閃光【怪警・ノエル】
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「メルシー。調子はどうかな?」
「きゃっ」
カメラを構え、とんでもない体勢で猫を撮っているとノエルに話しかけられた。今日はオフなのか、グレーのベストをスマートに着こなしている。
「おっと、驚かしてしまったのならごめんね」
「もう…。仕事中だったら怒るじゃ済みませんよ」
「これは仕事じゃないのかい?」
「趣味です。あと、猫の写真って需要ありますから。SNSに載せると評判良いんですよ」
彼はパチパチと瞬きをした。私はそれに構わず、猫が欠伸をした瞬間を見逃さずにシャッターを切る。口内が丸見えになった瞬間が切り取られた。
「……幻滅しました?評判の為だけに撮る写真があるなんて」
「…それは、僕が君を幻滅する理由にはならないよ。それに、需要があるという理由だけで何時間も猫に構える人は早々いない」
私は猫に構っていた時間を大雑把に割り出した。確かにそれなりの時間は費やしている。
「…って、見てたんですか!?」
「ごめんね。あまりにも柚葉さんが熱心だったから、つい見入ってしまって」
「声くらいかけてくればいいのに…」
「そうさ、だからこうやって声をかけにきたんだよ」
はいこれ、と彼はテイクアウトのカップを手渡す。中にはアイスティーが入っていた。
「アールグレイ…」
「オーララ!まさか香りだけで当てしまうなんて」
「……紅茶派なんです」
ありがとうございます、と礼を述べて有り難く飲み物に口をつけた。何時間も粘った後の紅茶は格別に美味しい。
「奇遇だね、僕も紅茶派なんだ」
「…ノエルさんって、日本人なんですか?」
「うーん、それは内緒。今教えられるのは、フランスから来た国際警察ってことかな」
「フランス…ああ、通りでフランス語を…」
「そういうこと。柚葉さんは?この辺の出身なのかい?」
「ああ、まあそんなところです」
「じゃあ、もしかしてご両親もこの近くに?」
「……生きている時は、そうでしたね」
ノエルは何とも言い難い表情をした。目を少し丸くし、言葉を詰まらせた顔。しかしすぐにすまない、と謝罪の言葉がさらりと出てきた。今度は「ごめんね」ではなかった。
「いえ、もう何年も前ですから」
「…そんな顔をさせたい訳ではなかったんだ。本当に、ごめんね柚葉さん」
「いえ本当にいいですから…あと、私のこと…柚葉で、いいですから……」
そう言うと、彼はパァッと表情を明るくした。まるで太陽のようだ。雲に隠れたり、こうして姿を現したりする。
「ありがとう。でも今はまだこの呼び方でいさせてくれるかな?」
「?はい…?」
「折角なんだから、少しずつ仲良くなりたくてね。急接近も刺激的だけれど……君との急接近は、僕には刺激が強過ぎる」
ノエルは悪戯っ子のように笑った。正体を明かした時から思っていたが、彼には微笑や笑顔の引き出しが多過ぎる。一体何通りあるというのだろう。
「…どういう意味ですか?」
「オーララ、こんなのじゃ通じないかあ」
「?」
「ううん、気にしないで。それよりも、良い写真は撮れたかい?」
「はい、大方…。あとは少し加工して、SNSにアップしたり現像するだけです」
「楽しみだね。完成したら、是非僕にも見せてほしいな」
「勿論、構いませんよ。ああでも、連絡先が…」
すると、彼はポケットから小さなメモ帳を取り出した。そしてそこに何かをサラサラと書き、私の手に乗せる。
「これ、僕の連絡先のIDだから」
「い、良いんですか、個人情報をこんなに軽々しく…」
「大丈夫。信頼できる人にしかこんなことはしないからね」
それはつまり、私が信頼に足る人物だということなのだろう。彼は以前から写真家としての私を評価していたようだし、それがあるからかもしれない。
「分かりました。追加しておきますね」
「もし予定が合えば、一緒に食事やお茶も行きたいな」
「ぐ、グイグイきますね」
「オススメのお店があるんだ。是非そこに連れて行きたくてね」
「……まあ、良いですけども。命の恩人ですし…」
「他者を警戒するのは当たり前のことだよ。警察である僕のことも、警戒してもらって構わないしね」
「…ノエルさんも、私のことを警戒した方がいいですよ?」
パチパチと瞬き。そして、ふっと吹き出した。
「っふ…あはは…っ、柚葉さんは面白いね」
「…本気で心配しているんですけど……」
「うんうん、ありがとう」
「もう…」
人には自分を警戒しろなんて言っておいて、個人情報を軽々しく渡してくる。警戒心が無いのはどっちなのか。
「…話をこの前に戻して申し訳ないんだけど、あのギャングラ―に狙われた心当たりはあるかな?」
「…」
私はギャングラ―の写真をまとめたアルバムを見せるか迷った。国際警察による事情聴取の際には尋ねられなかったが、彼はそう甘くはないらしい。それに恐らく、「何かしらの心当たりがある」という確信を持って問いかけてきている。
「…いいえ、ありません」
「…そう。それなら、アンラッキーだったという訳だね?」
「…はい。そうなりますね」
「なら良いんだ。ただ、君がまた狙われるようなことがあってはならないと思っただけで」
嘘である。あのギャングラ―は間違いなく、アルバムを狙ってきた。人間態を見られたことが不都合だったから、私を殺しに来たのだ。
ノエルは特に問い詰めることもなく、「気を付けてね」とだけ言った。
「ギャングラ―はどこにいるかわからない」
「…はい」
「僕のことも、疑うんだ。今君と話している高尾ノエルが本当に高尾ノエルなのか、疑ってかかるんだ」
「いや、でも」
「いいかい?それが、今のこの世界で生き残る方法なんだ」
「…はい」
有無を言わせない態度だ。相当、ギャングラ―に何か思うところがあるのだろう。
「…もし、ノエルさんを疑った時はどうすればいいんですか?」
「良い質問だ」
失礼、と言って彼は私の顔に手を伸ばしてきた。そしてむに、と頬をつまむ。
「力いっぱい引っ張ってご覧。それで、ギャングラ―かどうか見極めることができるよ」
「…な、なるほど」
「不用意に触れてごめんね」
パッと手を離し、触れた部分を彼は態々ハンカチでそっと拭いた。そんなことをしなくても構わないというのに。
「因みに、警戒心がないっていうのはこういうところもだよ?」
「…はあ」
「きゃっ」
カメラを構え、とんでもない体勢で猫を撮っているとノエルに話しかけられた。今日はオフなのか、グレーのベストをスマートに着こなしている。
「おっと、驚かしてしまったのならごめんね」
「もう…。仕事中だったら怒るじゃ済みませんよ」
「これは仕事じゃないのかい?」
「趣味です。あと、猫の写真って需要ありますから。SNSに載せると評判良いんですよ」
彼はパチパチと瞬きをした。私はそれに構わず、猫が欠伸をした瞬間を見逃さずにシャッターを切る。口内が丸見えになった瞬間が切り取られた。
「……幻滅しました?評判の為だけに撮る写真があるなんて」
「…それは、僕が君を幻滅する理由にはならないよ。それに、需要があるという理由だけで何時間も猫に構える人は早々いない」
私は猫に構っていた時間を大雑把に割り出した。確かにそれなりの時間は費やしている。
「…って、見てたんですか!?」
「ごめんね。あまりにも柚葉さんが熱心だったから、つい見入ってしまって」
「声くらいかけてくればいいのに…」
「そうさ、だからこうやって声をかけにきたんだよ」
はいこれ、と彼はテイクアウトのカップを手渡す。中にはアイスティーが入っていた。
「アールグレイ…」
「オーララ!まさか香りだけで当てしまうなんて」
「……紅茶派なんです」
ありがとうございます、と礼を述べて有り難く飲み物に口をつけた。何時間も粘った後の紅茶は格別に美味しい。
「奇遇だね、僕も紅茶派なんだ」
「…ノエルさんって、日本人なんですか?」
「うーん、それは内緒。今教えられるのは、フランスから来た国際警察ってことかな」
「フランス…ああ、通りでフランス語を…」
「そういうこと。柚葉さんは?この辺の出身なのかい?」
「ああ、まあそんなところです」
「じゃあ、もしかしてご両親もこの近くに?」
「……生きている時は、そうでしたね」
ノエルは何とも言い難い表情をした。目を少し丸くし、言葉を詰まらせた顔。しかしすぐにすまない、と謝罪の言葉がさらりと出てきた。今度は「ごめんね」ではなかった。
「いえ、もう何年も前ですから」
「…そんな顔をさせたい訳ではなかったんだ。本当に、ごめんね柚葉さん」
「いえ本当にいいですから…あと、私のこと…柚葉で、いいですから……」
そう言うと、彼はパァッと表情を明るくした。まるで太陽のようだ。雲に隠れたり、こうして姿を現したりする。
「ありがとう。でも今はまだこの呼び方でいさせてくれるかな?」
「?はい…?」
「折角なんだから、少しずつ仲良くなりたくてね。急接近も刺激的だけれど……君との急接近は、僕には刺激が強過ぎる」
ノエルは悪戯っ子のように笑った。正体を明かした時から思っていたが、彼には微笑や笑顔の引き出しが多過ぎる。一体何通りあるというのだろう。
「…どういう意味ですか?」
「オーララ、こんなのじゃ通じないかあ」
「?」
「ううん、気にしないで。それよりも、良い写真は撮れたかい?」
「はい、大方…。あとは少し加工して、SNSにアップしたり現像するだけです」
「楽しみだね。完成したら、是非僕にも見せてほしいな」
「勿論、構いませんよ。ああでも、連絡先が…」
すると、彼はポケットから小さなメモ帳を取り出した。そしてそこに何かをサラサラと書き、私の手に乗せる。
「これ、僕の連絡先のIDだから」
「い、良いんですか、個人情報をこんなに軽々しく…」
「大丈夫。信頼できる人にしかこんなことはしないからね」
それはつまり、私が信頼に足る人物だということなのだろう。彼は以前から写真家としての私を評価していたようだし、それがあるからかもしれない。
「分かりました。追加しておきますね」
「もし予定が合えば、一緒に食事やお茶も行きたいな」
「ぐ、グイグイきますね」
「オススメのお店があるんだ。是非そこに連れて行きたくてね」
「……まあ、良いですけども。命の恩人ですし…」
「他者を警戒するのは当たり前のことだよ。警察である僕のことも、警戒してもらって構わないしね」
「…ノエルさんも、私のことを警戒した方がいいですよ?」
パチパチと瞬き。そして、ふっと吹き出した。
「っふ…あはは…っ、柚葉さんは面白いね」
「…本気で心配しているんですけど……」
「うんうん、ありがとう」
「もう…」
人には自分を警戒しろなんて言っておいて、個人情報を軽々しく渡してくる。警戒心が無いのはどっちなのか。
「…話をこの前に戻して申し訳ないんだけど、あのギャングラ―に狙われた心当たりはあるかな?」
「…」
私はギャングラ―の写真をまとめたアルバムを見せるか迷った。国際警察による事情聴取の際には尋ねられなかったが、彼はそう甘くはないらしい。それに恐らく、「何かしらの心当たりがある」という確信を持って問いかけてきている。
「…いいえ、ありません」
「…そう。それなら、アンラッキーだったという訳だね?」
「…はい。そうなりますね」
「なら良いんだ。ただ、君がまた狙われるようなことがあってはならないと思っただけで」
嘘である。あのギャングラ―は間違いなく、アルバムを狙ってきた。人間態を見られたことが不都合だったから、私を殺しに来たのだ。
ノエルは特に問い詰めることもなく、「気を付けてね」とだけ言った。
「ギャングラ―はどこにいるかわからない」
「…はい」
「僕のことも、疑うんだ。今君と話している高尾ノエルが本当に高尾ノエルなのか、疑ってかかるんだ」
「いや、でも」
「いいかい?それが、今のこの世界で生き残る方法なんだ」
「…はい」
有無を言わせない態度だ。相当、ギャングラ―に何か思うところがあるのだろう。
「…もし、ノエルさんを疑った時はどうすればいいんですか?」
「良い質問だ」
失礼、と言って彼は私の顔に手を伸ばしてきた。そしてむに、と頬をつまむ。
「力いっぱい引っ張ってご覧。それで、ギャングラ―かどうか見極めることができるよ」
「…な、なるほど」
「不用意に触れてごめんね」
パッと手を離し、触れた部分を彼は態々ハンカチでそっと拭いた。そんなことをしなくても構わないというのに。
「因みに、警戒心がないっていうのはこういうところもだよ?」
「…はあ」