツを掴んでいる。
「あれ誰?」
「さあ、知らない」
「成人式の時いなかったよね」
「え、範道君って彼女いたの…?ショック~…」
名簿に名前を書きに行くと、受付の男が大也を見て「範道!」と目を輝かせた。大也が名乗る前に彼の名前の横にマークを付け、出席を確定させる。次に柚葉に目を向け、首を傾げた。
「範道、この人は…?」
「名前、あるだろ?巴柚葉って」
「巴!!?」
男の大声で周りの人間が一斉に振り向いた。そして「巴」という名前がヒソヒソと囁かれ、好奇の目が柚葉に向けられる。耐えられない、といった様子で柚葉は「大也」と彼に縋った。
「私、やっぱ帰る……」
「柚葉…」
「え!?何で帰るんだよ、ていうかいつ帰って来たんだお前!?行方不明だっただろ!?」
「…最近」
「そんなことってあるんだな…いやマジで今まで何してたんだよお前…」
何十年も行方不明だった人間が帰って来たのだ。当然の反応である。
戸惑いつつも男は柚葉の名前の横にマークを付けた。名前が用意されていたことに柚葉は驚き、はあ、と溜め息を吐く。
「悪いけど、あんまり思い出したくないからその辺聞かないでくれる?」
「あ、悪い…」
「…大也、本当に参加するの?」
あまりの嫌がり様と会場の雰囲気を見て流石に大也も思うところがあったのか、そうだな…と踵を返そうとした。しかしそれを、大勢の男女が物理的に阻む。大也は男女問わず多くの人間に囲まれ、柚葉は何人かの男に囲まれた。
「大也君、久しぶり!折角なんだし色々話そうよ~!」
「あ、抜け駆けしたらダメってみんなでさっき話し合ってたでしょ!」
「大也~、仕事上手くいかないから雇ってくれよ~!!」
冷たくあしらうことも出来ず、大也は困った様子で一人一人に対応を始めた。それを横目で見ている柚葉は面白くないと言いたげな様子でむくれた面をしているが、それに気付いていないのか果敢にアタックする猛者が出て来る。
「巴、結構雰囲気変わったな!」
「大也とはどういう関係なんだ?」
「奥に料理あるから取ってくるよ俺」
所謂モブに囲まれた柚葉は彼らで気を紛らわそうと思ったのか、大也を無視して会場の奥に彼らと入って行った。その背中を大也は見つめるが、男女に強く手を引かれて彼も引き込まれた。フォローするとは言ったが、柚葉に手が届かない。
大也は目が回りそうな量の男女を捌いた。女からの好意を避け、流し、断る。男からのお悩み相談には真剣に答え、低俗なノリは肯定せず苦笑だけを浮かべる。大也が一歩も動かずとも、彼の皿やグラスには料理や飲み物が補充された。勿論アルコールは飲んでいない。
それは柚葉も同じだった。男女共に大人気な大也を見てイライラしているのか、柚葉は自分に擦り寄ってくる男共に「あれ取ってきて」「これ何」「代わりに食べて」とワガママに振る舞っている。取り巻きもそれを喜んで受け入れた。
「巴、酒飲める?」
「アルコール…飲んだことない…」
「え、まだ飲んだことないのか?まあちょっと舐めるくらいの量飲んでみ」
グラスに少しだけ入れられた酒をこくんと飲む。アルコール度数は7%だ。さらりと喉を通り、「美味しい」と柚葉は呟いた。
「お、もしかして結構酒いけんじゃね?」
「いける、かも…」
「良いじゃん。じゃあこっちも飲んでみろよ」
「ん、ありがと」
取り巻き達に勧められるがままに酒を飲む。ドライバーである大也に断りも無しに自分だけ飲むのは良くないだろうという倫理観は苛立ちで既に消えていた。柚葉のイライラをアルコールが癒し、それでいて加速させる。横目で見る大也は、沢山の人間に囲まれている。女にボディタッチをされても、平然とした態度でいる。
──何アレ。女慣れしてるってコト?私のこと家に住ませてるのも、慣れてるからってワケ?もしかして他の女も家に住ませたことあるの?
勝手な解釈は勝手に進んでいく。アルコールはそれを止めない。思考を暴走させ、狂わせていく。だが、アルコール初心者の柚葉は自分の限界なんて知らない。
「めっちゃ飲めるじゃん柚葉!」
「良いバーあるから今度行こうよ」
「ん……」
「他の女子も誘って行こうぜ。でも、範道はダメな。アイツいたら俺ら勝てないから」
はは、と男は笑った。頬を赤く染めた柚葉はグラスに注がれている酒を一気に飲み干す。そして、大股でずんずんと歩き人の波をかき分けて大也のもとまで向かった。
「大也!!」
「え…柚葉?顔赤いぞ、どうし」
「もう帰る!!運転して!!」
「え、」
駄々をこねる子供のように大也の裾を掴む。周りはその様子を見てドン引きしていたが、大也を諦めきれていない女が「ちょっと!」と声を上げた。
「た、大也君困ってるんだしやめなよ!」
「はあ~!?」
柚葉は真っ赤な顔で女を睨んだ。洗脳されていたとはいえ、何度もブンブンジャーと戦ったハシリヤンのクイーンだ。一般人とは流石に貫禄が違う。
睨まれた女が一瞬だけ怯んだのを大也は見逃さなかった。柚葉の手を引っ張り、謝って逃げるように会場を出て行く。柚葉は酔っ払ってぐちゃぐちゃになった脳味噌を揺らしながら走った。自分の手を包む大也の手を強く握り返し、その感触に愛おしさを感じた。