イニシャルはQ【爆上・大也】
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※バクアゲ20時空
外も暗くなった頃、運ばれた定食を前に一人肩を落とす男がいた。
「僕の何が悪かったっていうんだ…」
すかさずデコトラ―デが赤いお椀を机に置き、励ましの言葉をかける。その様子を、後ろのカウンターで私は足を組んでじっと見ていた。私の前には白米が盛られた茶碗と黄色のたくあんが置かれている。
「一緒にニューヨークへ行こうって約束したのに、急にやりたいことができたからって離れていっちゃうなんて…。うう、未来~!」
「ひどい恋人ねえ」
例え約束をしていたとしても、やりたいことが出来たのなら応援してあげるのが恋人なのではないだろうか。ふとそう思ったが、それよりも前に約束をとりつけているのならまた違うのかもしれない。黙ってたくあんをポリポリと食べた。ご飯が進む。
単に嫌われたのではと失言をするヤルカーに対して「違う!」と断言した男は、彼女はブンブンジャーに騙されただけだと怒りの表情を露にした。その言葉を聞き、デコトラ―デとイターシャが顔を合わせる。
「あいつらが未来を奪ったんだ…!」
「おいどうするよ…」
「なんか、ブンブンジャーを恨んでるみたいね…」
「奪われたら奪い返せばいいだけです!」
奥からキャノンボーグが出て来た。そしてイグニッションキーを先程運んだお椀に差し、苦魔獣を誕生させる。流石の男も苦魔獣には驚いたが、投げられたハンドルはすかさずキャッチしてみせた。どうやら、地球人でも苦魔獣を操ることが出来るらしい。男がハンドルを操作すれば、その通りに苦魔獣は動いてみせた。
「今こそ、憎きブンブンジャーを倒しギャーソリンを集めるのです!」
「はっ!」
「「テール・トゥ・ノーズ!」」
サンシーターと共にハシリヤンの挨拶まで決めた彼は、「未来…今行くからね」とぽつり呟いた。
正直、キャノンボーグにしてはくだらない作戦だ。大体、愚かな地球人に文字通りハンドルを握らせるなんて恥ずかしいにも程がある。例えそれで地球を支配できたとしても、上になんと報告すれば良いのだろうか。
男の方も男の方で、未練がましく陰湿だ。陰険なやり方は嫌いではないが、こういうのは少し趣味が悪い気がする。
「…意外とこれイケるわね……」
作戦への不平不満を思い浮かべながら、私はたくあんを口に運んだ。
*
最悪なことに、その陰湿な男の動向を見張るよう指示された。不服ながらも命令には従い、仕方なくといった感じで彼のハンドル捌きを見極める。
「何やってる…!とっととあいつらを倒せよ!」
「面白いモン持ってるじゃねえか」
苛立ちを露にしてハンドルを切る男に声をかけたのは先斗だった。大胆にこちらへ近づいてきて、「そいつで苦魔獣を操ってんのか」と関心を示す。それ以上近付いたら撃つという意味を込めて傘を向けると、男が逃げようと走り出した瞬間高速で移動して背後をとられた。勿論私も男に逃げられては困るので、男の首根っこを掴んでいる。
笑ってゆっくりと、獲物を取り囲んだ肉食獣のように近付いてくる先斗。威嚇射撃を行おうとした瞬間、私と男の前にレッドが入って来た。
「何してる!」
レッドはあくまでも男を庇ったようだ。前にいた私はついでのようである。先斗が一般人を脅しているように見えたのだろう。私と一緒にいる時点で察するくらいのことはしてほしいが。
「ブンレッド…届け屋…!」
「君は…あの時の依頼人…。確か、降野ノリオ…」
レッドが変身を解除し、大也の姿になった。叫び声を上げて私の手を振り切り先斗に突撃しようとする男。勿論先斗は余裕で避けた。
「ちょっと!ウロウロしないでくれる!?」
「お前のせいで…ブンブンジャーのせいで未来が…!」
「聞きなさいよ!」
「未来は流されやすいからお前らに騙されたんだ!でなきゃ僕から離れていくはずがない!未来は僕と一緒にニューヨークへ行く筈だったんだ!なのにお前が…!」
男は大也に掴みかかる。彼はそれを許した。
降野ノリオ。どこまでも救いようのない人間だ。未練がましく、陰湿で、力なんて無いくせに虚勢だけは一丁前に張る。
あまりにも見ていて不快だった為口を挟むことはやめた。傘も下ろし、戦闘態勢を解く。どうせ一般人が相手なら攻撃はしないだろう。
「未来にブンブンジャーなんて無理に決まってる!」
「他人のハンドルを握ろうとすれば、自分のハンドルが疎かになるぞ!」
大也は男の腕を掴み返した。説教タイムだと呆れる先斗に今ばかりは同情する。
他人のハンドルを握ろうとすれば、自分のハンドルが疎かになる。ならば今、私のハンドルを握っているのは誰なのだろうか。
勿論私自身だ、と答える勇気がない。今私はキャノンボーグの命令だけで動いている。それ以外は自由にしているが、行動方針は全て彼に委ねられている状態だ。
──私は、自分のハンドルを握れていない状態ってこと?
癇癪を起こして暴れようとする男を羽交い絞めにする大也を見つめる。ブンレッド、大也。何かが頭の中で繋がりそうなのに、思い出せない。
お椀に閉じ込められたピンクが暴れているのか翻弄される苦魔獣を見て、彼は「それでこそ未来!」と嬉しそうに言った。
いつの日にか見た、笑顔だった。私は知っていた。彼のことを。本能的にそう感じ取った。
「未来…どうして…。僕は君に戻って来てほしいだけなのに…」
「………俺もわかるよ、その気持ちは」
そう呟いた大也と目が合う。ひどく悲しそうな目で私を見つめていた。
「どうして逆らうんだよーッ!!」
男から排出されたギャーソリンがハンドルに充填されていき、ハンドルは爆発を起こして粉々に砕け散った。破片に当たらないよう自分だけ傘を差して身を守ると、大也が腰を抜かした男に手を差し伸べ肩を貸していた。
コントロールを失い暴走した苦魔獣がビームを放つ。傘で防御態勢に入ったが、先斗が瞬時にバリアを展開してくれたお陰で難を逃れた。
「ピンクちゃんのハンドルを握ろうとして、ハシリヤンにハンドルを握られてた気分はどうだ?」
口ごもる男。「俺が始末をつけてやる」と言って変身し、戦場へと飛び込んでいく先斗。
ハンドルが壊れた時点で策を投げたのか、苦魔獣に加勢しろという命令も下されない。嫌いな人間に肩入れする義理はない為横やりは入れず黙って見ていると、ようやくお椀の中からピンクが出て来た。相当怒りが溜まっているのか存分に暴れ始める彼女を見て、「あんな未来、見たことない…」と男が呆然とする。
「バクアゲだろ?あれがうちの運転屋。何があっても、一度掴んだハンドルは手放さない」
得意げな表情でそう語った。それを見て何か思うところがあったのか、男も表情を少しだけ変える。
「クイーン、もう撤収して構いません」
「了解」
大也と男を放置してその場を去ろうとした。しかしそれを「クイーン」と大也が引き留める。
「…何?」
「……後で、会えるか?」
いつもの余裕に満ちた男の顔ではなかった。どこか寂しげで、壊れそうな──儚い、とでもいうのだろうか。そういった表情だった。そんな顔もできるのかと心底驚きつつ、私は答えを口ごもる。
「…でも…」
「…俺の車で、待ってる」
そう言って彼は、ブンレッドに変身した。
外も暗くなった頃、運ばれた定食を前に一人肩を落とす男がいた。
「僕の何が悪かったっていうんだ…」
すかさずデコトラ―デが赤いお椀を机に置き、励ましの言葉をかける。その様子を、後ろのカウンターで私は足を組んでじっと見ていた。私の前には白米が盛られた茶碗と黄色のたくあんが置かれている。
「一緒にニューヨークへ行こうって約束したのに、急にやりたいことができたからって離れていっちゃうなんて…。うう、未来~!」
「ひどい恋人ねえ」
例え約束をしていたとしても、やりたいことが出来たのなら応援してあげるのが恋人なのではないだろうか。ふとそう思ったが、それよりも前に約束をとりつけているのならまた違うのかもしれない。黙ってたくあんをポリポリと食べた。ご飯が進む。
単に嫌われたのではと失言をするヤルカーに対して「違う!」と断言した男は、彼女はブンブンジャーに騙されただけだと怒りの表情を露にした。その言葉を聞き、デコトラ―デとイターシャが顔を合わせる。
「あいつらが未来を奪ったんだ…!」
「おいどうするよ…」
「なんか、ブンブンジャーを恨んでるみたいね…」
「奪われたら奪い返せばいいだけです!」
奥からキャノンボーグが出て来た。そしてイグニッションキーを先程運んだお椀に差し、苦魔獣を誕生させる。流石の男も苦魔獣には驚いたが、投げられたハンドルはすかさずキャッチしてみせた。どうやら、地球人でも苦魔獣を操ることが出来るらしい。男がハンドルを操作すれば、その通りに苦魔獣は動いてみせた。
「今こそ、憎きブンブンジャーを倒しギャーソリンを集めるのです!」
「はっ!」
「「テール・トゥ・ノーズ!」」
サンシーターと共にハシリヤンの挨拶まで決めた彼は、「未来…今行くからね」とぽつり呟いた。
正直、キャノンボーグにしてはくだらない作戦だ。大体、愚かな地球人に文字通りハンドルを握らせるなんて恥ずかしいにも程がある。例えそれで地球を支配できたとしても、上になんと報告すれば良いのだろうか。
男の方も男の方で、未練がましく陰湿だ。陰険なやり方は嫌いではないが、こういうのは少し趣味が悪い気がする。
「…意外とこれイケるわね……」
作戦への不平不満を思い浮かべながら、私はたくあんを口に運んだ。
*
最悪なことに、その陰湿な男の動向を見張るよう指示された。不服ながらも命令には従い、仕方なくといった感じで彼のハンドル捌きを見極める。
「何やってる…!とっととあいつらを倒せよ!」
「面白いモン持ってるじゃねえか」
苛立ちを露にしてハンドルを切る男に声をかけたのは先斗だった。大胆にこちらへ近づいてきて、「そいつで苦魔獣を操ってんのか」と関心を示す。それ以上近付いたら撃つという意味を込めて傘を向けると、男が逃げようと走り出した瞬間高速で移動して背後をとられた。勿論私も男に逃げられては困るので、男の首根っこを掴んでいる。
笑ってゆっくりと、獲物を取り囲んだ肉食獣のように近付いてくる先斗。威嚇射撃を行おうとした瞬間、私と男の前にレッドが入って来た。
「何してる!」
レッドはあくまでも男を庇ったようだ。前にいた私はついでのようである。先斗が一般人を脅しているように見えたのだろう。私と一緒にいる時点で察するくらいのことはしてほしいが。
「ブンレッド…届け屋…!」
「君は…あの時の依頼人…。確か、降野ノリオ…」
レッドが変身を解除し、大也の姿になった。叫び声を上げて私の手を振り切り先斗に突撃しようとする男。勿論先斗は余裕で避けた。
「ちょっと!ウロウロしないでくれる!?」
「お前のせいで…ブンブンジャーのせいで未来が…!」
「聞きなさいよ!」
「未来は流されやすいからお前らに騙されたんだ!でなきゃ僕から離れていくはずがない!未来は僕と一緒にニューヨークへ行く筈だったんだ!なのにお前が…!」
男は大也に掴みかかる。彼はそれを許した。
降野ノリオ。どこまでも救いようのない人間だ。未練がましく、陰湿で、力なんて無いくせに虚勢だけは一丁前に張る。
あまりにも見ていて不快だった為口を挟むことはやめた。傘も下ろし、戦闘態勢を解く。どうせ一般人が相手なら攻撃はしないだろう。
「未来にブンブンジャーなんて無理に決まってる!」
「他人のハンドルを握ろうとすれば、自分のハンドルが疎かになるぞ!」
大也は男の腕を掴み返した。説教タイムだと呆れる先斗に今ばかりは同情する。
他人のハンドルを握ろうとすれば、自分のハンドルが疎かになる。ならば今、私のハンドルを握っているのは誰なのだろうか。
勿論私自身だ、と答える勇気がない。今私はキャノンボーグの命令だけで動いている。それ以外は自由にしているが、行動方針は全て彼に委ねられている状態だ。
──私は、自分のハンドルを握れていない状態ってこと?
癇癪を起こして暴れようとする男を羽交い絞めにする大也を見つめる。ブンレッド、大也。何かが頭の中で繋がりそうなのに、思い出せない。
お椀に閉じ込められたピンクが暴れているのか翻弄される苦魔獣を見て、彼は「それでこそ未来!」と嬉しそうに言った。
いつの日にか見た、笑顔だった。私は知っていた。彼のことを。本能的にそう感じ取った。
「未来…どうして…。僕は君に戻って来てほしいだけなのに…」
「………俺もわかるよ、その気持ちは」
そう呟いた大也と目が合う。ひどく悲しそうな目で私を見つめていた。
「どうして逆らうんだよーッ!!」
男から排出されたギャーソリンがハンドルに充填されていき、ハンドルは爆発を起こして粉々に砕け散った。破片に当たらないよう自分だけ傘を差して身を守ると、大也が腰を抜かした男に手を差し伸べ肩を貸していた。
コントロールを失い暴走した苦魔獣がビームを放つ。傘で防御態勢に入ったが、先斗が瞬時にバリアを展開してくれたお陰で難を逃れた。
「ピンクちゃんのハンドルを握ろうとして、ハシリヤンにハンドルを握られてた気分はどうだ?」
口ごもる男。「俺が始末をつけてやる」と言って変身し、戦場へと飛び込んでいく先斗。
ハンドルが壊れた時点で策を投げたのか、苦魔獣に加勢しろという命令も下されない。嫌いな人間に肩入れする義理はない為横やりは入れず黙って見ていると、ようやくお椀の中からピンクが出て来た。相当怒りが溜まっているのか存分に暴れ始める彼女を見て、「あんな未来、見たことない…」と男が呆然とする。
「バクアゲだろ?あれがうちの運転屋。何があっても、一度掴んだハンドルは手放さない」
得意げな表情でそう語った。それを見て何か思うところがあったのか、男も表情を少しだけ変える。
「クイーン、もう撤収して構いません」
「了解」
大也と男を放置してその場を去ろうとした。しかしそれを「クイーン」と大也が引き留める。
「…何?」
「……後で、会えるか?」
いつもの余裕に満ちた男の顔ではなかった。どこか寂しげで、壊れそうな──儚い、とでもいうのだろうか。そういった表情だった。そんな顔もできるのかと心底驚きつつ、私は答えを口ごもる。
「…でも…」
「…俺の車で、待ってる」
そう言って彼は、ブンレッドに変身した。