閃光【怪警・ノエル】
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あれよあれよという間にノエルとの距離は近付いた。というか、彼が人の懐に入るのが上手すぎた。
たまには花でも撮ろうかと呟けば植物園のチケットを二人分用意してくる。フランスではどこのお菓子が美味しいのか聞けば、翌日には届けに来る。展覧会の準備をする手伝いを募集していればしれっと応募してくる。
数少ない友人にそのことを言うと、「ストーカー」と一蹴された。まあ、そう思われても仕方ないのかもしれない。
「絶対ヤバイ男だって」
「…でも警察官だし」
「警察官だって犯罪犯すでしょ。よく事件になってるし」
「良い人なの。…私の写真にも、付き合ってくれるし」
「男はヤる前はみんな優しいの。で、ヤれたらポイ」
「……そんな下品な人には思えないけど」
「…痛い目見ても知らないよ。前の彼氏とだって上手くいかなかったじゃん」
「…」
彼女の正論は私の胸を貫いた。そして、刺さったまま抜けない。
所謂元カレは浮気をしていた。私が賞を受賞して表彰式に参加した日、サプライズで彼の家に訪れると「現場」に出くわしたのだ。
呆然とする私に彼は「お前頭可笑しいよ」と言い、家を追い出した。雪の降る寒い日のことだった。あれ以来、雪は苦手になった。
「ま、何かあったらすぐ言って。私がそいつぶん殴ってやるから」
「……うん。ありがと…」
彼女の言うことも一理ある。ノエルは確かに、良い人だが「変な人」だ。
でも、そんなところが妙に気になるのだ。彼と一緒なら、見たこともない景色が見れるのではないかと期待している自分がいる。
*
ピンポン、とチャイムが鳴らされた。はいはい今行きますよとドアスコープを覗けば、私服を着た傷だらけのノエルがいた。
「の、ノエルさん!?」
扉を勢いよく開けて飛び出すと、「しー」と子供に言い聞かせるように彼は口元に人差し指を当てた。お邪魔してもいいかい、と小声で聞いてきたので言われるがまま中に入れる。玄関のドアを閉めた瞬間、彼はへなへなとその場に座り込んでしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「うん…大丈夫、大した怪我ではないんだけど…」
ちらり、と右手を見つめる。手の甲に裂傷がつけられていた。少し黒ずんでおり、時間が経っていることを示している。
「……利き手が使えなくてね。本当に申し訳ないのだけれど、手当てをお願いしてもいいかな?」
「は、はい!と、とりあえずこっちにどうぞ…!」
リビングまで肩を貸して歩かせ、カーペットを敷いた床に座ってもらう。救急箱を棚から取り出し、中から包帯やら消毒液やらを慌ただしく取り出した。
「いつもは国際警察で手当てをしてもらっているんだけど、今日は怪盗業の方だったからできなくてね…。こんな時間に女性の家に上がってしまって、本当に申し訳ない」
「いえ、そんな…!」
医療ドラマの見様見真似で手当てをしようとすると、「次はそれを使って」「こう巻いて」と的確な指示が飛んできた。彼の声を聞いていると慌ただしかった心臓も大人しくなっていき、落ち着いて手当てをすることができた。
「……怪盗の人達には、やってもらえないんですか?」
「彼らは必要以上に助け合わないからね。これくらいなら大丈夫だと思っていたんだけど、結構傷が深くて…」
視線を逸らすノエル。彼でも見誤ることがあるらしい。
そのギャップに「可愛い」と思ってしまい、慌ててその感情をかき消した。今のはただ、子供に対して抱くような感情だ。大の男に本気で「可愛い」と思った訳ではない。そう自分に言い聞かせた。
「ごめんね、ありがとう。僕はもう帰るから…」
「え!?でも、手以外も怪我していますし…」
「いや、遅い時間に男と二人で密室にいるのは良くないよ」
「わ、私は気にしませんから…。いや、ノエルさんが嫌なら無理強いはしないんですけども…」
もごもごと口ごもる。ノエルは言葉の続きを待っているのか、黙って私を見つめていた。
倫理観、常識、不埒、危機感。色んな言葉が頭の中でぐるぐる回る。でも、今の彼を外に放り出すことはどうしてもできなかった。
「……泊まって、いきませんか」
たまには花でも撮ろうかと呟けば植物園のチケットを二人分用意してくる。フランスではどこのお菓子が美味しいのか聞けば、翌日には届けに来る。展覧会の準備をする手伝いを募集していればしれっと応募してくる。
数少ない友人にそのことを言うと、「ストーカー」と一蹴された。まあ、そう思われても仕方ないのかもしれない。
「絶対ヤバイ男だって」
「…でも警察官だし」
「警察官だって犯罪犯すでしょ。よく事件になってるし」
「良い人なの。…私の写真にも、付き合ってくれるし」
「男はヤる前はみんな優しいの。で、ヤれたらポイ」
「……そんな下品な人には思えないけど」
「…痛い目見ても知らないよ。前の彼氏とだって上手くいかなかったじゃん」
「…」
彼女の正論は私の胸を貫いた。そして、刺さったまま抜けない。
所謂元カレは浮気をしていた。私が賞を受賞して表彰式に参加した日、サプライズで彼の家に訪れると「現場」に出くわしたのだ。
呆然とする私に彼は「お前頭可笑しいよ」と言い、家を追い出した。雪の降る寒い日のことだった。あれ以来、雪は苦手になった。
「ま、何かあったらすぐ言って。私がそいつぶん殴ってやるから」
「……うん。ありがと…」
彼女の言うことも一理ある。ノエルは確かに、良い人だが「変な人」だ。
でも、そんなところが妙に気になるのだ。彼と一緒なら、見たこともない景色が見れるのではないかと期待している自分がいる。
*
ピンポン、とチャイムが鳴らされた。はいはい今行きますよとドアスコープを覗けば、私服を着た傷だらけのノエルがいた。
「の、ノエルさん!?」
扉を勢いよく開けて飛び出すと、「しー」と子供に言い聞かせるように彼は口元に人差し指を当てた。お邪魔してもいいかい、と小声で聞いてきたので言われるがまま中に入れる。玄関のドアを閉めた瞬間、彼はへなへなとその場に座り込んでしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「うん…大丈夫、大した怪我ではないんだけど…」
ちらり、と右手を見つめる。手の甲に裂傷がつけられていた。少し黒ずんでおり、時間が経っていることを示している。
「……利き手が使えなくてね。本当に申し訳ないのだけれど、手当てをお願いしてもいいかな?」
「は、はい!と、とりあえずこっちにどうぞ…!」
リビングまで肩を貸して歩かせ、カーペットを敷いた床に座ってもらう。救急箱を棚から取り出し、中から包帯やら消毒液やらを慌ただしく取り出した。
「いつもは国際警察で手当てをしてもらっているんだけど、今日は怪盗業の方だったからできなくてね…。こんな時間に女性の家に上がってしまって、本当に申し訳ない」
「いえ、そんな…!」
医療ドラマの見様見真似で手当てをしようとすると、「次はそれを使って」「こう巻いて」と的確な指示が飛んできた。彼の声を聞いていると慌ただしかった心臓も大人しくなっていき、落ち着いて手当てをすることができた。
「……怪盗の人達には、やってもらえないんですか?」
「彼らは必要以上に助け合わないからね。これくらいなら大丈夫だと思っていたんだけど、結構傷が深くて…」
視線を逸らすノエル。彼でも見誤ることがあるらしい。
そのギャップに「可愛い」と思ってしまい、慌ててその感情をかき消した。今のはただ、子供に対して抱くような感情だ。大の男に本気で「可愛い」と思った訳ではない。そう自分に言い聞かせた。
「ごめんね、ありがとう。僕はもう帰るから…」
「え!?でも、手以外も怪我していますし…」
「いや、遅い時間に男と二人で密室にいるのは良くないよ」
「わ、私は気にしませんから…。いや、ノエルさんが嫌なら無理強いはしないんですけども…」
もごもごと口ごもる。ノエルは言葉の続きを待っているのか、黙って私を見つめていた。
倫理観、常識、不埒、危機感。色んな言葉が頭の中でぐるぐる回る。でも、今の彼を外に放り出すことはどうしてもできなかった。
「……泊まって、いきませんか」
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