健全な短編【単車】
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「「あ」」
二エルブが酸賀の研究室にやって来ると、柚葉がグラニュート態になり今まさに彼に触れられようとしているところだった。
「…酸賀さん」
「おっとぉ、ごめんねえ二エルブ君」
「以前も言った筈だけれど」
「いや~つい出来心でさ、あはは。そんな怖い顔しないでよ~」
「二エルブ様、お疲れ様です!」
当事者である柚葉は何も気にしていないかのように明るい声を出し、人間態に変化した。「残念」と呟き、酸賀はいつもの椅子に戻る。
「彼女は一応僕の助手だ。勝手な行動はやめていただきたい」
「いや~ラーゲ9君以外のグラニュートも気になってさ」
「柚葉。何か妙なことをされたりはしていないかい?」
「はい。まだ何もされてません!」
「酷い言い方だなあ」
酸賀はやれやれといった感じでお手上げとでも言いたげに手を挙げると、「二エルブ君さあ」と椅子を回して宙を見ながら口を開いた。
「何で柚葉ちゃんのグラニュート態見るの嫌がるの?俺達研究者同士、手を取り合っていこうじゃない」
「研究者同士ということは否定しないが…彼女は一応、僕の婚約者でもあるんだ。建前がある。人間とはいえ、あまり雄と親密な関係になってほしくはない。僕達はグラニュートで、あなたは人間だ」
「婚約?二エルブ君がぁ?ははっ、それはまた…随分と可哀想だね、柚葉ちゃん」
「?全然可哀想じゃないですよ?」
「またまたぁ。本当は嫌なんでしょ?二エルブ君のこと」
チクチクと針でつつくかのように柚葉で遊ぶ酸賀。理性的な二エルブですらピキピキとくるものがあるのか、いっそこの場で殺してやろうかと一瞬考える程だった。しかし柚葉は酸賀の攻撃を気にも留めておらず、へらへらと笑っている。
「嫌だったらとっくに逃げ出してますよ~。二エルブ様は頭が良くてお人柄も素敵な人ですから、むしろ私には勿体ないくらいですよ」
「婚約ってことはお家関係とか?だったら逃げ出すも何もないじゃない」
「酸賀さん」
二エルブが眼鏡をクイ、と持ち上げた。射殺さんばかりの冷たい眼差しを酸賀に向けており、それを見た柚葉さえもブル、と震える。
「…わかったって。まあ、愛されているようで結構結構。あ、子供が出来たら教えてね?グラニュートの赤子って研究に役立つだろうからさ~ははっ」
「も~酸賀さんったら、話が飛躍し過ぎですよ!二エルブ様に失礼じゃないですか」
「柚葉、帰るよ」
「えっ?もうですか?まだ来られたばかりでは…?」
「用事を思い出したんだ。大事な用事を…ね」
「え、二エルブ君もう帰っちゃうの?」
きょとんとする柚葉と、遊び相手がいなくなったかのように退屈そうな態度を見せる酸賀。しかし二人の反応には全く動じず、二エルブは柚葉の手を掴んで研究室を出て行った。「今度はちゃんと二エルブ君の許可とるから~!」と反省の色が全く見えない酸賀の声が響き渡り、二エルブの苛立ちは加速していく。
「あまりあの人間には近付かない方がいい」
「すみません、二エルブ様」
「いや、君にちゃんと話していない僕が悪かった。あの人はああいう感じだから気が抜けるだろうけれど、今後は気を付けるように」
「はい!」
ニコニコしているものの、柚葉は内心真冬に裸で放り出された人間のようにガタガタと震えていた。酸賀への恐怖なんかではない。二エルブへの恐怖で、だ。
彼女は婚約者であり研究の師でもある二エルブ・ストマックを恐れている。それはストマック社で初めて顔を合わせた時からだ。何を考えているのか分からず、あまりにも合理性だけで動く二エルブは彼女にとって「理解のできない存在そのもの」だった。家柄が良かったせいで婚約が決まったときも笑みを浮かべつつ内心では暴れており、両親に泣きついてまで婚約を拒否していた。勿論現状グラニュート界では所謂上場企業であるストマック社の血族との婚約が破棄できる訳もなく、文字通り泣き寝入りしたのだが。
そうだ。柚葉にとって二エルブは、いつだって理解できないグラニュートだった。酸賀のような胡散臭い人間と研究成果を共有し始めた時も、ラーゲ9に関する研究も、分かっていてシータに手を差し伸べなかったことも、先程のことも、全てが理解できなかった。怖かった。
恐怖のあまり笑顔がこびりついてしまい、二エルブの前で柚葉はいつも道化であろうとするようになってしまった。酸賀は勿論その心の機微を悟っており、だからこそ婚約を知って「可哀想」と心にも思っていないことを言ったのである。
また、二エルブにとって柚葉も「よくわからない存在」の定義に当てはまっていた。助手としても婚約者としても優秀だが、いつも笑みを浮かべている八方美人。何の利益も生まない者に対してすら媚び諂う様は彼にとって理解し難く、正直気味が悪い部類に入っている。
しかしそれでも、彼なりに情があるのか、酸賀にグラニュート態を晒すなといった少々独占的な命令を出している。この命令が果たしてどういう感情から生まれているのか二エルブ自身も理解はしていない。ただ、「柚葉のグラニュート態を安易に見られるのは嫌だなあ」という彼の──謂わば、独占欲のようなものからきていた。
「君はもう少し、グラニュートとしての自覚を持った方がいい」
「ええ!?」
「グラニュート態は僕達にとっては本性だ。目は口程に物を言うというのは人間界の言葉だけど、グラニュート態はまさにそうだと言えるかもしれない」
「…ええっと、つまり。本性を見せるのは決まった相手だけにしろ、ということですか?でも、グラニュート界であの姿でいるのは普通ですよ?」
「そこは柔軟になってほしいところだね。人間の前で安易にあの姿を見せるのは、酸賀さんであっても良くない。彼でなければたちまち噂が広がるだろうから」
「な、なるほど~…。わかりました、二エルブ様!」
「…君は本当にわかっているのか……?」
柚葉の腹が読めず戸惑う二エルブと、二エルブの腹が読めず恐怖する柚葉。二人は端から見れば仲良さげな兄妹のように、グラニュート界へと戻って行った。
二エルブが酸賀の研究室にやって来ると、柚葉がグラニュート態になり今まさに彼に触れられようとしているところだった。
「…酸賀さん」
「おっとぉ、ごめんねえ二エルブ君」
「以前も言った筈だけれど」
「いや~つい出来心でさ、あはは。そんな怖い顔しないでよ~」
「二エルブ様、お疲れ様です!」
当事者である柚葉は何も気にしていないかのように明るい声を出し、人間態に変化した。「残念」と呟き、酸賀はいつもの椅子に戻る。
「彼女は一応僕の助手だ。勝手な行動はやめていただきたい」
「いや~ラーゲ9君以外のグラニュートも気になってさ」
「柚葉。何か妙なことをされたりはしていないかい?」
「はい。まだ何もされてません!」
「酷い言い方だなあ」
酸賀はやれやれといった感じでお手上げとでも言いたげに手を挙げると、「二エルブ君さあ」と椅子を回して宙を見ながら口を開いた。
「何で柚葉ちゃんのグラニュート態見るの嫌がるの?俺達研究者同士、手を取り合っていこうじゃない」
「研究者同士ということは否定しないが…彼女は一応、僕の婚約者でもあるんだ。建前がある。人間とはいえ、あまり雄と親密な関係になってほしくはない。僕達はグラニュートで、あなたは人間だ」
「婚約?二エルブ君がぁ?ははっ、それはまた…随分と可哀想だね、柚葉ちゃん」
「?全然可哀想じゃないですよ?」
「またまたぁ。本当は嫌なんでしょ?二エルブ君のこと」
チクチクと針でつつくかのように柚葉で遊ぶ酸賀。理性的な二エルブですらピキピキとくるものがあるのか、いっそこの場で殺してやろうかと一瞬考える程だった。しかし柚葉は酸賀の攻撃を気にも留めておらず、へらへらと笑っている。
「嫌だったらとっくに逃げ出してますよ~。二エルブ様は頭が良くてお人柄も素敵な人ですから、むしろ私には勿体ないくらいですよ」
「婚約ってことはお家関係とか?だったら逃げ出すも何もないじゃない」
「酸賀さん」
二エルブが眼鏡をクイ、と持ち上げた。射殺さんばかりの冷たい眼差しを酸賀に向けており、それを見た柚葉さえもブル、と震える。
「…わかったって。まあ、愛されているようで結構結構。あ、子供が出来たら教えてね?グラニュートの赤子って研究に役立つだろうからさ~ははっ」
「も~酸賀さんったら、話が飛躍し過ぎですよ!二エルブ様に失礼じゃないですか」
「柚葉、帰るよ」
「えっ?もうですか?まだ来られたばかりでは…?」
「用事を思い出したんだ。大事な用事を…ね」
「え、二エルブ君もう帰っちゃうの?」
きょとんとする柚葉と、遊び相手がいなくなったかのように退屈そうな態度を見せる酸賀。しかし二人の反応には全く動じず、二エルブは柚葉の手を掴んで研究室を出て行った。「今度はちゃんと二エルブ君の許可とるから~!」と反省の色が全く見えない酸賀の声が響き渡り、二エルブの苛立ちは加速していく。
「あまりあの人間には近付かない方がいい」
「すみません、二エルブ様」
「いや、君にちゃんと話していない僕が悪かった。あの人はああいう感じだから気が抜けるだろうけれど、今後は気を付けるように」
「はい!」
ニコニコしているものの、柚葉は内心真冬に裸で放り出された人間のようにガタガタと震えていた。酸賀への恐怖なんかではない。二エルブへの恐怖で、だ。
彼女は婚約者であり研究の師でもある二エルブ・ストマックを恐れている。それはストマック社で初めて顔を合わせた時からだ。何を考えているのか分からず、あまりにも合理性だけで動く二エルブは彼女にとって「理解のできない存在そのもの」だった。家柄が良かったせいで婚約が決まったときも笑みを浮かべつつ内心では暴れており、両親に泣きついてまで婚約を拒否していた。勿論現状グラニュート界では所謂上場企業であるストマック社の血族との婚約が破棄できる訳もなく、文字通り泣き寝入りしたのだが。
そうだ。柚葉にとって二エルブは、いつだって理解できないグラニュートだった。酸賀のような胡散臭い人間と研究成果を共有し始めた時も、ラーゲ9に関する研究も、分かっていてシータに手を差し伸べなかったことも、先程のことも、全てが理解できなかった。怖かった。
恐怖のあまり笑顔がこびりついてしまい、二エルブの前で柚葉はいつも道化であろうとするようになってしまった。酸賀は勿論その心の機微を悟っており、だからこそ婚約を知って「可哀想」と心にも思っていないことを言ったのである。
また、二エルブにとって柚葉も「よくわからない存在」の定義に当てはまっていた。助手としても婚約者としても優秀だが、いつも笑みを浮かべている八方美人。何の利益も生まない者に対してすら媚び諂う様は彼にとって理解し難く、正直気味が悪い部類に入っている。
しかしそれでも、彼なりに情があるのか、酸賀にグラニュート態を晒すなといった少々独占的な命令を出している。この命令が果たしてどういう感情から生まれているのか二エルブ自身も理解はしていない。ただ、「柚葉のグラニュート態を安易に見られるのは嫌だなあ」という彼の──謂わば、独占欲のようなものからきていた。
「君はもう少し、グラニュートとしての自覚を持った方がいい」
「ええ!?」
「グラニュート態は僕達にとっては本性だ。目は口程に物を言うというのは人間界の言葉だけど、グラニュート態はまさにそうだと言えるかもしれない」
「…ええっと、つまり。本性を見せるのは決まった相手だけにしろ、ということですか?でも、グラニュート界であの姿でいるのは普通ですよ?」
「そこは柔軟になってほしいところだね。人間の前で安易にあの姿を見せるのは、酸賀さんであっても良くない。彼でなければたちまち噂が広がるだろうから」
「な、なるほど~…。わかりました、二エルブ様!」
「…君は本当にわかっているのか……?」
柚葉の腹が読めず戸惑う二エルブと、二エルブの腹が読めず恐怖する柚葉。二人は端から見れば仲良さげな兄妹のように、グラニュート界へと戻って行った。