イニシャルはQ【爆上・大也】
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巨大化した苦魔獣との戦いが終わった後、私は言われた通り彼の車を探して見つけた。そこには荷物を降ろす男と大也がおり、男は私に気付く。
「は、ハシリヤン…!?も、もう関わる気は…!」
「……別に、殺しに来た訳じゃないわよ。あなたの代わりなんていくらでもいる」
不必要に怯えさせないように、と思い距離をとっていると「本当に会っていかなくていいのか?」と大也が男に質問を投げかけた。
「…いいんだ、もう。お人好しで、流されやすくて、一度決めたら止まらない…そんなところが好きだった」
晴れ晴れとした表情だ。未練がましさはまだ何となく残っているが、陰湿さは感じられない。どうやら大也の言葉や戦う彼女を見て、考えが変わったらしい。そして考えが変わっても、彼女が好きだったということは変わらなかった。
キャリーを引いて空港へと向かう。その背中を見つめていた大也だったが、男の姿が見えなくなるとこちらに振り返った。
「…君の時間を、少しだけ貰ってもいいか?」
「……ええ、いいわよ」
*
助手席に私を乗せ、車は海沿いを走る。ゆるやかな潮風が前髪を揺らし、くすぐったい。手で前髪を調整していると、「こういうのは風に逆らわない方が気持ちいいぞ」と大也は笑った。
「そうなの?」
「ああ。これが気持ちいいんだ」
暫くすると、適当な開けた場所に車を停めた。砂浜の方に歩いて行く。砂に足をとられて転びそうになると、彼が私の手を引っ張ってバランスを保った。
「ちょっと…ブーツじゃ歩きにくいのだけれど」
「脱げばいいさ」
「じゃああなたも脱ぎなさい」
そう言えば彼は大人しく靴下とスニーカーを脱いで裸足になった。私もロングブーツと浅い靴下を脱ぎ、砂浜に足を沈みこませる。温かくてふかふかだ。しかし、歩くには意外と力が求められる。
「彼はもう自分のハンドルを握った」
後ろ歩きで進みながら大也は言った。
「君はどうだ?クイーン」
手を差し出される。その手を迷わずとり、引かれるまま歩いた。
「……柚葉で、いい」
「え…」
「……それが、私の名前なんでしょ?それなら…そう呼んでも、いいから」
波打ち際まで来た。波は寄せる力よりも引く力の方が強い。とられた足は寄ってきたときに砂浜へ戻そうとすればいい。
「……柚葉」
「……」
「…俺のこと、覚えてないか?」
「………わからない。何かある筈なのに、思い出せない…」
ひと際大きな波がきて、大也が履いているジーンズの裾を濡らした。あーあ、と彼は裾を捲り上げていく。
その体を、砂浜に押し倒した。簡単に彼は押し倒され、私に上位をとられる。漂流物で出来た線路と波打ち際の境目で、視線を交える。
「……柚葉には、言ってなかったな」
「…何を?」
「俺がお前に惚れているってことだよ」
「…あなたって、呼吸と同じレベルで惚れたって言うじゃない」
「ああ。そんな俺が、ずっと昔から惚れているんだ、君には」
手を重ねられた。指が絡み、指と指の間に砂が入る。その触れ合いが、どうにも愛おしくて堪らなかった。
「……柚葉。ハシリヤンをやめて、俺達の仲間になってくれ」
「……できない」
「…どうしてだ?」
どくどくと心臓が高鳴る。気持ち悪い。脳味噌にノイズが走った。
「キャノンボーグ様の命令は…絶対、だから……」
手を離していく。大也に跨るのをやめ、私は隣に腰を下ろした。
「俺は君とは戦いたくないんだ」
「…耳に胼胝ができるほど聞いたわ」
「君を傷付けたくない。…できないんだ、柚葉」
柚葉と呼ばれる度に、心が変になる。キャノンボーグに付けられた名前はクイーンで、それを否定されるのは嫌な筈なのに、それを許して、受け入れてしまった。真実を知りたいくせに、知りたくない自分もいる。訳が分からない。私は一体、何がしたいのだろう。
大也の顔を見る度に気分が悪くなる。脳味噌と心がぐちゃぐちゃになる。彼が見せる怒りも、悲しみも、喜びも、何もかもが私を刺激する。
──怖い。大也と関わるのが、怖い。気持ち悪い。
立ち上がり、尻についた砂を手で払い落とした。波打ち際の為海水を含んだ砂はじっとりとショートパンツにしみついていて、不快だ。
「…もう会いたくない」
「…柚葉」
「大也といると…可笑しくなる。私のメーターが乱れるの。このままじゃきっと、壊れる…。ミラーが割れて、アクセルもブレーキも効かなくなる」
「……怖いのか?」
「……怖いわよ。当たり前でしょ…」
自分の肩を抱いた。小さく震えていた。
「……私のエンジン、かかってないの」
「エンジン?」
「…マッドレックスに言われた。私はエンジンがかかってないから止まってるって。それを自分が熱くしてやるって言われたけど……マッドレックスは死んだ」
「…エンジンは、熱くなったのか?」
「……わからない。私、もうとっくに壊れているのかも」
自嘲する私を哀れむように見つめる大也。ああ、苦手だ。彼の瞳は、全てを見透かそうとしてくる。
彼も立ち上がった。砂を片手で払い、払わなかった方の手で震える私の頭を自然に撫でる。幼子をあやすような手つきだった。
「……車、戻るか」
「……ええ、そうしましょ」
「は、ハシリヤン…!?も、もう関わる気は…!」
「……別に、殺しに来た訳じゃないわよ。あなたの代わりなんていくらでもいる」
不必要に怯えさせないように、と思い距離をとっていると「本当に会っていかなくていいのか?」と大也が男に質問を投げかけた。
「…いいんだ、もう。お人好しで、流されやすくて、一度決めたら止まらない…そんなところが好きだった」
晴れ晴れとした表情だ。未練がましさはまだ何となく残っているが、陰湿さは感じられない。どうやら大也の言葉や戦う彼女を見て、考えが変わったらしい。そして考えが変わっても、彼女が好きだったということは変わらなかった。
キャリーを引いて空港へと向かう。その背中を見つめていた大也だったが、男の姿が見えなくなるとこちらに振り返った。
「…君の時間を、少しだけ貰ってもいいか?」
「……ええ、いいわよ」
*
助手席に私を乗せ、車は海沿いを走る。ゆるやかな潮風が前髪を揺らし、くすぐったい。手で前髪を調整していると、「こういうのは風に逆らわない方が気持ちいいぞ」と大也は笑った。
「そうなの?」
「ああ。これが気持ちいいんだ」
暫くすると、適当な開けた場所に車を停めた。砂浜の方に歩いて行く。砂に足をとられて転びそうになると、彼が私の手を引っ張ってバランスを保った。
「ちょっと…ブーツじゃ歩きにくいのだけれど」
「脱げばいいさ」
「じゃああなたも脱ぎなさい」
そう言えば彼は大人しく靴下とスニーカーを脱いで裸足になった。私もロングブーツと浅い靴下を脱ぎ、砂浜に足を沈みこませる。温かくてふかふかだ。しかし、歩くには意外と力が求められる。
「彼はもう自分のハンドルを握った」
後ろ歩きで進みながら大也は言った。
「君はどうだ?クイーン」
手を差し出される。その手を迷わずとり、引かれるまま歩いた。
「……柚葉で、いい」
「え…」
「……それが、私の名前なんでしょ?それなら…そう呼んでも、いいから」
波打ち際まで来た。波は寄せる力よりも引く力の方が強い。とられた足は寄ってきたときに砂浜へ戻そうとすればいい。
「……柚葉」
「……」
「…俺のこと、覚えてないか?」
「………わからない。何かある筈なのに、思い出せない…」
ひと際大きな波がきて、大也が履いているジーンズの裾を濡らした。あーあ、と彼は裾を捲り上げていく。
その体を、砂浜に押し倒した。簡単に彼は押し倒され、私に上位をとられる。漂流物で出来た線路と波打ち際の境目で、視線を交える。
「……柚葉には、言ってなかったな」
「…何を?」
「俺がお前に惚れているってことだよ」
「…あなたって、呼吸と同じレベルで惚れたって言うじゃない」
「ああ。そんな俺が、ずっと昔から惚れているんだ、君には」
手を重ねられた。指が絡み、指と指の間に砂が入る。その触れ合いが、どうにも愛おしくて堪らなかった。
「……柚葉。ハシリヤンをやめて、俺達の仲間になってくれ」
「……できない」
「…どうしてだ?」
どくどくと心臓が高鳴る。気持ち悪い。脳味噌にノイズが走った。
「キャノンボーグ様の命令は…絶対、だから……」
手を離していく。大也に跨るのをやめ、私は隣に腰を下ろした。
「俺は君とは戦いたくないんだ」
「…耳に胼胝ができるほど聞いたわ」
「君を傷付けたくない。…できないんだ、柚葉」
柚葉と呼ばれる度に、心が変になる。キャノンボーグに付けられた名前はクイーンで、それを否定されるのは嫌な筈なのに、それを許して、受け入れてしまった。真実を知りたいくせに、知りたくない自分もいる。訳が分からない。私は一体、何がしたいのだろう。
大也の顔を見る度に気分が悪くなる。脳味噌と心がぐちゃぐちゃになる。彼が見せる怒りも、悲しみも、喜びも、何もかもが私を刺激する。
──怖い。大也と関わるのが、怖い。気持ち悪い。
立ち上がり、尻についた砂を手で払い落とした。波打ち際の為海水を含んだ砂はじっとりとショートパンツにしみついていて、不快だ。
「…もう会いたくない」
「…柚葉」
「大也といると…可笑しくなる。私のメーターが乱れるの。このままじゃきっと、壊れる…。ミラーが割れて、アクセルもブレーキも効かなくなる」
「……怖いのか?」
「……怖いわよ。当たり前でしょ…」
自分の肩を抱いた。小さく震えていた。
「……私のエンジン、かかってないの」
「エンジン?」
「…マッドレックスに言われた。私はエンジンがかかってないから止まってるって。それを自分が熱くしてやるって言われたけど……マッドレックスは死んだ」
「…エンジンは、熱くなったのか?」
「……わからない。私、もうとっくに壊れているのかも」
自嘲する私を哀れむように見つめる大也。ああ、苦手だ。彼の瞳は、全てを見透かそうとしてくる。
彼も立ち上がった。砂を片手で払い、払わなかった方の手で震える私の頭を自然に撫でる。幼子をあやすような手つきだった。
「……車、戻るか」
「……ええ、そうしましょ」