閃光【怪警・高尾ノエル】
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怪我人優先!と遠慮する彼を脱衣所に入れた為、彼の後に入浴することになった。脱衣所と浴室にはノエルのにおいがほんのり残っている。スンスンと無意識に嗅いでしまい──変態か!と自分の頭を殴った。気持ち悪すぎて羞恥心のあまり壁に頭をぶつけたかった。
頭や体をひとしきり洗い、浴槽に足を入れる。ノエルも入ったであろうお湯に身を沈めていく。こういうとき、つくづく自分が女で良かったと思ってしまう。
「……はあ……」
ナイチンゲール症候群にでもなってしまったのか。それとも、手負いの彼を見て下品にも庇護欲を掻き立てられたのか。どちらにしろ、救えないのは確かだ。
じわじわと「高尾ノエル」という存在が心と脳を侵食してきている。彼の一挙一動に感情を動かされている。「良い被写体」から「被写体にしたい存在」になり始めているのだ。
──「お前頭可笑しいよ」。
元カレの言葉が浮かんだ。言い訳はしない。確かに、端から見れば私は頭が可笑しいのだろう。
果たして、ノエルもそう思うのだろうか。優しい彼でも、私の考えを聞けば距離を置くようになるのだろうか。
怖いと同時に、聞きたいという好奇心もある。半々であれば良かったのだが、生憎と後者の方が負ける程賢い人間ではなかった。
*
風呂から上がると、ノエルはアルバムを見ていた。無造作に棚の上に置いていたものだ。見られても仕方ない。しかしその光景を見た瞬間ひやりとしてしまい、「ノエルさん」と強い語気で名前を呼んでしまった。
「…盗み見してごめんね。ページが開いていたから、つい目に留まってしまって…」
「……いえ、適当に置いていた物ですから」
「……この人は、恋人?」
「…まさか。そうだったら、こうやってノエルさんを家に上げてませんよ。元カレです」
普段の飄々とした彼はいなかった。ただ淡々と、事情聴取をする刑事のように話しかけてくる。だから私も、参考人──もしくは犯人のようにそれに応じる。
「浮気現場を目撃して…家を追い出されて、自然消滅です。もう連絡もとっていません」
「じゃあ、こんなに沢山写真を残しているのはどうして?」
ちくり、と注射器を打たれたような感覚だった。
今のノエルは私の知っている「高尾ノエル」ではない。それが地雷だと分かった上で容赦なく人の地雷を踏み抜き、土足で踏みにじる。そこに悪意は無く、善意も勿論無い。ただ、「そう思うから」やっているだけなのだ。多分。
「………彼に何かあった時に使えたら良いな、と思って」
「…ふうん。じゃあ、」
彼はアルバムを私に手渡した。にこりと微笑み、少し太めの眉毛が垂れる。
「捨てようか」
「…え」
「だって、もう連絡もとっていないってことは彼の身に何が起きようとも柚葉さんには関係ないからね。それなら、彼のプライバシーの為にも捨てた方が良い」
「い、いや、そんな…」
「それに、もし君に次の恋人が出来た時こんなものがあったらきっと怒られてしまうよ。そうなる前に捨てた方がきっと君の為だ」
「い、嫌です!写真、写真が無いと……」
私はアルバムを守るように、彼に奪われないように力一杯抱きしめた。何枚もの写真が入っているアルバムだ。そのどれもが唯一無二で、もう取り戻せない永遠という時間の中に彼を閉じ込めている。
「……遺影に使えない……」
昔の記憶がフラッシュバックした。遺影に使えそうな写真が出てこず、「困ったわねえ」とヒソヒソ話をする親戚。出て来る写真は全て幼い私を映したものだった。娘ばかり映していた両親は、家族写真というものを撮らなかった。唯一撮っていたお宮参りの写真を何とか遺影に使い葬儀は執り行われたが、「遺影がない」という事態は幼い私にとってトラウマとして残り続けた。
ノエルは「ごめんね」と言った。哀れむような声色だった。
頭や体をひとしきり洗い、浴槽に足を入れる。ノエルも入ったであろうお湯に身を沈めていく。こういうとき、つくづく自分が女で良かったと思ってしまう。
「……はあ……」
ナイチンゲール症候群にでもなってしまったのか。それとも、手負いの彼を見て下品にも庇護欲を掻き立てられたのか。どちらにしろ、救えないのは確かだ。
じわじわと「高尾ノエル」という存在が心と脳を侵食してきている。彼の一挙一動に感情を動かされている。「良い被写体」から「被写体にしたい存在」になり始めているのだ。
──「お前頭可笑しいよ」。
元カレの言葉が浮かんだ。言い訳はしない。確かに、端から見れば私は頭が可笑しいのだろう。
果たして、ノエルもそう思うのだろうか。優しい彼でも、私の考えを聞けば距離を置くようになるのだろうか。
怖いと同時に、聞きたいという好奇心もある。半々であれば良かったのだが、生憎と後者の方が負ける程賢い人間ではなかった。
*
風呂から上がると、ノエルはアルバムを見ていた。無造作に棚の上に置いていたものだ。見られても仕方ない。しかしその光景を見た瞬間ひやりとしてしまい、「ノエルさん」と強い語気で名前を呼んでしまった。
「…盗み見してごめんね。ページが開いていたから、つい目に留まってしまって…」
「……いえ、適当に置いていた物ですから」
「……この人は、恋人?」
「…まさか。そうだったら、こうやってノエルさんを家に上げてませんよ。元カレです」
普段の飄々とした彼はいなかった。ただ淡々と、事情聴取をする刑事のように話しかけてくる。だから私も、参考人──もしくは犯人のようにそれに応じる。
「浮気現場を目撃して…家を追い出されて、自然消滅です。もう連絡もとっていません」
「じゃあ、こんなに沢山写真を残しているのはどうして?」
ちくり、と注射器を打たれたような感覚だった。
今のノエルは私の知っている「高尾ノエル」ではない。それが地雷だと分かった上で容赦なく人の地雷を踏み抜き、土足で踏みにじる。そこに悪意は無く、善意も勿論無い。ただ、「そう思うから」やっているだけなのだ。多分。
「………彼に何かあった時に使えたら良いな、と思って」
「…ふうん。じゃあ、」
彼はアルバムを私に手渡した。にこりと微笑み、少し太めの眉毛が垂れる。
「捨てようか」
「…え」
「だって、もう連絡もとっていないってことは彼の身に何が起きようとも柚葉さんには関係ないからね。それなら、彼のプライバシーの為にも捨てた方が良い」
「い、いや、そんな…」
「それに、もし君に次の恋人が出来た時こんなものがあったらきっと怒られてしまうよ。そうなる前に捨てた方がきっと君の為だ」
「い、嫌です!写真、写真が無いと……」
私はアルバムを守るように、彼に奪われないように力一杯抱きしめた。何枚もの写真が入っているアルバムだ。そのどれもが唯一無二で、もう取り戻せない永遠という時間の中に彼を閉じ込めている。
「……遺影に使えない……」
昔の記憶がフラッシュバックした。遺影に使えそうな写真が出てこず、「困ったわねえ」とヒソヒソ話をする親戚。出て来る写真は全て幼い私を映したものだった。娘ばかり映していた両親は、家族写真というものを撮らなかった。唯一撮っていたお宮参りの写真を何とか遺影に使い葬儀は執り行われたが、「遺影がない」という事態は幼い私にとってトラウマとして残り続けた。
ノエルは「ごめんね」と言った。哀れむような声色だった。