健全な短編【単車】
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薄暗い部屋。太陽が差し込んだのはもうずっと前。ゴミ箱の付近に山を作るティッシュのゴミ、洗濯機にすら入れてもらえない脱ぎ散らかした衣服。一つマグカップがポツンと流しに置かれたキッチン。
カビが生えそうで、腐りそうで、可笑しくなってしまいそうで、逃げた。
廃人になってはいけないと判断できる理性がまだあったことを滑稽に感じた。そして強烈な虚無感に襲われ、死にたくなった。
「ここにいたんだ」
顔を見なくてもわかる明るい声。砂浜で体育座りをしている私の横に城戸真司はドカッと腰を下ろし、「海っていいよなあ」と陳腐なことを言った。
「なにが」
「え、なんか...でっかいから俺は好きだな。あ!でも海って鏡にもなるのかな?それならモンスターに襲われそうで嫌かも...」
真司は一人で話す。忙しない男だ。それが城戸真司だから仕方ないが。
「柚葉ちゃん風邪引くし帰ろうよ」
「...やだ」
「なんで」
「...真司は一緒に帰ってくれないから」
口を開けたまま間抜けな顔で彼は私を見つめる。そしてちょっと申し訳なさそうに笑い、「だって帰る方向逆だから」と言った。そうだ、私と彼は別方向どころか真逆。一緒には帰れない。
「じゃあ明日も会おうよ。それならいい?」
「...本当に会ってくれる?」
「もちろん」
「勝手にどっか行かないでね?時間通りに来てくれるよね?」
「大丈夫だって。なんならアラーム二つセットするから」
ザザ、と波の音が強くなる。満ち潮になってしまう。──いけない、さらわれてしまう。
真司の腕を強く掴み、陸地の方に引っ張った。このままさらわれるのも悪くないんじゃないかと誰かが囁いたが、冗談じゃないと優しい彼に代わってその誘いをはね除けた。
波の音が遠くなる。さらわれないように砂を踏みしめて歩く。音が聞こえなくなるまで走る。真司の腕を掴んだまま、私は足を止めなかった。
*
「大丈夫?なんかうなされてたけど」
目が覚めると、真司の間抜け面が私を覗き込んでいた。チラリと時計を見ると、時間は朝の十時。どうやらかなりお寝坊をしてしまったらしい。
「珍しいね、柚葉ちゃんが寝坊するなんて」
「...なんか、長い夢だった」
「へえ。どんな夢だった?」
エプロンを付けて、家主よりも積極的に部屋の片付けをする真司。ぼうっとその背中を見つめていると、「どしたの?」と振り返った。
「真司が出てきた」
「え!?俺!?夢の中の俺何してた!?」
「そんなに気になる?所詮夢だよ」
「いやでも夢って色々あるじゃん。予知夢とか」
「予知夢じゃないと思うなーあれは。そんな良いものじゃなかった」
「じゃあ...昔の記憶?」
──一瞬、波の音が聞こえた気がした。
私の横を潮風が通り抜け、つんと海の臭いが鼻腔を刺激する。
「...そう、かもね?凄く鮮明な夢だったし」
「俺と柚葉ちゃんだけが出てきたの?」
それってデートじゃない?と真司は目を輝かせた。まるで軽い冗談のように、ただの夢の話のように、話を茶化す。
「は、海辺で真司とデートかあ」
「ロマンチックでいいじゃん」
「死神同伴のデートなんて絶対嫌だよ」
夢の中に置いていかれた潮風が、私達は愚かだと笑う。
だが答えずに私は無視した。私達はまた生きているのだ。それは誰にも覆せない。たかが死を誘うことしかできない存在が、世界を変えることは不可能なのだから。
カビが生えそうで、腐りそうで、可笑しくなってしまいそうで、逃げた。
廃人になってはいけないと判断できる理性がまだあったことを滑稽に感じた。そして強烈な虚無感に襲われ、死にたくなった。
「ここにいたんだ」
顔を見なくてもわかる明るい声。砂浜で体育座りをしている私の横に城戸真司はドカッと腰を下ろし、「海っていいよなあ」と陳腐なことを言った。
「なにが」
「え、なんか...でっかいから俺は好きだな。あ!でも海って鏡にもなるのかな?それならモンスターに襲われそうで嫌かも...」
真司は一人で話す。忙しない男だ。それが城戸真司だから仕方ないが。
「柚葉ちゃん風邪引くし帰ろうよ」
「...やだ」
「なんで」
「...真司は一緒に帰ってくれないから」
口を開けたまま間抜けな顔で彼は私を見つめる。そしてちょっと申し訳なさそうに笑い、「だって帰る方向逆だから」と言った。そうだ、私と彼は別方向どころか真逆。一緒には帰れない。
「じゃあ明日も会おうよ。それならいい?」
「...本当に会ってくれる?」
「もちろん」
「勝手にどっか行かないでね?時間通りに来てくれるよね?」
「大丈夫だって。なんならアラーム二つセットするから」
ザザ、と波の音が強くなる。満ち潮になってしまう。──いけない、さらわれてしまう。
真司の腕を強く掴み、陸地の方に引っ張った。このままさらわれるのも悪くないんじゃないかと誰かが囁いたが、冗談じゃないと優しい彼に代わってその誘いをはね除けた。
波の音が遠くなる。さらわれないように砂を踏みしめて歩く。音が聞こえなくなるまで走る。真司の腕を掴んだまま、私は足を止めなかった。
*
「大丈夫?なんかうなされてたけど」
目が覚めると、真司の間抜け面が私を覗き込んでいた。チラリと時計を見ると、時間は朝の十時。どうやらかなりお寝坊をしてしまったらしい。
「珍しいね、柚葉ちゃんが寝坊するなんて」
「...なんか、長い夢だった」
「へえ。どんな夢だった?」
エプロンを付けて、家主よりも積極的に部屋の片付けをする真司。ぼうっとその背中を見つめていると、「どしたの?」と振り返った。
「真司が出てきた」
「え!?俺!?夢の中の俺何してた!?」
「そんなに気になる?所詮夢だよ」
「いやでも夢って色々あるじゃん。予知夢とか」
「予知夢じゃないと思うなーあれは。そんな良いものじゃなかった」
「じゃあ...昔の記憶?」
──一瞬、波の音が聞こえた気がした。
私の横を潮風が通り抜け、つんと海の臭いが鼻腔を刺激する。
「...そう、かもね?凄く鮮明な夢だったし」
「俺と柚葉ちゃんだけが出てきたの?」
それってデートじゃない?と真司は目を輝かせた。まるで軽い冗談のように、ただの夢の話のように、話を茶化す。
「は、海辺で真司とデートかあ」
「ロマンチックでいいじゃん」
「死神同伴のデートなんて絶対嫌だよ」
夢の中に置いていかれた潮風が、私達は愚かだと笑う。
だが答えずに私は無視した。私達はまた生きているのだ。それは誰にも覆せない。たかが死を誘うことしかできない存在が、世界を変えることは不可能なのだから。