イニシャルはQ【爆上・大也】
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マッドレックスがコースアウトし、サンシーター達が悲しみに暮れる日々が始まった…と思いきや、むしろその逆だった。マッドレックスの死は彼らを奮い立たせ、「ええいなにくそ」と奮起させたのだ。
バックマーカーは単細胞で助かると思いつつ、私は彼らから少し距離をとることにした。マッドレックスを弔いたい訳ではないが、精神的に少し休みたい。戦ってばかりの日々は少しオーバーワークだった。
ベンチに座り、道行く人々を見つめる。皆手元にカップを持っており、何かを飲んでいた。漂ってくる匂いは様々で、甘い匂いもあれば少し苦そうな匂いもある。味を想像してしまい、ついゴクリ、と唾を飲み込んだ。
「飲みたいのか?」
いつの間にか、隣に誰かが座っていた。手には人々と同じカップを持っており、ホイップクリームが乗ったものとただ蓋をされたものがある。しかしそれを持っている人物は黒髪を前分けにし、派手な赤いジャケットを羽織っている。間違いなく、ブンレッド──大也だった。
「なっ、れ、レッド!?」
「…レッド、か。クイーン、俺の名前は範道大也だ」
「はんどう、たいや…」
「そうだ。…なにか、思い出したか?」
大也はひどく優しい目をして私の顔を覗き込む。その目には見覚えがあった。──何か、大切なことを忘れているような気がする。
彼の視線を受けとめた瞬間、眩暈がした。暫くの間視界が真っ白になり、そしてじわじわと色が戻っていく。あまりの気持ち悪さに吐き気がした。
「……知らない。あなたのことなんて、記憶にない」
「……そうか」
大也はホイップクリームが乗った方を差し出した。下は赤色の層になっており、何だか甘い匂いがする。
「美味いぞ、飲んでみろ」
「…いらない」
「いらないのか?」
「…毒が入ってるかもしれないから」
「そんなことする訳ないだろ。俺はただ、君がこれを欲しそうにしていたから届けたかっただけだ」
「…」
そこまで言うなら、とおずおずと受け取る。刺さっている太いストローを口に咥え、吸った。意外と吸引力が求められる。クリームが口の中に入ってきたかと思いきや、甘酸っぱいフローズンのようなものが流れ込んできた。
「!」
「美味いだろ?」
「……美味しい…」
赤いところは苺だった。無我夢中になって吸っていると、頭がキーンとした。頭を押さえると意味を察した大也が笑い、「ほら」と自分が持っている方のカップを私の手に押し付けた。こっちは温かくて、苦そうな匂いがする。
「温まるぞ」
「………何で、私に優しくするのよ。私達、敵同士でしょ」
「…俺には、君が悲鳴を上げている声が聞こえるからかな」
「私が悲鳴?そんな訳ないでしょ。私はハシリヤン、地球を縄張りにしに来た──むしろ、悲鳴を上げさせる側なんだから」
「俺はそうとは思えない」
不思議な男だった。甘くて苦い。そんな表現が似合う人間だ。こんなに優しい声なのに、言っていることは頑として変えない。
「…頑固者ね。そんなんじゃ、すぐバックマーカーになるわよ」
「でも、マッドレックスに勝てた」
「……馬鹿。障害物 がマッドレックス一人で終わる訳ないでしょ」
「……分かっているさ」
もうすぐキャノンボーグが来る。マッドレックスとはまた違った方向性のハシリヤンだ。そう上手く倒せるとは思わない方が良い。何せ、私のバトルスーツを作ったのも彼なのだから。
しかしそんなアドバイスをしてやる義理はなかった。精々破滅の時まで、足掻けばいい。
「君はハシリヤンに向いていない」
「…何ですって?」
「決めるのは君次第だ。どのコースを選ぶのかは君が決めることだからな」
「……」
私にはコース取りをする能力なんてない。ただルートに従って進むだけだ。それなのに、大也は「自分」で決めろと、突き付けて来る。私にとってとても難しいことを、当たり前のように要求する。
ひどく惨めな気がして、私はベンチから立ち上がった。飲み終わったカップをゴミ箱に入れ、もう一度ベンチに戻る。大也はまだ飲み物を手に持ち、飲んでいた。
「……ご馳走様。借りは必ず返すから」
「気にしないでくれ。俺が好きでやったことなんだ」
「…借りを作りたくないだけよ。勘違いしないで」
傘を差し、逃げるように走り去った。範道大也は、眩しい男だった。
バックマーカーは単細胞で助かると思いつつ、私は彼らから少し距離をとることにした。マッドレックスを弔いたい訳ではないが、精神的に少し休みたい。戦ってばかりの日々は少しオーバーワークだった。
ベンチに座り、道行く人々を見つめる。皆手元にカップを持っており、何かを飲んでいた。漂ってくる匂いは様々で、甘い匂いもあれば少し苦そうな匂いもある。味を想像してしまい、ついゴクリ、と唾を飲み込んだ。
「飲みたいのか?」
いつの間にか、隣に誰かが座っていた。手には人々と同じカップを持っており、ホイップクリームが乗ったものとただ蓋をされたものがある。しかしそれを持っている人物は黒髪を前分けにし、派手な赤いジャケットを羽織っている。間違いなく、ブンレッド──大也だった。
「なっ、れ、レッド!?」
「…レッド、か。クイーン、俺の名前は範道大也だ」
「はんどう、たいや…」
「そうだ。…なにか、思い出したか?」
大也はひどく優しい目をして私の顔を覗き込む。その目には見覚えがあった。──何か、大切なことを忘れているような気がする。
彼の視線を受けとめた瞬間、眩暈がした。暫くの間視界が真っ白になり、そしてじわじわと色が戻っていく。あまりの気持ち悪さに吐き気がした。
「……知らない。あなたのことなんて、記憶にない」
「……そうか」
大也はホイップクリームが乗った方を差し出した。下は赤色の層になっており、何だか甘い匂いがする。
「美味いぞ、飲んでみろ」
「…いらない」
「いらないのか?」
「…毒が入ってるかもしれないから」
「そんなことする訳ないだろ。俺はただ、君がこれを欲しそうにしていたから届けたかっただけだ」
「…」
そこまで言うなら、とおずおずと受け取る。刺さっている太いストローを口に咥え、吸った。意外と吸引力が求められる。クリームが口の中に入ってきたかと思いきや、甘酸っぱいフローズンのようなものが流れ込んできた。
「!」
「美味いだろ?」
「……美味しい…」
赤いところは苺だった。無我夢中になって吸っていると、頭がキーンとした。頭を押さえると意味を察した大也が笑い、「ほら」と自分が持っている方のカップを私の手に押し付けた。こっちは温かくて、苦そうな匂いがする。
「温まるぞ」
「………何で、私に優しくするのよ。私達、敵同士でしょ」
「…俺には、君が悲鳴を上げている声が聞こえるからかな」
「私が悲鳴?そんな訳ないでしょ。私はハシリヤン、地球を縄張りにしに来た──むしろ、悲鳴を上げさせる側なんだから」
「俺はそうとは思えない」
不思議な男だった。甘くて苦い。そんな表現が似合う人間だ。こんなに優しい声なのに、言っていることは頑として変えない。
「…頑固者ね。そんなんじゃ、すぐバックマーカーになるわよ」
「でも、マッドレックスに勝てた」
「……馬鹿。
「……分かっているさ」
もうすぐキャノンボーグが来る。マッドレックスとはまた違った方向性のハシリヤンだ。そう上手く倒せるとは思わない方が良い。何せ、私のバトルスーツを作ったのも彼なのだから。
しかしそんなアドバイスをしてやる義理はなかった。精々破滅の時まで、足掻けばいい。
「君はハシリヤンに向いていない」
「…何ですって?」
「決めるのは君次第だ。どのコースを選ぶのかは君が決めることだからな」
「……」
私にはコース取りをする能力なんてない。ただルートに従って進むだけだ。それなのに、大也は「自分」で決めろと、突き付けて来る。私にとってとても難しいことを、当たり前のように要求する。
ひどく惨めな気がして、私はベンチから立ち上がった。飲み終わったカップをゴミ箱に入れ、もう一度ベンチに戻る。大也はまだ飲み物を手に持ち、飲んでいた。
「……ご馳走様。借りは必ず返すから」
「気にしないでくれ。俺が好きでやったことなんだ」
「…借りを作りたくないだけよ。勘違いしないで」
傘を差し、逃げるように走り去った。範道大也は、眩しい男だった。